PSRI 早稲田大学パブリックサービス研究所


 



公会計改革推進研究会座長
パブリック・ディスクロージャー表彰審査委員長
東京大学名誉教授
神野 直彦
「パブリックディスクロージャー表彰2017」審査報告

「パブリック・ディスクロージャー表彰2017」の審査委員長として、この表彰制度に参加いただいた北上市、戸田市、習志野市、荒川区、町田市、浜松市、精華町の七つの地方自治体には、ただ有難く伏して御礼を申し上げたい。それとともに縁の下の力持ちとして、この表彰制度の運営を支えて下さった事務局の皆様方のご尽力に深甚なる謝意を表したい。今年度もつつがなく、この表彰制度が運営できたことは、一重に事務局の獅子奮迅の活動の賜物である。
 この表彰制度の審査は厳正かつ公平に実施されている。第一次審査と第二次審査と二段階で実施される審査過程で、審査のご苦労を賜った委員の皆様方には、敬意とともに礼意を捧げたい。
 今年度の審査結果を報告すれば、次のとおりである。
銀賞ともいうべきグッド・パブリック・ディスクロージャー賞はパブリック・レポート部門で精華町に授与する。さらに銅賞ともいうべきグッド・プラクティス賞は、アニュアル・レポート部門で荒川区と浜松市に、マネジメント・レポート部門で町田市に授与する。
 努力賞ともいうべきサーティフィケイト・オブ・グッド・エフォート賞は、アニュアル・レポート部門で北上市に、習志野市にはアニュアル・レポート部門とポピュラー・レポート部門の両部門で、サーティフィケイト・オブ・グッド・プレゼンテーション賞はパブリック・レポート部門で戸田市に、サーティフィケイト・オブ・グッド・メディア賞はポピュラー・レポート部門で町田市に、それぞれ授与することにしたのである。
 今回の「パブリック・ディスクロージャー表彰」の審査過程を振り返ってみると、「常連」、「マンネリ」などという言葉が多く聞かれた。参加していただいた七つの地方自治体は、昨年度も参加していただいており、参加数も参加した地方自治体も、昨年度と同様であったことを考えれば、そうした言葉が多く聞かれたことは、当然だということができるかもしれない。しかも、総務省の統一基準の導入などがあったにもかかわらず、量と質の両面において、この表彰制度は停滞的だという声も聞かれたのである。
 その要因は、地方分権改革が進展しないという環境要因にあるという説明もある。しかし、地方分権改革は理念を構築する段階から、実践しながら改革を進める段階へと進んでいる。つまり、地方分権改革は中央政府による「上からの改革」から、地方自治体の主体性にもとづく「下からの改革」へと移行している。現在では地方分権改革は、地方自治体が制度改革を、主体的に提案する「提案募集方式」が導入され、その実績は質・量ともに着実に拡大しているのである。
 公会計改革も地方分権改革も、実践段階へと入っているにもかかわらず、地方分権改革と比して公会計が停滞的であるとすれば、その要因を真摯に見直しておくことこそ、これからの表彰制度のシナリオを描く導き星となるかもしれない。
 亡くなった私の先輩であるジャーナリストの筑紫哲也は、改革では「それで人間は幸福になるのか」を問え、と常に唱えていた。地方分権改革を実施すれば、地域社会の実情に合致した公共サービスが提供されるようになり、ただちに幸福を実感できる。しかし、公会計改革では公会計改革の実施によって、幸福を実感することは困難である。
 とはいえ、そもそも「パブリック・ディスクロージャー表彰」は、公会計改革によって、人々が幸福を実感できるように意図して設けられているはずである。そうだとすれば、「マンネリ」などと認識される現状を「踊り場」だと考えて、再び「青い鳥」を求めて、階段を登り始める準備に取りかからなければなるまい。そうした決意を込めながら、「パブリック・ディスクロージャー表彰2017」の審査報告としたい。


早稲田大学パブリックサービス研究所所長

早稲田大学商学学術院教授

松本 敏史

 パブリック・ディスクロージャー表彰は、今年で8回目を迎えました。この制度は、地方自治体として財政情報を積極的かつ適切に開示しようと取り組んでいる団体を表彰することにより、財政情報のより優れた開示に対する自治体の意欲を喚起するとともに、これをもって財政情報の開示のあり方の参考モデルを蓄積し、地方自治体における財政情報の開示と活用に役立てることを目的としています。総務省より公表された統一的な基準による地方公会計マニュアル(平成27年1月23日)「財務書類等活用の手引き」や「地方公会計の活用のあり方に関する研究会報告書」(平成28年10月)において事例が紹介されているような公会計の先進自治体が、継続的に参加をされており、徐々にではありますが、その目的も達成されつつあります。今年度は、昨年度と顔ぶれは変わりませんでしたが、7つの地方自治体からご応募をいただき、神野直彦審査委員長及び専門家の皆さまによる厳正な審査が行われました。その結果を、ここにパブリック・ディスクロージャー表彰2017としてお届け申し上げることは、主催者として大きな喜びとするところです。あらためて関係各位のご協力に心から感謝申し上げます。平成29年度は、多くの自治体で統一的な基準による財務書類の作成に取り組まれた結果、財政情報の開示内容も大きく変化することとなりました。今後も、グッドプラクティスの共有による自治体相互のイノベーションの創出という大きな目的に向けて、パブリックサービス研究所は、表彰とそれによる自治体のネットワーク形成の努力を継続してまいります。財政情報の開示と活用に意を用いておられるさらに多くの自治体が、この表彰制度に応募され、ネットワークに参加されることを心より希望します。





アニュアル・レポート部門



「グッド・プラクティス賞」

[東京都荒川区]

平成28年度荒川区の取組と財政状況【荒川区包括年次財務報告書】




【総  評】
 
 東京都方式への移行に伴い、区の政策・施策体系に合致した「都市像」ごとに財務情報の分析を行なうと共に主な取組内容を紹介している。それぞれの都市像実現のための成果指標を設けて目標管理している点をはじめ行財政運営における情報をバランスよく開示・説明している。今後は、ビジュアル・デザイン性を高めると同時に、新基準による情報の蓄積により、利用者の理解可能性を高めることが期待される。


[静岡県浜松市]

平成29年度浜松市の財政のすがた

平成29年度浜松市の資産のすがた

平成29年度IR資料


 





【総  評】
 
 「浜松市の財政のすがた」は、政令指定都市らしい完成度の高い充実した内容となっている。統一的な基準への変更にもかかわらず、これまでの開示水準を維持している点が、大変評価できる。いずれの開示物も「読み手にとっての理解可能性」に配慮された内容となっているが、将来的には、これらの資料を一体化すれば利便性が高まるものと思われる。


応募団体 応募内容
岩手県北上市 平成28年度 北上市の財政状況

Certificate of Good Effort


【総評】各表に対して、会計基準変更に伴う主な変更点を説明している点は評価できる。しかしながら、2期比較において、従来の基準による前年度の情報と新基準による財務書類を比較説明している点は、誤解を招くものと思われる。また、新地方公会計制度による財務書類に特化しており、予算・決算等の従来の開示情報が減っている。従来型の情報の掲載についても一考するするとさらに豊かな報告書になる。
千葉県習志野市 習志野市の財務報告書~平成29年3月発行~ 

Certificate of Good Effort


【総評】随所に基礎的な説明があり、予備知識のない利用者には有益であるが、情報が拡散しており、その意味で、読み手の専門能力が問われる。財務報告による説明責任の履行という観点において掲載内容の見直しを行うとともに早期開示を検討した方が良いと思われる。外部者による経営指標の分析が掲載されているが、市長が責任を持って市民に提供する開示書類とするためには、報告書発行者である習志野市の責任において自らの分析結果も記載することが望まれる。

ポピュラーレポート部門



グッド・パブリック・ディスクロージャー賞

[京都府精華町]


平成29年度まちの羅針盤平成28年度まちの家計簿

 

【総  評】
 

 例年、幅広い財政情報を制約された紙面の中で、コンパクトに取りまとめており、全戸配布を目的とした開示物としては、完成度は高い。限られたページ数にしてこれだけの情報をうまく盛り込めるという見本のような開示物である。



応募団体 応募内容
 東京都町田市

平成28年度(2016年度)

町田市課別・事業別行政評価シートダイジェスト

Certificate of Good Media


【総評】報告書は特定の事業の成果を分かりやすく示している点で評価できる。ダイジェストを目的としているが、市全体の決算情報や財務諸表情報を加えることにより、ポピュラー・リポートとしての機能を果たせるものと思われる。
 埼玉県戸田市  なるほど!わかった!戸田市のおさいふ2017年度

Certificate of Good Presentation


【総評】図表や写真を多く使用し、作成のコンセプトとして市民に対するわかりやすさを重視していることが分かる。手に取って読んでみたいと思わせる体裁となっている。特に、「決算マップ」は、事業の執行状況について地図を使用して表現されており、興味深い取り組みとなっているが、財政情報の開示物としては、情報の充実が望まれる。
千葉県習志野市 わかりやすい習志野市の財務 平成29年度版

Certificate of Good Effort


【総評】「習志野市の財務報告書」の概要版という位置付けで発行し、より住民にとって重要な情報に絞り込んでいる点は評価できるが、市長・市役所の責任においてどのようなことを訴えたいのかがわかりにくい。ポピュラー・リポートとしてみると、予備知識のない市民にとってはわかりやすい記述による説明が足りないように思われる。

マネジメント・レポート部門


「グッド・プラクティス賞」

[東京都町田市]

平成28年度(2016年度)町田市課別・事業別行政評価シート

平成27年度(2015年度)町田市の財務諸表


 

【総  評】
 
 公会計情報を市政運営に生かそうとする姿勢が見られる。また、これだけ詳細な次年度の8月に開示するスピードは高く評価でき、予算編成への活用等マネジメント・レポートとしての機能が期待される。住民の理解可能性を促進するという意味では、補完的に作成された「ダイジェスト」や「見方」は有効である。事業の内容により、様式の統一性に拘らず、作成の負荷にも配慮して、必要な情報を取捨選択し、より有用性の高い情報にすることによりさらに良いものになる。