社会科学部教授 岡澤憲芙
社会科学部教授
岡澤憲芙
(おかざわ・のりお)
 1944年上海生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。現在、社会科学部教授。ヨーロッパセンター長、早稲田大学図書館長、副総長、経済企画庁国民生活審議会委員、厚生省人口問題審議会委員、内閣府男女共同参画審議会委員などを歴任。大学評価・学位授与機構運営委員など。専攻は比較政治学・リーダーシップ論。89年総合研究開発機構NIRA・政策研究東畑記念賞を受賞、92年スウェーデン国王より「北極星勲章」を叙勲、97年スウェーデン国王より「ポジティブ・スヴェリエ」賞を受賞。主な著書は『おんなたちのスウェーデン』(NHK出版)、『スウェーデンの挑戦』(岩波書店)、『比較福祉国家論』(法律文化社)、『世界の福祉』(早稲田大学出版部)など多数。
 巻頭エッセイ

なぜ早稲田で福祉を学ぶか

社会科学部教授 岡澤憲芙


 この地球には今、200を超す国や地域があり、約63億もの人が住んでいる。日本は地球総生産の約15.4%を寡占し、1人あたりGDPは約3万1,000ドルを超えている。堂々たる経済大国である。少なくとも経済統計的には。だが、その超・経済大国で毎年のように約1万人近くが交通事故で死に、約3万人が自殺している。1年間で約4万人。日清戦争の戦死者が約8,300人、日露戦争で約15万人と聞けば、その数は大きい。豊かな国なのに豊かさ感が希薄で、安心・安全・ユトリが実感できない。未来は不安と不透明感に支配されている。安全ネットワークはどうしたら構築できるか。

 21世紀初頭の日本が直面する政策課題は、国際化・グローバリゼーション、高度情報化、少子・高齢化、それに市民生活の成熟化などである。その多くの挑戦は、スピードという点でも規模という点でも、前例のあまりない挑戦である。過去の延長線上だけの知識と情報だけでは、とても有効な政策対応などできそうもない。確実なのは、海図なき航海が続きそうだということだけ。不確実性は増大する。不安のタネは尽きない。

 早稲田は大規模な福祉学部がない大学。それでいて福祉専門家が豊富。いくつかの学部・大学院に多彩で魅力的な講座が設置されている。社会福祉そのものを理論的に考察しようとする研究者(年金制度論、社会福祉論、ボランティア論など)、福祉に焦点を合わせた地域研究者(国際福祉・世界の福祉という視点を大切にする)。それに政策決定論の視点から、福祉政策に接近しようとする研究者や、IT・ロボット工学など福祉工学の分野でリードする研究者。また、福祉システムの実質(乳幼児福祉、児童福祉、労働者福祉、障害者福祉、女性福祉、高齢者福祉、在住外国人福祉など)を学際的に考究する研究者もいる。これだけ多彩な研究者を有する大学は珍しいのではないか。

 死ぬことへの不安、年を取ることへの不安、失業の不安、病気の不安、学習機会喪失の不安、寝たきりや要介護生活が長期化するのではないかという不安、自分の介護のために、子どもに精神的・経済的負担をかけるのではないかという不安、天災や事故に遭遇するのではないかという不安、愛を喪失する不安…。私たちの生活は、自分1人の力だけではとても対応できそうもない不安に囲まれている。国や自治体が、社会や企業・組合が、地域社会やNGO・NPOが、地域間連帯・世代間連帯・男女間連帯、それに国際的連帯の精神で安全ネットワークを紡ぎあげる必要がある。また、今世紀は地球規模ツーリズムの時代、しっかりとしたホスピタリティーが生命線。福祉は、そう、もう理解されたであろう。すべての市民にかかわる人生のテーマである。

(2004年12月24日掲載)




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First drafted 2004 December 24.