共同研究

平成29年度研究課題リスト

テーマ研究課題
  1. 坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究 / 濱口久仁子(立教大学異文化コ ミュニケーション学部/兼任講師)

公募研究課題
  1. 楽譜資料の調査を中心とした無声期の映画館と音楽の研究 / 長木誠司 (東京大学大学院総合文化研究科/教授)
  2. 演劇博物館所蔵の映画館資料に関する複合的カタロギング / 上田学 (神戸学院大学人文学部/准教授)
  3. 視覚文化史における幻燈の位置:明治・大正期における幻燈スライドと諸視覚文化のインターメディアルな影響関係にかんする研究 / 大久保遼(愛知大学文学部人文社会学科/特任助教)
  4. 中華民国期の伝統演劇資料から見る劇場と劇種に関する研究 / 鈴木 直子 (立教大学ランゲージセンター/教育講師)

テーマ研究課題 1
坪内逍遙・坪内士行資料の基礎的調査研究


代表者

濱口久仁子(立教大学異文化コミュニケーション学部兼任講師)

研究分担者

菊池明(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
小島智章(武蔵野美術大学通信教育課程非常勤講師)
松山薫(早稲田大学図書館専任職員)
水田佳穂(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
柳澤和子(早稲田大学教育総合科学学術院非常勤講師)

研究目的

本研究では、いまだ未整理状態にある逍遙宛て書簡 全点の目録化を完了させるとともに、『坪内逍遙書簡集』 に関連する書簡を中心として、順次、翻刻公開する予定 である。逍遙宛書簡の整理、翻刻・研究は、『坪内逍 遙書簡集』収録の年代未詳書簡の年代推定や、往復書 簡としての内容研究を可能にし、逍遙の活動や当時の 背景、交流において新たな側面を明らかにするものと期 待され、現在進行中の「逍遙日記」再校訂にも資するも のと思われる。

また、本研究を機に調査に着手した士行資料は、近 年その多彩な演劇活動への評価が高まっている人物の 資料として公開が待たれており、原稿、台本、チラシ、 書簡、写真から、戦前の新文芸協会や宝塚新劇団の計 画、宝塚や東宝での新劇活動、戦後の日本舞踊の評論 といった、近代日本演劇史・舞踊史における士行の業 績がより具体的に明らかになるものと期待される。

研究成果の概要

〇坪内逍遙資料

今年度も坪内逍遙宛未整理書簡の整理及び仮目録作 成作業を進め、42 名56 通、逍遙自筆メモ・旧蔵書類 等46 件のデジタル撮影を完了し、新たに「坪内逍遙作 上演劇 材料貼込帖」全16 冊214丁(内収録書簡は35 名43通)を撮影した。逍遙宛書簡は、中條百合子・吉 江喬松・五世中村福助書簡等119 通の翻刻を終えた。 また渥美清太郎・鏑木清方・小泉八雲の書簡計25通に 詳細な註を施して「演劇研究」41号に掲載する(小島・ 松山・柳澤「〈坪内逍遙宛諸家書簡3〉坪内逍遙宛渥美 清太郎・鏑木清方・小泉八雲書簡」)。今回掲載分は、 渥美が逍遙と共同編集した『歌舞伎脚本傑作集』『大南 北全集』刊行の過程(作品の選定や資料収集・校訂作 業の苦労、刊行に関わる経済的な事情など)、逍遙の 舞踊劇革新のための第一作である『新曲浦島』の装丁 を清方が担当した経緯、八雲が早稲田大学講師として 逍遙と出会い、日本の演劇を紹介したいと助言を求め た交流の様子を明らかにする初公開の書簡である。清 方と八雲の書簡、また逍遙と義太夫節の関わりについ ては当チームの成果報告会(10月27日於1号館310 教 室)にて報告(松山・柳澤・小島)を行った。

〇坪内士行資料

20 箱のうち2箱分にあたる、戦前の上演関係資料約 473点の仮目録を作成し、デジタル化を済ませた。これ まで資料的限界から顧みられることの少なかった、大正 10 年から13 年の戯曲研究会および芸術協会、大正15 年から昭和5 年の宝塚国民座といった、士行の大正昭 和初期の新劇活動がより明らかになった。関西在住の 早稲田の卒業生をはじめとする文化人に支えられた戯 曲研究会(芸術協会)は、講演、朗読会、茶話会と回 を重ね、会員制の無料興行を催したが、関西の新劇上 演としても早い段階であろうこれの、案内状、香盤がほ ぼ揃い、上演年表を作成した。宝塚国民座についても 同様に年表を作成したが、これについては当チームの成 果報告会(10月27日於1号館310 教室)にて報告(水田 「坪内士行と新劇:宝塚国民座をめぐって」)を行った。


坪内逍遙宛小泉八雲書簡 明治37 年6月4日~ 9月15日

坪内逍遙宛渥美清太郎書簡 大正13 年8月28日

芸術協会、第一回試演、大正12 年5月26日~ 28日、於新町演舞場、「功名」

公募研究課題 1
楽譜資料の調査を中心とした無声期の映画館と音楽の研究


研究代表者(所属)

長木誠司(東京大学文学院総合文化研究科教授)

研究分担者(所属)

紙屋牧子(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
白井史人(日本学術振興会 特別研究員 PD)
山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)

課題概要

早稲田大学演劇博物館が所蔵する無声映画伴奏譜 「ヒラノ・コレクション」(約800点)を中心に、大正~ 昭和初期の無声映画の伴奏音楽を、上演・興行形態の 変遷を踏まえて明らかにすることが本研究の目的であ る。平成28 年度までの楽譜資料の基礎調査と参考演 奏・上映の成果に基づき、歌舞伎などの先行する舞台 芸術や、同時代の和洋合奏や邦楽器の演奏、さらに海 外における実践などへと視野を広げ、楽譜資料の発展 的な分析と活用を進める。

研究成果の概要

〇目録の整備とデジタル化
昨年度までに作成した目録に基づき、楽曲内容に踏み込んだ考証に基づいて主要パートと分蔵パートの照合を進め、目録の整備を進展させた。日活系列の映画館に配給されたと考えられる曲集『Kino Music日活楽譜』の旋律データベース(約140点)を作成し、照合作業や資料活用の円滑化を図った。

〇映画説明レコード音源の調査
楽譜資料を考証するための関連資料として、弁士の語りとともに伴奏音楽が収められたSPレコードの収集と試験的なデジタル化を進めた。音楽評論家・毛利眞人氏と活動写真弁士・片岡一郎氏を招いた公開研究会(9月11日)では、両氏が所蔵する貴重な音源の比較分析を行った。特に映画『忠次旅日記』(1927)に関連する映画説明レコードについて、選曲法・演奏法とともに楽譜に残らないお囃子に関する考証を進めた。

〇邦楽演奏に関する意見交換と参考演奏
尺八奏者の志村哲氏(大阪芸術大学)に、本コレクションで確認できる唯一の尺八譜の試験演奏を依頼し、演奏法に応じた様々な活用可能性の説明を受けた。また邦楽の鳴物演奏家の堅田喜三代氏にSPレコードに録音されているお囃子の考証を依頼し、『忠次旅日記』の参考上映での演奏に反映させた(2018 年1月13日、於早稲田大学)。

〇内外の学術コミュニティとの意見交換
日本音楽学会支部横断企画(4月29日)、おもちゃ映画ミュージアム若手研究者発表会(7月15日)、また映画音楽を専門とする国際学会Music & The MovingImageにて研究発表を行った(白井、5月27日、於ニューヨーク大)。さらに公開研究会での柴田康太郎(演劇博物館)、白井、紙屋による発表と、日本の無声映画研究を牽引するアーロン・ジェロー氏(イェール大)からのコメントを通して、内外の最新の研究動向を踏まえて研究成果を検討した(2018 年1月13日)。


『Kino Music 日活楽譜』《K. Sassa Music No. 53》
左:ピアノ[主要パート、簡易印刷] 右:三味線[分蔵パート、手稿]


ヒラノ選曲譜『照る日曇る日』(監督:高橋寿康、1926-1927 年)

公募研究課題 2
演劇博物館所蔵の映画館資料に関する複合的カタロギング


代表者

上田学(神戸学院大学人文学部准教授)

研究分担者

スザンネ・シェアマン(明治大学法学部教授)
ローランド・ドメーニグ(明治学院大学文学部准教授)
板倉史明(神戸大学大学院国際文化学研究科准教授)
仁井田千絵(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
近藤和都(日本学術振興会 特別研究員PD)

研究目的

本研究の目的は、日本における映画館・映画興行資料の基盤的研究を構築するために、演劇博物館が所蔵する「映画館興行関連資料」等を中心に共同調査を進め、日本映画史における映画館の機能を明らかにすることにある。興行関連の非公刊のノン・フィルム資料は、既存のフィルム・アーカイブ等において保存の対象になりにくく、分析すべき一次資料の整理調査が不足している。そのため、本研究は演劇博物館が所蔵する複数の一次資料を研究対象とし、その興行内容に踏み込んだ複合的なカタロギングを進める。

研究成果の概要

今年度は、第一に、昨年度に引き続き、演劇博物館所蔵の「映画館興行関連資料」のデジタル化を実施し、新たに資料92点のデジタル静止画作成を完了した。現在は、観客数、経費、売上、上映作品等の映画興行のデータを抽出し、カタロギングを進行中である。あわせて「京都松竹座戦時映画館資料」「東宝映画・市川事務監督・朝鮮配給所経営館視察資料」についても、デジタル静止画の作成とカタロギングを進め、その共有と分析のために研究会を開催した。その過程で近藤和都によって、戦時中の映画興行資料の現存の背景に、税制上の問題が存在していたことが明らかにされた。また昨年度と同様、資料に記載の映画作品について、『日本映画作品事典』『舶来キネマ作品事典』(科学書院)にもとづく作品番号を付与し、将来的な「映画館プログラム・データベース」との統合に向けて準備した。

第二に、神戸映画資料館においてシンポジウム「映画館研究の現状と将来-過去の映画館をどう論じるか-」を開催した。シンポジウムでは、まず上田学が開催趣旨および共同研究概要を紹介した。続く第一部「映画館に関する歴史的研究の方法」では上田が司会を務め、仁井田千絵が発表「東京の映画館にみられる近代性:関東大震災から日劇開場まで」を、近藤和都が発表「「戦ふ映画館」―戦時下日本の上映環境をめぐって」をおこなった。さらに第二部「神戸の映画館に関する研究の現状」では、板倉史明が司会を担当し、外部から田中晋平(神戸映画保存ネットワーク)および吉原大志(歴史資料ネットワーク)を招いて神戸の映画館に関する発表をおこなった。最後に、発表者に加えて、スザンネ・シェアマン、ローランド・ドメーニグ、チョン・ジョンファ(韓国映像資料院)を交えたパネルディスカッション「映画研究における映画館とは何か」をおこない、来場者とも議論を重ねて、シンポジウムを終えた。

第三に、アウトリーチ活動として、明治大学リバティアカデミーにおいて、上田、近藤、仁井田、ドメーニグ、シェアマンによる映画館をテーマとした連続講座「映画が娯楽の王様だったころ」(6月10日~ 7月8日)を開催した。


京都松竹各座上帳(1942 年12月)

公募研究課題 3
視覚文化史における幻燈の位置:明治・大正期における幻燈スライドと諸視 覚文化のインターメディアルな影響関係にかんする研究


代表者

大久保遼(愛知大学文学部人文社会学科特任助教)

研究分担者

草原真知子(早稲田大学文学学術院教授)
遠藤みゆき(東京都写真美術館学芸員)
向後恵理子(明星大学人文学部准教授)

研究目的

本共同研究チームは、2016 年度までに演劇博物館 に所蔵されている幻燈スライドのコレクションの体系的 な整理を行い、その成果を展示や図録、データベース などによって公開・共有を行ってきた。2017年度はこう した成果を踏まえ、演劇博物館所蔵の幻燈資料を同時 代の販売目録や、館内外に所蔵されている関連資料と 突き合わせることで、明治・大正期の幻燈文化の広がり と、同時代の視覚文化とのメディア横断的な影響関係 を明らかにすることを目的とした。

研究成果の概要

〇2017年度の研究成果の概要2017年度の共同研究では、昨年度写真撮影を行った演劇博物館・早稲田大学中央図書館、および草原真知子氏所蔵の幻燈の販売目録のデータの分析を継続し、題目や年代等の情報を館蔵スライド資料と対照し分析を行った。また館内に所蔵されている錦絵や歌舞伎の番付など関連する視覚資料、また館外に所蔵されている幻燈と同時期の関連する視覚文化の資料も比較検討することで、館内の幻燈スライドの詳細と同時代の視覚文化との影響関係の把握に努めてきた。その成果については、主に次の2 つの国際会議において報告を行った。

〇国際会議A Million Picturesでの報告2017年8月29日から9月1日にかけてユトレヒト大学で開催されたマジック・ランタンについての国際会議「AMillion Pictures: History, Archiving, and Creative Reuseof Educational Magic Lantern Slides」に参加し、共同研究から草原真知子、遠藤みゆきの両氏が演劇博物館所蔵のスライドや関連資料を用いた研究報告を行った。同会議はヨーロッパにおけるマジック・ランタン研究と利活用の拠点となっており、日本の幻燈文化や本拠点での活動を国際的な場で紹介する機会となった。

〇国際シンポジウム「日本のスクリーン・プラクティス再考」2017年12月17日に早稲田大学において、成果報告を兼ねた国際シンポジウム「日本のスクリーン・プラクティス再考:視覚文化史における写し絵・錦影絵・幻燈文化」を開催した。前半では2016 年度から2017年度の共同研究の取り組みの紹介と、館蔵の幻燈スライドを活用した研究成果について報告を行うとともに、草原真知子氏、エルキ・フータモ氏から国内外の幻燈、マジック・ランタンの研究動向について報告していただいた。後半では、劇団みんわ座による写し絵の上演と山形文雄氏による解説、錦影絵池田組による錦影絵の上演と池田光恵氏による解説を受け、草原氏、フータモ氏を交えたパネルディスカッションを行なった。シンポジウム全体を通じて、国際的な視覚文化・映像史の研究動向の中で、日本の写し絵・錦影絵・幻燈文化の特徴、今後の研究の方向性や課題が明らかにされた。


池田都楽「幻燈器械映画定価表」
掲載の幻燈機


鶴淵幻燈舗「教育学術幻燈器械及映画定価表」
(左)幻燈機、(右)幻燈投影図


鶴淵初蔵「幻燈及映画定価表」

公募研究課題 4
中華民国期の伝統演劇資料から見る劇場と劇種に関する研究


代表者

鈴木直子(立教大学・ランゲージセンター・教育講師)

研究分担者

波多野眞矢(早稲田大学・商学部・非常勤講師)

研究目的

中華民国期の劇場番付49点についての調査・整理を 行い、それに基づき研究代表者と研究分担者が各専門 分野に関連した研究を進める。番付の場所や人物、劇 種等の情報から、伝統演劇、新劇、映画という各ジャ ンルの接点や興行の形態、推移等各自の研究に関連し た成果が期待できる。番付そのものの価値の確認と、 民国期の伝統演劇や周辺ジャンルとの関連性を具体的 に解明することを目的とする。

研究成果の概要

民国期の番付資料49点の中で、寄贈資料が11点あり、そのうち6点が日本舞踊の舞踊家若柳柳湖氏からのものである。若柳氏は昭和初期に中国に留学しており、この時期に描いた京劇の隈取も演博に収められている。戯単は天津や北京、大連、上海の物だが北方の物が多い。また早稲田大学で教鞭を執っていた実藤恵秀氏寄贈の戯単が1点あり、これは1926 年8月の北京の梅蘭芳出演の物。同年の梅蘭芳の訪日公演に関係する物と推測される。他4点は寄贈者不明で上海、天津、青島の物である。
戯単の劇場の所在地は北京、天津、大連、上海、青島の5地点で、劇場は以下の通りである。

 北京…昇平茶園、開明戯院
 上海…天蟾舞台
 大連…永善舞台
 青島…新新大舞台
 天津… 張園遊芸場、大羅天遊芸場、大舞台、新明大戯院、丹桂茶園、第一舞台、新欣大戯院、明星大戯院

天津の劇場の戯単が多く、特に天津の遊芸場については従来あまり知られておらず、研究する者も少ないため、調査を進めている。張園遊芸場は1915 年に清代の両湖統制張彪が建てた邸宅。日本租界の宮島街(現和平区鞍山道59 号)に位置した。1923 年張彪が広東商人彭某と協力し敷地内に北安利広東餐館、劇場、曲芸場、露天映画場やビリヤード場を開設した。戯単は1923 年6月の物と年不明の6月、7月の物がある。啓智社文明新劇、電影、魔術、樹徳社大戯が主な演目。土日には花火の打ち上げがあったことが分かる。(後に魔術は演目から消失)大羅天遊芸場は1917年に広東人蔡紹基が出資し、日本租界の宮島街(現和平区鞍山道)と明石街(現山西路)の交差した地を買い取り、遊芸場を開業した。9400m2、ガーデン式の総合遊芸場であった。遊芸場内には劇場、露天映画場、雑技劇場(曲芸やマジック等)、鹿園、野獣の部屋(狼や熊、猿等)を併設したが、1925 年に雑技劇場は閉業。遊芸場の演目から、文明新戯や初期の映画との関連性も見出せる。伝統演劇の公演番付は、評劇、河北?子がある他はすべて京劇で、国内でこれまでに確認されている番付との重複がなく、地域も年代も従前の不足を補うという意味で貴重である。梅蘭芳、劉漢臣、尚和玉、孫菊仙、楊慧儂などの著名な俳優の名前が見られ、新たな上演の足跡が確認できる。その他、女優劇団のもの、女優・男優の共演など多種の形態で上演されていたことも確認される。


1926 年8月14日の北京・開明戯院での梅蘭芳出演戯単


1935 年3月9日の天津・新欣大戯院での評劇公演戯単