人間科学部助教授 浅田 匡
人間科学部助教授
浅田 匡
(あさだ・ただし)
兵庫県生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科修了。大阪大学人間科学部助手、国立教育研究所研究員、神戸大学発達科学部助教授を経て、2002年4月から早稲田大学人間科学部助教授。「教えることと学ぶこと」による人間の成長・発達やそのシステム開発が主な研究テーマ。現場が教育・研究の最良の場と考える。編著に『成長する教師ー教師学への誘いー』(金子書房)など。
 21世紀を読み解くキーワード 教育を学問する最前線!!

教育工学

実践社会と常に向き合い、多様、かつ複雑な社会の問題を解決する。


固いイメージがする教育工学

 教育工学と聞くと、教育心理学や教育方法学に比べるとずいぶん固いイメージがある。それは、工学だから何か機械やコンピュータなど、数学を駆使してハードウェアを作り上げるというイメージが持たれるからだろう。教育工学の研究としてそのような部分はあるが、教育工学は、システム研究ととらえることができる。教育の目標を達成するために、教育組織や教育過程にかかわる諸要素を分析し統合して、教育というシステムの成果を吟味し、実践するということである。これは、教育工学の数多くある定義の1つであるが、教育工学の研究領域を体系的にとらえたラムズデンは、教育工学は2つの主要な流れが統合されたとする。

 1つは、工業技術の発達によってもたらされた教具や機器などのハードウェアを利用して教育効果を高めることである。例えば、多様なメディアの利用や図書館・視聴覚ライブラリーの運営・利用である。最近ではコンピュータを代表とする情報技術(IT)の活用ということになる。これらは教授工学として体系化された。

 もう1つの流れは、学習理論あるいは行動科学の成果を意識的に適用して、教授―学習過程を科学的に制御しようとするものである。これには教育目標研究(教育目標の分類学や課題分析等)と学習理論に基づく研究(プログラム学習など)がある。

 それ故、教育工学は教育実践を効果的にするためにハードウェア(いわゆる教育機器)とソフトウェア(学習理論など、他の学問の知見)を応用することと考えられてきた。だから、どうしても教育工学は固いイメージがつきまとい、学生には人気のない学問であったのだろう。しかしながら、最初に示した定義に見られるように、問題解決志向、システム論的志向という考え方を特徴とする、教育過程をテクノロジー(技術)としてとらえることが教育工学であると言える。

教育工学の研究は…

 従って、教育工学研究は具体的な問題を解決すること、学問の実践性が問われることになる。実践を変えていく知恵の体系が教育工学とも言えるのである。

 同時にテクノロジーとは機械を操作するマニュアル化される手続きではなく、教える―学ぶという関係における判断過程を含む技術である。それ故、教育工学研究は関係性を前提とする。少し難しいかもしれないが、次の5つを研究を進めていく上で必須条件とする。それらは、(1)達成すべき目標、または課題を明確に規定すること、(2)目標達成のための多様なシステム、または単一システム内で複数の代案を吟味すること、(3)目標達成にかかわる諸要因間の相互関係を論理的・実証的に明らかにすること、(4)各代案の当否を判断するための評価基準を明確にすること、(5)各代案に関して不確定要素、危険要素、時間的要素などの扱いを明らかにすること、である。システム論の立場に立つ他の学問領域とも共通する部分は多いのではないだろうか。さらに、教育心理学や教育方法学などとの違いもこの点から論文を読み比べてもらえると、教育工学が実感できるかもしれない。

 教育工学の研究領域は、おおよそ(1)教授―学習過程の設計・評価に関する研究、(2)コンピュータ利用による教育研究、(3)教育情報処理の体系化と文献情報処理システム、(4)教師教育・特殊教育・医学教育への適用、に整理できる。そこでは、真理を発見するということよりも、実践的なシステムやプログラムを開発し評価することに焦点があてられる。実践(現実社会)と常に向き合うところに教育工学研究の面白さがあると言える。

教育工学の時代へ

 現実社会、とりわけ教育問題の課題解決を行う教育工学は学際的な性格を持っているため、情報工学、行動科学、人間工学などの研究成果が数多く利用されている。これだけ多様な、そして複雑な社会の抱える問題を解決していくことに研究の基盤を持つ教育工学は、まさに時代にマッチした学問であろう。あるいは、これからビッグサイエンスになる学問が教育工学である。

 オススメ入門書

野嶋栄一郎編
『教育実践を記述する―教えること・学ぶことの技法―』
金子書房、2002年
 教育という営みを記述するという最新の課題への果敢なアプローチ。やや専門的だが、教育研究を志す人は必読

井上光洋著
『教育工学』
第一法規、1984年
 わが国の教育工学が基礎を成した頃の著。入手は難しいが図書館を探してみてほしい
※絶版になりましたが、図書館で貸出をしています。

(2002年6月10日掲載)




Copyright (C) 2002 Student Affairs Division, WASEDA University. All rights reserved.
First drafted 2002 June 10.