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「学校給食の安全を守る―アレルギー対応に求められるものとは?」

・はじめに 
給食の時間は学校生活の中で、楽しい時間の一つである。給食を食べながら友人たちと談笑する、そんな記憶が多くの人にあるのではないだろうか。
そんな楽しい時間が悲劇へと変わってしまう出来事があった。2012年12月、東京都調布市の小学校で食物アレルギーを持つ女子児童がアナフィラキシーショックにより亡くなるという、痛ましい事故が起こった。給食で出されたチーズ入りのチヂミを食した事が原因だった。
 この事故は各所で報道され、世間の注目を集めた。そして文部科学省や教育委員会は、このような事故が再び起こらないよう、給食とアレルギーの問題について対策に動いた。アレルギーと学校給食の在り方について、この事故は問題を提起したと言える。学校給食はどのように変わることができたのだろうか。本当に安全な給食、楽しい給食を実現させるには何が必要なのだろうか。この記事を通じて改めて考えてみたい。

・アレルギーに対する学校給食の基本的姿勢
学校給食におけるアレルギーの対応には、3つの大きな柱がある。情報共有、事故防止、緊急対応である。これら3つの柱に沿って対応することが基本となっている。
①情報共有:学校生活管理指導表を活用し、児童・生徒のアレルギー症状の把握がされている。正確な情報が対応の基本となるため、医師の診察に基づいて診察指導表が記載され、その情報を保護者と学校が共有する。
②事故防止:事故防止策は、4つのパターンに分類できる。詳細な献立表による対応、弁当持参による対応、アレルギー物質除去食による対応、代替食による対応である。特に、除去食と代替食による対応が、アレルギー対応として望ましい方法とされている。これらの対応を基本とし、さらにアレルギー専用の調理室で調理を行う、食器の色分けをするといった工夫もなされている。
 ③緊急対応:緊急対応とは、児童・生徒がアナフィラキシーを引き起こした際の対応のことだ。緊急対応で重要なのが、エピペンというアドレナリン自己注射薬の使用である。児童・生徒にエピペンを持参させ、万が一の場合は教員が処置を施す。
 このような対応方針は、「学校のアレルギー疾患の対する取り組みガイドライン」(以下「ガイドライン」)によって示されている。「ガイドライン」は、文部科学省監修の下、2008年に日本学校保健会から発行されたものだ。この内容が、全国共通の対応マニュアルとなっている。

・不十分だった「ガイドライン」の理解
 事故後明らかになったのは、「ガイドライン」の理解が十分になされておらず、対応が徹底されていないという実態だ。2014年3月に提出された「今後の学校給食における食物アレルギー対応について最終報告書」(以下「報告書」)の中で、文部科学省は、アレルギー対応への認識が不足していることを大きく問題視している。文部科学省や教育委員会による「ガイドライン」の指導が不十分であり、結果として各学校のアレルギー対応方針もあいまいになってしまっているのだ。学級担任向けの研修があまり行われていないことも、問題点として挙げられている。2013年12月の「学校給食における食物アレルギーを有する児童生徒への対応調査結果速報」によると、2012年度に何かしらの研修を行った学校は調査対象校全体の51.1%であった。しかし研修の対象は主に養護教諭や栄養教諭であり、学級担任を対象とした研修を行ったのは、研修を行った学校の内で14.5%にとどまった。現場での対応が求められる学級担任であるが、その担任が適切な対応についての理解を十分にしていないということだ。
 「ガイドライン」の理解が進まなかった原因は、アレルギー対応が教員や学校、教育委員会に負担になることだ。実際の教育現場では、教員は児童・生徒の様々な指導、管理に日々追われている。そのため、100ページにわたり様々なアレルギー疾患について説明されている「ガイドライン」を、十分に理解するところまで手が回らないのだ。また、アレルギー対応の設備を整えることも、自治体にとって大きな負担となる。そのため「ガイドライン」の求める対応ができない場合があり、学校により対応に差が生じている。

・対応強化に動いた自治体
 このような実態が明らかになったこともあり、教育委員会や自治体が主導してアレルギー対応強化に動いた。アレルギーへの意識が、事故をきっかけに高まったのである。
まず、各自治体はマニュアルの改訂を行った。以前も自治体は独自のマニュアルを有していた。しかしその内容は「ガイドライン」の要旨をまとめた程度であった。このような内容が見直されて、各地域に合った、独自色の強いマニュアルが作成された。現場での経験を反映させた内容や、地元の医師と協議を重ねて考えられた内容となり、「ガイドライン」以上に詳しい情報が追加された。
また、教員のアレルギー対応の理解促進を図るため、教育委員会や自治体が主導して研修が行われるようになった。医師や消防団と連携しながら、アレルギー対応についての理解促進を図っている。エピペンの利用方法についての研修は多くの自治体で行われている。奈良市は2014年7月から、市立小中高に勤務するすべての教職員を対象とした行う予定としており、現場での対応が適切にできる体制づくりに着手している。
そして、アレルギー対応の環境整備も進んでいる。例えば千葉県鎌ケ谷市は、アレルギー専用調理場を備えた給食センターを2014年3月完成させた。兵庫県明石市は6月に栄養士を増員した。その他の自治体もスタッフ増員や調理場の整備を行っている。

・それでも無くならない給食での事故
 様々な対応が施されているが、それでも事故を防ぎ切れていないのが現状だ。調布市での事故から現在(執筆時2014年7月21日)までに発生した給食での事故は、新聞記事で確認しただけでも33件に上る(『朝日新聞』データベースを利用)。重篤なケースこそ少ないが、一歩間違えれば大事故につながっていた。
 事故の原因の大半は、うっかりミスが原因となっている。特に多いのが除去食・代替食と未対応食の取り違えである。食器による色分けなどの工夫がされていても、チェックがおろそかとなり誤配膳してしまっている。また配膳表へのアレルギー物質記入忘れによる誤食も事故の原因となったケースもある。栄養教諭、学級担任、アレルギー児童・生徒本人により、何回もチェックがなされているはずなのだが、うっかりミスによる見落としが無くならないのである。

・アレルギー対応に求められるものとは
 このように考えると、“うっかりミス”をいかに防ぐかが、アレルギー対応に最も求められることだと言える。設備の充実や研修による理解促進はもちろん必要であるが、それだけでは事故を防ぎ切れないのである。アレルギーを持つ児童・生徒の人数が増加し、アレルギー症状が複雑化する中で、これから対応はさらに難しくなるだろう。
 “うっかりミス”に対しどのように立ち向かえばよいか、この答えを明確に示すのは正直に言って難しい。まずは研修などを通じてアレルギーへの問題意識を高く持つ必要がある。積極的に研修が行われているが、このような動きをこれからも継続していかなければならない。
 また、クラスでアレルギー事故を防ぐために、児童・生徒のアレルギーへの意識向上も求められる。監視の目が増えるメリットはもちろんのこと、アレルギーを受け入れる雰囲気づくりにもつながる。事実三重県のある小学校では、食育によって児童のアレルギー理解が促進し、対応に成功している。食育の実施例として、アレルギー除去食を作るという調理実習を行っている。

  ・最後に
 意図しない所で生じるミスを防がなければならず、アレルギー対応は非常に難しい問題である。調布市の事故は、アレルギー対応の意識改革につながった。事故を最小限に食い止めるためにも、この動きをこれからも継続させ、アレルギー児童・生徒を含めた全員が高い意識を持たなければならない。

参考文献
『読売新聞』2014年7月18日朝刊地域面(奈良)
『朝日新聞』2014年3月28日朝刊地域面(ちば東葛)、6月6日朝刊地域面(神戸)
文部科学省ホームページ「今後の学校給食における食物アレルギー対応について 最終報告書」[2014年6月14日閲覧]
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/__icsFiles/
afieldfile/2014/03/27/1345963_2.pdf
文部科学省ホームページ「学校給食における食物アレルギーを有する児童生徒への対応調 査結果速報」[2014年6月14日閲覧]
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/12/__icsFiles/
afieldfile/2013/12/19/1342460_2_1.pdf
「続発するアレルギー事故 学校給食で何が? - NHK クローズアップ現代」[2014年6月23日閲覧]
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3314_all.html


  (小俣智史)

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