人間科学部教授 森川靖
人間科学部教授
森川靖
(もりかわ・やすし)
1973年東京大学大学院博士後期課程林学専攻修了。農林水産省森林総合研究所を経て、95年から早稲田大学人間科学部教授。農学博士。専門は植物生態生理学、森林生態学。現在、東南アジアを中心に、森林造成による荒廃地の修復と二酸化炭素固定量の評価を主な研究としている。
 コラム

人間活動が地球環境に及ぼす影響を考える
―森林の二酸化炭素吸収評価―

人間科学部教授 森川靖

 清らかな水、豊かな土壌、澄みきった空気、森は私たちが生きていく上で大切な「環境」を与えてくれる。豊富な木材、燃料などの「資源」も与えてくれる。ところが、文明の歴史は「資源」偏重で、その結果「環境」が消えていき、不毛の大地となって「資源」も得られないようになった。森林資源を求めて侵略が始まり、「文明の前に森林があり、文明の後に砂漠が残る」こととなった。

 しかし、「環境」と「資源」は二者択一的なものではなく、同じ森からの贈り物を同等に大事にしていかなければならない。

 では、森からの贈り物を考えてみよう。森林を構成する樹木は植物である。当たり前だが、このことが森林を考える出発点である。人は日光浴をしても、エネルギーを得ることができない。動物すべてがそうであり、植物が作り出す有機物からエネルギーを得ている。この植物の有機物生産を光合成といい、光エネルギーを使って二酸化炭素と水から糖と酸素を作っている。

 木が成長を続けて森林となるのは、1枚1枚の葉の光合成による有機物の生産によっている。だから、森林は成長を続けながら、巨大なガス交換器の役割も演じている。日本の森林はどうだろうか。1990年で、年間二酸化炭素吸収量はおよそ9,080万tで、この吸収によって出される酸素量はおよそ6,600万tという。これは人が年間に呼吸として必要な酸素の2億4,000万人分に相当するから、日本の人々(1億2,500万人)に必要な酸素の2倍も日本の森林が放出していることになる。

 しかし、酸素は大気中におよそ20.9%も含まれていて、森林がなければ酸素が不足するというような事態は起こりそうもない。地球の化石燃料全部を燃やしたとしても、大気中の酸素は20.4%ぐらいに保たれると言われているからである。

 問題は、森林が吸収して固定する二酸化炭素の方にある。二酸化炭素は大気中に0.035%しか含まれていないが、太陽放射で暖められた地球からの放熱を遮断する、いわゆる温室効果によって地球の温度調節に重要な役割を果たしている。二酸化炭素濃度が上昇すると温室効果が増加し、地球の気温が上昇する。これに伴って地球の気候が変わり、砂漠化の進行などが懸念されている。

 二酸化炭素濃度が産業革命(この頃はおよそ0.028%)以降急速に上昇を続けている原因は、私たちの生活が石炭、石油などの化石燃料に依存し続けているからである。この化石燃料消費による日本の二酸化炭素排出量はおよそ11億4,000万tという。日本の森林の二酸化炭素吸収量は9,080万tだから、産業活動による排出量のおよそ8%(2010年頃には約3%)しか吸収できていない。したがって、産業活動からの二酸化炭素排出量をどう抑制するかが私たちの将来への責任である。

(2003年7月7日掲載)




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First drafted 2003 July 7.