早稲田大学社会科学部 政策科学研究 上沼ゼミナール
内山 克明 kastuaki Uchiyama

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研究中のため随時更新します






Theme/「市民参加」・「協働」を目指して
Case/「藤沢市市民会議室」・「志木市」の取り組み



 研究動機


 以前から市民と行政の関係に疑問があった。

 市民の意見がどのくらい行政に伝わっているのだろうか。市民は地域のことを行政にまかせっきりでよいのだろうか。

 21世紀に入り地域の課題は多様化、複雑化し行政単独で取り組むことには限界がある。
よって、地域市民と行政が主体的に課題解決に取り組むことが必要なのではないか。市民一人一人が地域の問題を考えて、市民同士でディスカッションを行うことにより合意形成をはかり、行政はその合意形成をもとに民意を施策に反映させる必要があるのではないか。つまり、市民と行政の協働による課題解決が求められるのではないか。そうすることで初めて、市民にとって住みよいまちが実現可能になるのではないか。

 では、住民と行政が協働して地域の問題を解決するにはどのようにすればよいのか。

 そんな疑問をもっているときに、私は「藤沢市市民電子会議室」の取り組みを知った。これはネット上に電子会議室を設立し、そこで市民と行政が意見のやりとりをする。これは情報化社会におけるインターネットがもつ双方向性、即時性という特徴を利用したものである。このことで市民が市政に主体的に参加し、市民と行政の協働で地域の課題を解決することにつながるのではないかと考える。

 また近年、市民参加、協働に積極的な取り組みを見せている「埼玉県志木市」も視野にいれて研究を進める。志木市では、行政サービスの受け手であった市民を担い手に転換し、市民自らが主体的に地域づくりに取り組んでいる。

 二つの政策をとおして、これからの市民参加、協働とはどうあるべきか考えていきたい。

 


Index    
第1章 地方自治体における市民参加・協働 第1節/ なぜ市民参加・協働が必要か 
第2節/ 既存の市民参加・協働の方法とその問題点
                         
第2章 「藤沢市市民電子会議室」の取り組み 第1節/「藤沢市市民電市会議室」の概要
第2節/「藤沢市市民電子会議室」の評価
第3節/eデモクラシー
 
第3章 埼玉県志木市の取り組み 第1節/ 志木市における「市民参加」・「協働」が求められる背景 
第2節/志木市の取り組み                     
第3節/志木市の現状・評価  
第4章 これからの市民参加・協働とは       

■■

第1章 地方自治体における市民参加・協働

 近年、全国の地方自治体で「市民参加」、「協働」の必要性が叫ばれている。

 「市民参加」、「協働」と言う言葉には統一的な定義はないが、一般的に「市民参加」とは市民が地方自治体の意思決定プロセスに一定の手続きを経て関与する意味で使われいる。一方、「協働」は施策の実施段階への市民の参加・協力など市民による実際の活動を意味していることが多い。だが、二つの言葉を明確に分ける基準はない。

 いずれにせよ、全国の地方自治体で“市民が行政に参加しよう、行政と一緒に地域のことを考えていこう”ということが強く叫ばれている。なぜだろうか、まずその背景を考察していく。そして、これまでの「市民参加」、「協働」の方法をあげ、その問題点を見ていく。

第1節 なぜ「市民参加」、「協働」が必要か

 

(1)「市民参加」、「協働」が必要とされる社会的背景

1.中央集権の行き詰まり

   ・ナショナルミニマムの達成 
       ・東京一極集中 
             ・国の役割の肥大化→地方分権        

2.経済、社会情勢の変化

   ・バブルの崩壊→税収の減少→地方財政の疲弊 
       ・少子、高齢化社会の進展 
             ・環境問題の複雑化                  
                ・地域のグローバル化           
3.価値観の多様化
   ・生活様式の多様化→市民ニーズの多様化→行政サービスの限界 
              
 

 1999年4月に地方分権一括法が施行され、形式的には地方と国は協力、対等の関係になったと言える。この地方分化の背景には、地域の抱える問題が複雑、高度化し、市民ニーズが多様化した地域において、従来の一律的な国の政策では対応できなくなったことがあげられる。
 そこで、国と地方の関係を見直し、地域ごとにその特色を生かした政策が行われるよう地方分権を進めていかなければならない。 このことは、地方自治体が自己決定と自己責任による自治体運営を求められていることでもある。
 これからの地方自治体は自己決定と自己責任による自治体運営により市民にとって本当に住みやすい地域を築いていかなければならない。そのためには、これまでの行政主導のまちづくりから、市民の意思に基づく市政運営と市民主体のまちづくりへと変えていく必要がある。つまり、「市民参加」、「協働」によるまちづくりが必要となってくる。
 

(補足) 法が保障する「市民参加」

 ・現行の日本国憲法の基本原理は、国民主権、平和主義、人権尊重の3つである。日本国憲法前文には「国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と規定されているのが国民主権である。
  民主主義の下では最終的に国のありかたを決めるのは主権者である国民である 。だとすると、地域のあり方を決めるのも主権者である地域住民である。地域社会が複雑化、多様化した今日において、上からの言いなりになるのではく、市民が積極的に政治に参加し、地域のことを考えていく必要がある。

 ・『現代用語の基礎知識参照』によれば、「地方自治とは一定の地域を基礎とし国からある程度独立した地方公共団体が設けられ(団体自治)、その事務を地域住民の参加と意思に基づいて処理する(住民自治)ことである」そして、地方政府の自立性や住民の参加は制度的に現行憲法や地方自治法のもとで保障されているとする。 

 

■第2節 既存の「市民参加」・「協働」の方法

 第1節では、「市民参加」・「協働」の必要性をみてきた。ここでは、既存の市民参加方法を考察し、どのような問題点があるかを考察していく。

(1)地方自治法に基ずく市民参加

選挙
 首長、および議員の選出を行う。市民の行政需要は選挙によって選ばれた代表者の討論や多数決のよって集約される。現在一番多くの人が関与している方法であるが、人を選ぶためのものであり、間接的な参加方法といえる。選挙によって選ばれた代表者が公約どおりに活動しているか、市民の一票が市政へ反映されているのか疑問が残るところが多い

○直接請求
 直接請求は、条例の制定改廃請求、事務審査請求、議会の解散請求、長・議員・主要職員の解職請求などの種類があり、一定以上の署名を集めることで長や議会に請求を行うものであるしかし、署名を集めることが困難である。また、条例の制定改廃制度では地域住民は請求できるだけで、最終的には制度改廃するか否か議会の議決によるなど、請求の目的を達成することは困難である。

○請願と陳情
 請願とは、市政に対する要望や意見を議会に提出するものである。提出するときには、紹介議員が必要となる。請願は議会において他の議案と同様に扱われる。これに対して陳情は紹介議員を必要としない反面、議案とされず全議員に配布されるのとどまる。請願も陳情も議会で不採用された場合、その意見や提案は継続して議論する場はない。大多数の市民が同意した提案であっても議会で否決された場合は、採用されない。

○住民投票
住民投票は、一つのテーマ(案件)に関して、その賛否や最も適切だと思われる案を、 有権者の直接投票で決めるものである。つまり選挙が「人」選ぶのに対し、住民投票は「事柄」を選ぶのである。しかし、住民投票のためには、まず住民投票の条例からつくらなければならず、条例が可決されることは少ない。また、時間的・ 空間的・経済的理由から何度も行えないと言 う問題を抱えている。

(2)地方自治体独自の市民参加

○公聴会、審議会
 公聴会とは、「国または公共団体の機関がその権限を行使するに当たって、一般国民または学識経験者などの意見をきくために開く会」のことである。一方審議会とは「行政機関の掌握事務のうち一定の事項について調査・審議をおこなう合議制の諮問機関」のことである。個々の市民が、公聴会や審議会に参加することにより、その意見や意思を行政運営に反映させることが可能になる。
 しかし、公聴会は十分な回数がとれず市民が意見を言い放しになり、また行政が聞き放しになり形骸化しているとの批判がある。また、審議会は専門的な事項に関する側面に比重がおかれ市民意思の反映という側面が薄れている。さらに公聴会、審議会に参加できる市民が限られているとの問題もある。

○アンケート
 アンケートは制度として確立されているも のではないが、地方自治体おいて多数の市民の意向を把握するための方法として採用され ており、マスタープランニングにおいて市民 参加の代表的な一手法として扱われる。しか し、アンケートの作成者が行政であること、 アンケートの結果が単純集計であり、またそ の結果がどの部分にどの程度反映されるのかが不明確であるなどの問題がある。

○ワークショップ
 ワークショップは、共同作業を行いながら、 発想を出し合い、意見交換し、協議を重ねな がら合意形成していく方法であり、アンケー トと同様にマスタープランニングなどへの市民参加の一手法として利用される。ワークシ ョップは公聴会と異なり、ただ聞くだけでな く発言もしやすいという利点がある。しかし、
ワークショップも公聴会と同様に、時間的・ 空間的制限により参加可能な市民が限定され るという問題がある。

○市民会議、市民委員会
 市民会議・市民委員会は普通の市民から構成される。市民自らが自発的にテーマを設定し討議・実践することが期待される。行政の役割は、論議の場づくりや情報・資料の提供等の事務局的機能と、討議の結果を行政に反映させるための積極的配慮が求められている。

○市政モニター
 市政の執行について市民の目で点検を行うため、年数回のアンケートに答えるほか行政主催の会議への出席や施設見学をとおして随時行政に意見を提出する。公募方式によってモニターを選出している場合が多い。

○市長への手紙
 市政の執行について苦情を有する市民が市長あてに意見を提出する手段として「市長への手紙」がある。通常、手紙のセットが行政で用意され、また、その処理も、直接市長の目に触れるような形で行われるような取り扱いになっている場合が多い。

(3)既存の市民参加の問題点
 以上、見てきた既存の市民参加には様々な問題点が見受けられる。
まず@時間的・空間的制約により参加者が限定される、A市民から様々な意見がでても、それを市政に反映させる明確な制度がなく、言い放し、聞き放しになってしまう、B市民が参加するための、市民に参加してもらうためのコストがかかる、C市民参加の制度が分かりにくく、市民にとって身近でないなどである。
 

 地方分権が進み、地方自治体における市民参加が重要視されている今現在、上記のの問題点を克服して、“市民と行政が一体となってまちづくりをしよう”といった取り組みが全国の地方自治体で行われている。だが、市民参加方法にこれといった正解があるわけでないため、また地域によって抱えている問題が異なるため、難航している自治体も少なくない。次の章では、市民参加・協働に特に力をいれている地方自治体をケーススタディーとして、具体的にどのような政策をしているのかを見ていく。

 

 

 

■■

第2章 「藤沢市市民電子会議室」の取り組み


 近年、インターネットが急速に普及している。インターネットは即時性・双方向性・平等性 の特性を持つ。このインターネットの特性を市民参加や協働に活かした取り組みを行っている地方自治体が増えている。というのも、インターネットには第1章で述べた既存の市民参加の問題点を克服する可能性があるからだ。
 ここでは、 インターネットを利用することで市民が市政へと参加すること、市民と行政が 協働することに力をいれている藤沢市の「藤沢市民電子会議室」を考察していく。


第1節 「藤沢市市民電子会議室」の概要
 「藤沢市市民電子会議室」とは、市政への市民参加とコミュニティー作りを目的として 設置したインターネット上に存在する会議室システムである。 1996年以降、市と慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの金子郁容研究室と藤沢市産業振興財団とが 共同して実験的に始めた電子会議室であり、2001年以降に本格稼動した。

まず藤沢市ホームページを参考にしながら「藤沢市市民電子会議室」の概要を見ていく。  

(1)藤沢電子会議室の目的
 「藤沢市市民電子会議室実施要領」によれば、電子会議室の目的を次のように示している。

(目的)第1条 市民同士及び市民と行政が協働してまちづくりを進めるための基盤づくりとして、市民、 企業、大学並びに行政が相互に情報交換及び意見交換等を行い、この市における市民参加と新しい コミュニティづくりを推進することを目的として、インターネットを活用した藤沢市市民電子会議室 を実施する。(「藤沢市市民電子会議室実施要領」より抜粋)



(2)設立背景
 @藤沢市では1981年から16年間にわたり、市民参加による市政の推進を目的として 地区市民集会を開催していた。 地区市民集会は市民なら誰でも参加でき、市長などが同席するなかで、地域の生活環境や 町の未来について自由に意見を述べていた。市内14地区で開催され、 参加者は1地区平均230名で、14地区全体の意見や要望は800件以上もあった。
 しかし、この地区市民集会は問題点を抱えていた。開催が年1回であること、時間的 制約から、要望のある市民が全員発言できないといった問題点。また、市民の発言に対して、集会後 のフォロー体制がなく、市民が市政に継続してかかわる場も提供されていなかった。また、若い人は 仕事などで忙しいため集会に参加する時間的余裕がないなど、改善すべき行政課題があった。
→時間的・空間的制約から参加者が限定されていたこと。
→市民の発言に対しての反映制度がないこと。

 A1996年に山本市長になったのにともない、藤沢市では市民と行政が協働して まちづくりを進めていく「共生的自治」を標榜することになった。そこで、当時、すすめられていた 「藤沢市地域情報化基本計画」に「インターネットを活用した市民参加型行政計画立案システムの導入」 と「市民情報コミュニティーシステムの普及」という項目を盛り込んだ。
 この「藤沢市地域情報化基本計画」の背景にはまたインターネットが市民の間でもな普及 しはじめめていたこと、阪神淡路大震災の経験から ボランティアネットワーク等の地域の情報化に対する必要性が高っていたことが挙げられる。 そしてそこから「開かれた市政」を基本とした共生的自治の構築、 及びネットワーク上の「コミュニティの形成」が求められるようになった。
→「共生的自治」が標榜されるようになったこと
  藤沢市の共生的自治は、市民と行政とが協働して施策を遂行したり、 市民が市民の自治に基づいて主体的に 行う様々な活動を支援するという、 情報公開を前提とした新しい市民参加のシステムであり、 「市政情報提供システム」、「市民提案システム」 、「市政反映システム」、「市民活動支援 システム」で構成される。

→地域情報化がもとめられていたこと

 @時間的・空間的に市民参加の方法が限定されていたこと、A市民の発言に対して反映制度がなかったこと、B共生的自治がが標榜されるようになったこと、C地域情報化の必要性があったこと、などを背景として市と慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの金子郁容研究室と 藤沢市産業振興財団の産・官・学が合同で「藤沢市市民電子会議室」を設立することになった。 




(3)「藤沢市市民電子会議室」運営方法

 まず、藤沢電子会会議室の構成を図にした図1をみてもらいたい。



図1 (藤沢市ホームページより)

  図1から分かるように、「藤沢市市民電子会議室」は「市役所エリア」と「市民エリア」の二つのエリアに別れている。

「市役所エリア」会議室

 共生的自治のしくみを形成する4本柱(市政情報提供システム、市民提案システム、市政反映システム、市民活動支援システム)のうちの「市民提案システム」制度のひとつが、市役所エリアの会議室です。
 市役所エリアの会議室は、市が主催し、市政に関するテーマ(運営委員会がテーマを決めます。)に沿って意見交換が行われています。運営委員会は、そこで出された意見をとりまとめて市へ提言・提案することができます。
 意見交換に必要な情報については、参加者からの提供はもちろん、市職員も参加し、議論に沿った行政情報の提供をしています。市民の意見交換に必要な情報を行政が積極的に提供していくことにより、市民の市政への理解が深まり、市民と行政のよりよい関係を築くことになります。
 また、市では、予定している計画や事業等特定のテーマで会議室を開設することがあります。ここで出された意見については、計画の策定委員会や理事者に報告し、反映に努めています。(藤沢市ホームページより抜粋)

 

図2(藤沢市ホームページより)

要点をまとめると

・運営委員会がテーマを設定して、市が開催する。

・会議室の議論によって一定 の合意が得られたものは、運営委員会を通じて「市政 への提案」
 として提出

・行政が市民の意見交換に必要な情報を積極的に提供して いくことにより、
 市民の市政への理解が深まり、市民と行政のより よい関係を築く。
・藤沢市の市民提案制度の一つ

また、世話人・進行役という役職がある。世話人・進行役の仕事は会議室での全体の流れや発言をチェックする。

「市民エリア」会議室

市民(在住・在勤・在学)であればどなたでも開設できるのが、市民エリアの会議室です。
 日頃から感じていることやアイデアをテーマとして、市民自らが会議室を開設して、意見や情報を交換し、その成果をまとめることにより生活や地域に根ざした情報の蓄積を行うことで、ネットワーク上のコミュニティづくりを目指しています。 (藤沢市ホームページより抜粋)

要点をまとめると

・市民が自由に会議室を開設し意見や情報を交換し、成果をまとめ、 生活や地域に根ざした情報の蓄積を行い、ネットワーク上のコミュニティーづくりをめざす。        
・市民電子会議室の登録した市民で市内在住・在勤・在学なら誰でも発言OK。
・生活・近所、ボランティア、福祉・健康・医療・学習・教育・行政・情報 環境 自然
 科学 歴史 文化 趣味 娯楽

 

運営委員会の役割     
 上記の説明からも分かるように運営委員会がこの電子会議室において重要な役割を果たすことは言うまでもい。      
 運営委員会は公募によって選出され、地域の課題、市政全体の課題、市民電子会議室への投稿の中 から、市民電子会議室市役所エリア会議室のテーマを設定し、会議室 を開設する。
  会議室でまとまったことがあれば、運営委員会で取りまとめて、市に政策提言や提案として提出することができる。 また、議論の基礎となる情報の収集(会議室のPR  発言のまとめ、意見の集約)をする。

  そして、市民電子会議室の「全体ルール」(すべての会議室に適用)、お よび 市役所エリア会議室個別ルール」(市役所エリア会議室にのみ 適用)の制定、改廃をおこなう。ルール違反に対応する。 違反者への注意、警告 、発言の削除 、登録削除なども担当する。

 

市民の声、どのように市政へと反映?

 電子会議室である程度の意見のまとまりをみせたものは、運営委員会が取りまとめ、市に政策提言として提案するこができる。では、具体的にどのように行政側はその提言を受け入れるのだろうか。以下具体的に考察していく。 

図3(藤沢市ホームページより)

「市役所エリア」では、市民の意見や市の要請を基に運営委員会が市政に関るテーマを決め、会議室が開催される。そして会議室で一定のまとまりを見せ、その内容が提言するのにふさわしいと運営委員会が判断したとき、提言書が運営委員会によって作成され、市に提出される。その提言書に市が回答する。
 提言書は電子会議室の担当課である市民自治推進課の主催による懇談会において運営委員会から直接手渡される。そこで、提言内容、提言にいたるまでの背景、電子会議室での参加者同士の合意形成の経過や提言含まれなかった少数意見についても説明がなされ、懇談をとおして市長や市の理事者に直接伝えらるようになっている。
 提言内容は、各部の調整課長 と企画課長、財政課長が出席する市民自治推進委員会において各分野にわたって調整される。担当部署で検討された結果を市民自治推進会議で再度調整し、回答書としてまとめ、政策会議で諮ったうえで運営委員会へと手渡す手順とられる。
 1997年に市民電子会議室がスタートしてから、2005年今現在まで、正式な提言とその回答は4回行われている。過去の提言で市政に関するもののうち、約6割が最終的に政策に反映されている。

(『eデモクラシーの挑戦』第3章 岩波書店 参照)

 

■第2説「藤差市民電子会議室」の評価
 
  藤沢市は人口約38万人、面積69.51ku、東京から約50kmに位置し、住宅地に加え工業・商業都市、学園・文化都市などの側面も持つ。また夏には藤沢市外から海水浴などでたくさんの観光客が訪れる。この藤沢市で、上記で紹介した「藤沢市市民電子会議室」が具体的にどのくらい市民に利用されているのか、また「市民参加」・「協働」のための機能を果たしているのか、電子会議室の活用によりコミュニティーが形成できているのかなどを考察していく。

 205年1月1日現在アクセス数は578.735件会議室登録者数2.370人である。

  今現在開催されている「市役所エリア会議室」
      ・くらし、まちづくり会議室    発言数3203 開設日1999年6月〜
     ・引地川ダイオキシン問題   発言数553  開設日2000年3月〜
     ・鵠沼公園を皆で話そう    発言数224  開設日2001年2月〜
     ・第四期運営委員会      発現数688   開設日200410月〜

                          (藤沢市市民電子会議室より)
 

 (1)市民の登録状況、発言状況からの評価 

 まずこの電子会議室の設立背景でもあり、既存の市民参加の問題点でもある「時間的・空間的制約により参加が限定される問題点」を克服しているのだろうか。次の図4・図5を見てもらいたい。

     

       

                    図4 ( 『eデモクラシーへの挑戦』岩波書店 参照)              

     

                       図5 ( 『eデモクラシーへの挑戦』岩波書店 参照)              

 これらのデータで注目してほしいのは20代、30代と若い世代の登録者が多いことである。また、社会人の登録者が多いことである。仕事などで時間に追われ市政へ参加できないと言われている世代の登録者が多いと言うことは、多少なりとも時間的・空間的制約による問題点を克服しているとも考えられる。
(ただこの20、30代の人たちがどのような職についていて、どのような生活を送っているのか、また今までどのような形で市民参加をしてきたのか、もしくはしていないのかが、残念ながら不明・・・) 
 ただ、藤沢市の人口38万からいくと、会議室登録者数2370人は必ずしも多いとは言えない。

 「鵠沼公園を皆で話そう」会議室をみる

 では、2001年2月より開設されている「鵠沼公園を皆で話そう」会議室を具体的に見ていく。
この会議室では鵠沼プールガーデン跡地(今現在は鵠沼海浜公園)をどのうように利用していくかを議論している。藤沢市ホームぺージによれば、この会議室は以下のことを目的とする。

  ・暫定利用については、周辺住民の迷惑にならないよう市民が主体的にウオッチし、意見を書きこめる場をつくる
  ・鵠沼海浜公園のコンセプトについて、市民の意見交換の場をつくり、市民参加型公園づくり、運営に繋がるよう、提案も含め情報発信の場をつくる

 

 この会議室の発言数は今現在で244件である。どのくらいの市民が発言しているのか。どのような議論がなされているのだろうか。
 この会議室での発言者は約35名で1回きりの発言の人から60回以上発言をしている人がいる。会議室の参加者を市民、世話人・進行役・運営委員、行政の3主体に分けると、その発言数の割合はおよそ図6のようになる。


                    図6

 市民の発言にくらべ、進行役・世話人・運営委員会の発言の割合の方が高いところが気になる。市民参加を目的としてつくられた電子会議室だけに不特定市民のさらなる発言が求められる。
 また、 常に発言している人はある程度固定されてしまっている。

 発言内容について見てみよう。(発言の詳細は「藤沢市市民電子会議室」で確認してください)
発言数が多くても、その発言が自己紹介だったり挨拶ばかりだけでは、議論の場として適切な発言があったとはいえない。
 私がみる限り、「鵠沼公園を皆で話そう」会議室では議論にふさわしい発言が展開されている。全発言のうち、質問や提案およびそれに対する意見が6〜7割を占める。情報提供が3〜4割ぐらいで、行政も情報提供している。残りが発言に対するお礼や挨拶である。
 市民同士の議論を目にすることはあるが、市民と行政の議論はあまり目にしない。行政は情報提供するにとどまっていることが多い。

 では、ここでの発言がどのように運営委員会によってまとめられ、提言書として市に提出され、市政へとどう反映したのだろうか。
  残念ながら今現在、このことを示す資料が手に入らないため、分かり次第考察していく。
 ただ既に述べたように、『eデモクラシへーの挑戦』によれば提言のうち6割は最終的には政策に反映されている。よってこの会議室の提言も多少なりとも反映されているのだろう。

 

(3)現状・課題
 「藤沢市市民電子会議室」はシステムとしてはかなりのすぐれものである。既存の市民参加の問題点である「時間的・空間的制約により市民参加の限定」を克服する可能性をもっている。また、市民同士が電子会議室で情報を共有し、色々な意見をもつ人の間で意見を交換し議論をし、そしてそれを基に市民の意見を市政へと反映させていくことは、これからの地域づくりにおいて重要な役目を果たすであろう。「市民参加」、「協働」への可能性が十分ある。
 
 しかし、この「市民電子会議室」に参加している市民は決して多いとはいえない。ある程度固定した少数の市民だけの発言だけではその議論に限界があるだろう。一部の意見だけでは市政へと反映させる説得力がない。さらなる市民参加が必要とされ、それに向けての取り組みを行わなければならない。

 そもそも藤沢市には市政に関心のある市民はどのくらいいるのだろうか。今日の日本において、市政に関心をもち積極的に参加する市民は少ないだろう。大多数の市民は仕事や家庭のことで忙しく、市政には目をむけない。どんなにすぐれた市民参加制度を企ても、市民がまったく市政に関心がなければ市民参加を実現することはできない。
  市政に無関心なサイレントマジョリティーに対して今後どうアプローチしていくかが課題であり、市民の側も積極的に市政へと参加していかなければならない。

第3節 eデモクラシー、討議デモクラシーと「藤沢市市民電子会議室」 

 最近、eデモクラシーという言葉をよく耳にする。
  eデモクラシーとは端的に言えば、ICT(インフォーメーション&コミュニケーション・テクノロージー)=インターネット を使用してデモクラシーを再生・発展さしていくこと。すなわちICTに よって市民の参画を促し、政治や行政の活動の質を高めていくことである。ICTは市民と行政の関係を発展・強化し、新しい民主主義の可能性があるとも言われている 。
 インターネットを利用して市民参加・協働を目指す「藤沢市市民電子会議室」の取り組みも、eデモクラシーということができる。しかし、「藤沢市市民電子会議室」は発展途上であり、eデモクラシーの実現までたどり着いていない。
 『eデモクラシーへの挑戦』によればeデモクラシーの特徴は、直接性、オープン性、参加性、協議性というところである。さらに、その著書によればインターネットの直接性は極限られた範囲でしか妥当性を持たないとする。それよりも、誰もがアクセスできるオープンな場で様々な人と協議をし、情報を様々な人と共有し、自己の意見を形成することに意義があるという。その点では「藤沢市市民電子会議室」は良い機能をはたしていると思う。

 『市民の政治学〜討議デモクラシ〜』(岩波新書)により、日本においても討議デモクラシーが注目されてきている。討議デモクラシーとは、端的に言えば、“様々な意見を持つ市民同士が討議しあい、その討議をへて意見を形成す”そうした討議こそがデモクラシーの安定と発展をもたらし、これからの時代に必要であるとい考えかただ。
 市民同士がインターネットをとおして議論する「藤沢市市民電子会議室」は、上記の討議デモクラシーと共通するところがある。

 

■■

 第4章 埼玉県志木市の取り組み

 現在埼玉県志木市では改革的な取り組みが行われている。従来、行政サービスの受け手であった市民を担い手に転換し、“市民が主体的に地域のことを考え、市民自らが本当に必要な行政サービスを考え、市民自らが選び取る”という取り組みが行われている。それを示す政策が「市民委員会」、「行政パートナー制度」などである。この政策の火付け役となっているのは、「市長はシティーマネージャー」と宣言する志木市市長の穂坂邦夫さんである。
 「市民参加」、「協働」の実現に向けての志木市の取り組みをみていこう。

■第1節 志木市において「市民参加」・「協働」が求められる背景

  そもそも、志木市ではなぜこのような取り組むがさかんに行われているのだろうか。それには以下のような背景がある。

 ・国と地方財政の三位一体の改革による、迫り来る地方財政危機
    →地方交付税交付金の減少と国庫補助金の廃止→地方財政圧迫(図7参照)
 ・少子高齢化社会の到来
    →行政需要の増大と税源の逓減→地方財政圧迫
 ・地方分権化のながれ
    →自分達でできる事はじぶんたちで

 このように志木市を取り巻く厳しい社会状況がある。そこで、市民にできることは市民がやり、また市民と行政が協力することにより、財政支出を減らし、迫りくる財政疲弊をなんとか克服しようと(財政が厳しいときこそ改革のチャンス)動きだした
 ただ、市民参加・協働に積極的に力をいれるようになったのは、 「市長はシティーマネージャー、市民はオーナー」と宣言する穂坂邦夫さんが市長になってからだ。志木市では、市長が積極的に市民参加・協働に向けて取り組むことで、市民参加・協働の基盤を形成している。


                           図7  (志木市地方自立計画参照)

 

第2節  志木市の取り組み
 

 志木市は、埼玉県南西部に位置し、面積9.06km2、人口6万6千人のベットタウンである。市内には緑が残り、川との調和が美しい。それでは志木市の取り組みを順を追って見ていこう。

 2001年10月1日、市政運営基本条例が施行された。この条例により、まちづくりは市民が主体となって市と協働して推進することを基本理念とし、市民によるまちづくり活動、市民との情報供有、市民の市政への参画が規定された。市民参加・協働への理念的基盤が形成された。
 そして、この理念を実証しようと全員公募でのボランティアの「市民委員会」発足した。この市民委員会はこれまでのそれとは異にする。
 委員に選任された252人の市民が、市民と同じ目線で行政を履行する。企画、総務、生活環境、健康福祉、都市整備、教育、病院、水道部、合併、ITの9部を置き、市の組織と同じようにした。第2の市役所といわれる。
主な活動内容は志木市民委員会運営要綱によれば以下のようになる。

 (活動内容)
第2条 市民委員会は、次の事項を行います。
(1) 市政全般にわたる調査、研究及び政策提言、並びに政策提言に関わる財源調整
(2) 市が提案する政策課題に対する調査、研究及び自主性に基づいた提言
(3) 市民及び市、並びに各種機関からの情報収集と意見交換
(4) (仮称)志木市まちづくり条例の検討
(5) その他設置目的を達成するための活動  (志木市民委員会運営要綱より抜粋)


 市民委員会ではその部にある01年度予算927項目を検証し、新規事業などを、市民の目で見直した。同時に行政(市)、議会もも予算を検証した。その結果、12億7000万を削減でき、04年度予算に反映された。今現在も市民委員会は積極的な活動を行っている。

 2003年6月から志木市自立計画を実施した。“市民全体が活力ある、元気でやさしいローコストの志木市の確立”を目指した計画である。そのために、平成14年度〜平成33年度(20年間)の間に市職員数を619人から301人に減らすことを計画した。  そして、市と市民の乖離を縮小する、市民の目線で市政を行う、市の形を変える。この3つをテーマに、市民を「行政パートナー」と位置づけ、市民ができることは市職員に代わって任務する計画をたてた。
 20年間で市の職員の新規採用凍結などで職員数を619人から301人に半減させる。退職職員数の1.5倍は行政パートナーを導入し、市の仕事の85%を523人の行政パートナーが担う。約67億円の経費が削減でき、将来は正規職員30人〜50人と、市民が行政を担い、ローコストの実現を図る。

 
                         図8(志木市地方自立計画概要 参照)

  行政パートナー制度をもっと細かく見てみよう。
  行政パートナー制度とは、現在、市がおこなっている業務を市民やNPOに業務委託し、協働によって まちづくりをしていくものである。登録制で時給700円程度で業務を委託する。個人の登録者の場合は業務ごとに グループをつくってもらう。市民が組織する行政パートナーは市長と対等の立場でパートナーシップ協定 を結び、市政に対する提言権をもつ。 計画の業務対象は市が行う公務のうち、事業的業務と管理的業務としている。 

 今現在行われている業務は7つである。総合案内窓口業務、 郷土資料館管理運営業務、 いろは遊学館受付等業務 秋ケ瀬運動場施設管理運営業務、 宗岡第二公民館運営業務 などがある。どの業務も市民の視点を活かし、うまくやっているらしい。また行政パートナーを評価する機関を設け、さらなる改善を図っている。

 

 志木市でもう一つ気になる案がある(まだ施行されていない)。住民自治基金だ。
簡単に言えば、これは個人市民税の1%相当額を18歳以上の市民がその使途を決めるというものである。この制度の目的は、住民による政策選択、個性豊かなふるさと意識の醸成、新たな財源確保の一助、住民参加による地方自治の実現としている。 “より多くの市民に市政へ参加してもらいたい”そのような意図が見える。
 まだ制度としては施行されていないが、市民参加・協働の可能性が十分考えられる。興味深い政策である。

 

第3節 現状・評価

 志木市の取り組みは斬新で面白い。「市長はマネージャー、市民はオーナー」をはじめ、第2の市役所と言われる「志木市民委員会」、そして「行政パートナー制度」、「住民自治基金」。どれも、市民参加、協働に向けての可能性が十分考えられる政策である。 ただ、政策的には初期段階であるため今後も注意深くこれらの取り組みをを観察していく必要がある。
 将来は市職員30〜50人と行政パートナーで運営していく。果たしてそんなことができるのだろうか。サイレントマジョリティーが大多数を占める日本において、今後志木市がどのように市民にアプローチし、そして市民がどう市政へと参加していくか。興味深いところである。

 

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 第4章 「市民参加」・「協働」を目指して

 「藤沢市市民電子会議室」と「志木市」の取り組みを考察してきた。どちらの政策も、「市民参加」、「協働」の可能性を見ることができる。ただ、まだ初期段階、成長段階であるため、これからの更なる発展が期待される。

 本研究をとおして、“理想の「市民参加」、「協働」とは何か”その答えを導きだそうと試みたが、未だ答えは見つかっていない。というのも「市民参加」、「協働」に模範解答は存在しないからだ。地域によって性格、特色が異なるため一律的な「市民参加」、「協働」の政策では通用しない。これからは、その地域の性格、特色を活かした「市民参加」、「協働」のまちづくりをそこに住む地域市民と行政がともに考えていかなかればならない。

 仕事、家庭などで忙しいため、またその他の理由により、市政、地域社会へと関心をもたない人が多く存在する。しかし、自分達の住む地域は自分達で築いていかなければならない。行政側は市民参加、協働に向けて動き出している。

  市民側も動き出さなければ。

 

 






 

 

                            


参考文献

金子郁容・電子会議室運営委員会『eデモクラシーへの挑戦』岩波書店
山崎正『最新 地方行政入門』日本評論社
澤佳弘 尾崎宣夫 渋川智明『自治体明日への胎動』ぎょうせい
岩崎正洋 NTTデータシステム科学研究所『eデモクラシーと行政・議会・NPO』一藝社
篠原一『市民の政治哲学〜討議デモクラシーとは何か〜』岩波新書
慶応義塾大学SFC研究所 NTTデータシステム研究所『地方自治体における市民と行政のための電子市民参画・協働ガイドライン策定に関する共同研究』  

参考ホームページ


藤沢市ホームページ http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/~denshi/
志木市ホームページ http://www.city.shiki.saitama.jp/
志木市民委員会ホームページ http://www.shiminiinkai.jp/
クローズアップ現代 NHK http://www.nhk.or.jp/gendai/index.html
ザ・【地方自治】Michiaki's page Reports Index  http://www2.odn.ne.jp/mic-yamaguchi/index.html
   →市民参加をめぐって  http://www2.odn.ne.jp/mic-yamaguchi/Kinensi2.html
八戸市ホームページ http://www.city.hachinohe.aomori.jp/machi/machidukuri/index.html