人間科学部教授 前橋明
人間科学部教授
前橋明
(まえはし・あきら)
早稲田大学人間科学部健康福祉科学科教授。博士(医学)。所沢キャンパスS310研究室。専門分野・専攻分野:福祉教育・公衆衛生学。研究主題:「幼少児の健全育成の支援」。具体的研究内容:子どもの疲労と体温研究、乳幼児の生活リズム研究、保護者の育児疲労と育児支援に関する研究など。
 素朴な疑問にお答えします!

子どもがキレるのは、食生活が原因って、ホント?

10年ほど前から、子どもたちの情緒不安定が話題となっている。その原因によく「現代人の食」が挙げられるけれど、本当に食事で性格って変わるのだろうか?

「栄養」は心身の健康を支える3本柱の1つ

 キレる、荒れる、ムカつく、イライラする、疲れているなど、子どもたちの問題行動が低年齢化して、今では幼児期にもその一端が見受けられます。これまで、子どもたちの発達相談や健康相談に携わってきますと、そのような子どもたちには、共通して、食生活「栄養」の面だけでなく、「休養」や「運動」という健康を支える3要因が、しっかり保障されていないという背景に気がつきます。

食卓での家族団らんは心の栄養補給にもなる

 もちろん、1日のスタートを快く切るための朝の食事がしっかりしていないことは、キレる大きな原因の1つでしょう。朝食を食べていても、今の子どもの食事内容は、牛乳と菓子パン程度であったり、摂取量も少なかったり、また、時間的なゆとりもなくて、イライラ感を募らせています。また、一般的な食事の傾向も、インスタント食品やスナック菓子、獣肉や鶏肉の摂取が多くなり、魚や豆類の摂取が少なくなってきています。特に魚には、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エンコサペンタエン酸)という物質が多く含まれているため、魚を食べると、脳の神経細胞の働きを良くして、脳の発達が良くなり「カッとなる」「キレる」等、攻撃的になりにくいと言われています。したがって、現代の食の内容の悪さも「キレる」原因の1つになっているようです。

 そして、食事は、テレビを見ながらであったり、1人での食事になっていたりします。この習慣は、マナーの悪さやそしゃく回数の減少のみならず、家族とのふれあいの減少、イライラ感の増加、集中力のなさにまでつながります。つまり、食事は、栄養素の補給だけをするものではありません。情緒が安定し、心地良い子どもの居場所ともなり、さらに、家族のコミュニケーションを図る絶好の機会ともなって、心の栄養補給をもしているのです。せめてテレビを消して、家族との対話を楽しみながら食事をする工夫と努力が必要でしょう。米国小児科学会(*1)によると、テレビを見過ぎる子どもは、集中力が弱く、落ち着きがなく、衝動的になる危険性の大きいことが報告されました。テレビ視聴の多さも一因となっているようです。

表 脳にとって大切な栄養「まごはやさしい」とその魅力・役割

表 脳にとって大切な栄養「まごはやさしい」とその魅力・役割
脳の発達にとって、大切な栄養、それは、豆類、ごま、わかめ(海草類)、野菜、魚、しいたけ(キノコ類)、いも(穀類)で、これらをバランス良く食べることが脳に良いのです。「ま・ご・は(わ)・や・さ・し・い」と覚えてみましょう。

健全な幼児の発育には10時間以上の睡眠が必要

 次に、休養面(睡眠)ですが、短時間睡眠の幼児は、翌日(*2)に注意集中ができないという精神的な疲労症状を訴えることも明らかにされています。短時間睡眠では、副交感神経の著しい機能不全が起こって、就学後も授業には集中できず、歩き回っても不思議なことではないでしょう。やはり、幼児期(*3)には、夜間に10時間以上の睡眠時間を確保させることが欠かせないのです。子どもは、夜眠っている間に、脳内の温度を下げて身体を休めるホルモン「メラトニン」や、成長や細胞の新生を助ける成長ホルモンが分泌されるのですが、今日では、夜型化した大人社会の影響を受け、子どもたちの生体のリズムは狂いを生じています。その結果、体のホルモンの分泌状態が悪くなり、「日中の活動時に元気がない」、「昼寝の時に眠れず、イライラする」、「みんなが起きるころに寝始める」といった生活上の問題が現れてくるのです。

 こうして、不規則な生活になると、ちょっとできなかっただけでカッとなり、イライラして集中力が欠如し、対人関係に問題を生じて、気力が感じられなくなります。生活リズムの崩れは、子どもたちの体を壊し、それが心の問題にまで影響していくのです。

適度な集団あそびや運動が生活リズムを整える

 最後に、運動面のことですが、体温が高まって、心身のウォーミングアップのできる午後3時以降に、戸外での集団あそびや運動が充実していないと、発揮したい運動エネルギーの発散すらできず、情緒の解放につながらないでストレスやイライラ感が鬱積(うっせき)されていきます。そこで、日中、特に午後3時以降は、室内でのテレビ・ビデオ視聴やテレビゲームに替わって、太陽の下で十分な運動あそびをさせて、夜には心地良い疲れを得るようにさせることが大切です。

 こうして、生活の中に運動あそびを積極的に取り入れることで、運動量が増して、子どもたちの睡眠のリズムは整い、その結果、食欲は旺盛になります。健康的な生活のリズムの習慣化によって、子どもたちの心身のコンディションも良好に維持されて、心も落ち着き、カッとキレることなく、情緒も安定していくのです。

[参考文献]

 もっと詳しく知りたい人は… オススメ本

前橋明著
『子どもの心とからだの異変とその対策』
明研図書、2001年

(2004年7月7日掲載)




Copyright (C) 2004 Student Affairs Division, WASEDA University. All rights reserved.
First drafted 2004 July 7.