第2章 都市成長―フィリピンにおける人口移動現象

    前章において、海外で稼ぎが国内に与える影響についてを考察し、発展の遅れから高出生率になり、人口増加を引き起こすことについてのべた。ここでは、フィリピンの都市都市化現象の現状に着目し、農村から都市への人口移動現象についてを考察する。

 

第1節 フィリピンの都市化現象

    アジア諸国において、都市化率すなわち総人口に占める都市人口の比率は上昇傾向にある。都市人口増加率は都市における雇用増加率を大きく上回るのみならず、住宅、学校、保険・衛生施設などの生活関連資本の供給も、増加する都市人口に追いつくことができない。これは「過剰都市化」とも呼ばれる。この都市化は、自然増加によって生じたというよりは、農村からの人口が流入したことが原因である。その点について、参考までに1980年代におけるASEAN4の都市人口増加率と全国人口増加率を比較したところ、前者が後者を上回らない国は存在しなかった。(図2−1)このようなアジア諸国都市人口の爆発的増加が都市・農村間の人口移動によって引き起こされていることをロジャース=ウィリアムスンは「移動革命」と名づけた。1)

    では、次にフィリピンの都市化の現状を見てみる。フィリピンの1990年の都市人口は302万人、1995年は366万人で、全人口に対する都市人口割合は1980年が38%であったのに対し、1990年は48.8%、1995年は53%と、5年で4.2%上昇している(表2−1)

    また、その都市人口のうち、首都圏で最大の都市・マニラとその周辺の地域に住む人口の割合は1980年で33%、1995年で25%となっている。2) 都市地域における衛生普及率は1985年で76%で、数字的には他の途上国より高くなっている(図2−2)。しかし、都市総人口に占めるスラム居住者及び不法占拠者の割合は1983年で35%に及んでおり3)、現在もマニラ市内にスラムが多数存在していることを考えると、都市部においては生活水準に大きな格差が生じていることが予想される。

・なぜ、都市へ人口が集中するのか?

    次に、失業率について見てみる。フィリピン全体の失業率と都市・地方エリア別の失業率を見ると(図2−3)のように開きがある。また、当然ながら地域別で見ても、前出の(図2−3)とほぼ同じような結果が得られる(表2−2)

    人口の都市集中が引き起こす問題には、まず失業率の悪化が挙げられるが、都市における住宅や教育、健康、安全衛生等の面におけるコストの増大も考えられる。では、なぜ人は都市へ流出するのだろうか。以降で、この点について検討していく。

 

第2節 フィリピンにおける農村都市間移住者の考察

〜あるスラムの都市インフォーマル部門を例に〜

    一般的な農村から都市への移住者のもつ特性は開発経済学において、教育上、経済上、人口統計学上の三つの大きなカテゴリーに分類できる。農村から都市への人口流入に関する統計はアジア諸国でもきちんと整備されていないのが現状で、フィリピンも例外ではない。よって、ここでは『スラムの経済学―フィリピンにおける都市インフォーマル部門』(中西徹著・1991年)でのマニラ首都圏の1スラムの住み込み調査による参与観察を基に、農村都市間移住者の特徴を比較する。

(※当然ながら、農村都市間移住者がすべて都市インフォーマル部門従事者であり、このスラム居住者と同じパターンであるとするのは無理があるが、多くの農村余剰労働力が都市インフォーマル部門に就業していることを基にして、本稿ではそのように仮定した。)

a:教育上の特徴

    農村から都市への移住と教育到達度との間には関連はあるのだろうか。長期間の学校教育を受けた者ほど、他の点(要因)で同等であっても、学校教育の短い者より移住志向が強いといわれている。限られた都市の雇用機会は、教育レベルに従って分配されており、初等教育程度のレベルでは雇用の確保は難しいというのである。4)

    これは、フィリピンにはあてはまるのだろうか。都市にはフォーマル部門とインフォーマル部門の職が存在するが、フォーマル労働市場の受け皿は限られており、確かに、教育面において高い参入障壁があるといえる。しかし、インフォーマル部門において教育水準での参入障壁はない。フィリピンは発展途上国の中でも、高い教育水準を誇っている国であることは前章でも述べているが、このスラムの住民における教育水準は低い(図2−4)。この事実は、トダロの2段階労働移動5)による都市インフォーマルセクター従事者のフォーマル部門への参入の可能性を困難にする。このスラム居住者は教育水準ないし専門的技術という観点からみて、自分が要件を満たさないなことを理解しうる情報ももっているからである。6)

 

b:経済上の特徴

    都市移住民の最大の割合を占めるのは、農村ではほとんど経済機会がない、貧しい未熟練工であるという。近年、安定的な近代産業部門の出現により、移住者はあらゆる社会・経済階級からやってくるようになったが、大半の農村住民は貧しいので、当然移住者の多くは貧しい。この点については、ほぼ同じことがいえる。出身地方からの移住理由(表2−3)では、従属的移住者を除いて六割以上のものが求職を挙げている。そのうちの農村における賃金の低さを理由としているものは約48%、失業者は約17%となっている。

c:人口統計学上の特徴

    第三世界の都市移住者には、傾向として15歳から24歳までの若い男女が多い。従来、女性の多くは配偶者に付随して都市部へ移住するものが多かったが、近年では、随伴者のない女性の移住人口が増加している。この理由の一つとして、女性の教育機会の拡大が考えられる。フィリピンは高学歴を有する女性が多く、女性の社会進出が他のアジア諸国よりも進んでいる。しかし、「a:教育上の特徴」でも述べたように都市インフォーマル部門に従事する女性については当てはまらない。

 

第3節 人口移動現象の背景

   第1節においてフィリピンの都市化の現状を、第2節では農村都市間移住者についてを考察した。ここでは、人口移動現象に関してなされる意志決定について、詳しくみていく。

・人口移動の決定要因

    人口移動の決定要因は多様で複雑である。人口移動は、経済や社会、教育、人口統計学上の何らかの特質が個人に影響を及ぼす選択的過程であるため、経済的・非経済的要因の影響の度合いは国家や地域ごとに異なるだけでなく、特定の地域や人々の間ですら異なる。これは、単なる人口移動のみならず、農村から都市への労働力移動に関しても当てはまるものと考えられる。

    人口移動の要因は、今日、経済的要因の影響が第一であるという説が有力である。しかし、当然ながら非経済的要因も考慮する必要がある。以下に、その主なものを挙げる。7)

@社会的要因…移住者の社会組織の因襲的な拘束との関わりを絶ちたいとの願望

A自然科学的要因…気候、気象上の災害など

B文化的要因…都市の拡張大家族関係による安全保障、大都会への魅惑など

C人口統計学上の要因…死亡率の低下とそれに付随する農村人口の急増

Dコミュニケーション上の要因…交通機関の発達、都市志向の教育制度、ラジオ、テレビ、映画の導入による近代化の影響など

    この五分類を農村都市間人口移動の要因として見た場合、特にB文化的要因・Dコミュニケーション上の要因が、かなり大きな比率であると予想できる。都市は雇用に関する情報が(農村より)豊富であり、また都市への憧れ―都市へ住むことがステイタスであると考えている者は多いと考えられるからである。そして、大学などの教育機関が都市に集まっていることも要因である。地方出身の大卒者のなかには、そのまま都市に住み続ける者も多い。これについては、日本の「東京一極集中」現象についても同じことがいえる。

[ちなみに、日本の都市人口に占める最大都市人口比率は78%(1996年)である。8) ]

 

1) 渡辺・足立・文(1997)

2) WORLD BANK 『World Development Indicators 1998』

3) トダロ(1997)

4) トダロ(1997)

5) 補論参照

6) 中西徹(1991)

7) トダロ(1997)

8) WORLD BANK『World Development Indicators 1998』

 

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