福澤 朗さん
アナウンサー
―「心の震え」を言葉に込め、
「言霊」を伝える―
「ジャストミート!」や「ファイヤー!」などの名文句を生みだし、
テンションの高い、熱い司会でおなじみの福澤朗さん。
2005年夏、フリー・アナウンサーとして
新たなスタートを切ったコミュニケーションのプロが、
心の動きを言葉に乗せ、人に伝える仕事について語った。

「思い入れによって、伝わり方は違ってきます」
|
福澤アナからの
“言 霊”
メッセージ

|

福澤アナから早大生に向けて、メッセージ入りの色紙を書いてもらいました。「こだわりを持ってアナログ派であり続けたい」と語る福澤さんらしい言葉。「125歳」は大隈重信の提唱した「人生125年説」にちなんだもの。
|
言葉の根底にある
「喜怒哀楽」と「言霊」
―アナウンサーのお仕事に興味を持たれたきっかけをお聞かせください。
福澤 早稲田大学に入学後、テンションの高い学生生活を送りたくて「演劇集団 円」という劇団の養成所に入りました。舞台俳優になりたかったんですね。養成所に三年間いましたが、結局、正団員にはなれず、大学生活六年目に入ったとき、就職活動を始めました。
漠然としたマスコミ志望がありまして、最初に受験したのが日本テレビのアナウンサー試験でした。日本テレビからなんとか内定をもらって、それから慌てて卒業するための勉強をして、つじつまを合わせた感じです。
―アナウンサーは、まさにコミュニケーションを生業とするお仕事ですね。
福澤 コミュニケーションに関していえば、三年間の演劇活動が今の仕事の礎になっていることは間違いありません。人間が発する言葉のルーツは、動物が発する不安、怒り、求愛といった「喜怒哀楽」を表す声や音であると思います。コミュニケーションの一番根底にあるのは、喜怒哀楽に伴う心の震えなんですね。それをないがしろにして、言葉遣いや敬語の使い方などという部分だけでコミュニケーションをとらえると、誤った方向に行きかねません。
相手に何かを伝えたいときは、まず自分の心がどれほど震えているかを明確にしなくてはいけません。例えば、異性に「好きだ」と言う前には、何週、何カ月にもわたる心の震えがありますよね。僕はよく「言霊」という表現を使いますが、大切なのは言葉にどれほどの魂が込められているかなんです。僕にとって劇団は、まさに喜怒哀楽の固まりでした。そこで毎日を過ごしていると、必然的に言霊が強くなります。
だから、アナウンサーの仕事に就いてからも、心を込めずに原稿を読むことなんてできなくなってしまったんです。
ニュース報道も
ハートで勝負
―それで福澤さんの言葉はいつでも熱いんですね。でも、事実だけを淡々と伝えるニュースなど、喜怒哀楽を出しづらい場合もあるのではないですか。
福澤 確かにそうした面もありますが、たとえ同じ文面の原稿を似たような間合いで、決められた時間内に読んだとしても、人によって明らかに伝わり方が変わってきます。これはひとえに、声に込められた言霊の量の違いによるものです。例えば、スポーツニュースで巨人・阪神戦の結果を伝える時、現場で二十年間取材をしてきたベテランアナウンサーと、最近やっと野球のルールを覚えたばかりの新人とでは、全く言葉の力が違います。原稿に思いを乗せることができるベテランの方が、はるかに視聴者に伝わりますよ。
―なるほど、どんな原稿にも「言霊」は込められる。
福澤 実は、読み方に上手下手はないのです。自分のフィルターを通して、言葉をろ過し、クリアな発音で明確に伝えるのがアナウンサーの仕事です。ところが、新人アナウンサーがろ過した水と、ベテランのそれとでは、同じようにきちんとろ過されていても、おいしさが違います。それはスキルの違いではなく、ハートの違いなんです。
ローカル局に方言を使ったニュース番組がありますが、時間帯によっては全国ネットのニュースよりも圧倒的に視聴率がいいんです。それは、その土地で育ったアナウンサーが、地元の言葉を使ってしゃべったほうが耳に優しいし、なにより視聴者に地元の言葉に対する強い思い入れがあるからなんです。
「心の震え」は
メールでは伝わらない
―言葉に対する思い入れが大切なんですね。
福澤 昭和期のキーワードは何かと聞かれたら、僕なら迷わず「喜怒哀楽」だと答えます。戦争があり、高度経済成長もあって、喜怒哀楽が非常に濃密だった時代、それが昭和です。一方、平成のキーワードは「便利」。いまだに携帯電話を持たない主義を貫いているアナログ派の自分としては、デジタル化がもたらした便利さの裏側で大切なものが失われつつあることに危惧を覚えることすらあります。
物心ついた時からデジタル化が浸透している今の若者は、心の震えをきちんと表に出して伝える訓練をしないまま、いきなりeメールを始めたりするわけです。手書きの文章なら心の震えが文字に出ますが、コンピュータや携帯の画面上ではそれを表現できない。とても不幸なことだと思いますね。
―今の学生たちがコミュニケーション能力を高めるには、どうしたらいいと思いますか。
福澤 本当にコミュニケーション能力を身に付けたいと思うなら、喜怒哀楽をより明確にする毎日を生きる必要があります。つまり、テレビを見て大いに笑い、怒り、友だちと語り合って、涙を流し、映画を観て感動する。そんな生活を送るべきだと思いますね。
メールを使うと、初対面の人や、付き合いの短い人と話すときのハードルが低くなるんです。初めてデートをしたときのことを思い出してみてください。前の日から緊張して、何をしゃべろうかと眠れずに考えていたでしょう? 会ってみてそれが言えないこともあるし、言えたけどうまく伝わらないこともある。そういうハードルの高い相手と話す機会が、最近減っているんですね。
今は携帯電話で彼女と直接連絡が取れますが、昔は彼女の自宅の電話にかけて、「お父さん」という難関をいかにクリアして取り次いでもらうかで戦々恐々でした。そんなハードルの高い相手と会話しなくてはならないシチュエーションの減少が、コミュニケーション能力の低下につながっているのだと思います。
コミュニケーションの力で
人を楽しませるプロの仕事
―「福澤一座」という劇団を旗揚げされましたね。その真意は?
福澤 純粋にお芝居をやりたかったから。そして、もう一つ大きな理由があります。テレビ番組の制作において、アナウンサーはほとんどの場合、最終段階にしか参加できません。その前段階の企画立案やキャスティング、ロケ、編集などにかかわれるチャンスは少ないんです。だから、一から番組制作に関与したいという思いが常にありました。その点、演劇の世界では、俳優であっても舞台のセッティングから手伝います。しかも、演劇は喜怒哀楽を完全に放出できる世界でもあります。つまり、仲間とのコミュニケーションを通じてモノづくりを体感できる場であり、自分の感情を発散できる場所でもある。そういう思いがあって、福澤一座を立ち上げました。
演劇の基本は、一致団結して創り上げる「お祭り」です。本当は、テレビ番組も草創期の頃の基本はお祭りであり、共同作業の場であったはずなんです。ところが、今のテレビ界は完全に分業制が進んでいて、自分の持ち場だけをこなそうとする傾向が強くなりました。
与えられた仕事をクリアするのは、社会人として最低限の役目です。それに加えて人を楽しませ、感動させるためには、いかにしてプラスアルファの力を出しきるかが勝負です。それにはどうするか。制作現場で仲間たちとたくさんコミュニケーションを取ることです。そうやって相手の期待を上回る結果を出すのがプロの仕事であり、そこがアマチュアとの違いだと思います。
「言霊」で勝負ができる
ラジオに挑みたい
―今後、やってみたいお仕事は何でしょう。
福澤 機会があれば、ラジオ番組に挑戦してみたいですね。テレビには映像があるので、どうしても言葉の力が弱められてしまいます。ところが、ラジオは言葉がすべて。音楽を流すことはあっても、トーク中に過剰にBGMを重ねることはありません。つまり、言霊がそのままストレートに伝わるのがラジオなんですね。
それに、ラジオはテレビと同じように不特定多数のマスに向かって発信しているにもかかわらず、リスナーはなぜか一対一で話しかけられているような錯覚を覚えてしまう不思議なメディアです。当然、言霊は一対一のほうが強く伝わります。だからこそ、ラジオでいろいろなことを試してみたくなるんです。
―本日はどうもありがとうございました。
(2005年10月29日掲載)
|