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早稲田大学スポーツ科学部

「スポーツ科学」への誘い

現代社会におけるスポーツの重要性
~スポーツをもっと生活に密着したものに~

早稲田大学特命教授・スポーツ科学学術院特別顧問 川淵 三郎

機械化やオートメーション化、コンピュータ化が進む現代社会。核家族化や少子化、地域社会の崩壊なども相まって、運動不足や体力の低下、生活習慣病の増加をもたらしています。

子ども達も偏差値重視の教育に追われ、遊びもコンピュータゲームが主流になり、外で元気に遊ぶといったことが少なくなっています。それによって重心が後退する「浮き指」や背筋力の低下、背骨の湾曲といった由々しき現象が表れており、精神面では、キレる、不登校、多動性症候群といった問題を抱える者も少なくありません。いくら学力向上を叫んだところで、知識を身につけるための体力や精神力が備わっていなければ何の意味もないことをもっと日本の為政者、教育者は認識すべきでしょう。

日本は先進国の中でもスポーツが生活の一部になっていない唯一の国と言えます。学校体育と企業スポーツを中心に発展してきたため、ともすると競技志向に走りがちです。トップアスリートとして成功するのはほんの一握りの人たち。そういう人たちのためにスポーツがあるのではなく、あまねく人々のためにあるのです。

スポーツは身体を丈夫にするだけではなく、人生そのものを豊かにします。仲間と楽しみ、世代を超えた交流を広げます。子供達はその中で人間性や社会性を身につけ、相手を思いやる気持ちや失敗や挫折に負けない強い精神力を育みます。

校庭の開放を考えれば、先進国と比較しても施設が少ないとは言えません。しかし、如何せん土のグラウンドがほとんどで、スポーツに親しもうにも土のグラウンドではスポーツを始めてみようという気にはなりません。そういう意味では、大学の存在もより大きなものになるはずです。大学が一市民として地域のスポーツ振興に寄与する――有能な人材やノウハウ、充実した施設を提供するなど、積極的に地域と関わることで大学の存在意義を示すことにもなるでしょう。

芝生の広場はただそこにあるだけで、多くの人が立ち寄りたくなるものです。校庭を芝生にした小学校は異口同音に言いますが、子どもたちが裸足で駆け回ったり、寝転んだり、友達とおしゃべりに興じたりなど、コミュニケーションが密になったといいます。ある学校では、歩行器を使って歩いていた児童が、校庭が芝生になったことで自力で歩いたというエピソードも…。お年寄りにとっても緑美しい広場があれば外に出てみようという意欲を持つでしょうし、若者がスポーツに興じる光景に楽しみや生き甲斐を見出すことになるかもしれません。それが結果的に心身の健康を促し、健康寿命を延ばすことにもなるわけです。

核家族化が進み、地域のつながりが希薄になった現代社会において、スポーツは以前にも増して重要な役割を果たすものになっています。「する」「観る」「参加する」「応援する」「支える」など関わり方も多種多様。人との交流を育み、地域を活性化させるチャンスにもなります。

スポーツを単に“運動”と捉えず、多角的に発展させていくことで、より人々の生活に密着したものになり、国民の健全な心身の発達をもたらすものと考えています。

川淵 三郎
川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年、大阪府高石市に生まれる。1957年、早稲田大学商学部に入学。サッカー部に所属し58年には日本代表選手に選抜される。61年、古河電工に入社。64年、東京オリンピックに出場。役引退後は、古河電工サッカー部監督、日本代表監督を歴任。91年、Jリーグの初代チェアマンに就任し、サッカー界をけん引。2002年に日本サッカー協会会長。2008年7月、会長を退任し、現在は名誉会長。

2009.4.16 update