共同研究

平成30年度研究課題リスト

テーマ研究課題
  1. 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究 / 濱口久仁子(立教大学異文化コ ミュニケーション学部/兼任講師)

公募研究課題
  1. 栗原重一旧蔵楽譜を中心とした楽士・楽団研究:昭和初期の演劇・映画と音楽 / 中野正昭(明治大学 文学部 兼任講師)
  2. 戦後日本映画における撮影所システムの変遷とその実態:日活ロマンポルノを中心とした実証的研究 / 碓井みちこ(関東学院大学 国際文化学部比較文化学科 准教授)
  3. マルチマテリアルを基礎とした立正活映作品の復元 / 上田学(神戸学院大学 人文学部 准教授)
  4. 描かれた中国演劇と大正期日本:福地信世『支那の芝居スケッチ帖』を中心に / 平林宣和(早稲田大学・政治経済学術院・教授)

テーマ研究課題1

坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究


代表者

濱口久仁子(立教大学異文化コミュニケーション学部兼任講師)

研究分担者

菊池明(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
小島智章(武蔵野美術大学非常勤講師)
松山薫(早稲田大学教育・総合科学学術院非常勤講師)
水田佳穂(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
柳澤和子(早稲田大学教育・総合科学学術院非常勤講師)

研究目的

本研究では、未整理状態にある逍遙宛の書簡全点の目録化を完了させるとともに、『坪内逍遙書簡集』に関連する書簡を中心として、順次、翻刻公開する予定である。逍遙宛書簡の整理、翻刻・研究は、『坪内逍遙書簡集』収録の年代未詳書簡の年代推定や、往復書簡としての内容研究を可能にし、逍遙の活動や当時の背景、交流において新たな側面を明らかにするものと期待され、現在進行中の「逍遙日記」再校訂にも資するものと思われる。また、本研究を機に調査に着手した士行資料は、近年その多彩な演劇活動への評価が高まっている人物の資料として公開が待たれており、原稿、台本、チラシ、書簡、写真から、戦前の新文芸協会や宝塚新劇団の計画、宝塚や東宝での新劇活動、戦後の日本舞踊の評論といった、近代日本演劇史・舞踊史における士行の業績がより具体的に明らかになるものと期待される。

研究成果

〇坪内逍遙資料

坪内逍遙宛未整理書簡と附属資料の整理及び仮目録作成作業を進め、逍遙旧蔵の演劇博物館設立関係資料、写真等計278件と、逍遙宛書簡貼込帖の内「八代六郎書簡集」等5冊306丁(収録書簡263通)をデジタル撮影した。翻刻は島村抱月・小川未明等50 通を終えた。また書簡翻刻に基づく研究成果を報告する成果報告会(11月12日於6号館318教室)を行った。池田大伍の無名会時代の活動や「今様鳥虫歌」「名月八幡祭」執筆の経緯など逍遙との緊密な関係(松山「逍遙と池田大伍―大正中期の逍遙宛池田大伍書簡をめぐって―」)、西川嘉義の生涯と、縁戚関係にあった逍遙の引き立て(濱口「西川嘉義―舞踊活動と晩年の動向―」)、若松若太夫のふくさ人形を介した大正13 年の逍遙との交流(柳澤「若松若太夫が逍遙に宛てた大正十三年の書簡」)、逍遙と石割松太郎との関係及び石割の人形浄瑠璃研究(小島「石割松太郎と逍遙」)等が詳らかになった。内計35通に詳細な註を施して「演劇研究」42号に掲載する(松山・濱口・柳澤「〈坪内逍遙宛諸家書簡4〉坪内逍遙宛池田大伍・西川嘉義・織田志づ・若松若太夫書簡」)。

〇坪内士行資料

20箱のうち1箱分にあたる、未整理の自筆原稿類439点の仮目録を作成した。内39件は大正末期の講演腹案である。これまで資料的限界から顧みられることの少なかった、大正10年から13年の戯曲研究会および芸術協会、大正15年から昭和5年の宝塚国民座といった、士行の新劇活動がより明らかになった。講演では、新しい日本の演劇のあり方を説き、広く多数一般の人々が喜ぶ芝居としての国民劇を模索している。これについては当チームの成果報告会(11月12日於6号館318教室)にて報告(水田「坪内士行の講演記録―大正末年の新劇活動を中心に―」)を行った。


坪内逍遙宛池田大伍書簡 大正7年6月25日(「名月八幡祭」について)A letter from Daigo Ikeda to Shoyo Tsubouchi, June 25, 1918(“On Meigetsu hachiman matsuri”)

芸術協会公演チラシ、大正13 年4月、於神戸聚楽館 Geijutsu Kyokai performanceflyer, April 1924, KobeShurakukan Theatre

公募研究課題1

栗原重一旧蔵楽譜を中心とした楽士・楽団研究:昭和初期の演劇・映画と音楽


研究代表者(所属)

中野正昭(明治大学・文学部・兼任講師)

研究分担者(所属)

武石みどり(東京音楽大学・音楽学部・教授)
紙屋牧子(東京国立近代美術館フィルムセンター・特定研究員)
白井史人(日本学術振興会特別研究員PD)
山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)
毛利眞人(音楽評論家)

研究目的

栗原重一(1897-1983)は昭和初期にエノケン楽団、松竹キネマ演芸部、さらにトーキー初期のPCL映画製作所などで指揮者、編曲者として活躍した音楽家である。本研究はその旧蔵楽譜の一部である「エノケン楽団・栗原重一旧蔵楽譜(約500点)」の調査・分析を行う。楽譜資料の基礎調査を出発点に、同時代の文献や関連資料、関連楽譜コレクションの調査を組み合わせて研究を進める。さらに昭和初期の楽士・楽団の領域横断的な活動実態から、同時代の劇団や映画館における作品生成や興行のあり方を具体的に解明する。

研究成果

本年度は、栗原重一旧蔵楽譜の約500点の概要調査を完了し、昭和初期から戦後にかけて榎本健一の楽団で活動した栗原による輸入曲の収集と使用実態を克明にとどめる資料群であることが明らかとなった。

〇楽譜資料の仮目録の作成と調査・分析

旧蔵楽譜494点の目録を作成した。ジャズを中心とした輸入楽曲が大部分であり、印刷譜と手稿譜が混在している。印刷譜には出版情報が記載され販売元が明確な出版譜(約220点)と、販売や流通経路が不明の楽譜(約150点)に区分される。出版譜には楽曲名、作曲者、作詞者、編曲者、出版社などの情報、手稿譜(約80点)には使用五線紙の「ピエル・ブリヤント/榎本健一・一座」、「東宝管絃楽団」などの劇団・楽団名や「オグラ楽器店」などが記載され、栗原個人や浅草松竹座の所蔵印も確認された。これらの情報を目録へ採録し調査を進めた結果、本資料群は1930 年代から戦後にかけて栗原が収集・使用した楽譜群を体系的に整理したもの一部である可能性が高いことが分かった。

〇楽譜資料の由来について

NHKテレビ番組「日本喜劇人伝(1) 現代セミナー エノケンとその仲間たち」(1990年7月16日)等を調査した結果、この楽譜群は、栗原重一からジャズ評論家・瀬川昌久氏のもとに譲渡された旧蔵楽譜段ボール25箱分のうちの一部であることが判明した。資料には4桁の手書きの番号でアルファベット順に整理された楽譜群が含まれている。4桁の番号には欠番も多く、今後のさらなる旧蔵資料の収集・調査を進める必要性がある。

〇映像・音源との比較と活用の試み

2018年8月20日に研究分担者の毛利が所蔵する栗原や榎本健一関連のSP音源を分析する研究会を開催した。また2019年1月30日の公開研究会では、共同研究者による調査概要の報告と、演劇・映画・レビューなど栗原が従事した榎本健一の活動に関する研究発表を含むシンポジウムを開催した。毛利による音源分析を踏まえてジャズ演奏家の渡邊恭一氏を中心とした参考演奏を行い、栗原が所蔵していた楽譜の楽曲の特徴を具体的に検討した。


A-Tisket A-Tasket( 編曲:Jack Mason、ピアノ譜、2-4頁)A-Tisket A-Tasket (Arrangement: Jack Mason, piano part, pages 2-4)


St. Louis Blues(編曲者不明、手稿筆写譜)St. Louis Blues (Arranger unknown, hand-written part)

公募研究課題2

戦後日本映画における撮影所システムの変遷とその実態:日活ロマンポルノを中心とした実証的研究


研究代表者

碓井みちこ(関東学院大学国際文化学部比較文化学科准教授)

研究分担者

木原圭翔(東京大学大学院情報学環特任研究員)
河野真理江(立教大学、青山学院大学他非常勤講師)
鳩飼未緒(早稲田大学大学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員DC2)
藤井仁子(早稲田大学文学学術院教授)

研究目的

成人映画のプログラム・ピクチャーである日活ロマンポルノは、撮影所システムの最後の砦として、戦後日本映画史上きわめて重要な役割を果たした。本共同研究では、演劇博物館所蔵のロマンポルノのプレスシートの整理及び内容調査を通じて、ロマンポルノの時代を中心に、プログラム・ピクチャーの製作から興行までを手掛けた撮影所としての日活の歴史を多角的に考察する。また、配給や興行といった側面の実態解明に最適であるにもかかわらず、学術的に活用されてこなかったプレスシートを研究対象とすることで、新たな映画研究の方向性を提示することを目指す。

研究成果

映画作品の宣伝関連資料として、プレスシートの存在は比較的よく知られており、近年では作品分析の補助手段として参照される例も少なくない。その一方で、プレスシートに記載されている情報の種類や詳細、あるいは実際の宣伝における活用方法など、プレスシートそれ自体については不明な点がいまだに多く、研究対象として十分な調査がなされてこなかった。そうした意味で、今回の調査は映画の製作・配給・興行のプロセス内でのプレスシートの位置付けや、映画研究における活用の可能性を提起するための基盤を構築するという意味で大きな意義を持つ。具体的な研究成果は主に以下の二点である。

〇演劇博物館所蔵の日活ロマンポルノプレスシートの概要解明

未整理の状態にあった演劇博物館所蔵のロマンポルノのプレスシートを整理し、具体的な枚数(955枚)、サイズの違い(大小2種類)、年代別の枚数変化など、その概要が明らかにされた。また、資料的価値の高い大サイズについては全てデジタル化(1作品につき表と裏1カットずつ)を行った。こうした資料は将来的に館内端末によるデジタル公開などが期待される。

〇公開研究会「プレスシートから読み解く日活ロマンポルノ」の開催

研究チームによる資料整理の報告とプレスシート活用のケーススタディとともに(第一部)、ロマンポルノの宣伝に携わっていた関係者2 名(成田尚哉氏、早乙女朋子氏)を招き、座談会を行った(第二部)。これまでロマンポルノは往往にして、傑出した監督たちが生み出す「作品」として評価されてきた。しかし今回、プレスシートという資料に焦点を当てることで、ロマンポルノにおいても撮影所システムという枠組みの中で機能する「宣伝」がきわめて重要であったことがあらためて確認された。


『濡れた欲情 ひらけ! チューリップ』(神代辰巳監督、1975 年)のプレスシートの表面Front of the press sheet for Nureta yokujo: hirake! Churippu(directed by Tatsumi Kumashiro, 1975)

公募研究課題3

マルチマテリアルを基礎とした立正活映作品の復元


研究代表者

上田学(神戸学院大学人文学部准教授)

研究分担者

スザンネ・シェアマン(明治大学法学部教授)
ローランド・ドメーニグ(明治学院大学文学部准教授)
板倉史明(神戸大学大学院国際文化学研究科准教授)
仁井田千絵(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
近藤和都(日本学術振興会 特別研究員PD)

研究目的

本研究の目的は、早稲田大学演劇博物館(以下、演劇博物館)の所蔵するノンフィルムの立正活映資料を活用して、同社が製作したフィルムの表象的、環境的な復元を実現させることにある。立正活映は、牧野省三の牧野教育映画と共同で、大正末期から昭和初期にかけて宗教映画を製作したプロダクションであるが、映画史においてその足跡はほとんど知られていない。立正活映は小規模なプロダクションのため、現存資料はきわめて限られており、復元のためには複合的な資料を用いた研究が不可欠である。

研究成果

第一に、神戸発掘映画祭2018「発掘と研究 宗教と映画」(2018年10月、神戸映画資料館)において、『鍋かぶり日親』の現存する二巻のうち一巻目のデジタル素材を上映し、上田が牧野教育映画および立正活映について、ユリア・ブレニナ(協力者)が同時代の日蓮主義について解説をおこなった。なお、あわせて『鍋かぶり日親』のシナリオ(妹尾朔著)から、一巻目のインタータイトルをまとめ、来場者に配布した。シナリオからインタータイトルを書き起こす作業は、欠損部分も含めて今年度に継続して実施しており、次年度にスチル写真と組み合わせた復元映像の作成に活用する。
第二に、立正活映資料の共同調査をおこない、今年度にデジタル化する資料を決定しつつ、具体的な資料の分析をおこなった。共同調査により、立正活映資料の中核を占める映画『日蓮』関連資料29点については、日蓮主義者の大々的な後援にもかかわらず、実際の映画化には至らなかったこと、ただし比佐芳武の不採用シナリオも含め、宗教映画の製作背景・過程が把握できる資料により構成されており、その資料的重要性が明らかになった。
また前年度までの公募研究に関連して、国際シンポジウム「イデオロギーと興行のあいだ 植民地/帝国の映画館、映画文化」(2018年11月、韓国映像資料院)を開催した。共同研究課題の成果発信として、上田が「「満洲国」の映画館と巡回映写」、近藤が「“戦ふ映画館”―戦時下のオフ・スクリーン」、仁井田が「関東大震災後の日本の映画館の近代化」、板倉が「帝国日本における内務省の朝鮮映画検閲」、チョン・ジョンファ(協力者)が「イデオロギーと興行のあいだ― 1930年代中盤~ 1940年代初期の京城の映画館」と題した研究発表をおこない、ドメーニグが戦時下の映画興行・政策に関するディスカッサントを務めた。


『日蓮(法難篇)』比佐芳武シナリオ草稿 A Manuscript of Nichiren (Honan hen) by Yoshitake Hisa


『鍋かぶり日親』ポスターA Poster of Nabekaburi Nisshin

公募研究課題4

描かれた中国演劇と大正期日本:福地信世『支那の芝居スケッチ帖』を中心に


代表者

平林宣和(早稲田大学 政治経済学術院 教授)

研究分担者

袁英明(桜美林大学 芸術文化学群 教授)
田村容子(金城学院大学 文学部 教授)
李莉薇(華南師範大学 外国語文化学院 准教授)
仝婉澄(広州大学人文学院・専任講師)

研究目的

本研究課題「描かれた中国演劇と大正期日本-福地信世の『支那の芝居スケッチ帖』を中心に」は、演劇博物館所蔵の福地信世『支那の芝居スケッチ帖』に関する考証を中核としつつ、梅蘭芳の二度の公演(1919年、1924年)およびその他複数の俳優による訪日公演が行われた大正期日本と中国演劇との関わりを、主に視覚資料を軸に考察し、その時代の様相の一端を明らかにすることを目的とする。

研究成果

2018 年度の研究活動については、以下に挙げる三つの区分に関して、それぞれ下記の成果が得られた、あるいは得られる見込みである。

(1)福地信世『支那の芝居スケッチ帖』考証作業について

『スケッチ帖』については、研究開始以前の段階で演劇博物館によりすでに全資料のデータベース化、および各スケッチに書き込まれていた文字の翻刻が一通り行われていた。今年度の研究活動では、翻刻された記述内容について、当時の『順天時報』、『晨報』、『申報』などに掲載された上演広告等と照らし合わせ、それらがどの程度正確なものか、考証作業を行った。これら同時代の資料により、福地信世が当時目にした芝居の詳細を裏付けることができた。

(2)福地信世研究

福地信世は、中国で『スケッチ帖』を描いたほか、1919年の梅蘭芳初訪日公演を積極的に支援、その時代に梅蘭芳がたびたび演じていた崑曲の演目『思凡』を翻案し、新舞踊の象徴的作品として舞台化している。この新舞踊『思凡』について、研究分担者の李莉薇が、「『思凡』在日本的伝播与接受―兼談梅蘭芳訪日公演的影響」というタイトルの研究報告を行った。『スケッチ帖』以外の演劇博物館所蔵資料を活用した研究により、新舞踊『思凡』の創作に関する詳細が初めて明らかにされた。また10月に来日した上海崑劇団とともに講座と上演『崑劇と日本の百年』を主催、1919年の公演時に上演された崑曲の演目『琴挑』を崑劇団に特別に上演してもらい、当時福地信世が観劇した中国の芝居を理解するための参考とした。

(3)大正期の中国演劇に関する視覚資料研究

研究福地信世が『スケッチ帖』を描いた時代には、同様な中国の演劇のスケッチや絵画、写真、彫刻などの視覚資料が大量に流通していた。これら福地信世の『スケッチ帖』を取り囲む当時の文化的環境については、研究チームメンバーである袁英明、佐々木幹、李莉薇、および平林宣和が、2019年1月26日に北京で開催される「梅蘭芳初訪日公演100周年記念学術シンポジウム」にてそれぞれ成果報告を行う予定である。


福地信世「梅蘭芳の貴妃酔酒」、『支那の芝居スケッチ帖』Fukuchi, Nobuyo,“ Mei Lanfang’s‘ Guifei zui jiu,’”Shina no shibai sukecchi-cho