RESEARCH

武田研究室の研究分野は大きく5つのグループに分けることができます。
ナノ・マイクロパターニング、ナノファイバー、ゲルファイバー、有機・高分子合成、東京女子医科大学との共同研究の5グループです。それぞれのアプローチで再生医療を目指したバイオマテリアルに関する研究を行っています。以下に、各グループの概要を述べます。

 ナノ・マイクロパターニング

ナノ・マイクロパターニンググループでは、ナノ・マイクロメートルの微細加工を施した特異な表面上における細胞挙動の解明と、細胞挙動の自在な制御を目的としています。具体的には、半導体作製に用いられる微細加工技術を用いて、ナノ・マイクロオーダーの様々な凹凸形状を有する基材表面を作製し、その表面上に播種した細胞の挙動(接着、遊走、形態、遺伝子発現など)を研究しています。
近年、細胞培養基材の性質(硬さ、粘弾性、化学組成、形状など)が細胞挙動に大きな影響を及ぼすことが明らかとなり、「細胞が接着する足場」が注目されています。ナノ・マイクロパターニンググループは、「どのような表面形状の足場であれば、細胞挙動を解明できるか?細胞挙動を制御できるか?細胞機能を向上できるか?」を考えながら日々研究しています。将来的には、再生医療に資する細胞培養基材に貢献したいと思っております。

 ナノファイバー

ナノファイバーグループでは、直径ナノ・マイクロメートルのファイバー(繊維)の不織布上での細胞挙動の解明と制御、さらにはファイバー・不織布を足場とした三次元の再生組織の構築を目的としています。
エレクトロスピニング(電界紡糸)法により、様々な高分子の、様々な形状のナノファイバー・不織布を簡便に作製することができます。例えば、穴が空いた凹凸ファイバー、芯と鞘の二層構造ファイバー、ファイバーがランダムな方向に並んだ不織布、ファイバーが一方向に配向した不織布などをこれまでに作製してきました。これらナノファイバー・不織布上あるいは内部での二次元・三次元細胞培養により、通常の平面培養では不可能な細胞挙動の制御が可能になります。様々な機能性のファイバー・不織布足場を開発して、最終的には三次元の再生組織にまで発展させたいと思っております。

 ゲルファイバー

ゲルファイバーグループでは、早稲田大学庄子研究室と共同で独自に開発したマイクロ流体デバイスを用いて、細胞を包埋した高分子のゲルファイバーを作製し、長大な血管や神経束、筋繊維などの再生組織を構築することを目指しています。

独自開発のマイクロ流体デバイスを用いることで、直径が数百μm、長さが数cm以上、異なるゲル・細胞が重層した構造の細胞包埋ゲルファイバーが作製可能です。例えば、実際の血管組織(動脈)は主に内膜・中膜・外膜の三層構造を成しており、極めて近い構造を模すこともできます。また三次元の生体組織は、血管がなければ組織内部の細胞隅々にまで酸素・栄養を供給して組織を維持することができず、血管は移植可能な再生組織の実現に必要不可欠な要素と言えます。ゲルファイバーグループでは、血管だけでなく神経束や筋繊維などの再生医療で重要な繊維状組織を、マイクロ流体デバイスにより工学的に作製することを目標としています。

 有機・高分子合成

有機・高分子合成グループでは、外部刺激に応答する機能性分子とこれを含有した新規高分子材料を合成して、接着・増殖・遊走・分化などの細胞挙動を自在に動的に操るバイオマテリアルの作製と、外部環境の動的変化に対する細胞挙動の解明を目指しています。
例えば、「スピロピラン」という分子は光を照射すると分子の構造と極性が可逆的に変化します。この分子レベルの微小な変化は、高分子を精密に設計することで高分子鎖の凝集状態変化、さらには材料特性の巨視的な変化に増幅することができます。相分離構造、表面の凹凸構造、新疎水性、弾性率、粘弾性などの様々な特性の光可逆的変換が可能なため、このような材料を細胞培養足場に用いることで、これまでにない細胞挙動の制御に繋がることが期待できます。

 東京女子医科大学との共同研究

東京女子医科大学との共同研究では、患者の一部の組織から細胞を単離・分離して、模倣組織を作製後に移植し、病気で欠損した組織・器官を再生することを目標としています。現在はその中でも特に、高精度な細胞分離デバイスの構築と、細胞シートを用いた組織再生の構築という2つのテーマを行っています。
細胞分離デバイスの構築:
組織は多種類の細胞から構成されているため、細胞を種類毎に分離することが重要とされています。多くの細胞は培養基材表面に接着しますが、その接着性は細胞種ごとに異なっているため、基材表面の特性を変えることで細胞接着と脱着の制御が可能になります。現在までに温度変化で親疎水性が変化する高分子poly(N-isopropylacrylamide)や機能性ヒドロゲル、表面の凹凸、ペプチド修飾などを施したインテリジェント基材とファイバーカラムの作製に成功し、いくつかの細胞種の選択的分離が可能であることを見出しました。
細胞シートを用いた組織再生:
東京女子医科大学が開発した「細胞シート」は組織としての機能を持ち、身体のあらゆる部位に貼れる絆創膏のように移植することができます。すでに実用化され、癌患者を始めとした難病患者の命が救われています。現在は、細胞生物学的観点から移植効果の向上やメカニズム解明を目指して研究を進めています。