文学部教授 増山 均
文学部教授
増山 均
(ましやま・ひとし)
1948年栃木県生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程修了。日本福祉大学社会福祉学部教授を経て、2001年4月から早稲田大学文学部教授。専門は教育学。社会教育学を軸に、児童福祉論、児童文化論へと関心を広げている。1964年から毎年発行されている『子ども白書』(日本子どもを守る会編)の編集長なども務める。
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人間発達とアニマシオン

「学び」の中の「うきうき・わくわく」が、精神を活性化させる。

アニマシオンとは何か

 日本ではまだ聞き慣れないこの言葉は、ヨーロッパ特に南欧、フランス、スペイン、イタリアにおいて、社会開発、文化、芸術、教育、福祉、スポーツ、ボランティア、余暇、娯楽、祭典など幅広い分野で使われている概念である。

 アニマシオン(animation仏、animacion西、animazione伊)とは、ラテン語のアニマ(anima)すなわち魂・生命を活性化させることを意味する。英語のアニメーション(animation)と同義語で、生命力・活力を吹き込み心身を活気付け、すべての人間が持って生まれたその命・魂を生き生きと躍動させることにある。日本語に強いて訳せば「活性化」ということだろうが、残念ながらこれでは少し硬すぎて現代語にはぴったり当てはまる言葉が見当たらない。しかし、古語をたずねれば『梁塵秘抄』の中などで使われている「…遊ぶ子供の声聞けば、我が身さへこそ動がるれ」の「動(ゆる)ぐ」という言葉の持つ語感がぴったりではないかと思われる。楽しそうに遊ぶ子どもの声や、祭りの笛や太鼓の音を聞くと、うきうき、わくわく身も心も動き出してどうにもならなくなり、勉強や仕事を放り出して駆け出していきたくなる心情のことである。

 アニマシオンは、教え・学ぶ営みを特徴づけているエデュカシオン(education仏、educacion西、educazione伊)の概念と違って、大人も子どもも同じ人間として、遊びや余暇や文化活動を通して、面白さ・楽しさ・歓びを追求しつつ精神を活性化させ、人間が心身ともに豊かに成長していく独自の営みをとらえた概念であり、「学ぶこと」や「働くこと」をも根底から支える人間生活の根源的なエネルギーを生み出す機能を持っていると言えるだろう。それぞれの分野の専門家が、母校に帰って生徒と一緒に自分も楽しみながら文化活動を追求しているNHKの「課外授業 ようこそ先輩」などの番組は、まさに学校での教育活動の中にアニマシオンが貫かれている取り組みと言えるだろう。

社会文化の発展とアニマシオン

 人間的な生活の創造と発展にとって、さらには社会そのものの発展にとって、アニマシオンの営みが重要な要素であることに注目したのはフランスである。第2次世界大戦後の社会建設の中で文化創造の力が持つ意義に注目し、国民の余暇権・文化権の保障にいち早く取り組み「社会文化アニマシオン(anination socioculturelle)」という考え方を成立させたのである。その後この考え方は、スペインやイタリアなどの近隣諸国をはじめ、中南米各国にも広がり、社会改革の原理として影響をもたらしている。

 社会文化アニマシオンは、第2次大戦後の経済成長期に、経済的価値と経済効率を追求するあまりに、人間的な生活をゆがめる危機的状況が生じたことに対抗しつつ、人間本来の主体性と内面的な精神の活力や想像力を大切にし、生活・文化・社会を活性化させていく方法理念でもあるのだ。フランスでは、1960年代の半ばから社会文化アニマシオンを進める専門職の在り方が研究されて、1970年に「社会・教育・スポーツ・文化の活性化にあたる専門職員」として国によって正式に専門職化がなされ、その専門職員をアニマトゥール(animateur仏)、アニマドール(animador西)、アニマトーレ(animatore伊)と呼んでいる。1970年代にヨーロッパでは、教育改革の概念として生涯教育(education perumanente)がクローズアップされたとき、余暇の権利・有給教育休暇の権利とともに社会文化アニマシオンへの注目が高まっていった。

 経済効率を優先した教育や長時間労働が常態化し、国民の余暇権や文化権の位置付けの弱い日本社会では、生涯教育・生涯学習のみが叫ばれアニマシオンへの注目が薄いようだが、人間発達と社会発展にとって「学ぶこと」「働くこと」の中に、「面白さ」「楽しさ」を求めてうきうき・わくわく精神を活性化させるアニマシオンの意義を位置付けることが求められているように思われる。

 オススメ入門書

増山均著
『アニマシオンが子どもを育てる―新版 ゆとり・楽しみ・アニマシオン―』
旬報社、2000年

(2002年6月10日掲載)




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First drafted 2002 June 10.