早稲田大学演劇博物館

舞台芸術・芸能関係映像の
デジタル保存・活用に関する
調査研究事業

事業実績

平成26年度(2014年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像資料所蔵状況調査アンケート
 東京圏を中心に約570箇所の劇団・劇場・ホール・文化施設に対し、舞台芸術・芸能関係映像資料の有無、数量、保存媒体、保存状況等についてのアンケート調査を行ない、現状と課題を把握しました。舞台芸術の記録映像の際立った特徴として、VHSを中心にベータ、miniDV、Hi8等、非デジタル・非フィルム媒体によって保存された映像が多数にのぼることが明らかとなりました。

(2) デジタル映像の長期保存と利活用および著作権処理に関する研究会の開催
 次のとおり専門家を招聘し、連続研究会を開催しました。東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員とちぎあきら氏からは、白黒フィルムを長期保存媒体とする先端的な実験について、東京芸術大学・佐藤正人教授と馬場一幸教授からは撮影や長期保存に関する考え方や先端技術について、JVCケンウッド・シニアスペシャリストの石井幹十氏からはVHSの修復とデジタル化・保存の方法の多様性等について、著作権専門弁護士・福井健策氏からは、複数の著作権が含まれる舞台映像の著作権処理の方法や考え方・課題について、NHK放送技術局運行技術部・青木知偉氏からは、NHKアーカイブスにおけるテレビ映像の保存についてそれぞれお話しをいただき、舞台映像のデジタル化をめぐる諸問題について議論を深めました。

(3) 舞台芸術・芸能関係映像の試験的デジタル化
 大阪芸術大学太田米男研究室が所有する初期テレビ映画『ロッパの水戸黄門』(昭和35-36放映)16㎜フィルム、平成12年に主宰の東由多加氏が死去し活動を停止した東京キッドブラザースの舞台映像、平成27年1月に閉館した青山劇場の舞台記録映像など、撮影時期や種類の異なる稀少度の高い映像資料を選択して試験的にデジタル化を行ない、ストレージへの保存を行ないつつ、その活用方法を検討しました。


平成27年度(2015年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像資料所蔵状況調査アンケート
 東京圏を中心とした平成26年度に続き、平成27年度は全国に範囲を広げたアンケート調査を実施しました。

(2) デジタル映像の長期保存と利活用および著作権処理に関する研究会の開催
 平成27年度は研究会「舞台映像の継承のために」、シンポジウム「舞台芸術のアーカイブをめぐって」、成果報告会『夏芝居ホワイト・コメディ』上映会&トークの三つのイベントを公開で行いました。

各イベントの詳細については「研究会・シンポジウム」のページをご覧ください。

(3)舞台芸術・芸能関係映像の試験的デジタル化
 平成27年度は撮影時期や媒体、資料の稀少度や損傷度、権利関係の処理の可能性などを勘案し、「有楽町マリオン寄席」(VHS、45本)、劇団「地点」上演記録映像(miniDV、37本)、『想い出の日本一萬年』等、渡辺美佐子氏寄贈資料(1/2インチオープンリール、19本)の試験的デジタル化を実施しました。資料の一部は演劇博物館で公開しています。


平成28年度(2016年度) 事業実績

(1)「舞台記録映像の保存状況に関するアンケート調査報告書」作成
 舞台記録映像の保存状況の現状を広く共有するため、平成26・27年度に、全国の劇団・劇場などの文化施設を対象に、舞台芸術・芸能関係映像の保存・活用に関するアンケート調査を実施しました。アンケート調査の結果と分析を報告書としてまとめました。
 アンケート結果から明らかになったのは、現在、劇団や劇場などの文化施設が所蔵する舞台芸術・芸能関係映像については十分な整理のなされていないものが多く、VHS やミニDV など古いメディアに記録された映像がデジタル変換されないままに劣化にまかせているなど、長期保存に向けた取り組みも立ち遅れているという現状でした。映像資料のデジタル化が十分に進んでいない原因として、映像資料の整理・活用に割ける人員と予算の不足に加え、映像記録媒体の性質や舞台記録映像の著作権に関する知識が共有されていないことなどが挙げられます。

報告書はこちらで公開しています。

(2)「舞台記録映像保存・活用ハンドブック」作成
 アンケート調査の結果を受け、映像保存媒体の性質や舞台映像の著作権に関する基本的な知識をまとめたハンドブックを作成しました。
 このハンドブックには、映像記録媒体の基本的な性質および保管に際しての注意点、舞台芸術・芸能関係映像の著作権に関する基本的な解説と、著作権の有無を判断するためのフローチャート、そして、舞台芸術・芸能映像が置かれる現状を示すアンケート調査の結果の一部抜粋を収録しました。
(ハンドブック作成にあたり、著作権専門弁護士である福井健策氏に、全面的にご協力いただきました。)

ハンドブックはこちらで公開しています。

(3)劇団・劇場等訪問調査
 平成26・27年度に実施したアンケート調査の結果を踏まえ、平成28年度は映像資料の保存・活用の状況についてより詳細に把握するために、劇団・劇場等の実地に赴いての調査を実施しました。個人蔵の映像資料(VHS)について詳細なリストを作成し、貴重な映像資料の所蔵状況を把握した他、いくつかの劇場等とは映像資料の保存・活用に関する協力の打ち合わせを行いました。

(4)映像資料の試験的デジタル化と公開
 平成28年度は、武原はん氏関連資料(16㎜フィルム、1/2オープンリール)、扇田昭彦氏関連資料(VHS)の試験的デジタル化を行いました。また、劇団「地点」映像資料など、これまでに当事業でデジタル化した映像の一部を演劇博物館で公開しました。


平成29年度(2017年度) 事業実績

(1) 舞台芸術・芸能関係映像の媒体及び長期保存のモデルケース構築のための調査研究
 舞台芸術・芸能関係映像の特性は記録メディアの多様性にある。演劇博物館は戦後を代表する日本舞踊家の武原はん(1903-1998)に関連する映像資料を収蔵しているが、このコレクションにはVHSやベータといった一般的な記録媒体に加えて、16mmフィルム、Uマチック、1/2インチオープンリールなど、現在では通常上映・再生が困難な稀少メディアも多数含まれている。こうした資料を舞台芸術・芸能関係映像資料の一つのモデルケースとして捉え、映像媒体の特性及び適切な保存方法を調査するとともに、文化的価値を明らかにするための内容調査(目録作成、題目及び上演年代の特定)を行った。結果的に、今まで現存が確認されていなかった多数の映像が再発見され、大きな成果となった。今後は、著作権の問題を考慮しながら、上映会等を通じて映像公開の機会を模索したい。

●研究報告冊子「武原はん 映像作品目録」を作成しました。

 今年度(平成29年度)、舞台芸術・芸能関係映像資料の一つのモデルケースとしておこなった、武原はん(1903-1998)映像作品コレクション(16mmフィルム、Uマチック、1/2インチオープンリール、VHS、ベータ)の内容調査(目録作成、題目及び上演年代の特定)の成果を1冊にまとめました。本冊子は、演劇博物館の本館1階 和書閲覧室にて、閲覧可能です。

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武原 はん(1903-1998) プロフィール
昭和期を代表する日本舞踊家。徳島県生まれ。大阪の大和屋芸妓学校で芸者としての教育を受け、踊りの名手として人気を集める。
1930年に美術評論家の青山二郎と結婚するが後に離婚し「なだ万」の若女将を務める。
新橋芸者を経て、戦後に日本舞踊家として独立し、精力的に舞台を務めた。
1952年から毎年開催した「武原はん舞の会」は1994年まで40回続いた。
二世西川鯉三郎や二世藤間勘祖に師事したが、特定の流派には属さず、独自の舞を追求した。伝統的な上方舞の地唄舞などを得意とし、特に代表作である地唄舞『雪』は絶品と称された。一方で、梅津貴昶らによる振付の新作の上演にも熱心であった。
1975年勲四等宝冠章、1988年文化功労者を受賞。
客であった大仏次郎や中原中也らと親交を持ったほか、高浜虚子に俳句を学び、句集も出版した。お座敷芸であった上方舞を舞台芸術に昇華させたその功績は大きく、多くの信奉者を生み、その後の日本舞踊に大きな影響を与えた。

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(2) 稀少映像の試験的デジタル復元(坪内逍遙コレクションを中心とした館蔵資料)
 演劇博物館では、当館の設立者である坪内逍遙(1859-1935)に関する映像を複数所蔵している。とりわけ、16mmネガフィルムの「坪内逍遙博士葬送」(約2分、1935年)は、大学関係者のみならず、当時の文部大臣など各界の著名人も多数参列した極めて文化史的価値の高いものである。しかし、こうした映像は過去にアナログメディアに複製されているだけで、長期保存の観点からは決して適切な状態で保管されているとは言えない。劣化による映像価値の低下を防ぐためにも、本事業において試験的なデジタル復元を行い、フィルムの修復可能性及び長期保存のためのデジタル化の意義を実証的に検証した。