地下のアテネ
引地正俊

年(2000年)一月末にその一部(14駅)が開通したアテネ市の地下鉄工事は、起工から七年半の歳月を要したが、その間、各駅と通風口のために掘られた大小23の竪坑からは、当然のことながら古代の遺跡と夥しい数の遺物が出土した。

計三万点を超える出土品のごく一部(約490点)は、今春からキュクラデス美術館とシンタグマを中心とする幾つかの地下鉄の駅で展示され、研究成果も刊行され始めている。

それらを見ると、今回の発掘地点の中でも最も興味深いものは“アクロポリス駅”と“シンタグマ駅”の竪坑であろう。

前者はアクロポリスのすぐ南東に位置し、ディオニューソス劇場やゼウス・オリュンピオス神殿に連なる重要な場所である。ここからは中期ヘラディックの末に当る前16世紀のものと考えられるキュリクスやカンタロスが出土し、途中に荒廃の一時期はあるものの、最終的には後7世紀にまで至る永い間、密集した居住地として用いられ、上下水道を備えた道路も整備されていた(前5〜4世紀)ことがわかる。

後者はテミストクレースの市壁の外側東に位置するが、ここからは前11世紀の墓の豊富な副葬品が出土し、前5世紀前半には鉛で防水をした土管の水道が通り、青銅製錬の作業場があったことが確認された。ローマ時代の浴場の遺跡も現われたが、今回の発掘では、特に今まで正確なコースが不明だったエーリダノス川が、ちょうどこの位置を流れていたことが判明したのは貴重といえる。

以上、各地区の状況から古代アテネの地誌がかなり解明され、とりわけ上下水道のシステムの研究に大いに役立つものと思われるが、これだけの限られた面積の竪坑だけから得られる成果を考えてみても、あまりにも遅きに失した感はあるものの、今後は各種建築工事の際に、今回の収穫を踏まえて徹底した調査が成されることが望まれよう。



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