Bayes

  【著者】
   豊田秀樹 (2016年5月)
   朝倉書店

(著者より)
 統計的方法を学ぶことは、これまで、すなわち有意性検定を学ぶことでした。長期に渡りこの大前提はゆるぎなく盤石で、無条件に当たり前で、無意識的ですらありました。しかし、ときは移り、有意性検定やp値の時代的使命は終わりました。アメリカ統計学会ASAは、2016年3月7日に、p値の誤解や誤用に対処する6つの原則に関する声明をだしました。この声明は「『ポストp < 0.05 時代』へ向けて研究方法の舵を切らせることを意図している」(R. Wasserstein) ものだと言明されています. 本書は、有意性検定やp値によらない統計学の教科書です。初めて統計学を学ぶ学生のための最初歩の入門書であり、独習書です。統計データ分析に関する予備知識はいっさい仮定せず、数学的説明には微分・積分・シグマ記号・行列・ベクトル演算を使わずに、統計的推測の世界にご招待いたします。

(序文より抜粋)
 この本は初めて統計学に入門する学生のための教科書です.統計データ分析に関する予備知識はいっさい仮定していません.目次が示すように「データの記述」「正規分布」「独立した2 群の差」「対応ある2 群の差」「実験計画」「比率・クロス表」に各1 章ずつをあてています.統計学の入門的教材としては初等的定番です.このため読者の専攻分野を問いません.

 本書の最大の特徴は,統計学の最初歩の教科書でありながら,ベイズ流のアプローチのみで教材が展開されることです.多くの統計学の入門書とは異なり,有意性検定やp 値にはまったく言及せずに統計的推測を行います.t 分布・F 分布・カイ2乗分布など,数学的に高度な標本分布は一切登場しません.分散の分母にn - 1を置くなどという分かりにくいこともしません.

 著者は大学で統計学の授業を担当し,長らく有意性検定を講義してきました.学生はみな熱心でしたが,有意性検定は教えにくい単元でした.学生たちは有意性検定を習得しても,そして使い続けてさえいても,理論を誤解し,直ぐにその本来の意味は忘れてしまうようでした.有意性検定の理論体系は,その利用者に不自然な思考を強いるからです.また数学的に高度であり,文科系の学生には理解ではなく,暗記を強いるからです.

 対して研究仮説が正しい確率を直接計算するベイズ流の推論は考え方がとても自然です.だから誤解が生じる余地がありません.また生成量を使った分析は汎用的で強力です.その点で本書はとてもユニークであり,長く統計分析に係わられてきた方が,統計学に再入門するときの独習書としても利用していただけます.再入門のためには付録Q & A から先に読んでください.

 数学的説明には,微分・積分・シグマ記号・行列・ベクトル演算を使いません.ほぼ高校数学I の範囲からの旅立ちです.だからといって,数学的説明を割愛したり,説明のレベルを下げたりということはありません.なぜそんな魔法のようなことが可能なのでしょうか.それはベイズ流のアプローチが,MCMC の発達によって必ずしも高度な数学を必要としなくなったからです.

 本書のキーワードは研究仮説が正しい確率と生成量です.この2 つの考え方を武器にして,読者の皆様を新しい時代のデータ解析に御招待いたします.ベイズ流のアプローチは21 世紀の統計学の中心です.若い方(そして年齢によらず心の若い方) は,是非,ベイズ流のアプローチで統計学に(再) 入門して下さい. 本書の内容は,web から入手できるR とStan のコードによってすべて再現できますから,すぐに実践に供していただけます.ただし紙面の都合でR やStanの文法の解説は割愛しました.

目次
1 データの整理とベイズの定理
2 MCMCと正規分布の推測
3 独立した2群の差の推測
4 対応ある2群の差と相関の推測
5 実験計画による多群の差の推測
6 比率とクロス表の推測
Q & A