月例会報告

 このページでは2012年度からのネオ・ロジスティクス共同研究会の月例会報告をいたします。毎月数名の方々から所感を頂きますが、紙面の都合上からこのページにはその中の御一人のレポートを掲載いたします。年度末に作成して、会員の皆様に配布している年次報告書にはすべてのレポートと月例会当日に配布したレジュメの抜粋を掲載する予定です。講演後のロジ討議の報告はこちらのページでご覧ください。2011年度以前の月例会報告についてはこちらのページをご覧ください。

※役職名は講演当時のものです。

 

 

『ロジスティクスの課題』

2016年3月17日最終講義

高橋 輝男(早稲田大学名誉教授)

3月17日に最終の研究会を迎えて、今回は感想というより、私の研究生活の生い立ち、それから大学における研究所活動、そしてこの20年間にわたるネオ・ロジスティクス共同研究会を終えて、その過程を総括しておきたい。

-システム研究との関わり(1)青春を病み、それから大学へ-
高校生活二年目の夏であった。何とも体調がすぐれず、夏休みに入ってからも微熱が続いていた。不動前にあった攻玉社高校では、皆がそろそろ大学受験に関心を持ち、ある者は塾へ通い出した。私もそんな環境の下で、何とか頑張ろうと思うのだが、どうにも力が入らなかった。思いきって東芝系列の診療所を訪れた。木造の隅々まで消毒の臭いがしていた。
看護師も職員も医師も元気そうで、キビキビしていた。それにくらべ、私はか細い身体で廊下をトボトボと歩いていった。
「右の肺尖に浸潤があります」右手のツベルクリン反応の跡が大きく腫れ上っていた。そう宣告を告げられて、私はうろたえたのであろう。診察にあたっていた宮川米次院長はこういった。
「動揺することなし。治療方針は決っている」その言葉に励まされた。人は大事にあたって、どうしようかと迷っている時は、動揺するが、決ってしまえば落ち着くもんだ、とその時の経験から私は教訓を得た。
私は人工気胸ということで、右肺の肋膜に空気を入れて、肺の活動を抑えるという術式を採用することになった。最初は2週に1度くらい空気を補充したが、やがて一月に1度ぐらいになった。これが5年ぐらい続いた。おかげで私の右肺は左にくらべ今でも発達が不全で、少し小さい。
大学は身体のこともあり、公立は難しかろうと、私学の早稲田大学を選んだ。試験はきっと受かると思っていたが、身体検査だけが気になっていた。大隈講堂の片隅でレントゲンをとったが、幸い問題にはならなかった。それでも入学後、しばらくは体育実技を免除してもらった。前はその痩せた体型の故にツルさんと呼ばれていたが、大学に入ってからはすっかり太ってしまい、やがてダイエットをするとは思えない程であった。
大学では理工学部工業経営学科を選んだ。経営を工学の視点から扱うという主張が面白いと思った。合格して最初の父兄会で学科主任の上田輝雄教授が、出席していた父兄の前で、
「皆さんの御子息は天下の秀才ですから」といっていたと父が相好を崩していた。
当時の教科は作業研究やレイアウト、環境工学、それと会計、経営、経済など学内の有力教授が講義していた。しかし、生意気ないい分だが、全体を通すものがどうも不足していたように思われた。私は特に現場を対象とした作業研究やレイアウトに興味を持った。
私自身が後に教員になってから、兼担教員として長く工業経営学科で経営工学概論を担当した。そして、後に工業経営学科は経営工学科と名称を変えた。こうなっては本属の先生がこれを担当すべきだろうと、私はこの科目から身を引いた。各大学とも現在、工業経営科、経営工学科は環境変化の下、名称と共に教科も改善されつつある。
私の授業内容は、経営を工学として扱うという立場で、経営工学を設計の技術とし、これを方法と技法と知識のセットとして体系化しようというものであった。
この考えはその後も変っていない。後に大学院でロジスティクスを対象とするようになっても、この設計の体系はこの当時のままである。勿論技法と知識は分野によって補充された。
例えば、ずっと後に書いた下記の参考文献1)2)でも同じである。
当時は授業を受けると相撲部の隣の教室はバスが通るたびにガタガタと揺れた。
実習も明電会や日産自動車を選んで、金属の切粉の臭いのする環境に馴染んでいった。こんな場が好きだった。
病院には通ってはいたが、大学の卒業が近くなるとすっかり精神的に立ち直っていた。親切にしてくれた看護婦がいた。新潟出身の彼女の献身に強く魅かれた。だが、当時の私には生活力はなく、そのうえ大学院に入って研究を継続しようと決心するに及んで、二人は見つめ合い、互いに新しい道を進むことを言葉もなくうなずいて納得した。そして別れた。
いろいろあって一年留年した後、大学院工学研究科機械工学専攻に入った。名称は新しいが、活動は、従来の研究活動を引き継いでいた。
理工学部では副手を経て、助手に任じられた。副手は臨時雇で教員のキャリアバスには含まれないが、助手はフォーマルな職であった。
1962年、名取順一教授が、
「君、受けるかね」といってくれた。
私は一応
「一日、待って下さい」といってから、有難くお受けした。私の大学の教員として歴史はここから始まった。このとき昔、去っていった新潟の彼女のことをフト思った。

参考資料:1)髙橋輝男,ロジスティクス人材の育成,マテリアルフロー,2014年.9月号,流通研究社,2014年
2)髙橋輝男,ロジスティクス・エンジニアリングとしての教育プログラム,マテリアルフロー,2014.年10月号,流通研究社,2014年

 

『グローバル・ロジスティクスを構築するための諸国障害事項
~中国の輸出入通関体制と国内物流効率化の障害事項 』

2016年2月18日第一講演

 陳 麗梅(株式会社日通総合研究所)

偶然にも朝の日経に“すれ違う米・ASEAN、首脳会議対中国で温度差”とあり、“「共同体」けん引役不在”という記事が続いた。今日のテーマそのもののように思えた。アジアにおいて中国の重要性から、徐々にASEANが重視され、そこに中国、米国の影がちらついているという変化の様子がうかがえる。
陳さんは中国で一時、仕事をした後、日本の大学でロジスティクスを学んで、日通総研に職を得た才媛である。関税についての問題指摘は説得力があった。
物流について高速道路が主に取り上げられていたが、むしろ河川、鉄道との比較の上で、道路の問題を論じた方が実情把握には役に立ったのではないかと思った。特に環境問題については、都市内配送が取り上げられていたが、むしろ、トラックによる長距離輸送に問題があるのではないか。すると、効率や便利さと環境問題との比較という考察も生まれよう。
CCC認証や国家基準規格(GB)と通関時間の関連へと話がはずんだが、一部ではいかにも中国がルールを重視し過ぎて、実を逃しているのではないかという印象である。
人脈を含む人間中心のシステムが中国の現状であるという説明は、確かにかつて発展途上の日本でもあったことだが、やがてシステム化が進み、逆の側面が現れるかもしれない。ルール化されたシステムは公正性をねらっているのであり、必ずそこに負の側面が生まれかねない。暖かい、人情味あるシステムはちょうどやさしいロボット君に求められる特徴と同質である。今日、あらゆる分野でそれが求められている。人間中心からシステム中心への反省である。
加工貿易から一般貿易への変化の過程での複雑さが良く理解できなかったが、おそらくそうした複雑さは変化の過程でも、わかり易くなければならないと思った。
物流標準化の遅れが指摘されていたが、これはわれわれが現在、日本で進めている機器、機材の整合性とまったく同種の問題である。

環境問題と標準化の問題は、今すぐ対応しなければならない、つまり、見送りのきかない、今取り組むべき課題であり、他は時間と共に変化を誘導する課題であると割り切った方がよいのではないか、というのが私の見解である。一度に答を求めるのではなく、何から手をつけるか配慮を要する。

 

『グローバル・ロジスティクスの阻害要件(ASEAN編)』

2016年2月18日第二講演

金沢 匡晃(株式会社日通総合研究所)

共同経済圏の難しさを感じさせた。宗教も国の成り立ちも言語も異なる国土で、メコン河をはさんで進展する国々の共同化について、多くを学んだ。
ASEAN共同体の展開については、一言のキーワードで説明すると、“つながり”をシステム化するといってよいと思う。
進展する各国家の時代を“つなぐ”システムが政治的に為政者の好みで断絶し、整合性を損なうことがあるという。また、国境における各国の輸送のつながりも整合性が必要であることは確かだ。動きを二重にチェックしても、人手がかかってしまう。情報化の進展と共に、長い時間をかけて、このつながりは解消していくだろう。しかし、それを、速度を早めて進める必要がある。時間と空間的なつながりをどう進めるかは物流に限られたことではないが、今日の説明でそれが浮き彫りにされていた。
ODAはハードを充実させるが、ソフトは外国の援助では成長しないということも実感した。
港湾、道路など国家としての開発に一貫性を持たせる必要がある。特に共同体の協調には難しさがあり、そこにはリーダーシップが求められる。新しいリーダーとして中国や米国も関心を寄せるだろう。
数葉の道路や港湾の建設過程のスライドを拝見したが、長期にわたる工事ではその過程での安全性や人や物のスムースな移動を考えておく必要がある。しみじみ思うのだが、今の渋谷駅の混雑状況を体験すると、工事進行中の配慮が無さ過ぎるといつも思う。大きなプロジェクトでは、結果に求めることと、過程に求めることとをあわせて実現しなければならない。ASEAN共同化はまさに巨大プロジェクトである。発展過程も重要だ。

 

『 オムニチャンネンル 』

2016年1月21日第一講演

角井 亮一 (株式会社イー・ロジット代表)

1)様々な売り方、買い方
ロビンソンという百貨店がアメリカにあった。高級な百貨店という評判だった。そんなところがどんな陳列をしているのか、一度是非見たいものだと思っていた。
ロス郊外のロビンソンの配送センターを見学するチャンスがあって、その前に店を訪問しようと出かけていった。店はロスのダウンタウンにあったと記憶している。1980年の頃だった。
シンプルな入口から入って、紳士物売場とエレベータに行先を指示した。しかし止ったフロアは何故か静かな待合室みたいなところだった。変だなと思いながらも、そこで降りてまわりを見回した。間違ったかなとフト不安になった。百貨店の売場というイメージはまったくなかった。
すると、背の高い上品な婦人が奥から出てきた。彼女はにこやかに笑みを浮かべていった。
「Can I help you?」
私は少しうろたえて、やっぱりこれでよかったんだと思いながら、とっさに、
「ネクタイを探しているんですが」
と答えた。あまり高いものをいって取り返しがつかなくなっても困ると思ったからだ。彼女は軽くうなずいて奥に消えた。気がつくと私は場違いなゴムの草履をはいていた。
腕を曲げ、そこに数本のネクタイをかけた先程の婦人が現れた。
「いかがでしょう?」
私は一応眺めてから、
「いいや」
と答えた。盗み見た値段は結構高かったのである。
「そうですか」
彼女は少しもいやな顔をせず、また奥へ消えた。
「まずいことになったな」
私はみじめなゴム草履を見ながら反省した。こういう店は苦手だ。早く決着をつけようと思った私は、次のトリップで最も安価なネクタイを一本選んだ。
「これを下さい」
と頼んだ。気に入ったというより、早くこの場を去りたいという気持ちが強かった。
「お車のナンバーは?」
「いや、今日は散歩の途中で徒歩です。徒歩です」と答えた。
どうもこういうところでは、客は荷物を持たずに店が車まで荷物を運んで届けるらしかった。立派な箱に入った安上がりなネクタイを大事に抱えてエレベータを出た私のわきの下を冷や汗が流れていた。
これは高級な演出をしている店の例だが、売り、買いでは在庫をもって実際の商品と客を対面させて、客に購入の意思決定をさせるというパターンが最も多い。このパターンの一つである店舗には百貨店もあるし、スーパーマーケットもある。コンビニもそうだ。昔ながらのパパママストアもある。
これを移動可能としたのが台車や車の屋台だ。行商人のかごやリヤカーも一種の店舗だ。回転寿司店も陳列の方法はユニークだが、このパターンだろう。このパターンは品揃えをした店舗に客を集めて、ここで客に購入の意思決定をさせる。
もちろん店舗における客との接点が重視される。街中の伝統的な八百屋がいつまでも力をもっているのは、店主が家庭の食生活と深く結びついて、アドバイスができるからだともいわれている。
富山の置薬は別だ。家庭に必要と思われる薬をセットにして、これを各家庭に置いておき、一定期間ごとに巡回してその間、消費した薬の代金を回収する。この時に薬とは別に置いていく紙風船をなつかしむ人は多いだろう。
水、電気やガスも各家庭に配線、配管をして、消費した量だけ代金を回収するというのは富山の薬売りと同じである。現在は単品種だが、これを複数にする技術もやがて登場するだろう(2011年当時)。銀行からの代金引き落とし時に紙風船をくれるようになるかもしれない。
店舗を用いずに、オーダーによって商品を届ける生協方式や御用聞き方式も高齢化時代の密なやさしいサービスとして定着していくだろう。
 
インターネットを使った電子購買が着々と売上げを伸ばしている。本について、アマゾンなど電子書店の売上げが急伸していることに目を向けるべきだろう。若い世代は、もうすっかりこちらにスタンスを置いている。
上に述べたのは2011年の文章だが、明らかにマルチチャネルの登場を意識している1)。
2)流通システムの進展
主な流れをまとめるとこうなる。
60年代    百貨店
80年代    スーパー
2000年代  コンビニ、大手電機専門店
現在       コンビニチェーン、ネット通販、大手アパレル
 

疎開先から私が横浜に帰って最初に手にした出版物は、カラー写真のシアーズローバックの通販用のカタログであった。それは駅に進駐軍が放り出した通販カタログであった。その中には皮のジャンパーが値段と共に示されていた。ため息が出た。輝いていた。
日本でもしばらくは百貨店が日本の当時の贅沢のシンボルであった。時々、父親に連れられて横浜のデパートの地下の食堂で、トマトケチャップの臭いのするオムレツを食べるのが楽しみであった。それが家族の唯一の贅沢であった。百貨店は当時、終戦から脱しようとする日本の平和のシンボルでもあった。
その後、多くの変化の下で流通システムは進化し、今、オムニチャネルシステムが論じられている。私にはそれも感無量であった。
3)オムニチャネルシステムへの期待2)
角井さんによれば、スマートフォンがオムニチャネルを促進したという。オムニは、すべての、あらゆる、を意味する。それは、われわれが複数のチャネルを縦横に使って情報を入手し、購買にいたるシステムである。マルチチャネルをさらに拡大したシステムであり、これらを駆使してわれわれが情報の支援の下に、好みの商品を獲得する。チャネルレス(チャネルにこだわらない)ともいえる。
確かに、これらはこれからの日本の流通の主要な部分を占めるだろう。また、その特徴を生かして、様々な変化に対応していくと思われる。
わが身に照らし合わせれば、高齢者への支援も、想像もつかぬ程キメ細かくなるだろう。しかし、しばらくは一般の人がこれらをうまく駆使できるのか、不安である。
4)注意すること
私の経験では、こうした革新的なシステムは、同時に反機能的影響も大きい。思いがけぬマイナス反応が出てしまうのである。自動倉庫の時も、産業用ロボットやAGVの時もそうだった。十分に時間をずらしたり、技術を人や(消費者)に適応させる配慮が必要である。
しかし、こうした電子購入をコアにした商品やサービスの提供は、急速にわれわれの周辺に登場するであろうことは間違いない。

『 ロジスティクス人材の育成 』

2016年1月21日第二講演

中田 信哉 (神奈川大学名誉教授)

1)物流、物的流通、ロジスティクスの定義
人材の育成を論ずる際には、その対象の定義を明らかにしなければならないことはいうまでもない。物流学会でも、それは何度も話題になったが、結局は各人がそれなりの定義で問題を論じている。
講師の中田さんも、こうした難しさを前提に、高等学校、大学、大学院、企業における物流、あるいはロジスティクス教育の難しさを論じた。
私はいつもいうように作業場、職場、工場など各システムの階層のすべてに、物の流れ(ロジスティクス)は存在するとし、これらは名づければ作業場ロジスティクス、職場ロジスティクス、工場ロジスティクス、サプライチェーン・ロジスティクスなどと示される。しかし、今日、ロジスティクスといった時、それはサプライチェーン・ロジスティクスを指すといってよいのではないか。私は、断らない限り、これをロジスティクスということにしている。
こうしたロジスティクスについて、中田さんは、具体的には経済機能としての物流、マネジメントとしてのロジスティクス、運輸業のサービス・マーケティング、物流現場のオペレーションと整理されていた。
また、その体系はどうなるのか?こうした問いかけに対する答は、どうしても個人的になり、出身の母体の背景もあり、なかなか決定的にならない。私の主張はこうした物的流通、物流、ロジスティクスについて、設計という立場(エンジニアリング)として整理してはどうかと考えている。私の立場はロジスティクスを理解するというより、設計するという立場である。
2)ロジスティクスについて設計という立場での私の主張
(1) まずシステムの設計を理解3)
企業にとって、社会にとって、そして国にとって人こそ財産であるという主張は何人も否定できない。設備より、物よりそして情報よりも人は万能であるし、フレキシブルだ。無限の能力をもっているといってよい。その上、設備や物、情報を越えて人はシステムを設計する能力を持っている。そればかりか人は種を蒔いておくと芽を出し、成長して能力を高めることができる。その意味で環境に適応しつつ成長する人間を重視しなければならない。企業にとって人はまさに財産といってよい。
ここで人材育成についてはロジスティクス分野に絞ろう。
このような重要性にもかかわらず、社会的、また企業内においても、われわれの関与するロジスティクスの地位が低いといわれるのはなぜか腑に落ちない。この分野で仕事をしている人自らが、他にくらべ劣等感を持っていると聞いて驚いたことがある。まず、これを吹っ切ろう。そして着々と実績を上げる以外に道はない。
それにはロジスティクスの経営にたいする貢献を認めさせ、タイミングを失した低調なロジスティクスは経営に致命的な傷を負わせるということを理解させ、泥臭い人手中心でなされている作業があれば、これを積極的に高度化するために、設計、改善する力をもつ人を育てることが必要だと、人々に実感させなければならない。時間はかかるが、これがロジスティクスの地位を高める唯一のキーだ。
先日、ネオ・ロジ共同研究会でパナソニックの増森さんに社内のロジスティクス研修についての講演を聞いた。前半は各部門に蓄積されているロジスティクスの知識を社内で共有化しようという話題で、知識が巧みに整理されていた。それは良くまとめられており、もし文献として刊行されれば早速購入しておきたいと思ったくらいであった。後半の研修テーマは基礎的な、とテーマにはうたっていたが、その内容は私にいわせれば対象とする階層がマネージャークラスで、ロジスティクスシステムの改善、設計に関するものだと理解した。
ところで、話は違うが、研修で人々はしばしば事例に関心を持つ。世の研修会などでもその発表の多くが事例紹介に時間が費やされる。人が興味を示すからといわれれば、それまでである。研修会の場で、よく事例はありませんかと催促されることもある。だが事例は直接的にすぐ自分達の解になりそうだが、それは他の特定の環境の下で導入されたシステムであって、事例を求める人のシステムとは、それを取り巻く環境が違う。それでもなお人々は事例を知りたがる。もちろん、知識としての事例を保存箱に入れておいて、必要な時、取り出せるように整理しておこうと考えているのだろう。しかし、他社のシステム例をいくら沢山蓄積しても、それだけでは自分たちの環境にふさわしいシステムは生まれない。
(2) エンジニアリング人材を育てる
そこで私の意見はこうだ。人材育成に求められているのは、事例よりむしろ(事例はいらないとはいっていない)システムの設計(改善を含む)のためのロジスティクス・エンジニアリングなのである。この教育を通してエンジニアリング人材のレベルを高めようというのである。
エンジニアリングについてA.W.Ratheはこういう。
「…エンジニアリングとはデザインを意味している。エンジニアリングの一切の仕事の目的は青写真を創造することである。それは一種の処方箋のようなものを示すのであって、そのなかに指定されているように実行すれば、期待値通りの結果が見られるはずである」
さらにH.A.サイモンはいう。
「人工物-望ましい性質をもった人工物をいかにつくり、またそれをいかにデザインするかについて教育することは、従来から工学部の任務であった。しかし、(理工の)エンジニアリングだけが決して唯一専門的なデザイナーであるわけではない。現在の状態をより好ましいものにかえる行為の道筋を考案するのは誰でもデザイン活動をしている」
システム設計(デザイン)を論ずる時、われわれが仕事をする時に日々のやっている目的をもった活動の分類を認識しておくとわかり易い。
まず研究とは、疑問からスタートして、成果として原理、一般法則を導く。そのツールは分析だ。
調査は、同じように疑問からスタートするが、実態を知る。ここでも分析が使われる。
設計は、ニーズによって引き金を引かれ、システムの図面をうる。
製作は、図面と材料を入れて、製作、設置を通して、システムをうる。
運用は、要求された活動をシステムを通して行い、要求された製品やサービスを生む。
廃棄では、システムから生み出されて不要になったものをスクラップとして出し、それを無害のものに変換する。勿論システムを廃棄することもある。
設計のために研究・調査がなされ、その結果としてのシステムは製作、運用、廃棄へと受け継がれる。一連のこうした活動を通して、私達は人間に貢献しているのだ。
社会的なシステムを刷新しようという目的のプロジェクトの名称をよく実態調査ということがある。だが、これは主従が違う。実は設計のために実態調査がなされるのである。これは手段で目的ではない。つまり、プロジェクトの名称としてはふさわしくない。だから設計の過程で研究成果を利用したり、必要な調査をすることはよくあるが、刷新化プロジェクトではその実態を明らかにするのが最終的な目的ではなく、システムの図面が得られなければならない。これは設計である。
ロジスティクス人材教育では、設計するという活動を上位に示し、必要な研究成果や事例、実態、動向.法規などを理解することは、従として必要な時に提供される。設計活動の構造とその軸となる方法は参考文献4)に示す。それが設計の基本である。設計は方法の理解から始まる。
(3) 設計活動4)
1)2)を生かした設計技術については、長くなるので文献4)を示すことで省略したい。ここでは必要な情報の知識となっているので、必ずしも体系化は重視されない。

 

『 店舗オペレーションの改善は物流から物流体制と店舗稼働計画の連動 』

2015年12月17日第一講演

野田 勝  (株式会社オギノ)

野田さんは長く小売業の現場で働いてきた。その経験を生かして、今日でも多くの店舗で改善を指導している。その立場でSM業界の動向を鋭く論じ、店舗オペレーションの重要性を述べ、特に一連の発注、物流作業、稼働計画の流れについて現状を紹介され、その課題をどう克復していくかを講じた。物の流れの中心的な対象について、クレートの活用が大いに効果を上げていることは心強かった。
しかし、ネット通販の急成長があり、これに対して伝統的なSMがどう対応していけばよいのかという視点が、これからは必要だと思った。折しも近くの私が愛用していたSM店舗が閉店となり、徐々に閑散としていく雰囲気を実感していた私にとって、伝統的な枠組みを前提としたこうした取組みでは、なかなか生存が難しいのではないかと不安になった。その例のいくつかを私の立場で感想として述べよう。
1)商品化、加工作業を、現状をベースにしてそのままにしておき、それを改善するというやり方でSMの将来の展望が開けるか? もっと根本的な策は?
刺身の切り身を盛りつける作業は、確かに技能を要する作業である。これを陳列するのに多大な時間をかけている。そういわれてみれば、店舗は客に見映えのよい形態を整えるのに腐心しているように思われる。しかし、本当にそれは客にとって価値を高めているのか。
私達は、長い間の経験から好ましい、おいしく見える形を求めているのではないか。これを見直してみよう。
・自動化し易い盛りつけをするとすればどうなるか。余計な飾りつけをしていることはないか。
・廃材の出ない食品ユニット。
・すぐにテーブルに乗せられる生鮮品。
・私達がこれまでの習慣から得ているおいしそうと思われる盛りつけの見直し。
・本当においしいものの追求。
こうした見直しはカテゴリーごとに陳列法を開発する必要がある。
2)客の手元に届いた時、意図した形態がくずれていないか。寿司を購入すると、普通のビニール袋に入れられ、私達が家に帰ると寿司は容器の中でつめ寄せられ、とても美味そうには見えない。ハンドリングを考慮に入れて、陳列ユニットを考える。私達にとって現状は工夫不足である。ビニール袋の再設計は容易なはず。
3)商品が手元に届いて、使われ、消費される状況までを設計しておく。
あるメーカーからカレンダーが届いた。厳重に梱包されており、とても素手では開梱できず、イライラした。これまで私はユニットロードフローについて、ユニットを形成する機材(クレート、パレットなど)を使ってまとめながら、機器で輸送するプロセスをモデル化してきた。最近、このフローを解体しながら、消費者の手元でどのように開梱し、使用できるようにするかも含めるべきだと思うようになった。これをユニットロードの一環として設計すべきだろう。
4)標準化の誘導の仕掛け
SM業界ではクレートの導入が進んでいるようだ。しかし、一方で、従来からある標準を変えるつもりはないというグループがあると聞く。パレットも同じようにして、国として徹底できなかった。先進工業国では、しばしばこのような事態が起る。本来は国で定めるべき規格も導入時の状況で、場が統一できないことがある。そのような時、流れを誘導する策が欲しい。強引にではなく、説得して誘導する方法を見出していく必要がある。これが易しいことだと思わないが、小売業は情報化の波で革新を迫られている。活路は説得的誘導策によって、この場を乗り越えるところにあるのだろう。口先だけと思わないで欲しい。

『 江海聯運と東アジアサプライズチェーンの展望 』

2015年12月17日第二講演

張 静 (浙江海洋大学)

工業化の波が中国全土に広がっている。これは中国における長江を生かした内陸川輸送と東アジア海上輸送の連携によるシステム開発についての発表であった。これからも伸びるであろう中国、日本間のモーダルシフトの展望である。この問題についてシミュレーションを行うためのモデルを提案している。
このモデルについて総犠牲量という表現がよくわからず質問した。
おそらく、各条件に応じたコストのような表現であろうと思われるが、私は今日の環境下の中国で、システムの評価にあたっては、コスト、リードタイムなどとは別に、排出CO2とかPM2.5とか大気汚染のような指標を捉え、新しいシステムの提案がどのように改善可能かを考えてみるとよいのではないかと思う。
中国はかつての先進諸国のやってきた近代化への遠回りした道程を再び体験しない方がよい。教訓を十分に生かしたい。

『 600年企業の秘密  』

2015年11月12日第一講演

村井裕一郎 (株式会社糀屋三左衛門)

室町時代から様々な曲折を経ながら種麹を作り続けるビオック社(現在の社名)の歴史を聞いた。それは同様に麹(みそ、醤油、酒、焼酎、味醂など)を通してひっそりと日本の食文化を支えてきた食品の一部でもあった。あえてビオック社という社名に加え、伝統的な社名も使うことがあるのだろう。ぼんやりとは知っていたものの木灰を使った種麹を製造メーカーに分配し、製品化して多様な食品を人々に供給する。その種麹を営々と品質を改良しながら、作り続けてきたビオック社に敬意を表したい。
麹菌をコアに展開する発酵の奥深さを初めて知って驚いた。特に発酵は人間にとって役立つ変化であり、腐敗は人間にとって害を作るという性質も面白い。もちろん私達が求めるのは発酵の方であり、それを促進しながら腐敗を防ぐという反機能的な発生を抑えるといったシステムは他の分野にも応用可能だろう。  菌はまさに生き物であり、日頃、私達が扱い慣れているモノ作りではないことをいかに生かすかが問題になるだろう。それは日頃、私の主張するサービス・システムの設計問題と共通しているところがある。
ここでサービス・システム設計問題に触れておく。
サービス・システムはサービス業などでいう職業分類とだぶる部分もあるが、区分しておいた方が良いところもある。私の定義ではサービス・システムは人を変換するシステムである。観光も教育も人の移動を助けるのもサービス・システムである。これは変換される人がその過程で考え、発想することを見逃してはならないという性質をもつ。その人が変換後に自分達でシステムを作り出すことも含めて、自律的に成長するシステムといっておこう。それ故、素材から製品への過程を外から完璧に決め込むのではなく、彼等が自分達で考え出していくことをシステムに含めるようにする。ある塾や学校の教育にもそんな特徴を生かしているところがある。
ここで今日の主題の麹菌だ。これが生き物であることに注目すると、やはり上にあげたサービス・システムの特徴を無視してはいけない。生き物として、自分達が成長していくという力を十分に生かす。おそらく、今でも完全な機械化によって工程を管理するだけでなく、菌のいうこと、菌の主張に耳をそばだてているに違いないのだが。近代の工業化を急いで、機械の力で効率化を一目散にねらってはいけないと思った。自律(あえて菌律と言っておこう)性を生かしたシステムとしての成長を期待したい。
この問題はロジ討議まで持ち越したが、もちろん結論は得ていない。
家訓や企業戦略のベースにあるものも、永年継続企業の特徴をそこに十分に秘めているように思う。

 

『急速に変化する酪農世界と流通、海外進出  』

2015年10月15日第一講演

茂木 修一 (株式会社MMJ)

朝、さわやかにガラス瓶の触れ合う音と共に宅配されていた牛乳も、今やすっかりバター、チーズなど多様化して、われわれの生活にしっかり根を下ろしている。その供給がこのところ話題となっていたTPP問題と関連して、にわかに注目を浴びている。こうした背景の下で、伝統的な北連を通すフロー(インサイダー)から脱して、独立した(アウトサイダー)MMJ社 茂木さんの話を聞いた。穏やかであったが、熱が籠っていた。
国からの補助金の枠を脱して、自由市場を求めて形成されてきた乳製品の新しい構造について私達は理解した。これは今の時代、他の分野でも大いに参考になる。
私は特に少年時代、疎開先で搾乳手伝いを体験した。早朝、仄暗いうちから、牛の「乳がたまっているので搾って」という鳴き声で起き、乳房を洗い、乳を搾る。まだ自動搾り機などもなく、すべて手作業だった。この時間、身体はまだ眠っていた。農家では働き手が徴兵されて、疎開児童さえ労働力の一部を担っていたのである。当時のつらい思い出が楽しくもある。
また後に大手乳業メーカーの工場で製品が紛失してしまうという現象が発生し、それを調査するために学生と一緒に仕事をしたことがあった。結局、紛失はカウンターのミスであることが分かって、一件落着したのだが、その時の驚く発見は、一度小売店のケースに納められた牛乳は、天候の影響などで売れ残ると、古い日付となって大量に返品となり、それを廃棄するのが大仕事であったことを記憶している。
私にとって、牛乳は搾乳の作業環境の悪さと、フレキシブルに需要に対応できない供給の仕組みが頭に残っている。(その後、ロングライフミルクが開発された。)
酪農組合は中央集権的な組織をもつ。その組織を維持するために農家から徴収し、加えて国からの補助金を得ている。国からの毎年の酪農補助金は500億円、農家1軒当たり200万円になるという。それでいて農家はなお長時間労働と低所得であると皆、実感している。
このような環境の下で、アウトサイダーは酪農家に新しい販売手段を、そして乳業界には新しい仕入れ先を提供した。その先鋒がMMJ社である。
このことは大きな決断を要したことであろう。その結果、論理的にはフレキシブルな乳業のネットワークが形成された。
このような補助金によって運用され、安定していたかに見える流通構造に手を入れたという決断は大いに評価される。しかし、一方でこうした行動は、多くのエネルギーを休まず注入していかないと息切れしてしまう。そうした仲間づくりは必ずしも一時的な経済性だけで判断できるものではない。むしろ、長期的視点から発展的であり、自立性があり、そしてもちろん経済的でなければならない。そうした理解をする合意した仲間を増やしていくことになろう。それは資源の有効利用につながり、一方で酪農家の搾乳作業、飼育の負担軽減にもなる。
こうして形成されたアウトサイダーグループの活動は、価格、量のフレキシブルな運用を通して「いつでも最適運用」に近づいていく可能性をもっている。
きれいに出来過ぎているので、目をこすりたくなる人もいるだろうが、参加者は全員でこのシステムの未来を信じて、維持する努力が欲しい。
TPPも日本の品質、安定性を生かして、プラスの方向を目指すべきだろう。その焦点はTPPで問題になっているアメリカとニュージーランドとの関係では必ずしも一致しないと思う。難しい交渉である。それにしてもTPP後もバターの値下げは限定的という日経新聞の記事は、その構造について私達を説得できない。

 

『横浜港の今とこれから 』

2015年10月15日第二講演

永田 隆 (藤木グループ)

港の数多かれど、この横浜にまさるあらめや、昔を思えば苫家の煙
横浜市歌の一部である。やはり横浜は昔から港が代表してきた。永田さんの話は溌剌として、横浜市の住民としての私は心が弾んだ。
横浜港がもつ様々な問題を理解することが出来た。一つは制約として受け入れざるを得ない項目があり、一方には改善可能な問題がある。地理的な条件の多くは前者であろう。後者である設計が可能な部分については、この種の問題をビジネス・ロジスティクスとして捉えるのではなく、まさにソーシャル・ロジスティクスの問題として捉えるべきだと思った。それ故、全体計画にあたっては、まず制約条件を確認した上で国の政策立案が必要になる。それに企業が加わる。その関係は整合をもつ必要がある。難しいのは、環境が次々と変化する中で、実際に変化を身近に実感する企業人達と政策立案グループとの連携がうまくいかないと不整合が生じやすいことであろう。
政策企画グループ、企業の意志決定層、物流や人流の扱いのスペシャリストの間の情報を常に計画、指示、実行、モニタリングを通して円滑にしておくことが必要だ。私達はこの種の問題を論ずる時、地理的な条件の見える化には熱心だが、そこで動かされる情報のネットワークについては、つい疎かになる。このレポートもそういう視点で見直してみたい。意志決定機構、運用の情報システムなどである。
これまで港湾労働などの改善に関わったことがあるが、その作業者達の素質に多くの人々が不安を感じていると聞いていた。それをまともに質問してみた。
コンテナー荷役が増えるにしたがって、作業者の気質も変わってきているということであった。私達は沖仲仕時代の港湾労働者達の旧い体質をそのまま知識として聞き取り、伝承していたのかもしれない。明るい未来の港湾作業であって欲しい。

 

『未来への物流トレンドレーダー  』

2015年7月23日第一講演

林 裁國 (大韓商工会議所)

 林(りん)氏は、講演当日朝、韓国から駆けつけてくださった。物流の未来予測が講演のテーマである。人の動きやモノの動きがボーダレス時代となり、クリック一つで欲しいものが手に入る時代になった。こうした時代背景のもとに、ロジスティクスの未来トレンドとしては、オムニチャネルビジネスモデルとCollaborative Crowd Economy、さらに技術の側面では、Big data 分析と電子決済の促進というキーワードを掲げることができる。
時代を先導する企業として、アマゾン、アリババ、グーグルを例示した。アマゾンは、オンラインショッピングの勝ち組である。アリババは売上年商が3兆円、会員数が3億人で、アリババのジャック・マー氏は「ビッグデータ分析により顧客価値を提供すること」が、この企業の特色であるといっている。これらの企業は流通でも、また物流でも強みを発揮している。
そうすると、伝統的な物流企業(DHL、 KNagel、シェンカー、UPS、FeDexなど)はどのような戦略をとっているかといえば、サービスプロバイダーとしてオペレーションの力を蓄え、先導企業との共存共栄をはかっていくことになる。
講演の本題である未来トレンドに関しては、さまざまなキーワードがある。ビジネストレンドとしては、都市物流、スーパーグリッド物流、オムニチャネル物流、クラウド物流、Green/Recycle 物流がある。またテクノロジーの側面からは、ビッグデータ、モノのI to T、ウェアラブル技術、自立(Autonomous)物流、3Dプリンティングなどを、キーワードとして取り上げることができる。
キーワードの中で、オムニチャネルに焦点をあてて、今日、オムニチャネルの到来が来つつあることを指摘した。「いつでも」「どっこでも」「リアル」か「ネット」かの垣根を感じさせずに商品を探し、購入できるサービスである。従来、消費者はチャネルを選択していた(高級品なら銀座の店舗、日用品ならスーパーで商品を探し、そこで購入していた)ものが、チャネルの区分なしに注文でき、好きなチャネルで商品を手にすることが可能になりつつある。オムニチャネルで重要視されているのが「Last One Mile」という概念で、消費者に近い流通の川下の信頼性をいかに保つか、つまり生活者との最終接点をいかにもつかが成功の鍵となる。
講演では、そのほかに丸和運輸機関のネットスーパーへの取り組み、強い物流企業は企業文化と人的資源が優れていることなど、講演者の経験をもとに語られた。

 

『 3PLの展開 』

2015年7月23日第二講演

加藤 進一郎 (一般社団法人日本3PL協会)

加藤氏はネオロジ2度目の登壇である。講演では今日の世界経済を展望し、日本における安倍のミックス政策に触れ、そうした時代背景を認識しつつ、3PLの現状について包括的な講演をいただいた。
世界経済は2014年3.3%の伸びにとどまった。中でも中国経済の衰退(いわゆるバブル状態)とアメリカ経済の一時停滞が目立った。日本の安倍のミックスでは3本の矢(異次元金融緩和、財政政策、成長戦略の3つ)を振り返った。そしてこれからは日本企業においてもアメリカと同様にROEが注目されるであろうことを指摘した。
3PLについては、1パーティ―が荷主、2パーティーが物流業者で、3パーティーは1Pでも2Pでもない、ノンアセットの物流企業である。オイルショックのあと、企業は本業に徹することが求められ、物流を外部に委託する傾向が高まった。物流は専門業者にゆだね、荷主は営業に特化しようというわけだ。
3PLの定義は「物流事業者が荷主ニーズに応える効率的な物流システムを積極的に提案し、輸送のみならず、在庫管理、流通加工など包括的に業務を受け負う高品質のサービス」といわれているが、現実には輸送、在庫などの一部を受け負う業者も3PL企業を言う場合があるという。
物流を取りまく環境の変化が3PLの発展を促したともいえる。顧客ニーズの多様化、複雑化し、またネット社会が進化するにつれ、物流に対する認識も変化してきた。流通加工が一般化し、個々の拠点で処理するより、加工センターで一括処理した方が効率性が高まってきた。さらにはオフバランス化による財務基盤の強化を考えた場合、企業は物流子会社を切り離し、倉庫資産の売却を考えるようになった。スーパーも以前は土地も店も自社保有してきたが、近年は自社物件を極力少なくする方向に動いている。3PLの運用形態でみれば、輸送手段や倉庫などの資産を持たず、知識(ノレッジ)であるノウハウだけを提供し、利用運送業者(フォワーダー)として他の業者を利用するノンアセット型事業者が多くなっている。
旧来型の物流業から、全体最適をねらい企画・立案までをおこなうまで、3PLの進化をいくつかに分類することはできるが、実際に事業の最適化までを受け負う3PL事業者は大手数社に限られているのが日本の現状であるようだ。
3PL事業者に求められている能力として、国交省のデータがしめされたが、一番が在庫昨年、2番が輸送経路の見直し、そのあと物流拠点の見直し、保管の効率化と続いている。
講演では、荷主が3PL企業を選定する際の評価ポイントについて触れている。外注化することに合理的根拠が見いだせることは極めて重要といえる。

 

『「ホルムズ海峡」問題の核心とは何か  』

2015年6月18日第一講演

渋谷 祐(早稲田大学資源戦略研究所)

 ホルムズ海峡をめぐる国の事情が問題を複雑にしている。国家の主権は認めざるを得ないが、関係する各国が自国の石油の供給、消費の安定のために様々な主張をし、行動をする。それはホルムズ海峡が、中東の石油資源の米国、日本への輸出経路の要所にあり、ここが封鎖されることは、米国、日本やその他中東の石油を主要なエネルギー資源として利用する国には大きな影響を与えるからだ。かつてイラクによって敷設された機雷の危機が湾岸戦争へと引き継がれ、さらに石油危機の引き金になった。そのことから米国は能力の高い日本に掃海を求めた。このような歴史的な事実は今日まで尾を引き、日本の国会における安保保障関連法でも集団的自衛権の行使容認とか存立危機事態といった言葉が毎日の新聞紙上を賑わせている。いつも機雷除去は例示されている。
 集団的自衛権について、われわれの専門分野であるロジスティクスに関していえば、武力行使と後方支援を区別して、武力行使とはなれて、安全なところで後方支援を行うということが可能かという議論があるが、これは空間的に難しい。武力行使と後方支援は一体化せざるをえない。ビジネスの世界でも、機能的には独立していてもロジスティクスは使用支援、消費と統合化される。そのような方向へと輸送船の自衛問題でもきっと流れていくと思う。それは日本が戦乱の場で武力行使とはなれて、後方支援を行うということの難しさを示している。
 今回の講演ではホルムズ海峡を封鎖するという過去の歴史から、今日の国会における緊迫した事態をどう考えるべきなのか、その問題を投じたものと思う。
ロジスティクスを後方支援の英語を示す言葉であるとは誰でも知っているが、今これを理解するために、国会の場での議論とダブらせて考えるのも意味がある。
 米国ではシエールオイルの産業化が定着したが、おそらくホルムズ海峡問題は長い時間をかけた技術開発により、やがて地球上のエネルギー問題の流れの変化を生むだろう。さらにロシアや中国が産油国としての力をつけ、また原子力や風力、バイオマス、地熱などのエネルギー資源の活用も進むだろう。現状のエネルギーマップが武力で方向づけされる前に、理性的にエネルギーマップを作り、それを合意のもと実行する必要がある。
 まったく評論家的になってしまうが、日本の周辺でメタルハイドレートの採掘の技術的な可能性を高めることも、日本ではもっと緊迫感をもって進めるべきだろう。
国家という枠組みはまだ長いこと地球上に存在することだろう。その間、国としてエネルギーを自立開発、使用できるよう準備をすべきだろう。そんな覚悟をしみじみと感じさせた研究発表であった。

『大和ハウス工業における物流施設開発およびその展開方針  』

2015年6月18日第二講演

浦川 竜哉(大和ハウス工業株式会社)

 戸建住宅メーカーと思っていた大和ハウスがゼネコン、工務店を越えて、新しいビジネスモデルを展開して成長していることを知って驚いた。
 その一つは資金調達法である。これは最近になって話題となりつつあるリートによる調達である。こうして物流施設を対象に人々から資金を集める。そこに市場が出来、ここで人々が物流施設運用に参画する。私の経験でいえば、リートの名称はわかっても、今日、話のあったような事業の詳細な内容までも目論見書からは読み取れない。個人投資家は目をつぶって薦められるままにエイヤッと特定のリート銘柄を選んでいる。(私の場合がそうだ)
 国も支援するような上昇過程ではこれでもよいが、曲り角に来た時の状況が不安である。
それにしても現在の大和ハウスビジネスモデルが多くのステークホルダーにプラスになっている構造だという理解をした。投資者にとっても施設提供者(大和ハウス)にとっても、また施設の利用者にとってもウィンになる。できれば積極的に利用者のメリットの得られる工夫があると、事業の成長はより期待できるだろう。
 それには施設の運用の過程での提供者の支援である。前に私は適正空間の研究に従事したことがあった。これは正味の空間量にたいして、どれくらいのゆとりが必要かを定めることによって、有効に空間を活用するという技法開発を含む。
 この技法はユニットロードをシームレスにつなぐ際の作業効率と空間効率を指標にして、評価する技法にも通じる。日本のような小さな島国では空間にたいする配慮を重視すべきだろう1)。

『グローバルロジスティクス改革を支援する情報技術』

2015年5月14日第一講演

戒田 元子( 株式会社日立製作所 )

 顧客のグローバル・ロジ化を支援する戒田さんと、そのツールを開発する部署にいる細田さんの組み合わせが良かった。結論からいうと二人の合作としてのテーマはグローバル・ロジ展開の工学的支援、つまりエンジニアリングといってよいだろう。
整理の仕方も整然としていて、多くの参加者の理解を深めたことと思う。特に、最初に改革の手順を挙げている。これは設計法でいうと、方法に属する部分である。続いて方法を支援する知識と技法が展開されていた。
 工学的アプローチと題されたこの中では、私どもにはこれまで理解されていないことも多くあった。原産資格割合といった言葉も出た。システム論で国内のロジスティクスを扱ってきた私には残念ながら無縁の言葉であった。これらは知識としてデータベース化され、更新されていくことが望ましい。できれば国家が総力をあげて取り組む課題かもしれない。人々が国内のロジスティクス設計からグローバルなシステム設計へと飛躍できないのは、この知識の段差が高いからなのではないか。
 各国の法律・規制、通関、インフラ整備状況、人々の宗教・習慣、国民性など、知識の集積はこれだけでは面白くないが、整理していつでも検索できるようにしておく。これは一見、エンジニアリング要素には見えないが、これがなくしてシステムは現実の世界で具体化しない。逆にこの点だけで行われる講演や著作もあるが、これだけではエンジニアリングの体系をなさない。つまり工学的技術(アプローチ)とはいえない。
 ここで挙げられていたシミュレーションや数理的最適化技術は、エンジニアリングを深める研究課題としては最適である。意欲さえあれば有効な技法が数多く開発されよう。伝統的な意志決定法を論理的に支援することが可能になるはずだ。
この技法の開発については細田さんが解説されたが、私が今、関わっているユニットロードフローのモデル化と評価というテーマでも是非力をお借りしたいと思った。

 

『鉄道車両物流の取り組み』

2015年5月14日第二講演

深澤 啓介( 株式会社日立物流 )

 日立製作所のグループ企業として日立物流は様々な分野で製作所の輸送業務を担当している。といっても最近M&Aによって、独立した企業としての生き方を鮮明にした。
鉄道発祥の地であるイギリスに鉄道システムの866両の車両とその保全システムを提供した物語で、いくつかの点で大いに学ぶところがあった。

  1.  社会インフラを提供することをグループの使命とする日立は、このプロジェクトで製品開発と輸送の協調をいかんなく発揮した。かつて花王が製品設計をパレットに合わせて修正したというエピソードを聞いて驚いたが、今回の車両輸送では極めて積極的に、開発と輸送が同時に進むということをやってのけた。

 最近は日産でも容器に合わせて部品設計を変えたという話を聞いた。これらは物流重視の傾向であることは間違いない。物流の地位向上にも関係してくるかもしれない。

  1.  部品をすべて英国から輸入するという方式だと聞いたが、これは英国の産業育成の一環なのであろう。
  2. 保守業務を日本が担当するそうだが、部品産業とは違ってこれは技能が追いつかないということで外注するのだろう。日本産業のこれからの輸出形態として、保守、マネジメントの輸出というパッケージを考えるとよいのかもしれない。そうなれば3PMと名づけられよう。
  3. 製品を日本から英国へ移送する時に、現地人と日本人のチームとしての組み合わせに腐心したようだ。海外作業員を含む現場力の向上をこれからどうまとめるか興味深いテーマだ。

 

『アセアン自動車産業の現状と課題』

2015年4月23日第一講演

小林 英夫 (早稲田大学 名誉教授)

 講師は自動車部品産業が専門である。日本がASEAN経済共同体(ASSEAN Economic Community 通称AECで加盟国はフィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、タイ)へ部品産業を展開するときの課題について講演された。そのときに大切なのはASEANの多様性で、ASEANについての歴史学、文化人類学、人間関係学を熟知することが、自動車部品の開発設計や新商品開発の上で重要になるという。日本が、やれ韓国だ、中国だという以上に、ASEANの東アジアを巻き込んだアセアン市場の発展に大いに注目すべきである。
 自動車産業についていえば、日本が強いのはインドネシア、タイであり、その他のASEAN諸国では圧倒的に中国と韓国が市場の中心になっており、アセアンにおける車市場はモザイク模様になっている。
 1960年からASEANにおける工業化が進展し、国内関税障壁を高く設定しながら工業化をはかった。このころに日本がアセアンへ進出を始めた。1980年以降にグローバル化やBorderless化が叫ばれ、各国の外相(あるいは経済担当相)が中心となって、経済意識が一段と高まった。90年代末以降、BBCスキームは日系自動車メーカーに駐在するアセアンでも、部品集中生産と域内保管を前進させた。またAICO(ASEDAN産業協力)スキームを活用した域内分業を積極的に認可する動きにも拍車がかかった。しかし、大きな経済変化は1997年の通貨危機で、このころからASEANにおける日本の影響は衰退し、中国や韓国の進出が目立つようになった。2015年末までには「ヒト・モノ・カネの動きの自由化」の実現を目指している。
 ASEAN域内で関税がゼロになると、日本はどこに生産拠点をおくのかを考える必要がある。生産拠点を一点にし、そこで生産された部品を各地へ移動することになるから、サービス・リンクコストをいかに低くおさえるかの時代になるともいわれている。
講演ではさらに、ASEANで日系自動車企業が力を入れるCKD(completelyl knock down) 生産に重要性に触れた。そしてASEAN域内における国境保税加工のメリットを強調され、タイとラオスや、タイとカンボジアとの国境付近で、新たに工場を設置する動きがあることを述べられた。
 アセアンの将来性については、(1)タイの役割が大きいこと、(2)東西・南北回廊の完成により経済統合がより一層進展すること、(3)2018年の関税ゼロ化に向けて進んでいくが、EUと異なり、互いに手を取りあえるところだけ手を繋いで行くこと、(4)ASEANがより外に目を向けていくとともに、中国・韓国・日本がそれとどうかかわっていくかがより大きな課題となることなどを指摘した。

 ASEAN域内の人口は6億人を超えており、EUの5億人を上回っている。そしてGDPは日本の約半分ではあるものの、ASEANを一国家としてみたときは、世界第7位の規模に達している。世界経済の中で大きな影響力をもつ経済圏として成長しつつある。

 

『ロジスティクスの基礎』

2015年4月23日第二講演

黒須 誠治(早稲田大学ビジネススクール 教授)

講演のテーマは次の3つに分かれている。
1.ロジスティクスは何をどうすることなのか?
2.ロジスティクス活動に必要な情報について
3.移動に必要な道具の研究・開発のための一つの方法

 最初のテーマは、用語の定義から始まる。物流の定義を始めに行い、ロジスティクスでは「モノ」が対象となる。人、情報、金の移動はロジスティクスではないと言い切っている。さらに分け入ると、「必要なときに、必要なモノを、必要な場所に提供すること」がロジスティクスの使命となる。必要でないときは、モノは在庫という形で滞留することになる。特に、モノの場合は在庫として大きなスペースを占有するので、必要でなければ在庫は少ないほどよい。ロジスティクス作業が必要になるのは、生産者と消費者が距離的、時間的に離れている場合である (懸隔理論)。川上から川下へモノが連続的に流れれば、在庫は削減されるだろう。そこに連鎖、シームレスの概念が生まれてくる。講演ではさらに在庫について深く切り込んでいる。要約すると、ロジスティクスの研究・教育は、モノの移動に関すること、在庫・保管にかかわることの2つになる。
 先に述べた2つのロジスティクス活動にたいして、モノを移動させるための情報とモノを留め置くための情報が必要になる。ロジスティクスの定義からして、何を、どこから、どこに、に関する3つの情報が基本となるが、3つの情報がなくてもロジスティクス活動はできる。自分独りでモノを移動する場合である。引越しとか模様替えがこれに相当する。人間の頭の中にある思いはまだ情報とよばれる段階ではなく、思いを文字にしたり記号で表わしたりすると(つまり形式知化すると)それが情報となる。情報はその意味で、複数の人間がかわるロジスティクス活動において効果を発揮するといえる。情報の共有化の考えがここから生じる。情報は発生し、使用され、最後には消滅するが、最近は消滅されても意外と情報が残ってしまうので、注意が必要になる。顧客リストの流出などの社会問題も生じている。
 3つ目のテーマは、発想法ともいえる。移動のための機器をリストアップしたときに、それぞれの間に何か新しい移動法はないかと自問する。講演者はこれを「穴埋め問題化」とよんでいる。ロジスティクス活動の範囲は広がり、道具の開発にも思わぬ問題が発生している。通販とか共同物流、大学教育とロジスティクスのかかわりを例としてとりあげられた。

 

『ニッカウヰスキーの生産管理について 』

 2015年3月19日第一講演

本田 雅之( アサヒビール㈱ マーケティング本部 ウイスキーアンバサダー )

渋谷の恋文横丁を抜けて行くと、公衆浴場があり、その隣が大衆バーであった。そこで必ずトリスのダブルのストレートをまず飲んだ。空腹の五臓六腑にウヰスキーがしみこんだ。貧乏学生生活の想い出である。ブラックニッカとか、もちろん竹鶴など考えたこともなかった。今日の講演はまずニッカウヰスキーの話であった。創立者の足跡はテレビでも知られているが、そのあくなき情熱がニッカウヰスキーの源になっていることがよく理解できた。
品質を維持するためにブレンダーの役割が大きいことは確かであるが、このような官能検査をシステマティックに運用するには、多くの努力が必要だったに違いない。しかし、一方において、人間の味覚というセンサーのあいまいさをどう扱うかに疑問をもった。空腹は最大の御馳走であるといった先達がいたが、味はそれを食べる環境によって変わってくる。であるとすれば、こうした食品の味つけ、風味をどう環境の下で位置づけるかが考えられなければならないのではないか。製造業者は飲み方、食べ方を提案しなくては、おいしい物を提供することにならない。「モノ」の提供の前に「コト」の提案である。
早慶戦に勝利した夕べのビールの味は抑え難い感動を伴う。この時、ビールの味をどう定義するのか?味を人々に提供する産業の難しさがここにあると思う。
ブレンダーが品質を一定にするために努力していた。しかし、ワインは収穫の年の出来上がりの状況を売り物にしている。ウヰスキーは味つけの重要な要素である樽をもっと強調すべきなのかもしれない。
味に関係して、俗な疑問であるが、世の中には古いウヰスキーを有難がるところがあるが、これは本当なのかを確かめたところ、30年を越えると、もうその古さは意味がないそうだ。家に保存してある古いウヰスキーを早く飲んでしまわなければと思った。
ウヰスキーの価格政策の複雑さを明らかにしたかった。例えば学生時代、ジャックダニエル(バーボン)やシーバスリーガルは驚くほどの値段だったが、今日では国産と変わらなくなってしまった。海外土産に貰う舶来のウヰスキーの有難さはすっかり失せた。こうした価格の変動は関税の影響なのか、企業の政策なのか、調べてみたい。

工場の立地に水が強くきいているかと思っていたが、むしろ樹木が影響しているということだった。新しい発見であった。

『 液体容器マキシコンのビジネス展開 』

  2015年3月19日第二講演

 板橋 正明(住商グローバル・ロジスティクス(株) 社物流機器事業本部 マキシコン事業部)

MAXICONは、液体を保管し、輸送するための物流機材である。パレットと容器を結合するという発想である。そして、これをレンタルというシステムに持ち込んでいる。この上部のボックス部分に内袋を利用してボックスとの直接の接触を避け、内容物の出し入れのために周辺機器を用いているところがみそである。おそらく、クライアントとの共同作業の成果であろう。
保全作業が重視されるが、フォーク作業のミスによるパレット破損などについて、その補修の工夫が要る。
回収作業は、MAXICONの利用が広まれば問題になる。海上のコンテナーの回収について、国が腰を上げたように、パレットの回収をパレットレンタル会社と共同で行うことが考えられる。もっとも、それによって主屋を乗取られないようにしなければならない。
1100サイズに標準化されたパレットを用いているが、これをくずさないように維持した方がよい。市場を拡大するために、つい客のシステムに迎合してはならないと思う。パレットもクレートもそうやって標準機材の混乱を招き、悔いを残した。
特に、Chep社が噛んでいるとすれば、ヨーロッパ標準が当然表に出てくる。海外への進出を考えた時に、解決しなければならない標準化課題だろう。

 

『MTIの物流技術開発の進展  -現場力向上のための物流技術- 』

  2015年2月19日第一講演

  粟本 繁( 株式会社MTI 物流グループ グループ長 )

 顧客の物流現場における物流コスト削減、物流効率改善、物流作業品質向上を目的とする日本郵船グループMonohakobi Technology Instituteでの活動についての説明であった。現場という言葉を使っての講演であったように、グローバルに展開する物の流れのキーとなる作業を的確に捉えていた。
まず、国際物流のサプライチェーン全体図が挙げられ、その活動は船舶技術と物流技術に分けられていた。船舶技術を特に中心に置いていたが、これはMTI社が郵船グループであるとして当然だろうが、もし一般化すれば、鉄道、トラック、航空、それに船が輸送機(手段)として取り上げられ、これら輸送によって結ばれる拠点に生産、流通、消費といった空間があり、この中にMHが存在する。MHには保管、ハンドリング、包装などがある。この全体図では特に船舶を中心に据え、移動活動を支援するために工場や倉庫、ターミナルがあり、移動の主たる活動にトラック、トレーラーなどがあるとしている。
 物流技術の事例として説明されているのは、コンテナへの積付けの工夫、防震パレットや防熱シートの開発、最適バンニングなどが示されていた。また移動支援のツールとしてRFIDが力を発揮していた。加えてGPSを使った広領域のロケーションコントロールがこれからは重要なツールとなるであろう。MTIにとって乗用車の国際物流システムは得意な分野で、これからも改善の焦点となるはずだ。われわれが別に調べ、提案している整合あるチェーン標準でも是非、事例としてこれらMTIケースを取り上げたい。整合ある標準を求める活動は平成24年から経産省で続けられており、容器、パレット、コンテナ、それにこれらを扱うMH機器、輸送機器の関連を包装モジュールからつなげ、荷捌きの効率化とユニットロードの空間効率を上げようとするものである。日本はこの狭い国土でありながら、空間の使い方が雑なところがある。スペースレイティングのような技法をもう一度蘇らせたい。参考資料を文末に挙げる1)。
狭い駐車場でドライバーに運転を任せるのではなく、AGVを使っていたのは面白かった。省スペースのケースだ。
 MTIのような事業がニーズとして求めるこれからの技術開発テーマについて聞きたかった。
物流が社会的にレベルが低いと認識されていることについて、改善の仕事を積極的に行わせることで、モラルが高まるということを強調しておられた。一つの答となろう。

 

『産学連携による「柑橘系」ビジネス展開 』

  2015年2月19日第二講演

  森 茂喜( のうみん株式会社 )/壇 裕也( 松山大学 )

 この頃、農業系の話を聞くことが多い。特に農水省が第六次産業へのてこ入れを表明してから、急速にその気運が高まっている2)。
 ある銀行のロビーで、第六次産業を促進するための融資について広報していることにも出会った。TPPや農協の解体にもからんで、これまでは隠れていたこの分野が急に人々の関心をひくようになったといってよいだろう。しかし、実際の現場での活動は、産学連携のテーマとして、この柑橘系ビジネスは前から着々と進められていたことを知った。
  この産学連携活動はライムやアボカドを使った新製品の開発より、マーケティング活動として、社会的なネットを生かして、調査をし、販促をしてきたことに特徴があった。こうしたマーケティングは私にはまったく新しい世界であった。しばらく現場を離れているうちに、ネット通販は理解できても、そこから次の時代の展開についてはまったく知らなかったというのが、今日の発表を聞いての私の印象であった。
 アボカド石鹸についての鰐梨とか媛肌といったネーミングについても、私の想像を越えていた。壇先生の説明もすじが通っており、圧倒的であった。
 未経験な学生でも、こうしたプロジェクトでは十分に中心的な研究者になりうることを実証していた。
何を作るかについては、森さんの話から伺えたが、われわれが扱ってきた世界が機能的商品についてだったということを反省させられた。黒須教授の発言にもあった感性を扱う世界は、これまでのわれわれの方法では扱えないという意見ももっともだった。しかし、Art and Scienceの世界で、論理的に進められる対象と、感性に訴える対象の両方を扱う領域もあるだろう。ここには明確に壁を作れるものではない。新製品開発法として、両者を考慮する何らかの方法が提案されるだろう。
 かつて私は新事業展開法を論じたことがあったが、これもその中間領域として位置づけられると思う。経営者は教育では作れないという時代から、ビジネススクール教育というものが新たに生まれてきていることを思えば、感性の世界に設計者が挑む意味はありそうだ。

 

『リサイクルビジネスと静脈物流の動向』

  2015年1月15日第一講演

 林  孝男((株)NTTデータ経営研究所)

 静脈物流という言葉はわが国にすっかり定着した。最も狭い範囲の定義では、産業廃棄物の再利用を考えた回収といってよいだろう。かつて、ある住宅製造業の廃棄物回収の拠点を見学したことがあったが、不定形の物がバラバラと入ってくる様を見て、システム化することの難しさを理解したことがあった。それは新屋を建てる時の廃棄材であったが、これが古い家屋の解体、廃棄、回収だったら大変だろうと思った。
 今回の講演では資源循環ネットワークの講師から経験を踏まえて、じっくり話を聞くことができた。講演の内容が整理されていてわかり易かった。
 ちょうど、この日の朝のテレビで一般廃棄物である家庭ゴミの問題が取り上げられていた。それは私の居住する横浜市の家庭ゴミ回収で、分別が正しく行われていないので、市の職員が出されたゴミを開梱して、不正投棄者の氏名を確認するという話であった。私も燃やすゴミに紙屑を丸めて捨てることはよくあることなので、それで袋を開けられるのは決して愉快なことだとは思わなかった。止めて欲しいと咄嗟に思った。この問題について、多くの住民、あるいは識者の声がテレビに登場した。不正投棄について氏名を確認するのは当然だという意見と、そんなことで開けられてはたまらない、プライバシーの侵害だという声もあった。至極当然だと思った。こうした問題は人々の多様な価値観や置かれている状況がもろに表面化する。性質は異なるが、通販の返品問題や原子炉災害の汚染土壌の処理なども同じような性格をもつ。自分や家族の生活領域とそれを含む社会全体の問題によって、その受け止め方が違ってしまう。そうした難しさはさておき、今回の講演では前提が整理されていて、心地よく話を聞くことができた。
 廃棄物の実態区分ごとの取引形態によって、様々なビジネス形態が生まれるということも参考になった。ビジネスの多様な形態がシステムを複雑にしていることも理解することができた。そこに価値が移動するという説明も面白い。
 こうした返品問題は、返品発生の量のどこかに最適発生量があると考えてはいけないように思うが、どうしてもビジネスとして考える人達は最適発送量を考えたくなる。そこが難しいところだ。
昔、ガム工場で仕事をしたことがあったが、そこでは切断工程を経て、ガムを個包装する。切断がうまくいかないと自動包装機がガムを噛んで、機械が停止する。この時にその周辺のガムを不良材料として一掴みし、それを容器に入れて、再び元の流れに戻して混練工程に持ち込み、圧延し、切断するのである。ハッカの成分は少し落ちるが、材料としてはこれで再生できる。この場合は良品のみを100%切断することができれば返品は0になる。そこにガイドとすべき最適値は見えているから、努力の方向は自ずと定まっている。
 しかし、これが返品のフローをサプライチェーンとして捉えると、返品の発生が一部の企業の負担を増やしたり、一部の企業の収益を増やすことになる。ある3PLの仕事に関わった時、返品がなくなると返品作業として整理し、梱包し、発送する仕事が少なくなってしまうのですということがあった。
返品問題の構造、意味の一面を良く理解できた。これからサプライチェーンを論ずる時、環境が変動することを前提に、同時に影響する他の負の流れをも考慮することになろう。
 返品問題をさらに拡大して負の機能により発生する物や状態を処理することについては、ロジ討議のところでも述べる。

『国産の完熟大粒イチゴを世界へ』

  2015年1月15日第二講演

 柏嵜  勝(宇都宮大学 農学部付属農場)

 われわれの日常のフィールドとは異なったイチゴの品種改良の話を面白く伺った。卵も60gから70gまでを大というのだろうか。大は少し高いが、それ程の値はついていない。それにしても、この大きなイチゴをキズをつけず、流通過程へ供給する技術は難しいと思う。いつも人が付き添っているわけにいかないから、機械的に処理することになるからだ。そのためにイチゴをぶらさげる容器の開発やピッキングのロボットの開発は開発課題としては非常に面白いと思う。
しかし、これはこれまでわれわれがサプライチェーンや製造で扱ってきた物のユニットとは物性が異なる。イチゴはそのままでは普通に定義されるユニットロードではない。研究課題としては非常に興味あるが、ビジネスに持ち込もうと考えた時ハタとその難しさに戸惑ってしまう。しかも学校という場の制約もあろう。
やはりベンチャービジネスとして立ち上げ、ファンドの支援を得ることによって、資金を獲得するようなことになるのではないか。そうなれば社会のこの事業にたいする評価が見えるようになる。文部省や他の補助金では、なかなか消費者の好みに誘導された絶品のイチゴを供給するシステムにまで成長させることが難しいように思う。

『これからの時代の新法則 ロジスティクス「3.0」 ~「顧客志向」はもう古い!~』

  2014年11月20日第一講演

 原田 啓二(先端ロジスティクス研究所 所長)

 講演者原田氏は東工大を卒業したあと、NEC、 NEC ロジに勤められ、現在はご自身の先端ロジスティクス研究所を立ち上げておられる。今回の講演は、此の先、ロジスティクスがどう変貌するかを展望する。結論を先に述べると、社会的価値を全面に打ち出すロジスティクス活動になるというのが、原田氏の考えだ。
 ロジスティクスは流通革命とともに進歩している。流通がロジを引っ張っているのか、ロジが流通を引っ張っているかは定かでない。例えば、e‐コマース市場を見てみると、2013年が15.9兆円であるのに対して2015年には20.1兆円と他の業界に比べても圧倒している。スーパー市場が12.7兆円、百貨店市場は6.2兆円である。原田氏は実店舗販売に対して、e -コマースは購入した商品の運搬が消費者にとって不要であることを強調された。またセブンイレブンでは、共同配送センターを設けていて、ここでの運用はサプライヤーの自主配送になっている(つまり、セブン―イレブン・ジャパンの直営ではない)。コンビニの発展は購買における顧客接点を進化させている。始めは個々の顧客と店舗の一対一の対応で、これをシングルチャンネルとよぶ。それがマルチチャネルとなり、店舗販売と同時にインターネットや宅配となる。でもマルチチャネルは、顧客管理をチャネルごとに行っている。それがクロスチャネルになると、異なったチャネルで受けた注文を、別のチャネルで受け取ることができる。さらにはオムニチャネルになると、どのチャネルにアクセスしても同一商品は同一価格というところにまで発展する。現実はクロスチャネルの一部は実現されているかもしれないが、究極的にはオムニチャネルを目指すことになる。そのためには情報の一元化、価格の統一、物流の統合など構築しなければならない。
 ロジスティクスは社会構造の変化とともに進化することが、2つ目の着眼点である。日本の人口は減少を始め、高齢化社会になることは目に見えている。経済のゼロ成長と平均消費性向が不変であることを仮定すると、国民の消費支出合計はこの先マイナスに転じるようだ。高齢者の買い物の割合が相対的に多くなる。人口減少・高齢化社会のラストワンマイル(商品が最終消費者へ届けられる直前)に焦点があてざるを得ない。原田氏は、その点の解消法として通常の宅配、近隣のコンビニからの宅配、移動販売車、「買い物難民」用の宅配網の充実などを挙げている。
 講演の結論は、従来は良い物作って売るという商品サービスの形態が、現在は顧客満足が活動の狙いになっている。将来は活動の社会的価値 (Social Vallue) を共有するようになるだろうという。社会と言っても幅広いが、地域社会はもとより、国家社会、グローバル社会へと広がっていく。ハイブリッドカー、燃料電池車、冷蔵庫、電球型蛍光ランプに、社会的価値の創出の動きが見える。(藤田 精一)

『DHLサプライチェーンのご紹介』

  2014年11月20日第二講演

  岡戸 隆昌(DHLサプライチェーン(株) ビジネスデベロップメント シニアディレクター)

 岡戸氏はDHL(3人の創設者の頭文字のようだ)サプライチェーンの概要、特徴、そして重要アジェンダについて語られた。DHLはドイツポストというドイツの郵便事業の傘下に入り、DHLはエクセルという物流会社従えて(実際はドイツポストがエクセルの全株式を取得した)いる。2013年に、売上550億ユーロ(約6兆円)、従業員48万人(うち20万人はドイツポスト)である。郵便事業のほかに国際航空、海上輸送、国内輸送(3PL)をおこなっている。コントラクトロジスティクス(3PL)では世界最大の企業と言ってもいい。日本にはDHLサプライチェーン(株)、DHLグローバルフォワーディングジャパン(株)、ディー・エイチ・エル・ジャパンン(株)の3つの法人がある。おそらく今日の講演はDHLサプライチェーンの活動であると考えていいだろう。DHLはグローバルの経験を活かして、治験薬物流、梱包サービス、保守部品サービス(富士通などテクノロジーメーカーへのサービス) を行っている。
   DHLサプライチェーンの特色を岡戸氏の講演をもとにまとめると以下の4点になる。まずサービスロジスティクスと称し、荷主の貨物の保管・配送だけでなく、商品をカスタマイズして出荷したり、補修部品物流、スマホの修理など、物流関連サービスまで、業務の範囲を広げている。2点目は継続的改善とそのコンサルティング、3点目はLLP(Lead Logistic Provider)、そして4点目がワンストップオペレーションである。パーツをそろえたり、修理を担当したり、デモ機器の保管・貸出・回収などワンストップサービスを提供している。
 DHLの治験薬ビジネスは定評がある。温度管理のために自家用発電機までそなえているという。DHLが継続的改善プログラムを特色としてあげている点には驚いた。KPIの管理を行っている。またビデオ画像も拝見し、Visuality(目で見る管理)も紹介いただいた。Botom-upの改善、それから6シグマをアレンジした手法を使っている。LLPに関しては、企業の物流を丸ごと請け負う形を包括的に管理している。サプライヤーから工場までの物流を中心に様々な合理化プログラムを推進している。
 最後に、岡戸氏はDHLのミッションとして、業界・社会の重要なアジェンダに取り組んでいることを示された。企業としては顧客企業と一体となって、LLPとして変革を支援していくこと(組織構築支援とよんでいる)、業界としては、業界の横断的なプラットフォームの構築(例えば、サプライヤーも巻き込んで調達物流を合理化したり、ワンストップオペレーションを実施する)する。そして対社会については、洪水、テロ、国の腐敗に対して対策がとれるようにすること(DHLではResilienceという)に注力している。(藤田 精一)

『ミヤンマー物流事情』

  2014年10月16日第一講演

 田中康典 (鴻池運輸(株) 国際貨物部 担当課長)

 ビルマの竪琴という映画を大昔、見たことがあった。第二次大戦で散った仲間を供養するために、現地に留まることを決心して僧となった元兵士が、仲間の呼び戻す声を背に、密林の中に去って行く姿が印象的であった。それがミャンマーだった。今、ミャンマーはその密林を脱して工業化への道を急いでいる。そこで献身的に物流の仕事に従事してきた田中さんの講演は生々しく、臨場感に溢れていた。
先日、ボリビヤからの国費留学生に会った。彼も日本の品質管理を学んで、国の工業化の基盤を作ろうとしていた。発展途上国はすべて工業化を指向し、近代社会へという道を辿る。日本もそうだった。中国、韓国もそうだ。しかし、全地球的にそれでいいのか?フト疑問がよぎる。しかし、それを否定する論理は私にはない。やはり工業化へと邁進することになるのだろうか。
それにしてもミャンマーは一途に前進というわけにはいかぬようだ。ロヒンギャ族など多種民族の存在、軍政権の下での政治の混乱。仏教徒とイスラム教徒との対立。ミャンマーはまだこうした混乱からは脱しきれていない*ように思う。でも工業化は疑われることなく進んでいく。
話を聞いて、ミャンマーにおける物流が、いろいろ問題を含みながら動いていることがわかった。輸送リードタイム、輸送ルートや特に現在、物流の中心となっている道路事情など.について理解を深めることができた。また進行中の工業団地についても状況がわかった。
今回は研究会を通して、ミャンマーについての物流知識を得たが、これからのわが国のグローバルな産業展開のためには、国や研究機関によるさらに整理された各国の情報を整理する必要があろう。グローバル・ロジスティクスの体系化は、こうした地味な、動きの激しい情報を常に集め、更新していく努力が必要なのだとつくづく思った。

参考;日経朝刊、2014年10月18日、9面

『最新ファッションブランドマネージメントと流通政策』

  2014年10月16日第二講演

  鳥羽 秀子(トバコンサルティングネットワーク代表)

 安部首相のお声がかりというわけでもないが、最近、女性のビジネスエリートの講演を聞くチャンスが増えた。昨日(15日)は鉄道の売店のパート従業員から契約社員、それから正社員へ、そして所長へと昇進していった三浦由紀江さん(女性)のサービス・システムにおけるホスピタリティの話を聞いたばかりであった。女性の独特の感性の新鮮さ、そして大胆さがそこにあった。強調していたのは自律した、考える、楽しさを表に出して仕事する店員の育成であった。サービス・システムではシステムを運用する作業者、店員(キャタリスト)の自律を重視すべきだという事例には納得できた。
今日の講師である鳥羽さんはブランドを生かしたビジネスの現場で仕事を改善しながら、ブランドビジネスを情熱をもって実践してきた。しかも一流のブランドでマネジメントを体験してきたところが素晴らしい。私自身、ブランドをマーケティングにどう生かすかということをあらためて理解することができた。
質疑のセッションで、タカラトミーのスタッフが、バービー人形やその他玩具の売り方についてアドバイスを求めた。彼女はもちろんそれについて的確に対応していたのだが、それについて私の見解を述べておく。それは最近の傾向として、人々の関心が製品であるモノからコトへと成長しているということである。バービー人形は単なるモノであるが、それを使う遊び方の提案がコトである。それはこの人形を使って、どんな遊びが楽しいかというアイディアの提供である。それを通してモノへの関心はさらに高まるのだと思う。
テニスのラケットは単なるモノだが、これを使ってなされるトーナメントや交友を深めるクラブライフはラケットを含むコトになるだろう。ヨットはモノからこれにのって波をきって進むクルージングライフを提案してコトを示す。ユニクロのポロシャツはモノだが、これを着てテニスする錦織の姿は健康の象徴であり、着換えする彼の筋肉は生きることの象徴である。ブランドはモノからコトへの成長を見せているのだと思う。
ところで最近、顧客自身が設計に参画するというケースを目にする。私はサービス・システムを、インプットである人を変換するシステムと定義している。テニスをしようとしている人が楽しくテニスをするという機能を通して、楽しくテニスをする人に変換される。このシステムに提供されるテニスラケットは単なる道具である。このシステムにとってテニスをする人はインプットであり、アウトプットである。この人はこのシステムにとって顧客としての位置づけである。この顧客が、設計に参画するということをサービス・システムの自律成長といっておく。
テニスを楽しむことから、さらにクラブライフをどう生み出していくかということを人自身が作り出して、システムを成長させる。前に挙げたバービー人形も、それをどう使うかと成長させるのは顧客それ自身ということだ。
ブランド品は、それをどう使うかとコトへと結びつけるのは顧客であるといってその自律性に任せてはどうか。サービス・システムは、このように顧客を通して成長していく*。
早稲田大学のブランドを成長させるのは、学校当局ではなく、学生、卒業生自らだという主張もこれで受け入れてもらえるだろう。

*参考:髙橋輝男,サービス・システム設計試論,経営システム,Vol.24,№4,日本経営工学,2015

             髙橋輝男,システムの眼  第81回,マテリアルフロー,流通研究社,2014

 

『英国のロジスティクス教育と物流コンサルティングの現状』

  2014年9月20日第一講演

 江口 公望 ((有)国際流通研究所所長)

 クリストファーが教鞭をとっていた英国クランフィールド大学への留学経験のある江口さんに、その一年間の修士課程中での様々な体験をレクチャーしていただいた。かつてウィリアムス氏がクランフィールドのMH研究所の所長であった頃、私もマテハンの国際セミナーに出席したことがあり、このキャンパスに滞在したことがあった。そして、その閑静なキャンパスを思い出した。航空学科が有名であり、近くに空港も整備されていた。そのような思い出を引き出してくれるキャンパスライフの話はなつかしかった。
 ロジスティクスコースの必修科目は16で、加えて海外研修旅行や論文検討を含めて教育および論文作成にはいろいろ工夫がこらされていた。実業界の著名な卒業生の活動に支えられて、優秀な学生を集めており、コース(修士課程)では彼等の互いの啓発をはかっているようであった。
質問者の話で気になったことがあった。それは日本で物流の社会的地位が低いという言葉についての疑問であった。前にも似たような議論がなされたことがあり、その時はウヤムヤに終っていたので、私としては是非その正体をはっきりさせたいと思っていた。確かに物流現場で働いている作業者を目撃すると、それが決して専門家として際立った仕事であるとは思えない。それはなぜなのか?
物流には、ロジスティクスを拡大すると戦略策定やマネジメントの部分には経営層の課題が多くある。しかし、それは一般の人には見えない。また物流機器の面でも、高度な自動化技術を含んでいる。だが人々の目に触れる物流の仕事というのはオペレーションで、しゃがんで荷を扱う姿であり、ユニットを人手で解体する作業だ。またトラックを運転するドライバーの仕事だ。こうした姿に接して、最近のキレイ好きな若者が地位が低いと誤解するのではないか。また仕事への入り易さも地位の低いという誤解を呼ぶのではないか。人手不足になれば物流は素人の家庭婦人さえ募集する。昨日までの主婦が即戦力としてすぐパートとして物流の作業に入ることができる。まさか原子炉の操作はすぐというわけにいかない。エンジニアリングの仕事だって、すぐというのは難しい。広く物流の仕事の一部が誰にでもすぐ交代可能という特性が蔑視を生むのではないか。人目に触れる広い仕事の中に力仕事、素人にも代替可能な仕事がたくさんあるということに、物流の地位が低いと評価される理由の一つがある。
ある人は物流から優秀な経営者が生まれていないからという人もいる。ある人は会社内において他に比較して賃金が安い仕事をまかされているという人もいる。私が物流の地位を高める活動を助けることができるとすれば、エンジニアリングの仕事を黙々とこなし、地味な仕事で会社、社会に貢献するということ以外にないと思う。宣伝して人々を納得させるということではないと思うが。しかしこうした低いといわれる地位に甘んずる分野に物流を育ててきたことは、私達のようなシニアにも大きな責任があると深く反省する。  

『米国で学び日本で展開するRightChain ロジスティクス専門研修の取り組み』

  2014年9月20日第二講演

  松川 公司(三菱化学エンジニアリング(株)/生産・ロジスティクス次長)

 何度か外で松川さんの話を聞いたことがある。フレーゼル博士から直伝の彼は、その体系をすっかりモノにしている。中野さんと一緒になれば鬼に金棒だ。しかもそれがコンサルティングを通して磨きがかけられているところが強い自信になっている。
Right Chainという理論で武装し、体系化しているところは、説得力がある。
しかし、私も長い時間をかけてロジスティクスの教育については体系を準備してきたつもりだ。最近それについては文章で発表するようにしている。もう少し時間をかけて、実証しておけばよかったと悔いがある。
 江口さんの発表でも、松川さんの発表でもケースを積極的に使用しているという言葉があった。しかし、両者ともケースメソッドの限界はよく理解しておられた。私の経験にしても、様々な状況の理解を他の人の力を借りて熟成することはできても、ケースメソッドは設計活動に直接結びつけることができないと思う。いつもそう思ってきた。そこを私のいうエンジニアリングでは補っているはずだ。
なお、ケースメソッドは教育システムのツールとして問題を多角的にとらえるというチャンスを提供してくれるという点で貴重であり、これからの可能性も大きい。
話は変わるが、経営工学会誌にサービス・システムの解説を投稿した。私はサービス・システムを、機能を満たすために、人をインプットとして入力し、変換された人をアウトプットするシステムと定義した。これによって、サービス産業とか、第三次産業といってきた煩わしい表現を避けたいと思ったからである。教育は典型的なサービス・システムであり、ロジスティクスを学ぼうとする人をインプットとしてケース資料を配り、人への理解を深める。その際、サービス・システムでは変換される人が自律的に自ら変換手順を作っていくということを考えると、これはケースメソッドの教育手順を参加者が自ら延長して、例えばエンジニアリング分野まで取り込んでいくことができるのではないかと考えた。
最近、カラオケでも、テーマパークでも、与えられた場だけで人が行動するのではなく、人が変換されながら、新しい展開を設計し、それをこなして成長させていくということがあるようだ。これが人を変換するサービス・システムの特徴だ。
ケースメソッドも、そのような使い方ができるのではないかと思った。これからの私の課題でもある。

『大塚倉庫の営業戦略』

  2014年7月24日第一講演

  浜長 一彦(大塚倉庫株式会社)

 講演に先立って、講演者がつい最近、上梓された本に目を通した。「やめることを決める」宝島社、2014、である。この本の内容は今日の講演のベースになっている。各章ともなかなか示唆に富んでいる。しかも平易で、普通のサラリーマンとしての経験を通して筆者が事業を改革していく努力の過程が述べられている。結果として彼は社長になったというストーリーも劇的だ。
 P.82に彼がゴールドラットのザ・ゴールに出会った時の様子が書かれている。そうだ。そういえば浜長さんの新刊の調子はザ・ゴールの文体と似ている、と思った。ザ・ゴールでは、私という筆者とマネージャーであるビル、それに先生であるジョナとの交流を通して工場を改革していく。ちょうど浜長さんが私で、それにビルと先生が社長という役どころか。社長と会話を交わしながら、会社の改革を進めていくというのが、「やめることを決める」というこの本だ。ただ会話は簡略化されているので、ザ・ゴールよりもっとすっきりとしていて読み易い。内容は宗家からの新社長を迎えて、ホールディングの一員となった大塚倉庫の営業がボトルネックだと暗示され、その改革に取り組んだ歴史である。もちろんまだその最中で、改革は進行中だ。
 この改革の中で、気がついた点をいくつか挙げておこう。これは他の企業にも大いに参考になる。
1)社長は、あるべきシステム像をはっきり(あるいは漠然)と持っていて、それを営業部長(今日の講演者)に指示し、暗示してその成果を見ながら、あるべきシステムに確信を持ち、ステップバイステップでさらに次のステップに入っていったのではないか。
 「3年間、社長のいうことにはブレがなかったんですよ」という浜長さんの発言がそれを裏づけていた。
2)“やめることを決める”という戦略
 私たちのシステム設計では、なすべきことを最少限の制約として決める。これは変えてはいけないところだ。逆に、大塚ではやめることを決めるというところから入っているというところがユニークである。
前出のザ・ゴールにもFocus : Not to do という言葉がある。これはボトルネック以外のことには手をつけず、ボトルネックの能力をあげることに焦点を絞るという意味だ。大塚の場合、少し意味は違うが、システム設計をスタートするに際してやめることを決めるといった。これらは強いメッセージである。
 大塚では、伝統的な顧客を徹底的に見直すということから、営業システムを改革したが、外販をこれまでの延長線上に継続するという態度をやめる、ということを決めたのである。
 無差別に広く100円玉を拾うな、という言葉もその表れだ。
3)顧客と共同で仕事をつくる。決してお願い営業はやらないということも、営業活動にとっては大きな変化だ。
 スライドでJILSの受賞を祝う顧客の声があったが、いずれもパートナーとして大塚を見ているという態度であった。
4)情報化拠点(ID倉庫)の展開を次の課題として取り上げているが、倉庫内活動の情報サポートだけでなく、倉庫と輸送との関わりをつなげ、さらにそれらをもっと荷主の活動をサポートする計画へとつなげることが必要だろう。

『ANA Cargoの事業戦略 ~沖縄貨物ハブ概要と活用について~ 』

   2014年7月24日第二講演

  堤 哲寿(株式会社 ANA Cargo)

 物の移動がグローバルに展開して、その輸送手段としての航空機の重要性はさらに高まった。この講演では、沖縄をハブ空港として位置づけたANAの戦略について話があった。深い知識と洞察力に富んだ話で、興味深かった。
 1)戦略としてのネットワークが主に説明されたが、そのための情報システムが機材の有効活用には必要だろう。特に異常が発生した時のスケジュールの再生では、それが重視される。
 2)ハンドリングにおける機内のスペースの有効活用とハンドリングにおける作業効果率との関係は研究課題として面白い。航空機の貨物スペース(空間効率)とそれを埋めるためのハンドリング作業の効率をどう両立させるかという問題は今、パレットを中心に整合を進めようとしている地上での改善活動と共通しているところがある。
コンテナー、パレットなどの標準とその整合に問題はないのか、検討が必要だと思った。
 3)荷主の立場で考えれば、状況に応じて航空、鉄道、道路をいかに使い分けるかという選択肢からその手段を選ぶことになる。そのような状況の下で、いかにAir Cargoが物の動きの将来に力を発揮するのかが問われている。

『築地市場の今と近未来 築地から豊洲に移転することとは・・・』

  2014年6月19日第一講演

  中 幸雄( テクノラボ合同会社 )

 講演者の中さんはこれまで築地で仕事をしておられただけに、細かいところまで築地市場の歴史から移転問題の課題について十分に解説していただいた。そこには大きな革新のチャンスもあると思われた。
 昭和10年2月に設立されたという築地市場は、たまたま私と同じ生まれだ。それからほぼ80年の長きにわたり、都民の食の供給を助けてきた市場である。今、移転という再整備計画を有効に生かしたいものである。
 まず市場の基本的な機能についての見直しが必要ではないか、という問いかけである。昔、ソ連のゴルバチョフ夫人のライサさんが都の官僚達と共に築地市場を訪れたことがあった。その理由は社会主義経済から自由主義経済へと移ろうという参考にしようと築地を訪問したのだという裏話を聞いた。築地の例のマグロのセリを見た人は誰でもその活力に驚かされるが、これは需要と供給の波によって価格が決まってくるという典型的な自由主義経済の場であると彼等は考えたそうである。それにしても質問の中に「あの価格は誰が決めるのか?」という発言があって、皆を驚かせたという。さすが計画経済の国の官僚だ。誰かが(国が)価格を決めると思っていたらしい。こうして需給を取引の価格で調整するという役割を築地のあのセリが持っているのだ。市場は本来そうした活動の場であった。しかし最近、「あいたい」の増加でセリの割合が極端に減少しているそうだが、ある意味でそれは市場の価格形成機能を弱体化させていることになる。価格は野放しにしても不安定だが、市場の当初の役割をここにどう残すかも考えなければならないだろう。
 大田市場(東京の青果を扱う市場)を訪問したことがあった。ちょうど人参が豊作過ぎて、産地では廃棄処分して価格の維持を図った時であった。市場には保管機能がないから、廃棄ではなく、前後のどこかでこれを保管することができれば、廃棄するという社会的な無駄は避けられる。価格維持のために廃棄すると助成金が出ると聞いたが、これをやめれば安易な廃棄は無くなるかもしれない。
青果、生鮮食品を安定してムダなく産地から消費者につなげる仕組みの中核に市場があると考えれば、なお見直すべきところがあるように思う。衛星として存在する近郊の市場との協調もその一つだ。
移転をチャンスに、仲卸、卸の土地の役割などについて、大胆な将来へ向けての策が望まれる。この辺は、相撲界における年寄株と似ているなと思ったのは間違いだろうか。この問題は相撲の世界では最近スッキリと改善されたようだ。
 築地での扱い量が減少しつつあるという資料が提供されていた。これにたいする対応も必要ではないか。市場をパスして流れる青果、生鮮が増えているとすれば、築地市場の立場では扱いの物量をどう増やすかを考えることになるが、消費者目線から見れば、小規模で消費者の生活に密着した地方市場を積極的に増やすことを誘導するという案もある。
 トラック輸送について考えると、外部とのつながりにおいて船や鉄道の活用をもう一度見直してみることも必要かもしれない。モーダルシフトである。
マテハンでは、場内台車の電動化を積極的に進める必要がある。新市場が公害源になってはならない。
 発砲スチロール容器の回収、再生問題もかくれた問題として新しいシステムで解消しなければならない。
 ハンドリングする対象物で10㎏ぐらいのユニットがあるが、軽量化、簡易機械化を図ることが必要ではないか。
 築地市場の改革はこれからの日本の流通の大きな改革につながる問題である。

『大成建設のロジスティクス戦略について』

   2014年6月19日第二講演

  倉林 宏行( 大成建設株式会社 )

 倉林さんはネオ・ロジ共同研究会に初めから在籍していたが、その結果を見事に自社の活動に反映しているのを確認して、私達の活動が着実に生かされていると思い、元気づけられた。築地市場と同様、私も間もなく80才になろうとしているが、ここでもう一度、ロジスティクス問題に関わっていきたいものだと心から思う程、刺激的であった。
 1970年以降、伝統的なプラント分野をエンジニアリングのコアにしながらも、機械的な工場、それから物流システムへとエンジニアリングの対象が拡大した。特に立体自動倉庫はこの分野に大きな刺激を与えた。私は1971年に倉庫の自動化設計という本を書いたが、それはその時代のエンジニアリング関係の人々の関心を誘った。私のエンジニアリングに関する活動はこれを起点にした。大成建設のエンジニアリングは少し先行していたが、ゼネコン各社もこの当時にスタートしたように思う。それは日本の高度成長と歩を合わせていた。エン  ジニアリングは装置から工場、施設へとその領域を広げた。
大成はかつて有利子負債を抱えて、苦境にあったが、それを挺に、エンジニアリングをゼネコンの重要な部分に据えた。その努力が今日の講演によく表れていた。
ゼネコンといえば、generalという言葉で示されるように、何でも自社の活動分野に取り込んできた。大成のエンジニアリング活動はこれを選択と集中として8分野に絞り込んだ。これが成功を導く第一ステップになったのではないか。工場では、医薬、食品、電子デバイス、そして医療研究所、集客施設、インフラ関連、エネルギー関連、それにロジスティクスの分野に絞り込んだのである。これらはもちろん、将来の成長分野である。ロジスティクスではロジスティクス・エクセレント・カンパニーを目指すという戦略をとった。
 この分野をどう定めるかももちろん大切だが、各分野でこれを支援して、どのような準備をするかがより重要だ。ロジスティクスについてそれを見れば、ノウハウや知識、経験、興味の蓄積されている部分を整理し、また新しく準備する部分をより充実させることが必要だろう。水族館ビジネスを集客施設として “もの”にする過程は非常に興味があった。
 社内におけるエンジニアリング教育をどう編成するかは、このようなビジネス戦略を実現する上でキーとなるだろう。

『日本と海外の大学におけるロジスティクス教育の現状』

  2014年5月22日第一講演

  伊藤 秀和( 関西学院大学商学部教授 )

 伊藤氏は40歳、関西学院大学の教授である。学位(博士)は筑波大学社会工学で取得され、卒業後は関学でマーケティング論を担当された。現在は「ロジスティクス概論」も担当講義科目としておもちだ。数年前、コーネル大学へサバティカルでおい出になり、そこではロジスティクス科目にも触れられたようだ。
 ロジスティクスの最近の潮流は、個々の輸送技術よりはオペレーション人材に関心が集まっている。分野横断的(横串をさせる)人材の登用が必要になってきた。国内大学のロジスティクス教育も、ロジスティクスのみで学部が構成されている大学はない。ロジの一部(交通論とか都市計画論、国際貿易論など)に焦点をあてる科目は商学部に設置されているが、ロジスティクスを体系的に論じる学問は少ない(ほとんどない)。横断的人材教育をするだけの教育準備は、まだなされていないというのが現状である。
 ロジスティクスという用語は、1960年ころまでは米国では輸送の技術とか物的流通とよばれ、1970年代に調達物流を含めてサプライチェーンとよばれるようになった。その後、販売物流も含めて、ひろくサプライチェーンロジスティクスと言われてきた。おそらく将来は、S&OP (Sales and Operations Planning) とかSCMオペレーションとよばれるようになるだろう。S&OPの概念はまだ普及していない。これまでのモノの流れからお金の流れに関心が移っていく。店頭での販売価格・在庫状況・競合製品の状況を把握し、顧客反応を考慮した利益最大化をはかろうとするものだ。日本では若干の時間的ズレがあって、マーケティング論の中で流通がテーマとして取り上げられたのがはじめだ。「マーケティング」という用語もかなり新しい概念で、それ以前は「配給論(分配配給の略)」といわれた。ロジスティクスとよばれるようになったのは1970年代で、バブル崩壊を期にSCMの概念が導入された。
講演の中では、米国MITや英国クラウンフィールド大学大学院のロジスティクス科目構成が示された。日本では同様の科目を有する物流学部はない。日本では、物流の概念は中学や高校の教科の中で触れられることもない。学習指導要領にも物流は「産業を支える機能の一部」という程度の紹介はあるが、ロジスティクスという用語は存在しない。今日、日本の大学での物流・ロジスティクス教育は交通分野の教員が担当し、科目は流通やマーケティングの周辺科目として扱われている。ただ、大学設置基準大綱化(1991年)によって、物流科目の設置は可能である。
 伊藤氏は、そのあと関西学院大学におけるロジスティクス関連科目の位置づけ、「ロジスティクス概論」の講義目的・内容、教科書、他大学のロジスティクス科目の紹介など幅広くカバーしてくださった。総じて(早稲田でもそうだが)、日本のビジネススクールではほとんどが単一科目としてロジスティクス科目がある程度だ。欧米専門職課程(大学院)では、ロジスティクスやSCMに特化した大学があり、それを他大学との差別化要因としている。日本における今後の流れは、大いなる関心が寄せられ、いかに学部横断・分野横断的なプログラムを構成するか、何らかの工夫が必要になる。
 早稲田で物流を担当してきた自分も改めて、日本における物流教育の脆弱さを認識した次第だ。

『パナソニック社内でロジスティクスはどう生かされているか』

   2014年5月22日第二講演

  増森 毅( パナソニック関西渉外室部長・元グローバルロジスティクス本部参事 )

 増森(ますもり)氏は、現在、パナソニックの渉外部長である。いまの仕事はロジスティクスと直接は関係しない。しかし、増森氏の経歴のなかでは、パナソニックへ来られる前はNECで流通システム事業部に携わったこともあり、ロジには詳しい。パナソニックは、1990年頃には「パナショップの物流」を扱う松下物流があった。そのあと松下ロジスティクスへと名称が変更となり、現在は日通パナソニックロジスティクスになっている。パナソニックにおいて物流の社内意識が変わったのは、2007年、松下本社に調達グローバルロジスティクス本部が設立されてからである。生産物流、販売物流、調達物流が個々に独立していたものが一つにまとまった。WMSでもそれまで9つも別々のシステムがあったものが1つに統一されたという。今日の講演は、ロジスティクス本部で行われた(あるいは今も行われている)ロジスティクス研修の内容を紹介いただいた。
 パナソニックロジ本部の目指すところは、正確に、安く、速く、CSRの充足を基本とし、販売計画をベースにしたISP(インターネットプロバイダー)にリンクした物流だ。今日の製品の販売はグロバーバルだし、生産も先端的製品を除いてはほとんど海外生産だ。それだけに、個々の事業部は専門的なことをよく知っているが、その知識を共有化することにはむずかしさがあった。そのときから、みんなに知ってもらう研修が始まったのだ。増森氏は、事例としてその共有すべき知識の一部を紹介くださった。海上輸送の知識(船の種類、コンテナの種類、海上輸送形態)、航空輸送、倉庫業務(倉庫の種類、荷姿、バーコードの種類など)、出荷形態、輸出通関、三国間取引の基本パターン、物流のリスク(ストライキ、盗難、冬季波浪、夏季台風、霧、ダメージなど)。当時は、個々のロジスティクスのスキル強化だけでは補えない課題が目立つようになって、ロジ本部が設置された経緯もある。これまでの個別最適を改め、製販直結型のロジスティクスへと改革しようというわけだ。きわめて難しい課題だった。調達には調達のKPI (効率と品質、LTの短縮、コスト削減など)がある、同様に生産にはそのKPI、販売にはそのKPIがある。事業部間のコンフリクトをいかにすり合わせて解決するかが問題だった。たとえば、生産は販売の変更要求が多すぎるとクレームする。変更の頻度が多くなるのはあきらかに生産にとっては不都合なのだ。業績指標が事業部間で食い違いが大きすぎたという。
こうした問題を解決するのは極めて難しい。誰が指揮するのか。トップマネジメントと現場への権限移譲の問題、前にも述べた事業部間のコンフリクト課題の解決、さらには企業連携を図る構成企業間の壁もある。昔は製造が中心であったのが、今は販売が中心であるから、それにもとづいた判断も必要になる。
 質疑応答でも関心のある内容があった。質問者は「企業の中で、本当にロジを理解しているトップは10%程度と思えるがどうか」と問いかけがあった。「その程度かもしれない」という返答だった。「このような研修をどの程度の頻度で行うのか」という質問があった。回答としては適宜ということだが、「個人が昇格したとき、異動のとき、営業がPSI (Production, sales, inventory) 責任者になるとき、担当者が海外から一時帰国したとき」など個人の研修のタイミングをみはからっている。特に海外の一時帰国者には、担当の国へ戻ったときに、現地の人たちに研修の知識を広めて欲しいと願っているそうだ

『災害時のロジスティクス~円滑な救援物質物流システムの構築に向けて~』

  2014年3月20日第一講演

  山田 健(株式会社日通総合研究所)

 日通は横浜市や東京都とさまざまな課題について考え、また様々な災害対策案を提案してこられたあと、東日本大震災が発生した。新潟中越大地震でも日通新潟支店が巻き込まれた経験もあった。講師の山田氏も1986~91年に仙台の多賀城市の仙台支店に勤務されたこともあるそうだ。そうした経験や体験をもとに、東日本大震災で実際に起きた問題点、支援物資の配送を含めて支援の内容をどうすべきか、救援物資等物流の教訓について講演された。
 結論としては、救援に際しては、ハードとしての物流センター、ソフトとして在庫管理(需給のマッチンング)、それと全体の指示系統の整備が必要であるとされた。それらを充足するには地方自治体と物流事業者との連携が不可欠で、行政と現場を結びつけるコーディネータの介在が何としても重要な要因になる。
 新潟中越地震での教訓として、救援物資は避難所にあるが、現地の人々に届いていないとう問題があった。備蓄物資や救援物資は大量にあるものの、どこに何があるのか分からず、見えない在庫として存在していた。保管に関するトラブルとしては公共施設のスペック(おもに床荷重)不足、需給のミスマッチ(不必要なもので保管場所が埋まってしまう)、また全国から寄せられる救援物資で自治体の負担が増し、余剰物資の処理コストが大きく発生する現象があった。特に、生もの、調理が必要なもの(カボチャとかジャガイモ)、意外なものとしてぺットボトル(水)やトイレットペーパーも不用品となってしまうケースがあったという。対応策としては、民間倉庫などを活用し、救援物資を上流で受け止めて、必要な量を現場へ持ち運ぶことだ。さりとて、御用聞き配送もまた問題で、むしろ毎日決まった時間に決まったパターンの配送を行う「定時・定型型」の配送がよいということだ。
 山田氏は最後に、東北大震災の1年前に横浜市と日通との間での議論(支援の取り組みの検討)を紹介され、受け入れ支援のために横浜近郊の4か所の日通倉庫を指定したことを話された。4拠点と避難所への距離バランス、さらには拠点間の補完機能を考慮に入れて配送拠点場所を決定したという。
 震災時の救援物流のあり方をこれほどまで詳細にお話しいただけたのは、とても貴重な情報であった。そこには想像以上の混乱があり、とても災害当事者だけでは処理しきれない課題が生じ、その意味では当事者以外のコーティネーターの必要性を強く感じた。緊急時に「常識を働かせて考えろ」と言うのは、当時者には無理な相談であり、それだからこそ特別な要員による適切なコントロールが必要だと痛感した。海外で災害が起きたとき、国際医師団が各国から派遣されるが、あれと似たような救援システムが役立つのだろうというのが、感想である。

『3PL企業によるドラッグストアのサプライチェーンにおける返品業務効率』    

  2014年3月20日第二講演

  新沼 実(株式会社丸和運輸機関)

 2013年ロジスティクス大賞・物流革新賞を受賞した「返品業務の効率化」をテーマに、丸和運輸機関の新沼実氏、松岡氏、森谷氏が共同で発表くださった。丸和運輸機関がドラッグストアA社の3PL事業の販売物流を担当しているときに、A社が返品活動に手を焼いている姿を見て、返品業務をも引き受けることになったという。これによって、小売店舗から卸あるいはメーカーへの返品物流の担当が始まったわけだ。A社約1300店舗を対象に4年間で返品物流を扱う業務も大いに改革されて、今回の大賞に結びついた。
 実際、この仕事が3PL業務としてA社、卸業、メーカーに評価されている点が大きなポイントである。小売店舗においては店舗の返品作業の工数削減、卸売業には営業スタッフの販売専念のよる売上向上、メーカーには(直接取引の場合)、返品量がまとまるため、受入れ作業や仕分作業が大きく軽減された。何にもまして効果があったのが、小売も卸(あるいはメーカー)も、返品作業を3PLに託すことによって、数値データへの信頼性が高まったということだ。第三者のデータをともに信じることができるようになったという。現在では小売店舗から3PLの返品センターへは総量返品の形をとっている。以前は、細かく店舗で仕分けして、そのあとで卸やメーカーへ返品していたものが、いまは返品をまとめて3PL返品センターへ返し、3PL会社である丸和運輸機関が仕分けや荷揃えなど一切の業務を引受けている。
 はじめから今の姿であったわけではない。返品センター(返品処理機能だけのセンターもあるし、物流センターの一部を返品センターにしている所もある)を開設したのが2009年である。始めは返品対象品を小売店舗で収集しスキャンし、卸別に仕分けしたものが、2010年頃から小売店舗が返品の品物をすべて返品センターへ運んで一括処理するようになった。現場作業のビデオも紹介いただいた。
 現場力を高めるために、一般社員、中堅社員、管理者、経営幹部と層別に教育研修をおこなっている。丸和ロジスティクス大学という企業内大学も1997年に開校した。すでに354人の卒業生がいるという。さらには丸和ビジネススクールなる研修体制もある。丸和運輸機関の3PL業務は、長期パートナーとして、企業と一体となって現場の運営管理をしていく。そのときの原則は、ノンオペレーション(無作業)、ノンアセット、ノンインベストメント、ノンインベントリー、ノンクレームだそうだ。返品物流という静脈物流を扱った事例だけに興味があった。もちろん、A社に対しては販売物流がメイン業務ゆえ、返品の扱いは限られた数量になる。論理的には、返品が生じないような販売物流の提案を試みる必要があるが、トータルにみれば顧客の作業負担軽減という立場から、返品物流の3PLを始められた。物流の専門家は一度は聞いてみたい講演だと感じた。

 

『タカラトミーグループのロジスティクス事情』

  2014年2月20日第一講演

  村上 義己(株式会社タカラトミーマーケティング)

 村上氏は1985年玩具問屋に就職し、その後現在のタカラトミーへ転職されたそうだ。現在はタカラトミー・マーケティングという販売会社で、ロジスティクスを担当しておられる。年商400億円強の売上がある。我々にはプラレールという鉄道玩具や姉妹品の自動車玩具トミカが馴染み深い。玩具の新製品は毎月70SKUほどあるそうだが、翌年の同じ時期に製品として売れ続けているのは、そのうちの1アイテム程度に過ぎないという。販売の場所は玩具店、eコマース、DMS(ジェネラルマーチャンダイズストア)はもちろんであるが、家電量販店にもかなりの量がおかれ、彼らのポイントセールでのポイント引き換えの対象製品になっている。
 タカラトミーの製品は99%が海外で生産され、日本への入荷物量は40ftコンテナで、4月から12月までで2500本を上回る量になる。全世界の玩具市場規模は7兆円で、日本における出荷金額が7000億円少し、全体の10%を占める。グローバルには北米が強い。タカラトミーの一部の製品は海外市場にも提供されている。ポケモン、ベビー用品などに高い需要がある。
 配送拠点は東日本に3拠点、西日本に1拠点、ほかに協力会社が数拠点ある。ネオロジでは以前に市川ロジスティクスセンターを訪問視察させていただいたが、そのときはカートンやピース単位での出荷現場を見せていただいた。ピック、仕分け、梱包といった一連の工程があるが、倉庫での課題はボトルネックの存在にある。つまり、ある工程に多くの人を投入すると、そこでの課題は解決するのだが、別の工程がボトルネックとなってしまう。玩具の年間をとおしての需要変動が大きく、ピーク時には外部倉庫を調達しなければならない。したがって、需要変動に合わせた人のやりくりと、工程バランスが大きな課題となっている。そこでの対策としては、工程の見える化をはかり、リーダーが現場リアルタイム情報にもとずいて作業者の移動を指示している。
 村上氏は、梱包資材の工夫、WMSによる在庫管理の様子など、現場写真を提示しながら説明された。さらには最適在庫管理を目指すための課題を示された。まだメーカー主導で、現状では生産したものは倉庫が全量を受け入れる体制なので、倉庫管理がきわめて難しい。これからの課題はやはり全体最適の実現にあり、需要変動に対する倉庫と生産の連動体制が求められる。
 そうした大きな流れの改善とは別に、家電量販店への共同配送、倉庫の容量を考えた納品方法の工夫などもされている。村上氏は、彼自信が行ってきたコスト削減の努力、ピックアップ能力の改善についても触れた。玩具の売れ行きは4月、夏休み前、そして年末に向けて出荷量が多くなる傾向があり、ピーク時の対応をさらに改善していけば、コスト削減効果が大きいように感じた。

『最新ロジスティクス事情』

  2014年2月20日第二講演

  大里 修司(株式会社日産自動車)

 日産自動車のグローバル販売台数は2013年度(予想)で530万台になる。ただ、1990年には日本での生産比率は当時70%あったものが、2012年には20%になっている。今現在は日本での販売台数はほぼ100万台で、この水準を今後も維持していく。。日産パワー88の旗印のもと、2016年までにグローバルシェア8%、営業利益率8%を達成する計画である(本年度は予定通り進行している)。そのために6つの柱となる取組があって、その一つに年間5%のトータルコストの削減を、特に部品に関してはそれ以上のコスト削減をめざしているという。
 物流はタカラの山であるというトップの意識のもと、タカラを掘り当てるプロセスと組織、そのためにSCM本部の役割の大切さを示された。日産の物流の中で大きなのが完成車物流と、もう一つは生産部品物流である。物流の技術として大里氏はOR(Operations Research) の活用について語られた。インドの国内輸送に関して輸送距離の最小化、ディーラー間のトラックの最適組合せなどを検討し、10数%のコスト削減を実現したそうだ。完成車の物流は車の最大容積で、輸送費の大半が決まってくる。ドアミラーのように内側へ納めるか、牽引フックの位置、アンテナの位置なども海上輸送を考える上で無視できない要因となる。海上輸送とは別にトレーラーや鉄道(専用貨車)による陸上輸送もある。部品物流については、IPC(輸出入物流センター)とよばれる配送センターを世界に11拠点もち、完成車とは別のルートで世界へ輸送している。部品というのはさまざまな形態をとっている。完成車をユニット単位に分解して輸出し現地で組み立てたり、あるいは現地ではコストのかかりすぎるペイントまでの作業を国内でやって部品単位で輸出したり、ノックダウンとよばれる車両ロット単位ですべての部品を輸出したりしている。部品の形状を見直し、運びやすいように部品を設計することまで追求している。当然そこには一つのKPIが必要で、TDC(Total Distributed Cost)を最小にすることで、物流と設計が連携を深めるわけだ。
 物流を考えるにあたって、90年代はどうやって運ぶか(つまり運ぶための物流)であったが、2000年以降は運ばない物流を考えるようになった。それが物流技術の役目でもあった。日産は本牧にGPDC (包装設計学校:Global Packaging Design Center)とよばれる技術研修センターを創設して、世界の人材育成をはかり、Logistics EngineersやPackaging Engineersを育ててきた。運ばない物流を世界のレベルで考えようというわけだ。荷物をいかにまとめるか、荷降ろしの条件、ORによる輸送ルートの最適化などを教え込んできた。さらには部品に対する要求品質、部品形状設計変更なども積極的に展開してきたという。 
 Nissan Wayと言うのは、内部の力の結束からなる。The focus is the customer, the driving force is value creation, and the measurement of success is profit (狙いは顧客、その牽引力が価値の創造であり、最終成果は利益で計測する)。ネオロジではこれまで日産の何人かの方々に講演をいただいてきたが、大里氏の今回の話は、日産の物流活動に長年かかわってこられたご自身の経験にもとずいたもので、物流技術の詳細を紹介いただき大変興味深かった。

 

『グローバルロジスティクスの推進』

  2014年1月16日第一講演

  岩間 正春(株式会社オフィスイワマ)

 岩間氏は早稲田大学卒業後,住友商事に入社し、以降ドイツやインドネシアに駐在した経験がおもちである。講演ではアジアにおけるロジスティクスの現状と課題、それが将来どう変わっていくかについて語られた。彼の住友商事時代の体験談として、1980年に勃発したイラン・イラク戦争のさなかに、イランへ鉄鋼49万トンを輸送した話、それにもとずいてFOB契約がどのような役割を果たしたかのか(FOB契約にもとづく鋼材の船積み時における事故責任分担について)、新生ロシアでのロシア再建プロジェクト(1991年、電話交換機をロシアに設置した話)、スハルト政権崩壊(1997年)時、日本からインドネシアでフェデックスを利用して27時間で貨物を届ける話など興味深かった。
 近年、日本企業は中国からアセアン、特にタイ、インドネシア、マレーシアへの進出に関心をもちはじめた。一例として、インドネシアへの関心が特に高いが、自動車生産基地としてタイを凌駕できるかどうかという課題がある。インドネシアの一人当たりのGDPは2013年にUSD3,015になった。一般的に、3,000ドルを超えると自動車需要が大きく拡大すると言われているそうだ。2011年の統計ではタイでは6.9人に一人、インドネシアは27.6人に一人が自動車を保有しているという。インドネシアの潜在需要は大きいと思われる。岩間氏の推定によれば、ジャカルタ港から東ジャカルタ「工業団地地区」まで(70~80㎞)、この4年間で一日あたり2,500台のトラックやトレーラーが増加してる。ただ、インドネシアの税関では、新規参入者の制限をしていることは課題としてあげられる。国際協力銀行が実施した中期的「投資有望国」の期待では、一位がインドネシア、以下インド、タイ、中国、ベトナム、ブラジル、メキシコ、ミャンマーと続く。
 グローバル・ロジスティクスは、後発国が先進国に追いつくための発展モデルとして、雁行形態論(Flying geese theory)やプロダクト・サイクル論(国際分業のパターンは、出生、成長を経てやがては衰退するというライフ・サイクルをもつ)に始まるという。雁行形態論の具現化として、ジュロン工業団地(1968年、シンガポール)、ナワナコン工業団地(1971年、タイ)、プロガドン工業団地(1974年、インドネシア)、タンロン工業団地(1996年、ベトナム)などの大規模海外工業団地が設立された。一般論であるが、日本企業にとって海外の工業団地に進出するとき、電力、水(ミス処理を含む)、労働力(その質の高さ)の3つが重要な要因になる。海外投資は、家電3年、自動車10年といわれ、投資回収期間はいまではそれよりもさらに短くなっている。
 日本の中小企業にとっての海外進出のきっかけは、まずは「つき合いのある大手製造業が進出したから」が多い、ほかに日本における労務費の高騰、国内市場の閉塞感、自社製品のグローバル展開、ビジネスチャンスの探求などがある。
 世界のコンテナの動きが東アジアと北米間、東アジアと欧州間が圧倒的に多い。船で新潟からプサンへ20ftコンテナを運ぶと運賃はUSD100 程度だという。おそらく地方都市から横浜港まで荷物を陸送してもそれ以上の運賃を請求されるだろう。船賃はかなり安く設定されている。
 講演の中で、米国国防省がシンクタンクBooz-Allen-Hamiltonに調査以依頼した“The string of Pearls”(真珠の首飾り作戦、2013年)とよばれるレポートを紹介された。その中で「おどろきの中国」(2013年岩波)を、日本で修士以上の学位を取得した15名の中国人研究者の読んでもらい感想を聞いた結果があった。「中国は、今まで欧州や米国がリードしてきた国際秩序に対して、中国独自の国際秩序を作り出そうとしている」(15名中9名が回答)という主張があった。2008年には中国の外貨準備高が世界一位(1兆8090億ドル)、2009年には中国の貿易総額が世界一位(2兆2070億ドル)、2010年には中国のGDP が世界第二位(5兆8790億ドル)が背景にある。
 グローバル・ロジスティクスに関心が集まってきたのは、ここ3年くらいと思われる。これまでグローバル・ロジスティクスを国内物流の延長線上にとらえてきたが、どうもグローバル・ロジスティクスという一つの学問分野ができつつあるように、この講演を通して感じた。

『北東アジアにおけるシームレス物流』

  2014年1月16日第二講演

  藤原 利久(公益財団法人国際東アジア研究センター)

 藤原氏の講演は、まずシームレス物流を定義し、Total Logistics Cost (TLC: トータル・ロジスティクス・コスト、あるいはInclusive Logistics Cost: ILC)を低減するには完全シームレス物流(TSL)を実現することだとしている。そしてシームレス物流の事例として、高速船(フェリーとかRo-Ro船)をとりあげた。
 物流費は現状では過小評価されている傾向がある。たとえば売上高物流費比率は5~7%といわれるが、時間コスト、国際物流費、キャッシュフローのような経営コストを含めると、その比率は15~40%になるという。そのほかにも、サプライヤーの価格の中に物流費が込みにされているという国際基準に沿わない部分もあり、それを“みなし物流費”とよぶ。それゆえに真の物流コストであるTLC(トータル・ロジスティクス・コスト)の考えが必要であるとした。大学教育にしても、中国では物流学科のある大学数が430校、韓国では200大学、日本においては物流学科のある大学はない。大学院レベルで物流講座があるのがわずか28大学にすぎない。
 シームレス物流は、いつでも、どこでも、だれでも、スムースに、川の流れのように顧客から顧客へ貨物・財が流れるSCMと定義した。シームレス物流を実現するためには、5つの意味でシームレス化が必要であるという。その5つは、空間(たとえば積換え)、時間(24時間オープンの港)、制度(通関)、情報、文化(関係国間の交流)である。これからは、シームレス物流の実現により、東アジアやに日中韓における物流と経済・産業の融合が必要である。一般に言われる物流の要素(商流、物流、情報流)に経営流(物流経営)を加えて、スマート物流を実現することが大切である。
 藤原氏が定義するTLC(トータル・ロジスティクス・コスト)の構成は、次にあげる各要素の和で表わされる。その要素は国際・国内物流コスト、時間コスト(在庫、陳腐化、キャッシュフロー)、社内コスト(見なし物流)、品質コスト、保険コスト、ITコスト、関税コスト、租税、リスクコスト、ブランドコストである。TLCを削減するためには完全シームレス物流を実現することが必要だ。九州の自動車メーカーがプサン経由で、高速船によるシームレス物流を開始した。その結果、直接物流費が大幅に削減され、在庫25日が3日に短縮されたという(従来利用していたコンテナ船のリードタイムが25日、新たに導入したシームレス高速船のリードタイムを3日と仮定)。またTLCも従来のコンテナ船を利用していた当時に比べて、37%のコスト削減がはかれた。もちろん、TLCは製品価格にも依存するので、シームレス高速船が有利になる価格帯を見つけ出すこともできる。さらに注目すべき点は、シームレス物流が有利になる輸送製品価格帯が広いことを指摘された。日本の総貨物量の50%以上に対して、シームレス高速船の利用が有利になることも示された。現実にEUの近海物流では53%の貨物は平均53%(最大81%)の高速船利用率である。日本は平均して3.6%にすぎない。ただ、下関港に関していえば85%の利用率だそうだ。
 高速船によるリードタイムの短縮は、利益拡大に大いに貢献する。北九州とプサンを結ぶわけなので、おそらくはリードタイム短縮効果がもっともTLCに影響するのではないかと感じた。ローカルな実証実験が行われているが、かなりの経済効果をうみ出しているというのが藤原氏の主張でもあり、その点は多くの参加者が納得されたと思う。

『クリナップグループが目指すサプライチェーン・ロジスティクスマネージメントと
協同輸配送の取り組み』

  2013年12月19日第一講演

  大竹 重雄(クリナップロジスティクス株式会社)

 クリナップ社はシステムキッチンを開発した日本で最初の会社である。当時、システムキッチンは世の中に珍しく、スライト方式のドアは観音開きに変わり、フロアーコンテナも設置された。素材も木材からステンレスになり、接着剤もなくなった。そのために重量も従来の半分程度に軽量化された。大竹氏は、クリナップ社に就職され、現在はクリナップロジスティクス社の社長を務めておられる。
 CPS (クリナップ生産システム)の礎は、NPS研究会にある。この研究会は「人間性尊重」を基本理念とし、「あらゆる無駄を排除することによって 経営効率の向上を図る」ことを基本思想として、「改善活動」と「人財育成」を推進すること によって企業体質の強化を実現するため、1981年に設立された。それに独自のアイディアを加味して、クリナップ社では、クリナップ生産システム(CPS)をスタートした。従来からの大量生産方式は一個づくりへと変貌していった。それを大凧と連凧の比較で表現された。小さな汎用単能機械を連凧のようにつなげて生産することと、大鑑巨砲の機械で生産することのメリットとデメリットを比較すると、あきらかに、連凧の方がフレキシビリティーがある。高度成長時代には、量産体制はそれなりにメリットがあった。しかし、いまはそんな時代ではない。一個つくりが可能になったことによって、従来からの見込み生産を受注生産へ変えることが可能になった。
 CPSにより、在庫は82億円(1985年)から25億円(1989年)まで減少した。1989年以降はほぼ横ばいの在庫が続いている。会社では在庫を罪子と記述するようだ。新規住宅着工件数は年間170万戸(昭和62年)から84万戸(平成23年)へと変化する中、売上を伸ばし、アイテム数を100倍まで拡大させ、在庫を削減し、会社の利益の向上を図ってきた。利益の源泉は、在庫を陳腐化させて廃棄する処分損を大きく減らした結果であるという。
 受注生産を成立させる大きな条件は、CWT(Customers' waiting time)つまり、顧客がわくわくして商品の到着を待つ時間(いまは1週間)よりも早く商品を届けることである。リードタイムがCWTを下回るような工夫をしている。いかに早く届けるかは大きな課題だった。小口後補充生産方式により、あわせて全国52ヶ所にあった倉庫を全廃している。生産の調整は前倒し、残業、2直生産、土曜日操業などで吸収している。現在は全国に69ヶ所のクロスドックを構えて(全国都道府県に1~3か所)、さらにはITの高度化をはかり、納期を確保している。もちろん、商品には短納期商品と長納期商品がある。短納期商品は明後日納品、長納期商品(システムキッチンとかシステムバス)は1週間程度で納品可能になっている。
 営業は受注精度が大事だという。受注してもそれがすぐに生産に結びつくとは限らない。それで受注内容の確度によってHot1の状況からHot 4(成約)までの状況に分けている。
 講演の中では、協同物流(通常は共同配送を略して共配というが、クリナップ社では、協同・協力・協業の協の字をもちい協同物流という)体制を整えている。基本的には、物量の確保と積載効率のよりよい組合せを目指している。支線配送には“強み”を活かした提案を徹底して行っていく、幹線配送(またときに支線配送にも)では、午前便と午後便の組合せ配送をした、重軽荷物を組み合わせるなどの工夫もしている。そして異業種他社との協同配送によって、大きなコスト削減を実現してきた。今日では同業他社とも協同配送を行うようになった。
 きわめて聴衆を引き付ける講演で、製造メーカーの物流はこうあって欲しいという、(筆者個人の想いですが)講演内容でした。ロジスティクスに関心を寄せるみなさんには是非お聞き頂きたい講演です。

『アサヒビールの物流取り組みとビール業界の共同化』

  2013年12月19日第二講演

  児玉 徹夫(アサヒビール株式会社)

 アサヒビールはアサヒホールディングスの一つの事業部門である。ビール部門の他に総合酒類(ウィスキーとかワイン)、飲料、食品事業部、さらに国際部門がある。ロジスティクスはホールディングスに企画部門があり、また各事業所にも物流担当部署がある。事業部の担当部長が部長会を開催して、ロジ戦略を構築しているようだ。アサヒロジスティクスという会社は、主にオペレーション(庫内作業)を担当している。ビールの消費量は2001年の年間2億1千万函がピークで、その後は減少し、現在は1億6千万函になっている。2007年度以降は、総合酒類、飲料、食品の売上がビールに代わって伸びていった。
 ビールの輸配送だけで、一日3000台のトラックが必要だという。事業部間での共同事業も検討されるようになった。たとえば、少量多品種の酒類を大型トラックに乗せるなどの試みも行われるようになった。2001年ころからは、配送センターの深夜早朝出荷体制も始まった。つまり、出荷配送センターは24時間体制なのだ。現在、総合酒類の配送センターは平和島DCと西宮DCがあるが、他の配送センターへの横持ちをするには、納品時間から割り戻して、トラックのスピードを時速30㎞程度と仮定して定時出荷している。またJR貨物の定時列車を予約して、様々な商品を目的とする配送センターへ届ける試みもなされている。
 倉庫の収容能力も大きくなった。過去のピーク時には入出庫あわせて4億5千万函の能力が必要であった。現在でも4億8千万函までいける能力まで増強している。そのためにはWMSシステムの構築が必要であった。しかも事業部間でそれを共有することが不可欠の条件なのだ。それをいま成し遂げつつある。
 アサヒビールはいまキリンビールと、地域限定ではあるが、共同配送を実施している。ビール業界では、Pパレ(ビール型プラスチックパレット)とよぶ、1100×900を利用している。大型トラックの荷台にはPパレで22枚分の商品を積むことができる。このP パレは原価にして一枚5000円するそうだ。ビール業界でのPパレの流通枚数が3000万枚、そのうち回収率は99.1%である。とうことは毎年30万枚の補充が必要になる。もちろん、パレット自身の寿命もあるので、新規取替のパレットも必要だ。これだけでも15億円の投資になってしまう。現状では大手ビール会社で負担コスト配分をしているが、大きな課題となっている。もちろん、そのための施策はある。JPRとの共同事業も視野に入れているようだ。キリンビールとの共同配送は都市圏の一部(江東、江戸川、渋谷、新宿など)で、DCのロケーションを考慮して、それぞれのトラックが相手の商品も同時に運ぶ仕組みが構築されている。児玉氏の講演は、アサヒビールが取り組むロジスティクスであった。大手企業の取り組みだけに注目が集まった。最後に、キリン社との共同配送が実現した様子を話されたが、試みとしては最高だ。でも、そこに至るまでの両社の思惑に興味がわいた。

『バンテックのグローバル戦略と今後の展望』

  2013年11月21日第一講演

  小山 彰(株式会社バンテック)

 講演の主題は「物流を科学する」という言葉にあった。2010年バンテックは日立グループの一員になった。当時、日立物流の売上が3500億円、バンテックが1500億円で合わせて5000億円になった。グローバル環境の中で物流事業が生き残るためには最低5000億円が必要と言われていた(現在では7000億円は必要とまで言われているそうだ)。将来において「ありたい姿」を実現しようとすると、従来型の改善の積み上げではどうしても目的を達成することができない。物流事業を科学的に改善していこうというわけだ。小山氏は「物流を科学する」具体例を示された。たとえば、帰り荷を埋める互恵輸送法の提案、往路は自社のトラックで自動車部品を、復路は他社の鉄コイルを運ぶといった輸送効率の向上策がある。また社内の一室にトラック管理板のようなシステムを配置し、ドラックの現在位置をリアルタイムにとらえる見える化システムを構築した。またリチューム電池の運送には落下実験を繰り返し、理想的な配送容器(爆発を防ぐため)を設計した。これらは物流の現場改善である。
 次のステップとして改善レベルを向上させることを考えている。たとえば、海外における物流施設の立ち上げから業務の安定化をはかるまでの期間を短縮する方法も考えた。さらに一歩先には、事業により地域社会に役立つといった目標もある。つまり、従来は個別作業の改善を寄せ集めた形だったのを、科学的手法を駆使して将来予測モデルを作り、経営の先取り(あるいは先手管理)を行おうというわけだ。地域社会に役立つことはもちろんだが、ダイバーシティの活用(女性や外国人)といった課題もある。現在の世の中には物流業は決して女性には優しくない作業があるし、外国人に運転させても道路標識が読めないといった問題がある。
 自動車部品販売の将来性であるが、自動車の国内生産は、グローバルマーケットの中ではその比率が小さくなりつつある。2002年から20012年の10年間にグローバルの自動車生産台数(日本を除く)は52.4%増加したにもかかわらず、日本の生産台数は3.6%減少している。したがって、バンテックの生き残り戦略としては、これからのグローバル展開に期待するほかない。国内事情は現状維持でも、海外事業は拡大を目指さざるを得ないのだ。売上の拡大は2015年までに1.5倍、そのためには(人材ではなくて)人財の強化が必要である。まず組織に関しては、グローバル本社機能の確立、地域マネジメント本部機能の設置、Logistics Engineering機能の設置などが目標となる。また人財に関してはグローバル化に向けた人財育成、ダイバーシティの活用などが課題になる。そうした施策に重ねて、最適なシステムをグローバルに展開し、事業拡大を図っていく必要がある。
 当然のことながら、最後に日立物流とのシナジーの最大化を図ることを挙げられた。すでに英国でのオペレーションはその効果の表れであるという。小山氏の講演口調はきわめてストレートな表現で、前向きな経営姿勢に多くの聴衆のみなさんが引き込まれた感じがした。

『中国におけるバイヤーズコンソリデーション』

  2013年11月21日第二講演

  由良 大太(日本トランスシティ株式会社)

 119年前、四日市倉庫としてスタートした日本トランスシティ社は、今日では英語でTrancy(トランシー社)とよばれている。物流のサービスプロバイダーとして、四日市に本社をおき、中部地域では活発な営業活動を展開している。由良氏は27年前にこの会社に就職され、名古屋、小牧、イギリス、四日市、インドネシア(ジャカルタ)、そしてさらに中国へ駐在赴任している。今日の講演は直近の中国滞在中の話で、上海GXD (Global Cross Dock)を利用したバイコン(Buyer’s Consolidation)の話題をとりあげられた。
 日本の流通大手A社の依頼で、Trancyは上海に配送センターを構えている。そこへ複数のサプライヤ-から製品が届けられ、その配送センターで検品・検針、ラベル発行・添付、日本における方面別仕分け、混載、発送を行っている。これがバイコンの考え方である。従来はA社が個々のサプライヤーから日本の倉庫へ製品を輸入し、日本の倉庫で検品を始めとする庫内作業を行っていた。それの作業すべてを中国側の倉庫で行おうというわけだ。
 この場合Trancyは物流を担当しており、商流はA社とサプライヤーの間で交わされている。輸送上のトラブルに対する問題解決には多少の課題も見えてきそうだが、従来のやり方と比べれば、流通経路の川上側に検品などを設けることになるので、不良品に対するサプライヤーとのコンタクトも容易である。講演の合間に紹介された「押し子」とよばれる中国特有の荷物の押し込み機器(荷物をコンテナーに積めるときに、荷物間の隙間を狭めるために、フォークリフトの前方に鉄板をとりつけて、荷物を押し込むマテハン機器)の利用などは、興味深い。川上サイドにこうした施設をもつことにより、当然コストダウンが期待できる。Trancy社の基本方針はほんの一部の商品を除いて、上海GXDでの作業はクロスドック方式で、保管はしない。したがって、日本に仕向けて発送するときは、関税の中から保管料を外せるメリットもある。
 上海港は今日世界一のコンテナ扱い量を誇る、巨大な港湾である。上海の街から貨物を欧米方面へ輸出するには、大陸の端から東海大橋(これが30㎞近くある)を渡った島にある上海大洋港まで貨物を運ばなければならない。この運送にかなり時間を要するということだった。バイコンというビジネスモデルを通して、由良氏の経験をもとに、さまざまな事例をお話しいただだき、大変興味深く講演を拝聴させていただいた。

『三井倉庫のロジスティクスサービス 』

  2013年10月17日第一講演

  千葉 達(三井倉庫株式会社)

 三井倉庫は営業倉庫である。荷主より荷物の寄託を受け、荷役・保管・仕分けの仕事がメインの活動である。100年を越える倉庫業の歴史のなかで、長い期間保管を中心とした倉庫業に徹してきた。納期管理、共同保管、受発注代行、バイヤーズコンソリデーションなど、SCMにおける荷役・保管業務をベースに、仕事内容を一歩踏み込んだ業務形態に変わっていった。ところが、ここ10年間はさらに一転して、新しい価値をもったビジネスに足を踏み入れてきた。M&Aもさることながら、そうした変化を利用してAir業務の拡大、海外拠点の充実、国際複合一貫輸送の整備、医薬品の保管業務、商流・金流を含めたビジネス領域への進出などである。昔ながらの荷役・保管を中心とした業務からの売上は、大雑把ではあるが、総売上額の3割程度にまで減少している。
 3PLの活動比率が増している。従来、荷主が自前主義で行ってきた物流の仕事を、三井倉庫と包括契約を交わして物流の仕事を倉庫会社へ一任する。もちろん、三井倉庫は物流システムの設計はむろんのこと、荷主に常に改善提案をもちかける。そのためには、ハードウェアー(物流現場の作業能力)、ソフトウェアー、(ITシステム構築力)、ヒューマンウェアー(コンサルティング能力)の総合的能力が必要になる。3PLの請負の中には国際物流の一括受託もある。このような国際化の中では荷主とのコミュニケーションが大切で、物流の見える化、KPIを使った品質管理、さらには3PL1ネットワークに生じる課題管理に徹し、グローバル・ローカルエリアで情報の共有を図るようにしている。
 千葉氏は、三井倉庫の次の(将来の)取り組みについても触れた。顧客のより高いニーズに応えるために、従来からの点のサービス(荷役・保管・運送・輸出入など)から、面のサービス(多様な品目・地域に対応、物流プラットフォームの提供など)、さらに高付加価値サービスへの展開について語った。高付加価値サービスというのは、ある意味では商社機能(貿易仲介業)に似てくるかもしれない。三井倉庫は医薬品物流を始めたが、これには特殊要件がある。医薬品の保管についての業務だけでも薬剤師などの有資格者を倉庫に配置する必要があった。さらにはレベルの高い清潔な保管環境を提供する必要もある。高付加価値ビジネスとして、治験薬を扱うビジネス、アジアとの流通をよりフレキシブルにするFLEXPRESSサービス、中国通販支援ビジネス、動産担保支援ビジネスなどを紹介された。

『自動認識技術の最新情況 』

  2013年10月17日第一講演

  白石 裕雄(サトーホールディングス株式会社)

 講演者の白石氏は最近、ご自身の生き方を綴った著書を刊行しておられる:「サラリーマンの理想的働き方・社内フリーター」(文芸社)。かれは56歳から週休4日と自由度の高い働き方をしている。なぜそれが可能になったのか、自らの人生に何を目指しているのか、白石氏は本の中でそれらに明快に答えている。是非一読いただきたい。
 サトーは自動認識技術を応用した商品の製造・販売・保守サービスを提供するグループ企業からなるホールディング会社である。白石氏は1978年にサトーに入社し、そのころは従業員270名程度でハンドラベラーの会社だった。その後企業規模は拡大し、現在は一部上場企業で、従業員は4,000人を越える国際企業(23か国に拠点をもち、90以上の国でビスネス展開)に育っている。売上額の一番多い商品はサプライ品(シール、ラベル、タグ、チケット、ICタグ、カードなど)で、製品は製造工場、病院、図書館、百貨店、倉庫、スーパーなどで利用されている。我々がよく見るバーコードの印刷機、ラベル、読取り器もサトーの製品が多い。
 講演の中心課題は自動認識技術にあった。この市場規模は2012年の出荷金額でいうと2,297億円ある。その中でもサプライ品が1,168億円、バーコードリーダーが376億円、バーコードプリンターが382億円になっている。RFIDは316億円である。ただし、スイカなどのICタグは除いている。2013年の出荷金額予想は2,351 億円で、さらなる成長の傾向はあるが、まだRFIDの利用が爆発的に拡大するとは感じていないようだ。このRFIDの利用拡大はかなり以前から期待されてきたが、期待通りには進展してこなかった。2003年にウォールマートが25,000社の取引先に、納入する製品にRFIDを添付して納品する説明会を開催して以来、その後数年間、関連企業の思惑、マスコミの報道、国の思惑など、 RFIDへの注目は極めて高かった。でもキラーコンテンツ(決めてになる魅力)がいま一つなかったのだ。
 RFIDの特徴として、白石氏は「遠くから読取ることができる」「複数のタグを一度に読取ることができる」「箱の中の製品も読むことができる」「大量のデータを読み取り、書き込むことができる」――「安価なRFIDが今後できる」などある。この最後の値段(価格の問題)除いては、すべての項目がまさにRFIDの特徴として、高く評価できるとしている。白石氏はその一つひとつの特徴をうまく利用した実例を示された。
 自動認識技術も時代とともに進化を続けており、画像で色を判断して情報を読取ったり、音声利用、電子ペーパー、あるいはダイレクトマーキングという技術も着目されつつある。RFIDがいつ大量利用されるのか、自動認識技術がさらにどう進化するのか、興味はつきない。結構、オリンピックなんかが契機になって、RFIDに改めて注目が集まり大爆発しそうな気もする。

『YKK APのロジスティクス改革について 』

  2013年9月19日第一講演

  岩崎 稔(YKK AP株式会社)

 YKKグループにはYKK株式会社(ファスニング事業)とYKK AP株式会社(建材事業)の2つがある。そのほか、両社のファスニング加工機械や建材加工用機械を内製する工機技術本部がある。工作機械の技術は高く、隠れた技術会社と言われている。社名の一部であるAPというは、Architectural Productsの略のようだ。
 建材というのは、建築物を構成しているパーツをさす。したがって、YKK APのビジネスは住宅建材事業、窓事業、ビル建材事業、産業製品事業、グローバルファサード事業からなる。現在事業は海外にも展開され、8か国12社を有している。国内では生産拠点24,物流拠点8、営業拠点218で、品質・デザイン重視の開発姿勢が高く評価されている。日本は従来からアルミサッシを用いてきたが、現在は樹脂のサッシが用いられつつある。工場でサッシにガラスを取り付けて、それを現場へと運ぶのだ。ダイレクト配送とよんでいる。すると街中のカラス商の仕事がなくなることになり、彼らにはマドショップとして新たな形の小売業として発展すること(商材拡大、需要地への積極展開)を指導しているのだ。住まいの相談窓口として、顧客のワンストップショップとしての新築・リフォームのお手伝いをするわけだ。
 YKK APのロジスティクス改革は、2009年ロジスティクス統括部を新設したことから改革が始まった。物流コストの見える化をはかり、サービスとのコストバランスを考え、配送効率のアップをはかり、情報システムを導入し、多様化するビジネスに迅速に対応できるようなシステム作りに取り組み始めた。特に物流改善では、配送先ルート見直しによるトラック台数の削減やルート数の削減をはかった。そして、建材事業では重複する仕分・検品作業、構内運行、積込み作業の無駄取りに専念した。流通ルートにおいても、クロスドック形の配送センターをメインとし、従来からのDC在庫の削減をはかってきた。2013年には新たな取組みとして、生産本部のもとにロジスティクス推進部が位置づけられて、第四次ロジスティクス改革がスタートした。
 YKK AP社の物流改革への取組みは、多くのネオロジ会員にとって初めて拝聴する講演で、建材や窓をいかに楽に、安全に運ぶかを考えたさまざまな工夫におどろかされた。

『新しいAGV(無人搬送車)の開発と次への展開 』

  2013年9月19日第二講演

  辻本 正則(株式会社ダイフク)

 ダイフクはマテハン機器・設備の専業メーカーである。物流システム機器の売上は近年それほど伸びていない。2012年度の自動倉庫、コンベアー、台車などの物流システム機器の総売上額は、前年度比1.3%増の3401億円だった。特に3・11以降、自動倉庫の導入も控える企業が多くなった。物流機器の柔軟性が重視されはじめたからだ。
 辻本氏は、自ら携わってこられた無人搬送車(NEDOの支援)の開発について語られた。無人搬送車(AGV) の市場は2012年度で84億円になるが、現実には統計に組入れられていない数値もあるので、100億円規模になる(低速小型の搬送車は簡単にできるらしい)。AGVそのものは、単独で利用されることもあるが、自動倉庫や生産ラインと直接つなぎ、システムとして利用されることが多い。24時間、360日稼働も多く存在する。
 AGVがまだ広く受け入れられていない理由の一つは信頼性の低さにある。これからは安価なAGVの領域と、高性能なAGVとの領域を区別して考えたい。特に、無人フォークリフトの領域には新しい市場が確立される可能性がある。24時間稼働の配送センターも増えてきているので、それらの構内作業に対応したAGVの開発ニーズはある。その時のキーワードは自動充電と信頼性の向上である。埃を嫌う薬産業でもAGVの導入に関心があるようだ。現在、日本のAGVのスピードは60m/分である。安全性を確保しながら速度規制を緩和するのも一つの方向である。海外では200m/分が主流であるという。AGV開発プロジェクトは高速ビークルを開発し、安全性を人とビークルが混在する環境の中で確かめることにあった。さらに対象エリアを明確にして、その中でビークルをコントロールできる必要があった。間もなく実証実験が始まる。
 AGVの高速化は、当然のことながら物流リードライムの縮小に結びつく。また高速であれば導入するAGVの台数も削減でき、投資を抑えることが可能である。さらに自動倉庫と高速AGVの組合せにより、工場・配送センターの自動化が可能になる。まだ24時間360日という過酷な作業に対応できる。フォークマンを集めにくい現状の問題解決の一助になりうる。
 講演は、AGV利用の新たな可能性を示してくださり、将来のマテハン機器の開発方向として、マルチタスクビークルの開発、ピースピッキングビークルの開発構想を示された。きわめて興味深い。

『 知的財産あれこれ ・・特許を中心にして・・ 』

  2013年7月18日第一講演

  渡邉 愛爾(味の素株式会社)

 渡邉氏は味の素で知財部長を務めておられた。現在はすでに一線を退いておられるが、その経験を踏まえた知財の議論は聴衆の関心をおいに高め、情報の多いお話をいただいた。日本は知財大国(特許出願数)の一員である。とはいえ知財の訴訟件数をみると、アメリカ4000件、中国7800件に比べ、日本は230件(2011年)と圧倒的に少ない。知財を使って事業活動を有利に進めることができる。特許出願を権利化するためには、出願に先立ち、先行文献調査の実施、発明の必須要件の明確化、特許性の確認が必要になる。そして権利化された特許は自社で実施し、他社を排除し、あるいはライセンスとして譲渡することなどに活用しなければ意味がない。味の素の特許はグルタミン酸塩を主成分とする調味料製造法の特許証(1908年、池田菊苗博士)にはじまった。現在の特許保有件数は年間1000件に近い。これは国内の話で、特許には属地主義があり国ごとにその国の法規に従って手続き(出願など)を行なわなければならないので、一つの国内特許について海外を含めれば4件、5件といった複数件の特許数になる。
 知財をベースに事業戦略をたてることが重要だ。研究開発で必須特許(ある製品を生産販売する際、使用せざるを得ない特許のこと)を作りあげて市場参入し、ブランドを構築する。そのブランドを守るために製造コストダウン、製品の多様化などをはかって、そこから周辺特許を作っていく。さらには、海外ライセンスや広報活動を通じて、その製品のマーケットシェアを確保・拡大していくというプロセスを経ていく。
 渡邉氏はいくつかのケーススタディーを紹介された。一つは2011年の直木賞受賞作品の小説に書かれた事例である。「下町ロケット」(小学館)というDVDも発売されている。そこでは小さな製造企業が水素エンジンの最先端特許を巡って、融資会社や大企業を巻き込んでいく。フィクションとはいえ事業戦略と特許戦略を理解する小説になっている。2009年の切餅訴訟も興味深かった。新潟の切餅の製造企業が、焼いて膨らんだ餅の表面が破れないように、餅の側面に入れる切り込みを巡っての特許訴訟だ。切り込みの特許権を侵害するかどうかの訴訟だった。また、インスタント麺をお湯で戻す際に麺がきれいにほぐれ、食べる際にまっすぐになるストレート麺の製造法で特許訴訟がおきている。こうした事例を通して、特許と事業戦略の問題を深く考えさせていただいた。事例を通して、特許の必要性を認識し、それを事業の中で、また会社経営の中でとう役立てていくかを考えるいい講演だった。

『ロジスティクスの人材育成と管理技術』

  2013年7月18日第二講演者

  渡邊一衛(成蹊大学)

 講演の切り口は経営工学的視点であった。渡邉氏慶応管理工学科の出身で、まず「ものコト分析」を紹介された。はじめの状態(たとえば素材)とおわりの状態(たとえば製品)が規定できれば、その間にある変化がどうあるべきかを効率よく考えることができる。物流の問題もそうだ。輸送・保管・荷役・包装・流通加工といった個々の活動に対しても、同様な考えを適用することができる。そのための管理技術が経営工学にあたる。そもそも管理とは何だろうか。管とは内がうつろの円筒形のもので、要するに範囲を区切るという考え、そして理には玉を磨き整えるという意味があるそうだ。だから目標を定め、内を整えるという意味になる。したがって個々の固有技術をうまく運用するための技術が管理技術である。管理技術の例として、IE、QC、 OR,、シミュレーション、設備管理、経済性工学、数理統計学などを列挙された。
 今回の講演では、ロジスティクス・経営工学関連の資格を紹介くださった。技術士は国家資格である。中小企業診断士は一次試験の合格率が20%程度、二次試験の合格率も20%程度でかなり難関である。ビジェネスキャリア検定試験はロジスティクス、生産管理など8分野の検定試験が用意されている。人材育成のためにこうした検定試験がある。企業としてはまず人材の育成目的を明確にして、知識の修得、スキル向上、態度の養成をはかる。そしてキャリアパスを設定する必要がある。また試験を受ける人のモチベーションをいかに高めるか(顕彰制度、加給制度、報奨金制度など)を検討しなければならない。これまで何となく、そういう検定試験があることは知っていたが、今回は一つひとつの試験の内容や条件、目的などをわかりやすく説明いただいた。

『工事業者への資材供給の取り組みと今後の方向性』

  2013年6月20日第一講演

  角森 元彦氏(ロイヤルホームセンター株式会社)

 ロイヤル・ホームセンター(RHC) は大和ハウス工業の子会社である。今回の講演者である角森氏は平成6年に大和ハウス工業に就職、その後ロイヤル・ホームセンターの人事を担当、また大和ハウス工業に戻って中期計画の仕事、さらに現在はふたたびロイヤル・ホームセンターで責任者をしておられる。大和ハウス工業グループの売上は24,000億円(2013年予想)で、その中でホームセンタービジネスの売上は約700億円と、その比率は小さい。しかし、大和ハウス工業は次々と新事業を開発し発展させ、さらなる成長を目指している。その一翼を担うのがホームセンタービジネスなのだ。ビジネス多角化の一つの戦略になっている。
 ホームセンタービジネスには、ホームセンターとホームデポがある。会社ではレギュラーとプロという表現を使うそうだ。現在、全国に50店の店舗をもち、うちプロは7つだそうだ。プロは建材専門店で、レギュラーは日常雑貨を扱っている。ただ、東京都には店舗はない。関東圏では千葉、埼玉、神奈川に展開している。ホームセンターの市場は拡大傾向にはあるが、競争は激化している。いま市場を拡大しているのは売上規模が1,000億円以上のホームセンターで、そのためにもRHCの売上拡大は急務である。現在、売上規模では、RHCは大手HCの中では11位(2012年)だそうだ。今後は、資材販売を強化し、外商強化を含めて売上高1,000億円を目指していく。とくに、中小工事業者向けの建材供給に関するビジネスモデルを構築し、競合HCとの差別化を図っていく計画だ。
 ホームデポはアメリカではかなり普及している。店舗は早朝に開店し、大工さんたちが建材を求めて押し寄せる。課題は支払い体系にあるようで、RHCでの支払いは与信審査を通したクレジット販売を受け付けている。大工さんたちの希望は掛け売りにあるそうだ。また将来の課題の一つにネット通販による建材の供給がある。さらには将来は、地域密着の金物店との連携も考えられる。
 実は、小生の自宅の近くにも伊勢原ロイヤル・ホームセンターがある。レギュラーの形態をとっているが、品ぞろえはいい。犬の餌、金魚、文房具、雑貨、釘、時計、ネジ、木板、ガーデン品、植物など、この店があることによって、生活品の調達にはおおいに重宝している。ただ同じ街にはDIYの専門店、さらには建材を置く店もあり、確かに競合企業が競いあっていて生き残りは厳しい。いかに固定客を取りこむかが課題に見えた。

『住宅産業界における卸の戦略と将来』

  2013年6月20日第二講演

  西 裕史氏(ナイス株式会社)

 ナイス㈱の西氏には大阪からおいでいただいた。西氏は流通EDIの専門家であるが、いまは関西営業推進室の部長を務めている。ナイス社は建材の卸問屋であるが、ユニークな点は消費者に情報提供を送っていること、たとえば展示会をして消費者 (大工さんたち) に来ていただき、丁寧に説明をする。つまり、ナイス社の言うとおりに家を建てるとかなり立派な家が建つというのだ。会社は1950年6月に関東で材木市場をはじめてスタートし、それを全国展開した。そのあと1970年代にマンション分譲を始めている。現在は、戸建て住宅の企画販売、土地活用事業、住宅資材納材事業など幅広く事業を展開している。売上構成比率では4分の3が資材・市場、残り4分の1が住宅・マンション分譲である。
 この業界では、建築戸数の少ない現場の物流が難しい。どのような規模の物流センターを構えるべきか、それとも遠くから運んだ方がいいのか。あるいは物流の薄い地域では地方業者とアライアンスを組んだ方がいいのかといった具合に、さまざまな対策を考える必要がある。
 ナイス社はいま計画物流に取り組んでいる。建築現場に直接資材を配送する便単位にモノを動かすシムテムで、販売店から工務店へ、そしてもう一つは計画配送 (ルート配送) である。需要に応じて配送するシステムと計画的に配送するシステムが混在している。そこにリアルタイムEDIの存在意義があるわけだ。ルート配送の場合は、部材ごとに工事の進行具合によって発注がかかり、工事が始まってからお施主様と打ち合わせが入る。このとき仕様変更があるのは当然と考えられる。その注文に対していかに早く応えられるか、ミスなく納品できるかがナイス社の課題となっている。
 立派な家を建てるという点では、いまはナイス社がパワーホーム計画をつくり、耐震等級3以上の長期優良住宅を建設している。金具形状を工夫して梁が柱にぴったりと引き寄せられるようになっていて、ボルトやナットは一切使用していない。低コストで優良な住宅を供給することに努めている。

『TOTOの経営戦略とロジスティクスへの取り組み』

  2013年5月16日第一講演

  加藤 正行氏(TOTO株式会社)

 講演者の加藤物流本部長は、エンジニアでいらっしゃる。鋳造部品の金型設計や生産技術を担当したあと、4年前に物流部の担当部長となった。そのときにDC(Distribution Center)の改善の遅れが目についた。当時はまだ大量生産の延長線上にあって、小規模自律生産のスピード化や同期化が必要であった。実際に実施してみると生産性が30%あまり向上し、それによって、スピード感覚が身に付き、変えないといけないという企業文化ができあがってきたという。
 TOTOは96年前に小倉にできた会社である。まもなく100周年を迎えるがVプラン2017と称し、売上高6,000億円を目指す。TOTOGreen Challengeが行われている。現在、日本では8軒に1軒が空き家、住宅の2/3がリフォームである。TOTOの国内住設事業では当然そのことを念頭において展開する。
講演の主題は、スピードSCMへの挑戦にあった。新築住宅の注文は早めに入るが、リフォームの注文は納期が短い。変更依頼もある。いかに早く届けるかを考えたとき、どうしても消費者に近い位置に在庫が必要であるし、即納対応率を高く保つ必要があった。4万品種、5万店の配送先、午前注文に対して翌日配送をと整えるべく、改善活動が始まったのだ。場所の無駄(非効率な保管場所の排除)、時間の無駄(検品滞留)、保管の無駄(仕分場滞留)を除き、リードタイムを半分にした。こうして生産性を30%向上させたのである。配送方法にも工夫をほどこした。きわめて小口の注文は宅配便を振り分け、時間指定にも若干の余裕をもたせるようにした。多地点降ろしという手段を使っている。トラックでフルロードで運べるものは直送するが、端数の品物は一台のトラックに相積みして、このトラックを多地点回しにして順次品物を降ろしていくのだ。納期を考慮して、工場からDCへの配送をできるだけ遅くし、DCからの出荷は遠い方面から順にトラックに積み込み送り出す。この辺の話は、以前ネオロジで講演いただいたクリナップロジスティクスに類似している。実際、TOTOとクリナップロジスティクスとは、情報交換をなさっているとお聞きした。こうした改善活動は3年半前にスタートした。そのときに全面切り替えの案が示され、DCの自動コンベアラインやフローラックが撤去され、そのことを前提に作業者が地道に改善を繰り返した結果、今日の姿ができあがったという。
 昔、TOTO平塚工場を見学したことがあるが、いまは工場機能はなくなり、生産はすべて北九州に集約されてしまった。でも今日の講演の改善例はDCにおける改善だ。東京近郊では千葉DC(勝田台)がある。近々、千葉DCをネオロジのみなさんと一緒に訪問してみたい。講演の最後に加藤氏は、一つの提案をされた。荷札情報に統制がなく(各社まちまち)、配達業者は荷主ごとに個別の判断が必要になっている。6万社に上る配送業社における現場の荷札はさまざまであるという。これを統一するだけでも、大きな改善になるという。

『NECのロジスティクス活動』

  2013年5月16日第二講演

  小笠原 温氏(日本電気株式会社)

 講演の主題は「ビッグデータ・センサネットワークの活用」である。IT活動の高度化の話で、たとえばコンビニのPOSレジの活用(レジから売上商品情報のみならず、性別も入力して分析する)もその一例である。小笠原氏は物流品質向上策に焦点をあて、トレーザビリティーについて語られた。もちろん、WMSやTMSのもとでの活用法の考察である。最近、生鮮食品物流に関心をもつ物流事業者が増えている。とくに流通過程における品質維持を保証する新しい手段の必要性が叫ばれているのだ。いつ問題がおきたのか、流通で品質を担保する必要があるのだ。
 野菜は呼吸している。呼吸が速いほど品質劣化は進んでいく。それで、0℃と30℃では、呼吸速度は何倍になるだろうか。答は64倍だそれという。それはど早く劣化は進んでいくのだ。安全品質トレーサビリティーサービスが求められる。NECはNFC通信方式を提案している。そのときトレーサビリティーに求められる機能として、温度管理がある。特に「何℃のときなら、何分大丈夫か?」という基準、つまり温度+時間の管理の必要性があるのだ。講演の中で、一つのセンサタグが紹介された。藤田電機がつくったセンサタグである。このタグは時刻、温度、湿度、衝撃を記録することができる。NFC通信方式で非接触読み取りが可能である。これを流通過程全般に利用することで、業界のレベルアップになることは間違いない。もちろん、温度管理の基準つくりがそれ以前に求められる。どの位置で温度を計測するのか、どのくらいの周期で温度を測定するのかなどの品質管理基準を設定しなければならない。小笠原氏は、さまざまな事例を通して、その方法や事例(実証実験の結果)を示された。
 応用分野として福島県内500ヶ所に放射線測定センサを設置し、センサで測定した放射線量をスマホで閲覧する仕組みを示された。NECクラウドサーバを利用してデータを関連の方々に情報配信するのだ。こうして考えるとセンサ活用の応用範囲は極めて広くなる。

『アジア人材を活用したグローバル化の強化策』

  2013年4月25日第一講演

  大滝 令嗣氏(早稲田大学商学研究科)

 大滝氏はカリフォルニア大学の応用物理学で学位をとられ、その後、東芝、コンサルティング会社を経て、現在WBA(早稲田大学ビジネススクール)に務めておられる。担当はグローバルビジネスリーダー論、グローバル人事管理、サービスマネジメントを担当している。
 4年ほど前に、「日出ずる国の黄昏」という本が刊行された。いまや日本的経営はファッショナブルな用語ではなく、近年はJapanese Managementに関する関心も小さい。「日本的経営を真似するな」とさえも言われるようになった。20年後の日本大手製造業はどのようにグローバル展開するか。大滝先生のクラスでまとめた日系大手製造業のイメージは、かなり製造業の崩壊に近い。それよりは小さい確率ではあるが、製品開発部門は残って独立系ブティックとして生き残る、あるいは上手くいけばアジアにおけるリーダーにはなりうるというシナリオもある。真の意味でのグローバル化(世界を席巻する日本企業)のイメージとはかなりほど遠い姿である。日本におけるインターナショナル企業がトランスナショナル企業になるためには、グローバルビジネスリーダー(GBL)の出現がカギになる。
 講師は2012年夏に調査された「アジアにおける企業の人気度とグローバルマネジャーの資質要件に関する調査」(調査機関:ジョブストリート・アセアンビジネスコンサルティング)の結果を示された。アセアンに住む人たち8,300人を対象に企業の人気度を調査している(回答は20歳代から30歳代で70%程度をしめる)。統計全体では圧倒的にアメリカ企業で働きたいという希望が強い、次が英国、ローカル(自分が住む国)、オーストラリア、ドイツ、日本の順に人気があり、中国やインドを希望する人は少ない。そのほかMBA卒業生を対象とした同様の調査結果、あるいは国籍別(それぞれの国に在住する人を国別にとらえた)の人たちを対象にした同様の調査結果も示された。アジアにおいては、韓国、中国、台湾、インド企業の人気は日本企業を脅かすレベルにはなっていないようだ。
 日本の企業のMBA嫌い(MBAの卒業者を嫌う傾向)の理由づけは興味深かった。表向きには日本企業は、MBAが期待するようなスピードで昇進できる機会を提供できない保守的な風土なので、MBAには失望されてしまう。MBAに活躍してもらえるような場が提供できない。 といったような公式見解が示されるが、実際は 盲目的に従う未経験者しか使えない管理職イノベーションとか言いながら部下の提言を聞きたがらない管理職管理職自身が泥臭い仕事を嫌がっている外国人MBAに対して、外国語ができない周りが対応ができない優秀な人材を、「偉そうに~」と思う劣等意識 などが挙げられた。グローバル企業になろうとするなら乗り越えなければならない壁である。
 講演ではさらに、「称賛に値する」企業のランク付けが示されたが、トップ企業を見ると日本企業の少なさに驚かされる。優れたコーポレートブランディング、競争力のある製品とサービスがこうした高いランキングの必要条件となる。これからの日本企業は、アジアの優秀な人材のキャリア志向をよく理解したうえで、魅力ある職場づくりをおこない、エンプロイヤー・ブランディングを高める必要がある。

『ベンチャーファイナンス』

  2013年4月25日第二講演

  樋原 伸彦(早稲田大学商学研究科)

 講演者の樋原伸彦氏は東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て、コロンビア大学で学位を取られ、サスカチュワン大学(カナダ)のビジネススクールで教鞭をとられた。その後立命館を経て、本学へ赴任した。専門はこの日の話題であるベンチャーファイナンス、金融仲介論、企業金融である。
 1990年代後半、米国、ドイツ、日本ではVC(ベンチャーキャピタル)ファンドが次々と新設された。しかし、ITバブルが崩壊すると次第に投資リターンが思うほど回収できない現象が起きた。さらに追い打ちとかけてリーマンショックが起きると、金融市場の混乱に巻き込まれてVCファンドの資金調達が難しくなり、ベンチャー企業のIPO件数も減少してしまった。
 ベンチャー企業の分野はIT, バイオ、グリーンテックが主要分野である。それらの分野にVCが投資の魅力を見出しているわけだ。しかし、それらは巨大な投資額(メガ・ファンド)を必要とし、従来からのVCの規模では対応できない。しかし、ことITの分野に関しては、1990年代に比較して、現在は「リーン・スタートアップ」が可能であるという。つまり現在の資金需要を期待するセクターは大きな金額を必要とするグリーンテックと、あまり初期投資額を必要としないITセクターの2つがあることになる。
 VCの資金提供力が先細るなかで、最近欧米ではCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)が着目されている。社内ベンチャーに財務部門が投資をし、ベンチャー部門の発展を促すのだが、そこにはイノベーションのジレンマが存在する。つまり、事業会社には本来業務があり、顧客の目はむしろその会社の主要製品に関心があり、ベンチャープロジェクトにはあまり関心を寄せていない。その意味で、会社はどちらの製品に投資を傾けるかのジレンマに苛まれるわけだ。事業会社はそうしたベンチャー部門をスピンアウトさせて、事業会社が自社の外にあるベンチャー企業に資金提供する形態が生じている。
 樋原氏は、ロジスティクス分野への投資は社内で十分に行われているかという質問を投げかけられた。それはイノベーションのジレンマに似たような問題があり、ロジスティクスが企業内であまりにも横断的な活動ゆえ、資金の注入を躊躇する動きがないとは言えないのだ。 
 ネオロジ会員にとっては、通常の月例会とは少し異なった観点からの議論で、多少の理解のむずかしさはあったが、でも内部資本(資本金および預貯金などの利益源泉とするもので返済する必要のない資金)市場の課題が理解できたような気がする。

『フェデックスのロジスティクス』

  2013年3月21日第一講演

  山口 邦男氏(フェデラルエクスプレス)

 フェデックスの本社は北米のメンフィスにある。総従業員数30万人を抱える大企業で、一営業日あたり900万パッケージ以上を処理している。貨物拠点は世界中に52,000箇所ある。創業者のフレデリック・スミスは1944年生まれで、彼がエール大学を卒業したあとで起業しているので、今年で40周年になる。スミスは現在もフェデックスのCEOである。保有航空機は666機、世界の貨物機の総数が1740台であるから、いかにフェデックスの航空機の数が多いかに驚く。UPSと異なるのは、自前の飛行義を所有する点にある。集配から目的地への配送まで、世界どこでも自前の施設や設備でまかなえる点がすごい。いまでこそ貨物追跡は当たり前であるが、フェデックスはこれを1980年代から実施している。
 山口氏の講演は、そのあと国際貨物の60年あまりの歴史を紹介された。旅客機は1948年にパンナムとノースウェスト・オリエントが日本へ乗り入れた。同時に貨物輸送もスタートしたが、フェデックスが日本へ飛行機を飛ばしたのは1988年になる。その後、リーマンショック、JALカーゴの撤退、東日本大震災など航空貨物の需要は激動する時期になった。航空貨物は全貨物総量に対して、重量ベースで0.3%、金額では30%にあたる。航空輸送に適した製品は、高付加価値製品(軽量小型高額商品)、生鮮品、緊急品、生き物(ペンギン・馬・牛・パンダ・いるかなど)、世界同時発売の品などがある。山口氏は一つのケーススタディーを示された。対象となった企業ではリードタイムが70日から25日になったという。
 講演の最後に、フェデックスのユニークな人事制度を語ってくださった。従業員数は世界で30万人以上、日本で1664人、世界規模の企業の人事制度にはいくつかの制度がある。たとえば、P-S-P (ピープル・サービス・プロフィット)の3つの領域を考えること、部下が上司を評価する仕組み、社内申し立て制度、社内登用制度などを紹介くださった。さらには、フェデックスにはリーダーシップ9か条というものがあり、フェデックスの社員としての人格形成のあり方を述べている。何となく、一度そうした企業で働いてみたいという印象を抱かせてもらった。 <文責:藤田精一>

『世界唯一 国際物流に不可欠な総合的物流情報プラットフォーム NACCS』

  2013年3月21日第二講演

  山﨑 和之氏(NACCS)

 2013年の日本貿易額(輸入額と輸出額との和)は134兆円にのぼる。その34%は鉱物性燃料が占めており、現在日本が輸入超過の状態といえる。しかし、かりにこの鉱物性燃料を除いて考えれば、大きく輸出額が上回る。山﨑氏が所属するNACCSは輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社のことをさすが、合わせてその会社が提供するソフトウェアをNACCSと称している。NACCS社はNACCSソフトを利用者に提供することにより、総合的物流情報プラットフォームとして国際物流業務の効率化・迅速化に貢献している。したがって、NACCS社はNACCSの安定運用に努めとともに、高い安定性と信頼性、効率性と経済性を求めることになる。
 山﨑氏はこれまで、税関に籍をおいたこともあり、港湾情報には詳しい。彼の経験にもとづいて、日本の貿易額の推移を1990年から毎年の統計値を2012年まで(最新データを示して)語ってくださった。特に、エアコン、電気冷蔵庫、電子レンジ、IC、扇風機、ワインなどの輸出あるいは輸入の経時的変化を示していただいた。わが国の経済変化やその時々のブームなどが重なりあっていて興味深い。
 近年の国際物流の変化は、中国経済に依存する部分が大きい。日本の貿易相手国もアジア諸国になっている。さらに国際物流が拡大する中、物流の形態も多様化している。部品調達先も多様化しているし、海と空の複合輸送も増加している。多様化とスピードへの対応が急がれているのだ。その中でNACCSが国際物流の手続きの迅速化・簡素化をはかるべく、脚光を浴びてくるというわけだ。現在、わが国の輸出入申告の約98%がNACCSで処理されているという。これからは、申告手続きの国際化が求められ、国際標準の設定が強く要求されるという。<文責:藤田精一>

『自然派化粧品企業の通販ロジスティックスにおける現状問題点と改善案について』

  2013年2月21日第一講演

  安達 満氏(株式会社ネイチャーズウェイ)

 リーマンショック後、各産業の売り上げが減少していくなかで、化粧品は、微減少である。化粧品のなかでも通販化粧品は増加している。講演者は、自然派化粧品(ナチュラルコスメ)会社に勤務されている。この分野も堅調な需要がある。化粧品は女性が購入する。そのため、宅配便を使う場合でも、包装は女性向きにする必要がある。つまり、包装のデザインや包み紙のデザインには気持ちを込めるとよい。また、過剰包装は禁物。とくにガムテープをベタベタ貼ることはよくないなどのことが話された。本講演を通じて、インターネット通販の威力をあらためて見直した。とくに、化粧品の通販はそれなりに種々気配りが必要であることがわかった。<文責:黒須誠治>

『国内外生産拠点の業務品質を高めてグローバル競争を勝ち抜く!』

  2013年2月21日第二講演

  平山 堅二氏(株式会社アットストリーム)

 講師は、製造業を中心にコンサルタント業をなさっている。いま、製造業はその多くが海外に行ってしまっている。そこで問題となるのは、海外の工場を日本がどのようにコントロールしていくかということ。コントロールしようにも、実態がつかめないということだ。たとえば、グローバルでの損益が見えなくなっている。儲かっているのか損しているのかがよくわからない。さらに、どのような製品で儲かっているか、成長しているか、その内容が把握できない。そしてまた、現地生産でのオペレーションがどうなっているのかわからない。2次下請けや3次下請けになると、ほとんどわからなくなる。そこには大きなムダが潜んでいるように思われるが、日本人のほとんどがわからない状態である。こうした問題がたくさんある。<文責:黒須誠治>

『味の素株式会社―バリューチェーンと物流品質ー』

  2013年1月17日第一講演 

  田辺 多聞氏(味の素株式会社)

 味の素は1909年に、池田菊苗博士が発見した昆布の「うま味」をもとに、鈴木三郎助が「味の素」を事業化した。人間の舌は甘み、塩味、酸味、辛味に加えて5つ目の要素が「うま味」を感じ取る。味の素社は食品、バイオ・ファイン、医療・健康分野にまで事業を拡大している。マーケットは世界規模で、最近5年間ではバングラディッシュ、エジプト、インドに拠点を置いた。
 物流拠点としては補充拠点と配送拠点を有している。生産工場には仮り置き倉庫があるが、それはあくまでも仮り置きが目的で一保管場所として補充拠点がある。この補充拠点までは工場の原価となる。ここからエリアごとの配送拠点へと配送されて、家庭向け、業務向け、加工ユーザー向けへと振り分けられる。配送拠点の在庫はかなり薄く、それを補充拠点がカバーする形になっている。
 味の素の物流品質に関する取組みはかなり積極的である。2000年代に発生した食品事件はかなりの数にのぼった(食中毒、BSE、虚偽表示、鶏インフルエンザ、賞味期限の改ざんなど)。その対策をかねて、製品の品質保証を約束する方針として、消費者からの情報フィードバック、情報のオープン化、安全のために妥協しない姿勢、アスカとよばれる品質基準の構築などをあげられた。具体的な物流品質基準も紹介いただいた。商品維持品質、納期品質、作業品質、安全品質など、10を超える品質基準がある。講演ではさらに、有事の物流品質の確保(平時の物流品質を通じて、有事における荷主、物流事業者などとの連携体制)、輸出の物流品質の確保(AEO: Authorized Economic Operator)の活用)にも触れられた。
 講演は物流品質を中心に構成され、会員にとっては、これまで漠然と捉えていた物流品質の考え方がはっきりと伝わってきた。物流ネットワークの中に、物流品質確保の仕組みを組込んでいく姿勢がすばらしい。今回の講演は国内物流に話題が絞られたが、世界規模のマーケットに商品を供給する味の素社の国際物流にも関心がわいてきた。<文責:藤田精一>

『ハウス食品におけるロジスティクス―特に事業継続について―』

  2013年1月17日第二講演 

  早川 哲志氏(ハウス物流サービス株式会社)

 早川氏はハウス食品からハウス物流サービスに移られ、現在取締役社長を務めている。ハウス食品時代を含めて20年以上物流業務に携わり、今日の話は彼の経験にもとづいた講演であった。食品は賞味期限の7分の1が鮮度基準になっている。たとえば、ラーメンには6ヶ月の賞味期限があるが、鮮度基準は1ヶ月になる。この日付問題が食品物流を大きく変えてきたという。
 ハウス食品SCMの特徴は、工場が単品生産のため、そこで作られた製品は全国出荷になる。工場の製造アイテム数が少なく、配送ロットは逆に大きくなってしまう。常温物流が主体で、得意先(納品先)は卸で、そこでは量販の取扱数が多い。ハウス食品のSCM部の特徴は需給管理業務(需要計画、生産計画、在庫計画、在庫配置計画など)にある。そのほかにSCM関連部署との協業(在庫水準の提言、廃棄ロスの削減など)がある。
 今回の講演ではBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)について詳しく説明された。東日本大震災のときは、仙台営業所が大きな被害を受け、東北エリアの配送は栃木配送センターが対応した(業務用は東京配送センター)。そしてこれまでの翌日配送を翌々日配送にした。6月末に仙台営業所からの保管・輸配送機能が完全復旧し、震災前の体制に戻すことができた。震災からの教訓は、被害からの回復をいかに短期化するか、被害をどれだけ最小化するかの2点に絞られた。利用する物流会社のリスク対応力が荷主のリスク対応力につながってくるという。こうした経験を踏まえて、BCP策定のプロセスとしては、リスクの洗い出し、リスクの評価と選別、そして選別されたリスクへの対応策の検討を構築された。BCPプロセスの中での大きな課題は、現状把握が不足していることだった。各拠点の設備も部分的な改修程度で、拠点全体としてのリスク管理がいまひとつであるし、各拠点のリスク評価はできても、拠点間の総合的は現状把握がまだ不十分なのだ。
 震災後のSCM見直し策としては、在庫削減の見直しの動き(SKUごとに在庫率を設定する)、顧客ごとの要求事項の変化への対応(たとえば、小口物流の共配化)、拠点の分散化、輸送手段の多様化などをあげられた。震災からの教訓を的確にとらえ、そのために何をすべきか、物流会社として何か主要な課題となるのか、一般論としての指摘とともに、ハウス物流サービスがBCPのために何を行ってきたかを発表くださった。<文責:藤田精一>

『ベトナムにおける物流への取組み』

  2012年12月20日第一講演

  長岡 敏己氏(日本梱包運輸倉庫株式会社)

 日本梱包運輸倉庫株式会社は、1953年にある自動車メーカーの梱包作業をしていたのが独立して、その後、それに輸送業務を加え、さらには倉庫業務を加えて、現在のような会社名になったという。会社の設立は1953年、その後、アメリカに現地法人設立(1987)、中国・タイ(1994)、フィリピン(2000)、インドネシア(2002)、ベトナム(2006)、ブラジル(2010)、メキシコ・インド(2011)と海外展開をはかってきた。事業は運送、梱包、倉庫、テスト事業(走行テスト)、通関、引越し、イベント事業へと拡大している。今後もさらに事業領域の拡大(たとえば、得意領域の進化、海外展開、環境ビジネス、変化に対する対応能力の強化)を計画している(新中期計画)。
 今回の講演の中心課題はベトナムでの事業展開である。会社はハノイ(2拠点)、ダナン、ホーチミンの4箇所に拠点を構えている。世界標準の物流パートナーでありたいと願いつつ、ベトナムにおける一貫物流体制を構築しつつある。南北1700kmの細長いベトナムの国土で、北と南の間の往復輸送を、トラック輸送、鉄道輸送、海上輸送で行っている。世界標準という観点からはDCC(Delivery Control Center)オペレーションの構築をはかり、2輪車の自動車部品受け渡しの制度を向上している。
 会社のこれからの課題としては、現在進出している海外9カ国における業務基盤を確立し国際一貫複合輸送を展開することにある。二輪生産量の今後10年間の見通しは、まだまだ右肩上がりに増大する。今後は特に、アセアン・西アジア、南米、アフリカに成長が期待できる。また二輪車生産メーカーもこうした地域への進出する方向にある。今後の会社の成長を大いに期待したい。 <文責:藤田精一>

『狭小商圏時代に流通業は何をすべきか』

  2012年12月20日第二講演

  平野 健二氏(株式会社サンキュードラッグ)

 サンキュードラッグは北九州門司周辺に展開するドラッグストアである。現在64店舗を展開し年商240億円をあげている。狭い地域社会の中で店舗をかまえ、来客は店舗近郊に住む人たちが圧倒的に多い。地域の特色は高齢化率が全国一位で、60歳以上が45%を占めるという。単身独居老人が多い。どのようなビジネスモデルが展開できるかというのが講演の主テーマであった。将来を見ても人口は減少するし、市場も縮小していく。一店舗のカバーできる領域も小さく、人々は400mから500m以内にある店へ出かけるという。スーパーに比べて、ドラッグストアはどちらかといえばパーソナルケア商品を多く販売している。特に医療品や化粧品になると、顧客は遠くの店へ買いにでかけることはないし、値段も中程度である。問題は、販売商品の価値伝達をどのように行うかだ。それが狭小商圏ストアの課題になる。
 従来からPOSデータは基本的に何が何個売れたかというデータを収集してきた。大商圏のツールとしてはふさわしい。狭小商圏の場合は誰が何を買ったかの方が大事になる。商品を1000個売るよりは、10回買い続ける人を100人作る手段を考えることだ。そこでは「買う理由」ではなくて「買い続ける理由」のデータを探索することになる。こうしたデータを収集する方法を、平野氏はID-POSマーケティングとよんでいる。一つの事例として、口臭の元となる舌苔(ぜったい)を除去する菓子があった。若者向けのCMを流したところ、20~30歳代の若者はそれを買ってくれるが、ほとんどが一回きりの購入だった。ところが60歳代の客は、人数は少ないが、圧倒的にリピート率が高かったという。
 「集客力は顧客との距離の2乗に反比例する」と言われている。従来からの広商圏の大規模店舗のマーケティング戦略とは異なったビジネスを展開していく必要がある。それは大手スーパーの周辺に展開されるコンビニのようでもある。近距離というのは、それなりに小さな小売店にとっては有利な条件だ。地域をDowntown--Urban--Suburban—Ruralと分けるならば、サンキュードラッグにとって有利となる地域はUrbanになるという。顧客ターゲットを絞り、そのターゲットにふさわしいメッセージを流すことによって、小さな小売店は生き延びるどころか、次第に力を強めていくわけだ。講演を聴いていて、単に顧客情報を集めるだけでなく、顧客に適切な価値伝達を行うにふさわしいデータを収集することが大事だと理解した。<文責:藤田精一>

『日本の運輸業の課題と対応』

 2012年11月15日第一講演

 武田 正治氏(武田ロジスティクス研究所)

 武田氏は79歳の高齢であるが大変お元気で、これまでの経験をもとにトラック業界の課題と将来展望について語られた。特に、客観的データをもとに日本経済衰退の原因や、トラック業界の問題点を浮き彫りにされた。
 輸送荷物は、2001年には6500トンあったものが、2012年には4800万トンへと減少した。その間にGDPは上がれども、物流は軽薄短小(つまり小ロット化)となり、トラック業界は衰退してきた。景気はお金の流れ(フロー)によって刺激されるが、現実はフローがストックに変わったのだ。したがって、日銀が金融緩和と称して多額のマネーを市場へ供給しても、それは人々の貯蓄にまわるだけで経済は一向に上向かない。トラック業界への影響は、平成元年に公布された物流二法の施行により、それまでの免許制が許可制になり、トラック会社の数は一挙に倍増した。平成元年に運送事業者数は一般貨物自動車で35,888名から 平成22年には57,537名へと倍増しているのだ。なかでも10台以下のトラックを所有する事業者数が57%と多い(平成23年統計)。ところが貨物自動車の車両数はその間に1000万台から800万台へと減少している。一方、ドライバーは高齢化しパート労働が顕著になった。給与も歩合給化し、なおかつ低所得化している。大型免許のドライバーは圧倒的に高齢者で、若者の車(トラックの運転)離れは明らかである。加えて長時間拘束という弊害もある。こうしたトラック輸送をめぐるさまざまな現象を、実データ統計をもって示された。
 武田氏は人間工学で学位を手取しておられる。講演の最後に、トラックドライバーの人間工学的見地からの内容を話された。武田氏によれば、高齢運転労働者の負荷の見直しが必要である。平衡機能の衰え(荷役時の転落増加)、薄明順応の衰え(夕方や明け方の識別能力の低下)は高齢者の典型的な現象である。
 講演のまとめとして、トラックに限らずあらゆる輸送モードを考え、全体最適の中からコストがミニマムになるような合理的手段を再検討する必要があること、またJR貨物などは彼らの持つネットワーク全体をみて判断すること、海運業については、従来の慣習を打破して港湾労働を見直す必要があることを述べられた。今後の課題としては、JR貨物については両端(始発駅と到着駅)の移送距離を検討すること、海運はJRとの複合一貫輸送を期待すること、自動車輸送の長時間拘束の改善、製造のリードタイムに余裕をもたせることなどを提案された。 <文責:藤田精一>

『植物工場の将来と課題』

  2012年11月15日第二講演

  山口 一彦氏(ベルグアース株式会社)

 ベルグアースというのはドイツ語のベルグ(山)と英語のアース(地球)の合成語である。代表取締役の山口氏は農家の息子として生まれ、農業高校を卒業後、電照菊の栽培に携わったが、事業には失敗してしまった。25歳のときに、野菜の苗つくりを開始していまの事業にたどりついている。そして農業に革命を起こすことを夢に、いまその実現にまい進している。苗作りが事業の基本である。企業理念としては農業に役立つことを実践していくことだ。現在220名(うち正社員は170名ほど)の社員を抱えている。
 講演ではベルグアースの生産部研究技術開発主任の瓦朋子氏が技術的な解説をされた。現在の苗の生産は閉鎖型苗生産システムで、これにより無農薬・無病害の苗を提供できる。今回はトマトの例を取って話された。トマトの第一花房の位置をできるだけ低い位置にすることは農家の作業軽減に結びつく。苗の飼育段階で第一花房の位置を安定化できるという。苗を閉鎖型の部屋で飼育するため、光、水、温度、CO2といった環境を制御できる。光合成なども効率よく行うことができ(苗に含まれるアントシアニンの含有量が多くなる)て、より強い苗を生産できて。定植後も比較的早くトマトを収穫できるそうだ。
 瓦氏は、接木の技術についても語ってくださった。ヌードメイク苗というのだが、苗は断根接ぎ木してある。販売する苗には根も土もついていないことになる。接ぎ木は素人の自分でもやろうと思えばできるそうだが、プロの方がやると圧倒的に歩留まり率が高い。苗は、昔はポットに土をいれて、そこに苗1本植えて運んでいたが、断根接ぎ木苗ならば束にして運べるので、運搬コストそのものを低減できる。瓦氏の話の中に何度か出てきた表現だが「苗に適度なストレスを与えると、苗にしまりと強さを与える」という。そして苗の段階で定植後の生育がある程度決まってくるので、それほどに苗づくりが大切だという。
 今回の講演では、山口社長が会社経営の問題また将来の夢を語り、瓦氏が苗育成技術の問題について語られた。ある意味ではベンチャービジネスであるが、年商100億円を目指して進むその姿は、講演を拝聴していて心地よく感じた。 <文責:藤田精一>

『次世代EDIの推進』

  2012年10月18日第一講演

  菅又 久直氏(サプライチェーン情報基盤研究会)

 菅又氏は33年間IBMに勤務され、そのあとしばらくして現在のサプライチェーン情報基盤研究会に移られた。今回の講演では、3つの話題をカバーした。一つ目はビジネスインフラの整備でEDIのこれまでの経過と現状の説明、2つ目が海外、特にアジアにおけるビジネスインフラについて、そして三つ目は菅又氏が所属するサプライチェーン情報基盤研究会の活動である。
 EDIの変遷であるが、その始まりは1985年に電気通信法が改定されたときで、それまでは関連企業内で使われていたものが、電話線を利用してデータ通信が行われるようになった。1995年にはWindows95が発表されて、インターネットの利用に移行し始めた。2000年にはEDI(XML)の利用、さらに2005年にRFID、2010年にクラウド時代に突入していった。現在も問題点はないわけではない。業界の中ではいわゆる縦型のEDIは確立されてはいるが、業界の間(特に、その業界における何層か下の企業)のやり取りは依然として手作業だという。ある意味ではサプライチェーンそのものが、ピラミッド型からメッシュ化型になってきたからだ。その意味ではEDIを享受しているのは大企業だとも言える。
 業界標準をどうするか。新しい枠組みと作って実証する試みも繰り広げられてきた。そのためのEDIに課された条件は国際化、業際化、それと健全性である。健全性についていえば、下請け企業に不当な負担を強いることを避けるべきである。業際性については、前に述べた異なる協会に属する取引先との情報交換において、業界ごとの異なる対応が最小限であること。国際性については、国際EDIに準拠していることである。菅又氏は、それぞれにおいて望ましい姿を提起された。たとえば、業界横断EDIの実現については異業種間をつなげる共通辞書の必要性をとかれた。
 アジアにおけるビジネスインフラについて、AFAXTにおけるビジネスインフラ整備計画を示されるとともに、アジアのおける成功事例を紹介くださった。タイでは鶏肉の加工(焼き鳥用に加工するようなケース)のトレーサビリティーが進んでいるようだ。
 サプライチェーン情報基盤研究会(SIPS)は、国内におけるビジネスインフラ構築を進めてきた次世代EDI推進協議会の成果(業界横断EDI仕様V1.1 )を継承し、グローバルな情報連携との相互運用性を保ちながら、その成果を金流・商流情報連携を含め、サプライチェーンに係わる業務・業種に幅広く拡大していく役割を担って、国連CEFACT日本委員会のもとに設置されている。
 菅又氏は、EDIの歴史、現状、課題を高度な立場で論じられた。その意味ではこの領域を専門にしている方々には、おおいに参考となる情報を得られたといえる。<文責:藤田精一>

『UDトラックスのロジスティクス活動』

  2012年10月18日第二講演

  酒巻 孝光氏 UDトラックス株式会社 

 講演者の酒巻氏は早稲田大学理工学部の卒業生で、久しぶりにキャンパスを訪れて昔を思い出しておられた。UDトラックス㈱は、以前は日産ジーゼル社として知られていた会社で2010年にボルボと経営統合した。酒巻氏はそこでパワートレイン生産の責任者を務めておられる。パワートレインというのはエンジン周りで、エンジン本体とプロペラシャフト、トランスミッション、それにデフをも含んだ部分の名称である。UDというのは会社が1955年に、Uniflow Scavenging Diesel Engineの開発時につけた名称である。国内にはトラック製造の4つの大手があった。従来はその4社との競合であったものが、ボルボとの経営統合によって世界市場を視点にものごとを考えるようになったという。部品調達も製品の出荷もグローバル市場をにらんだ議論が必要になった。たとえば、部品のグローバル調達やアジア戦略といった見方である。
 パワートレインの一部では日本で製造されているが、部品は世界6拠点(ヨーロッパ、アメリカ、南アフリカ、アジアなど)から調達している。エンジンにはボルボ仕様があり、エンジンのベースはボルボグループの中で世界統一されているという。製造はプル方式(引き取り方式)で、部品要求をその都度発する必要がある。問題はその調達期間で、ヨーロッパの部品をスエーデン(ボルボの本社がある)を通して調達すると、日本での格納期間を含めて12週間もかかってしまう。アメリカでも10週間を余儀なくされている。こうした調達期間の短縮は大きな課題となっている。
 生産方式も世界統一だが、日本が従来からやっていた混流生産とか、Moving AGV(ラインを動かしながら生産する)方式は、逆に世界のボルボグループが日本のやり方に驚いているという。
 酒巻氏は、経営統合を図った企業が抱える問題点を中心に、課題解決のヒントを紹介くださった。人口650万人のスエーデンが生き延びるために、スエーデンは常に世界市場を視野において考えている。そうした本社の意向を念頭において、アジアの責任者としてどのようなご苦労をしているかを語られた。お話の内容は、初心者にも理解ができるよう噛み砕いて話を進めてくださった。トラックという堅物のイメージがソフトに感じられるようになった。 <文責:藤田精一>

『 中国物流 』

  2012年9月20日第一講演

  神並 充氏(丸協運輸株式会社 中国法人 総経理)

 折りしも9月ネオロジ月例会が開催された前々日に、中国で大規模な反日デモが行われ多くの会員の方々の関心は中国に集まっていた。今回の講演者は中国に17年間駐在されておられ、中国事情に大変詳しい。神並氏ははじめに中国事情を紹介された。神並氏は中国上海の物流基地の総経理でおられる。神並氏の見方では、日本人も中国人もものの考え方はそれほど変わらず、あえて違いを探るならば、中国人の方がバラツキが大きいことであるという。つまり極端な人たちがいて、今回のデモ騒ぎもそうした人たちの参加ではないかと考えておられた。同様に倉庫についても規模のバラツキが日本より大きいようだ。職場では中国人に大いなる期待をかけると、それなりに成長していく。大変面子を重んじられる人たちが多く、期待を寄せれば必ず応えてくれるというのだ。中国はこれまでは世界の工場とよばれてきたが、これからは世界の市場として発展していく。農耕民族の日本人に比べると、中国人は狩猟民族である。獲物にたかる傾向があり、あまりにも多くの人たちが獲物に集中するので値崩れにつながってしまう。それと中国の人たちは予測技術が弱いと観察された。出勤にしても日々の遅刻者の数は多く、特に月曜日と雨天の遅刻が目立つ。それならそれに該当する日には早く家を出るという考えをもって欲しいと願っておられた。中国人が日本人にもつ印象は「未来から来た人」というイメージだ。いまでもその考えは若干残っているそうだ。
 丸協運輸は1994年に中国へ進出している。その頃はまだ日本企業の数も少なく、物流の概念も乏しくて、モノがきちんと届かないという時代だった。トラック輸送も過積載のトラックが多く、何枚かの写真にはトラックが横倒しになっていたり、日本の基準から見れば明らかに違反と思えるような状況も写っていた。なにしろ輸送効率が最優先で、輸送コストを下げても過積載で稼ぐというビジネスなのだ。国際化の中で、いずれはコンプライアンスに問題が浮上してくる。その中で日系の運送業のチャーター便は安心であるけれども値段が高く、それに比べて現地運送会社のチャーター便や混載便は値段は安いものの信頼性が薄いという。丸協運輸はその中で、混載便でしかも信頼性の高い輸送を売りにしてきた。中国国内に18拠点をもつ丸協の強みはそこにあるようだ。ただ輸送を取り巻く環境は厳しく、天候の変化や山賊の襲撃、さらには警察官の賄賂の問題など、過去には(といってもそれほど昔のことではない)などに悩まされたこともあった。
 丸協は中国での営業の開始当時は、化粧品のディスプレイや展示会場のツールなど壊れやすいモノをあつかってきた。それが拠点整備や伝票のGPS化のような工夫をほどこしたりして、いまではビジネスの範囲も大きく広がってきた。上海では電子部品の輸送も引受けている。現在は沿岸部の物量は減少傾向にあるが、反対に内陸部の物量は増加している。
 神並氏はさまざまな角度から中国人の気質を紹介くださった。中国の低賃金もそろそろ限界にきている。特に一緒に働いていると日本人の給与と中国人の給与の格差にクレームがつき、最近は給与の見えない化を図っている。中国物流については東部では付加価値が高いのに、西部では低く、その格差が極端なのが問題になりかねない。東から西へ運ぶ荷物はあっても、西から東へ運ぶ荷物がない。ただ最近、重慶からヨーロッパを結ぶ鉄道の計画が持ち上がり、将来これが新たな物流経路になる可能性があるという。
 神並氏の講演は、経験にもとづいた話が中心だったが、細かい丸協の業務については紙の資料に要点をまとめて示された。これらの中国の経済成長の原動力は内需の拡大にあるとして講演を締めくくられた。<文責:藤田精一>

『 ロジスティクスを語らないトヨタ 』

  2012年9月20日第二講演

  桒原 利行氏(トヨタ自動車株式会社 販売店業務部 プロフェッショナル・パートナー)

 桒原(くわはら)氏は愛知のお寺さんに産まれ、利行(りぎょう)をいう名をもつ。利行おというのは、他の利益のために働けという意味だそうだ。トヨタ自動車販売の商品企画部に所属された。桒原氏によれば、トヨタの成長の中に何人かの献身者がいて、その一人が中村健也氏だという。中村氏は戦後間もない頃、豊田喜一郎とともにトヨタの乗用車生産の開始を強く望んだ人である。日本を作りなおす(未来を作る)には夢を持つこと。その夢の創作に中村氏の貢献が大きかったと言える。日本のカーメーカーを見ると、開発技術、生産技術、それと販売技術のそれぞれの分野で優れた技術をもっている。昔から販売のトヨタ、技術の日産と言われてきたが、日産は戦後間もない頃は鋳物の技術は素晴らしかった。トヨタは織機からの技術継承である。
 桒原氏の主張は「技術はあとからついてくる」という考えだ。多分にマーケティング思考である。商品を開発するとそれが使われる現場で試す。そこからのフィードバックはまた技術の発展につながるという考え方である。戦後の商品は特にそうだったかもしれない。井深氏の電気座布団、電気おひつは確かにそうだ。
 感想だが、いま大学でイノベーションを教えるときに、テクノロジー・プッシュとデマンド・プルという考え方がある。デマンド・プルというのが、桒原氏の主張に近い。テクノロジー・プッシュの代表例としてドルビーの音響システムやボーズのスピーカーがあげられるが、いわゆる科学者が自分の理論を具現化して商品に結びつけるというパターンである。その後クラインがチェーンリンクドモデルを発表するが、イノベーションの発展をマーケティングからはじめ、大きなフィードバックでそれを技術開発から商品化へと結びつけている。そのフィードバックの間に技術の蓄積がなされて、より大きなイノベーションへとつながっていくのだ。
 桒原氏の講演は、マーケティングサイドからみたトヨタシステムで、その面から見ると、「技術はあとからついてくる」という説も一理ある。ただ、イノベーションの世界ではトヨタ生産システムは、プロセス・イノベーションの典型的な例として捕らえる人々が多く、その人たちから言わせれば、マーケット主導のイノベーションとは到底思えないと言われるかもしれない。 <文責:藤田精一>

『 MHS業界への提言 』

  2012年7月19日第一講演

  大西 忠氏(株式会社ダイフク 顧問)

 1960年にダイフクに入社した大西氏は、はじめは港で乙仲の仕事に携わり、マテハンの必要性を学んだという。現場から学ぶ姿勢を身につけることの大切さを強調された。歴史をたどればエジプトのピラミッドがある。あれだけの構造物をマテハンの知恵なしに作り上げたとはとうてい思えない。戦後、1950年ころに庫内の高所に資材を運ぶコンベアがはじめて作られた。そこが原点で、自動車会社にチェーンコンベアが導入され、国際化とあいまって、国際貨物を輸送するためのハンドリングシステムなど、次々と次世代のニーズを満たすMHS(マテハンシステム)が開発された。自動化倉庫、工場のFMS無人化システム、半導体の搬送ラインも、こうしたマテハン技術の応用である。
 大西氏の話を総合すると、川上から川下へと物を動かす活動を支援する機器や情報技術(バーコード、RFIDなど)を総称して、マテリアルハンドリングシステム(MHS)とよんでいる。最近のダイフク社の製品納入事例を、流通分野、生産分野、また海外事例を含めてビデオで示された。マテハンの50年史として、生産や流通業界の変遷とマテハンの進化を表の形にまとめられたが、初学者には貴重な資料となる。流通業界では世の中がマーケットインからマーケットアウトに変化するにつれて、その変化に対応したマテハン機器が開発されてきた。パレット運搬からケース、さらにはピースハンドリングの機器が開発された。
 近年の業界として、コンビニや通販も取り上げられた。大西氏は、物流は最終的には社会システムを扱うことになると主張されたが、この考え方には共感できる。ここからは自分の考え方であるが、物は展示物でない限り、必ず運搬しなければならない。たとえば、将来の災害に対して、物を保管しておくのはいいとしても、保管した物は必ず運搬しなければならないことを念頭に置くべきだと思う。現在、物資の保管の必要性について人々の認識はあるものの、それをどのように被災者に搬送するかの議論がほとんどない。緊急の状態で、電気もこない状態で、どうやってどこへ運んだらいいかは、事前に考えておくべきことだと思う。平時において何を保管するかとともに、保管したものをどのようにどこへ運ぶかも 考えておくことの必要性を感じている。動力なしで運搬できるようなマテハン機器をあらかじめ開発しおいて、物資とともに保管する社会システムを構築したい。 <文責:藤田精一>

『 顧客ロイヤルティとマネジメントの課題 』

  2012年6月21日第一講演

  四條 亨氏(株式会社NTTデータ経営研究所 アソシエイトパートナー)

 講演者の四條氏は、大学を卒業後、長銀に勤められてから現在のNTT経営研究所へ移られ、それ以降、この分野の研究を始められたようだ。顧客満足という用語はよく使われるが、「僕はあの会社の誰それと懇意にしているから大丈夫だ」などといっても、それは点と点との接点であって時に裏切られることがある。顧客の顔が見えている、顧客接点をもっている、顧客の要望にこたえているなどとよく言うが、それは思い込みにすぎないことも多い。顧客満足のレベルから顧客ロイヤルティ向上型の活動へと移っていく必要がある。ロイヤルティの獲得、それは顧客との強いパートナーシップの確立であり、平たくいうとファンになってもらうというイメージだ。
 満足とは顧客の期待にいかに応えるかにある。だから、顧客とお付き合いをしていると顧客の期待が高まり、満足は自然と低減していく。そのためのマネジメントが必要なのだ。よく営業が数値管理で業績評価をしようとする。これは、マネジメントによる管理を阻害してしまう原因となる。マーケティングは数値管理、そして営業は行動管理の必要がある。営業担当者のノルマ管理をはずし、売りやすいモノを売りやすい先に売るのではなくて、ターゲット顧客に適切な製品群を販売する方向に持っていかなければならない。四條氏は2つの事例をとおして、営業の仕組みを変える政策を示された。当然のことながら、変革には抵抗がつきものである。特に組織の行動変化を促進することは、KPI管理だけでは限界があるとした。
 講演を拝聴して、確かに最近の顧客は多様性を増していることを認識した。自分の研究分野にも、「お客様は悪魔です。あれだけお付き合いをしていたのに、ある日突然、自分の会社から黙って離れていった」などというケースはいくらでもある。顧客とのパートナーシップを築くことは必要だ。また事業のなかで、そのような組織の仕組みを変革していくことを考えなければならない。たとえば、3PL事業などは顧客と契約を結ぶことができれば、なかなか離れにくいという。そうしたマネジメント能力が高く評価される時期がそろそろ到来するはずだ。 <文責:藤田精一>

『 食品の冷凍技術とコールドチェーンについて 』

  2012年6月21日第二講演

  篠崎 聡氏(株式会社前川製作所技術研究所 次長)

 船舶など大型の冷蔵装置でトップメーカーの㈱前川製作所、篠崎氏の講演では、主に食品関係の冷凍・冷蔵装置と技術について講演いただいた。
 現在の冷凍食品の多様性の実現は、様々な試行錯誤の結実であることが理解できた。急速冷凍、緩慢冷凍、氷結温度帯、湿度のレベル、解凍の方法等など、様々な食材に対してやってみなければ分らない実験を、地道に積み重ねてきた末の技術の結実である。
 食品で特にロジスティクスの面から興味深かったのは、食パンである。現状の食パンの流通で実に90%以上に冷凍が絡んでいるそうである。食パンの製造工程は、粉をこねて生地を作りそれを個々の形に成型して焼き上げる、という割に単純なものであると想像していた。しかしパン食文化が拡大し、販売店舗数が急速に増大しチェーン店化が進んだことが、冷凍の出番となった。即ち、大量生産された生地の段階、成型後の生地の段階など、流通過程のどの時点で冷凍を施し、遠近さまざまに立地している末端の店舗に最適な状態で運ぶのが全体の物流の中でベストであるのか、ということをマネージすることが重要となったのである。
 ㈱前川製作所という企業風土・体質に興味が持たれる。特に、現場を重要視した解析的・実証的な体質であるという印象を強く受けた。経営トップからの上位下達的ではなく、現場への権限移譲あるいは現場第一主義ともいうべきものである。同時に、顧客の課題を顧客と一緒になって解決していくという姿勢が色濃い。一つの例が、鶏肉の脱骨自動機の開発「トリダス」である。もともと鶏肉の冷凍装置の設置のニーズで顧客企業の現場に入ったところ、顧客の工場の製造過程で、鳥の解体が完了した後の冷凍よりも、コスト面で前工程の人の手による腿肉の解体が大きな課題であることを感知し、腿肉の自動解体装置を開発したのである。冷凍技術とは全く関係の無い機械の開発まで行うこのような柔軟な対応は、普通の企業ではどうだろうか。守備範囲を超えているということで、先ずは踏み込まない。やるとしても社内の面倒な根回しなどがからみ、実現には時間が掛かるであろう。長年の経験から機械製造全般のノウハウが蓄積されて現在に至った、素晴らしい組織ではなかろうか。将来も多様な分野への進出を目論んでいるとのことなので、楽しみな企業である。<文責:酒井路朗>

『 カプスゲル・ジャパンのSCM活動 』

  2012年5月17日第一講演

  杉本 潤氏(カプスゲル・ジャパン株式会社 サプライチェーンマネジメント部長)

 従業員200名の典型的な中小企業が技能を売り物に、投資ファンドの支援で堅実にビジネスを展開している様子を話された。製品は薬のカプセルであり、これを受注生産、見越生産で製薬メーカーに供給している。どこにでも見られるパターンだが、供給の仕組みを講演者の前職であったJFEと比較していた。ものづくりという点で、その共通点に着目していたのが面白い。この講演でいくつか気のついた点を述べる。
投資ファンドと企業活動とのかかわり
 かつてナピスコを買収して話題となったKKR社の傘下のカプスゲル社の日本法人が作るカプセルはわれわれの生活に身近に存在している。多様な薬のカプセルだ。私の身のまわりにある持薬もカプセルに入っている。ここに投資しているKKR社のような投資ファンドについては日頃、われわれの議論の外にあるように思う。だが身近に実は存在しているようだ。今日、米国の大統領選で話題になっているロムニー氏は84年ペイトン社を設立し、企業を買収、立て直した後、売却して利益を上げたといわれている。これが投資ファンドの仕事だ。最近では多くの企業の背後に投資ファンドの影がある。ところで、投資ファンドは、どこまで具体的な経営にかかわるのか。おそらく、カプセルの作り方までをアドバイスすることはないだろう。人事にはかかわりをもつのか。投資ファンドはただ利益を上げるというだけでは説明がつかない。どのような社会的な責任のもとに行動するのか。機能展開で明らかにしようとすれば、優良企業に資金を提供する。計画を満たす資金の下で、もの作りを支援し、人々の生活に貢献するというつながりが、投資ファンドの存在意義となるのだろうか。単に儲ける、利益を上げるという目的ではないはずだ。だが、ややもすると投資ファンドが現代の大金貸しのような暗いイメージがあるのは、人々の生活に貢献するというつながりが明らかになっていないからなのだろう。では人事は、経営戦略はとなると投資ファンドには経営にどこまで関与するのかといった研究課題があるように思う。
薬品サプライチェーンとしての見方
 カプセルは中に薬をつめるから、当然カプセル製造は薬品製造ラインに機能的にはつながっている。もしピッチタイムが合えば物理的にもつなげることができる。しかし、カプセル製造と薬品製造は歴史的に別々に発展してきたので、独立した企業がいま分担している。もともとサプライチェーンというのは自律した企業の連鎖によって構成されるといういい方をするが、これらは条件さえ整えば一貫する。サプライチェーンの理想像は機能、工程の一貫したつながりである。それが経済的、技術的な制約によって異なる企業によって分担されているのだ。
そこで統合ラインを一度考えてみるとどうなるか。
 ある企業で異なった作業帽子をかぶった女子の組立員がラインで仕事をしているのを目撃した。聞くと企業が異なるというのである。統合された工程の編成途中なのだろう。まずつなぎ、条件を整える開発をし、インライン方式として組み込んでいく。コカコーラがかつてバイプラントといって容器作成ラインをつなげていた。技術的に異なる要素があるので、二つを接近させ、連結したのであろう。自動車の組立ラインもその中にモジュール組立を担当する企業を含んでいる。
 ある食品メーカーで容器製造を充填工程と直結したことがあった。これで在庫問題はスッキリした。もちろん、ピッチを合わせるために機器開発を行った。
 こうして、サプライチェーン全体を一体化し、統合する努力をしてみてはどうか?しかし、反面重厚長大のシステムがフレキシビリティを失うという欠点が出てしまう。そうなれば、さらにその解決を追求する。かくして改善は不断のものとなる。
 カプセルに入った薬品の流れを下方に展開していくと、体内に入って人体の必要な器官に薬剤を運ぶということになる。単に人間に薬剤を提供するといった見方だけでなく、もっと細分化された究極のサプライチェーンが見えてくるように思った。小さいだけに全体が見易く、特徴もはっきりしていて、典型的な中小企業のもつ様々な問題点をいろいろ教えてくれた講演であった。 <文責:高橋輝男>

 『 大成建設におけるエンジニアリング本部でのビジネス紹介ロジスティクス分野戦略展開について 』

  2012年5月17日第二講演

  倉林 宏行氏(大成建設株式会社 エンジニアリング本部統括グループ部長)

 倉林氏はネオロジ研究会が開始された当時から8年間、毎月、月例会に参加しておられた。しばらくのご無沙汰であったが、今回は久しぶりに、ネオロジで彼の仕事の活動について語っていただいた。会社(大成建設)が建設業界で生き抜くには本業に固執していてはダメだという。スーパーゼネコンとよばれる大手ゼネコン(売上1兆円以上)は日本には5社ほどある。問題は、1992年当時の建設投資予測は年間84兆円あったのが、2015年の予測値は44兆円程度に見込まれている。大手ゼネコンがこれまでの市場シェアを維持していくと、当然のことながら各ゼネコンの売上は縮小してしまう。これからを勝ち抜くには、どうしても従来からの建設業のビジネスモデルを打ち破らなければならない。ゼネコンの利益構造を破壊し、ビジネスモデル改革により、利益構造の多角化を図る必要があるということだ。倉林氏の講演の圧巻は、そのために何をするかである。
 倉林氏の話の説得性はこのあとにある。顧客のニーズを把握しそのためのソリューションを提供する。これは顧客満足を獲得する手段であるが、従来はこの段階でとまっていた。それをもう一段進めて、顧客の信頼を得たあと顧客と自社の相互便益享受関係を築いて、パートナーシップを構築しようというのである。建設総合企業として、顧客にソリューションを提供していた段階から、『顧客の総合利益』を念頭に入れた顧客とのパートナーシップを構築して利益構造の多角化を図る構想だ。倉林氏は、現在、大成建設エンジニアリング部部長でいらっしゃる。彼の取組では医療業界での取組みを長年続けておられ、その事例を紹介くださった。医療業界の経営課題を述べられたあと、医療業界の新たな流通プラットフォームの構築、物流共同化を成功させるためメガ物流施設構想計画である。それをやるためには、スーパーゼネコンみずからがコンサル事業を行い、さらには3PLや保守サービス業をおこなっていこうというのである。そうした計画のもとに顧客からの一括元請受注が可能になる。究極論として、トータルに仕事を請負い、一定の利益が確保できるなら、極端な話、ビル建設など無料でもいいという言い方もできるのだ。
 よく、3PL企業は提案型事業であるという。提案は、たとえば、輸送が主体ならばその川上行程、川下行程まで遡って荷主に提案をするというのである。業務を拡大して仕事を得る話である。倉林構想はそれを上回っている。新事業を付加して利益を上げる構造を変革しようというのである。輸送企業なら、荷主との共存を前提に一括元請の仕組みを考え、輸送を利用して、他の事業から利益を上げる仕組みを考えようと言うわけだ。できることなら輸送費用はタダで提供してもいいのだ。そのためには、自分の事業を拡大する必要がある。コンサルティング能力を自社にもつのもいい、あるいは特定の分野の専門知識(たとえば医療関連の知識)を自社に取り込み、その分野のノウハウを顧客に提供し事業を拡大していくと言う方法もある。倉林氏にいわせれば、新しいビジネスモデルの構築というのは、そういう事業拡大を検討することだということになる。 <文責:藤田精一>

『 コーポレートガバナンス 経営者の報酬と交代はどうあるべきか 』

  2012年4月19日第一講演

  久保 克行先氏(早稲田大学ビジネススクール 教授)

 経営者の報酬という私の日ごろの関心とは少しかけ離れた部分に関する講演であったから、新しい刺激を十分に得た。
 友人達との会話から、私は経営陣に加わった人々が外部から見ると収入にはそれほど大きな関心を持っているとは思っていなかった。
 「どう、うんと給料が増えたんじゃない?」
 「全然、それより会社の当面の運用とか、社会的責任の重圧がズシリと重く、収入が増えるなんてことなどあまり関心がない」という。
 これは照れなのか?本当に関心がないのか?増えないのか?
 そんなことで日本の経営者の収入の多寡が行動にインパクトを与えることは考えていなかった。しかし、自分のことを考えてみても、今日の講演を聞いて無関心を装ってはいても、収入はインセンティブに影響していることは確かなのだろう。
 失敗にたいするペナルティは大きくなく、成功の報酬は大きくといった刺激が経営者がリスクある行動を選択する際のインセンティブになると聞いて、頷けた。そう考えると、確かに多くの今の日本の経営者がリスクをとらず、安定を求めて、経営が全体として沈滞しているかのように見える。それは政治の世界にも共通する。ストックオプションなどを含めて成功にたいする報酬を組み入れることによって、より積極的な意志決定がなされるようになるかもしれない。もちろん危険はあるが、今の日本では積極的な経営が望まれる。それが、収入によって支援されるということだろう。
 現場力の活用が日本ではどこでも盛んだ。これに対して本社力(経営戦略を含むトップダウンの力)はその陰にかくれて、経営が維持されているといったらいい過ぎだろうか。
 震災時に日産自動車は災害対策本部からのトップダウンによる指示の速さと整合性が効果を発揮したという。もちろん、現場力は有効である。あの災害の時、ヤマト運輸が被災地への配送を維持するのに、本社から指示されることなく救援物資を配送し続けたことが4月19日の日経産業では評価されている。しかし、全体の整合性にウェイトを置けば可能ならやはりトップダウンだ。
 緊急時には、まず現場でしか情報は得られず、直接の現場でしか行動は起せない。それがヤマト運輸の行動だ。しかし、一たび混乱が落ちつけば、情報を集約したトップダウンの枠が重視される。この枠の下で現場が動く。さらに平常に戻れば、自律的な現場力が再び力を発揮して、トップが指示する範囲はぐっと小さくなる。これを経営戦略の枠といっておく。
 このような経営戦略の枠が、徐々に小さくなり、弱体化してしまって、現場力に負うところが大きくなったというのが今日の日本なのか。それを打破するのが、収入でもバックアップされた経営者ということになるのだろう。経営者が適切な報酬を与えられることは、積極的な策が戦略として導入されるきっかけとなる。
 経営者の交代の原因、経営をつぐ新しい経営者の出身母体などの解析も面白い側面であった。<文責:高橋輝男>

『 起業家とイノベーションの視点から考えるロジスティクス 』

  2012年4月19日第二講演

  ハケット・ショーン マイケル氏(早稲田大学ビジネススクール 助教)

 ハケット氏は、米国テネシーアン(テネシー子)である。小生も、10年間米国テネシー州の州立大学で教鞭をとっていたので、テネシーには強い思い入れがある。そんな関係から昨年秋、早稲田に赴任したハケット氏に登壇いただいた。ご専門は技術経営で、今回は技術経営の立場からみたロジスティクスについて語っていただいた。
 起業家が、あるアイデアを思いついたとき、次の4つの条件を真剣に考える必要がある。価値命題、製品定義、顧客定義、生産流通チェーンである。この中でも難しいのが最後の生産流通チェーンである。これから新製品を販売するのに、顧客までのサプライチェーンは見えないのだから、わからなくて当然という考えがどこかにあるのかもしれない。しかし、最近はそのサプライチェーンを肩代わりするネット企業(たとえば、Shipwire社)が現れた。起業家は製品のアイデアを思いつき、ネット企業を通して製品を顧客に届けることができる。日本の楽天物流も同じような物流プラットフォームを提供している。ただ、楽天の場合は、プラットフォームの提供が主体で、あくまでも出店した商店が大部分の物流作業をしている(もちろん、その部分を楽天に委託する場合もある)。製品の機能尊重が日本の国民性ゆえ、日本では物流にまで多くの関心が払われていないという議論もある。
 新しい技術に対する日本人の姿勢の例もあげられた。いまではロボットは作業者と共存して働くという考えを誰もがもつが、ロボットの導入期には、トヨタでは、ロボットは3K仕事を受け、作業者は人がしなければできない仕事に従事した。GMでは、ロボットは作業者数の削減を目的に導入された。新しい技術を物流に導入するということを、いまの日本企業ではどの程度考えているだろうか。
 クラウドコンピューティングで自社製品の需要変動を即座にとらえ、アクションをとっていく。典型的な例として、米国ウォールマートを取り上げた。スパーコンピュータを日本企業はどの程度注目しているだろうか。クラウドコンピューティングで、たとえば、倉庫が一体化するというメリットを考えているだろうか。
 ハケット氏は、さまざまな質問を参加者に投げかけた。中には日米の比較の問題もあって、即答できないケースもあった。しかし、改めて、そういう見方もあるという反省の機会を与えてもらったような気がする。自分は、数週間前マレーシアとスリランカの企業を訪問した。現地会社の工作機械は韓国、中国製だった。工作機械といえば日本の技術が最高であることは現地経営者の共通認識だったが、かれらの意思決定はコストなのだ。製品技術力では確かに誇れるものがあっても、トータルとしてのコストに顕著な差があれば、やはりコストの安い方に人々の心は移っていく。かって、日本が製品品質の向上に力を注いだのと同じ努力を、ロジスティクスコストの改善に力を注ぐべきだと痛感じた。<文責:藤田精一>