国際情報通信研究センター教授 北村歳治
国際情報通信研究センター教授
北村歳治
(きたむら・としはる)
1943年10月生まれ。山梨県中巨摩郡出身。東京大学、オックスフォード大学大学院卒。大蔵省・IMF勤務では、金融・財政問題に従事し、欧米・アジアの多くの国の政策問題に関与。現在、早稲田大学国際情報通信研究センター教授、ウズベキスタンの金融財政アカデミー副院長等を兼務。歴史的観点を踏まえて現代の国際的な視点から金融経済論を専攻。
 21世紀を読み解くキーワード 経済を学問する最前線!!

国際経済学

国境を越えるヒト・モノ・カネ・情報の 流れを国際的視野で考える。

複雑な経済問題を考えるのに早合点は禁物

 南洋の島々の原住民に「地球は丸い」という事実を納得させることは、一昔前には難問だった。地球の反対側にある海水はなぜ飛び散らないのか、地球はなぜ宇宙の中に丸くポッカリ浮いているのか、云々。むしろ、海は平面だと説明する方がはるかに楽だし、実生活ではそれで間に合ってしまう。だが、真実は「平面」ではない。

 同様に、複雑な経済問題を説明することは難しい。「早分かり」、「そうだったのか」のたぐいの書き手の意図は「売らんがため」だが、読む方は「なるほど」と早合点して俗論が横行する。分かりやすいが、内容は往々にしてマユツバものである。

例えば南太平洋に浮かぶ島々の経済を考えてみる

  国際通貨基金(IMF)の関係で、この夏、オセアニア諸国を調査した。日本人の関心の大部分は、欧米・アジアにある。昨今のように、IT不況、テロ事件後の悲観論が強い時には、特にそうなる。しかし、その背後には、行き詰まった国々がある。これらの国は、欧米・アジアに慣れた私の目には、あまりにもひ弱な主権国家だった。

 太平洋に浮かぶ10を超える島嶼(とうしょ)国のほとんどは、かつてはサンゴ礁に富んだ南洋の楽園とみなされた。しかし、今やその面影は失われている。人種問題は根深く、汚職・不正行為も頭をもたげる。貧富の格差は拡大し、先進国からの援助や、出稼ぎ者の仕送りでやっと息を継いでいる。「パシフィック・パラドックス」という「援助すれども効き目なし」の現象が支配している。「トンガ王国」のGDPは、日本向けのカボチャの輸出が好調なときには一挙に数パーセント上昇した。そうでないときには低迷が続く。繁栄を自力で維持することは、不可能に近い。

 何万年の間に鳥の糞が積もってできた燐鉱石を掘り出して輸出する「ナウル」は、掘り出すたびに島がすり減り、それを補填する土砂を輸入しなければならない。「ツバル」等は、自国のドメイン・ネーム『tv』を売ってしまった。自国発行のパスポートを外国人に販売した「キリバス」等もある。また、いくつかの島嶼国は、先進国のビジネスマンによって自国がマネー・ロンダリング、タックスヘブンのために乱用されるのを複雑な気持ちで見守っている。要するに、これら島嶼国家は、主要経済の大波に弄ばれる小船のような存在になっている。

 近代化に遅れがちな島嶼国は、伝統的な自給経済に戻った方がよい、という議論がある。しかし、実態は女性が荷役動物と同様に扱われ、名前のある家畜ブタの方が大切だった島々のように、旧態依然とした人間関係の下で悲惨な生活が強いられている例が数多い。生活様式や教育等を伝統的なものに戻せというのは、暴論に近い。これら島嶼国は、いや応なく国際社会の一員として生き抜かざるをえない。

 競争力のある、すなわち「比較優位」のある産業を伸ばせばよい、という議論もある。しかし、狭い市場しか持てず、「規模の経済」が働きにくい状況では、複数の企業が競いあう余地がない。企業間の競争が乏しければ、国際的に「比較優位」のある産業も育たない。しかも、現代の産業は、労働・資本・天然資源/環境という生産要素以上に、情報・知識・技術が幅をきかせている。島嶼国は結局のところ、昔風の「比較優位」しか持たない魚介類、果実等の産物を輸出することで口を糊している。

 島嶼国家はまた、通貨主権を放棄し、外交・防衛を大国に委ね、司法まで外国のお雇い裁判官に依存しながらも、国連で1票を投ずる地位を得ている。しかし、独り立ちできない。世界には、最強の米国からこのようなひ弱な海陸の小国まで、さまざまな国が200近くある。

 これらの国を切り盛りするにはどうしたらよいのだろか? 文明の違いでアプローチする考え方もある。具体的に、国・地域という区切りに着目するアプローチもある。国際経済学は、国境等の国々の相違を考慮に入れて、ミクロ・マクロ経済理論だけでは片付けられないヒト・モノ・カネ・情報の流れに注目する。これからの若者には、幅広い国際的な現実感覚が要求されている。

 もっと詳しく知りたい人は… オススメ本

国際金融論をある程度学んだことのある人には、ちょっと難解だが
Benjamin J. Cohen著『The Geography of Money』
Cornell University Press, 2000

(2002年1月10日掲載)




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First drafted 2002 January 10.