共同研究:平成28年度研究課題リスト

テーマ研究課題

1. 坪内逍遙、坪内士行の基礎的調査研究

公募研究課題

  1. 楽譜資料の調査を中心とした無声期の映画館と音楽の研究
  2. 演劇博物館所蔵の映画館資料に関する複合的カタロギング
  3. 淡島千景資料の多角的研究:宝塚・映画・五輪・野球
  4. 視覚文化史における幻燈の位置:明治・大正期における幻燈スライドと諸視覚文化のインターメディアルな影響関係にかんする研究

テーマ研究課題
1. 坪内逍遙、坪内士行の基礎的調査研究


代表者

濱口久仁子(立教大学異文化コミュニケーション学部兼任講師):研究統括

研究分担者

菊池明(早稲田大学演劇博物館招聘研究員):研究分担
小島智章(武蔵野美術大学通信教育課程非常勤講師):研究分担
松山薫(早稲田大学図書館専任職員):研究分担
水田佳穂(早稲田大学演劇博物館招聘研究員):研究分担
柳澤和子(早稲田大学教育総合科学学術院非常勤講師):研究分担

課題概要:

坪内逍遙資料については、逍遙宛て書簡を中心とした未公開資料の調査、目録作成を行ない、順次、考証・翻刻作業を進める。坪内士行資料については、館蔵資料の全貌を調査したうえで、今後の資料公開へ向けた整理、目録作成を行う。

成果報告の概要

・坪内逍遙資料
今年度も坪内逍遙宛未整理書簡の整理及び仮目録作成作業を進め、329 名 733 通のデジタ ル撮影を完了した。今回撮影分にはウィリアム・アーチャー他の外国人 35 名 101 通を含む。
逍遙宛書簡の翻刻は、河竹繁俊・池田大伍書簡等 50 通の翻刻を終えた。さらに翻刻と考証 を進め次年度に公開の予定である。また昨年度本文を翻刻した會津八一書簡 128 通の内、 後半 48 通に詳細な註を施して「演劇研究」40 号に掲載(菊池・松山・柳澤・濱口「〈坪内 逍遙宛諸家書簡 2〉坪内逍遙宛會津八一書簡(2)」)する。今回掲載分は、逍遙の推薦により、會津八一が大正 15 年 4 月から早稲田大学文学部で、はじめて「東洋美術史」の講座を 担当する前後の書簡が大半を占める。美術史研究に於いて実物観察と文献研究を重視する 八一が、身を削るようにして講座の準備をしながら心情を逍遙に訴えていた経緯を知るこ とができる貴重な資料の初公開となる。

・坪内士行資料
20 箱のうち、自筆原稿を含む 10 箱の年代区分を開始するとともに、2 箱分にあたる、戦前 の国内の上演関係資料約 147 点と、英国での資料 268 点の仮目録を作成し、デジタル化を 済ませた。これまで資料的限界から顧みられることの少なかった、急に命ぜられた留学に よってボストン日本人会に参加しつつ、本職になるはずだった舞踊を観に劇場に通い、英 国に渡ってはローレンス・アーヴィング夫妻の劇団に加わり巡業といった、明治末から大 正初期の士行の洋行時の活動が明らかになった。大正 1・2 年の出演作「タイフーン」の舞 台写真、新聞切抜、抜書からは、流行に居合わせ、奇妙な「日本劇」のなかに本物の日本 人として混ざり込んだ士行の様子を窺うことができる。これついては日仏演劇国際シンポ ジウム 2 日目(10 月 26 日於国際会議場)にて講演(水田「坪内士行の欧米劇壇体験」)を 行った。

坪内逍遙宛ウィリアム・アーチャー書簡
大正元年8月2日
William Archer’s letters addressed to Shoyo Tsubouchi August 2, 1912

坪内逍遙宛森律子年賀状 大正 8 年 1 月
(逍遙は羊年生まれで、羊の絵や人形を集めていた)
Ritsuko Mori’s New Year’s greeting card addressed to Shoyo Tsubouchi January 1919 (Shoyo, who was born in the year of sheep, was collecting pictures and figures of sheep.)

アーヴィング一座、「タイフーン」ロンドン公演、
大正 2 年 4 月 2 日より、於ヘイマーケット・シアター・ロイヤル
Mr. & Mrs. Irving with their company performed “Typhoon” in London on April, 1913 at the Haymarket Theatre Royal.


公募研究課題
1. 楽譜資料の調査を中心とした無声期の映画館と音楽の研究


研究代表者(所属)

長木誠司(東京大学文学院総合文化研究科教授)

研究分担者(所属)

紙屋牧子(東京国立近代美術館フィルムセンター客員研究員)
柴田康太郎(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)
山上揚平(東京藝術大学音楽学部非常勤講師)

課題概要

大正から昭和初期の無声映画の上映に伴う音楽演奏のあり方を、楽譜資料と映画館興行に 関する文献資料の分析を通じて明らかにすることが本研究の目的である。本年度は演劇博 物館所蔵の無声映画伴奏譜「ヒラノ・コレクション」のデータベースを改訂し、音楽面の 特徴や、使用五線紙・楽譜の流通形態などを分析する。さらに、他館所蔵の楽譜資料との 比較を行い、雑誌記事・映画館週報などを検討することで映像との組み合わせを再構成す る。上映や音源作成による成果公開を目指す。

研究成果の概要

①ヒラノ・コレクションの手稿譜の調査・分析
昨年度までに作成したコレクションの目録を精緻にする作業を進めた。また白井史人を中心に、手書きの書き込みや五線紙・インクなどに注目した調査をおこない、「ヒラノ伴奏曲ライブラリー」(楽士が筆写・収集した手稿伴奏譜)と「ヒラノ選曲譜」(個別作品の上映用に作成された手稿選曲譜)の筆跡の同一性、これらと三味線譜などの手書き補充譜の筆跡の差異が明らかになった。
ヒラノ選曲譜については、映画作品の公開年順に整理することでコレクション内に時代劇の選曲方針に通時的変化が浮かび上がることも示した。

②関連資料の調査
演劇博物館、東京国立近代美術館フィルムセンター、松永文庫所蔵の映画館週報や各種雑誌とともに、映画研究者の牧由尚氏の映画資料コレクションの調査をおこない、同時代の各地域の映画館における音楽実践の類似性と多様性を考察した。

③ヒラノ・コレクションの楽譜の演奏と参考上映
コレクションから想定される主要な編成による和洋合奏(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、三味線)を初めて実現した。また研究分担者が本コレクションから「選曲」を試みることで、過去の楽士たちが直面した問題を実践的に捉え、今後の「復元」上映と演奏を行う上での課題を示した。 日本映像学会映画文献資料研究会と成果報告会では、現代の代表的な無声映画伴奏者(柳下美恵氏、湯浅ジョウイチ氏)の協力を得て現代と過去の伴奏実践を比較検証し、その連続性と不連続性の所在を検討した。

④関連学会との連携および他領域との比較検討
映画保存協会のワークショップや日本映像学会の研究会に参加し、本コレクションの意義を紹介した。無声映画伴奏の特徴を捉え直すべく関連領域との比較検討を進めた。日本音楽学会では無声映画と同様にBGMライブラリーをもつ記録映画やテレビと、成果報告会では黒御簾音楽と比較し、それぞれの特徴を捉え直した。

『Kino Music 日活楽譜』より「Fuji Music No.21」
ヴァイオリン譜(左) 三味線の手書き補充譜(右)
“Fuji Music No. 21” from Kino Music Nikkatsu Scores (Violin part and handwritten supplementary part for shamisen

「時代劇伴奏楽譜 剣劇新曲 A1」
ピアノ譜・表紙(左) ピアノ譜・1 頁目(右)
Accompaniment Scores for Historical Drama: Sword Play New Music A1 Piano part (cover and 1st page)


公募研究課題
2. 演劇博物館所蔵の映画館資料に関する複合的カタロギング


研究代表者

上田学(東京工芸大学芸術学部非常勤講師)

研究分担者

スザンネ・シェアマン(明治大学法学部教授)
ローランド・ドメーニグ(明治学院大学文学部准教授)
仁井田千絵(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)

課題概要

本研究の目的は、演劇博物館が所蔵する映画館興行関連資料のなかから、大正期から昭和初期にかけての資料に焦点を絞り、当該期の日本映画史における興行の機能を明らかにすることにある。具体的に本研究は、演劇博物館所蔵の複数の一次資料を研究対象とし、その興行内容に踏み込んだ複合的なカタロギングを進める。またwebデータベースの公開準備が進んでいる映画館プログラムについて、本研究のカタロギングにもとづく関係データベースを構築する。

研究成果の概要

今年度は、第一に、本研究の核となる、演劇博物館所蔵の「映画館興行関連資料」のカタロギングを実施した。本資料は、兵庫県多可郡西脇町の映画館、寿座の昭和10年代の興行資料である。共同研究者による計二回の研究会を通じて、デジタル化資料の選定およびデータベースのカラムの決定をおこない、その後にカタロギングを進めた。その具体的な成果として、資料117点のデジタル静止画を作成し、12月末時点で、そのうち54点から入場者数、経費、売上、上映作品等の映画興行のデータを抽出した。また上映作品については、『日本映画作品辞典』『舶来キネマ作品辞典』(科学書院)にもとづく作品番号を付与し、将来的な映画館プログラム・データベースとの統合も視野に入れた、データのリレーションに向けた準備を進めた。 第二に、昭和期の映画館・映画興行に関する基礎的な共同調査をおこなった。まず徳島県美馬郡つるぎ町の貞光劇場館主の藤本一二三氏と、香川県高松市でミニ・シアターを経営する株式会社ソレイユ社長の詫間敬芳氏に、聞き取り調査を実施し、昭和期の地方の映画興行に関する当事者の知見を収集した。また豊島区郷土資料館において、本研究に関連する昭和期の映画館資料の共同調査を実施する(2月予定)。
これらの研究成果にもとづき、9月にCultural Typhoon in Europe(ウィーン大学)において、ドメーニグ、シェアマン、上田の三名が、“Movie Theatres in Japan”と題したパネルで口頭発表した。また10月に、北九州市の松永文庫で開催されたシンポジウム「地域文化としての映画」で、上田が昭和戦前期の地方の映画興行に関する口頭発表をおこなった。さらに先述した貞光劇場の藤本一二三氏の聞き取りについて、その成果を明治学院大学の紀要に掲載する(3月予定)。

寿座興行経費支払表(1943 年 12 月)
Kotobukiza exhibition list of paid expenses (December 1943)

寿座売上台帳(抜粋、1936 年 11 月)
Kotobukiza sales ledger (November 1936)


公募研究課題
3. 淡島千景資料の多角的研究:宝塚・映画・五輪・野球


研究代表者(所属)

羽鳥隆英(新潟大学人文学部助教)

研究分担者(所属)

石坂安希(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)
河野真理江(立教大学現代心理学部兼任講師)
山梨牧子(トリア大学第二学部日本学科非常勤講師)

課題概要

本研究の目的は早稲田大学坪内博士記念演劇博物館に寄贈された女優淡島千景(1924年‐2012年)の遺品約3,000点のデータベース化と本格的な分析への着手である。具体的には①淡島の芸歴の起点である宝塚歌劇、②淡島が1950年代・60年代の黄金期に際会した日本映画、③淡島と所縁の深い東京五輪・プロ野球の各視点から淡島資料への接近を試みる。演劇史・映画史・スポーツ文化史などを結節した学際 的研究の確立を目指す。

研究成果の概要

第一に宝塚関連資料のデジタル画像約400点の撮影と一次データベース化(全画像に対し、AWAから開始するID番号と資料名を付与)を完了した。現在はより詳細な二次データベース化への準備中である。 第二に東京国立近代美術館フィルムセンターにおける特別映写を通じ、淡島資料の16㎜映像に、個人的に撮影された映画『夕凪』(1957年)のロケ風景の記録が含まれる事実を確認した。
第三に日本映画学会第12回全国大会における研究報告を通じ、淡島資料の貼込帳に含まれる新聞記事調査から解明された1950年代後半の淡島の動向を分析した。具体的にはスタジオ・システム下における大手映画会社間を横断したスター同士の「親睦」の政治性、またスター同士の「親睦」における淡島の位置付けなどを巡り、淡島も積極的に関与した「東京俳優クラブ」に着目しつつ考察した。
第四に東京国立近代美術館フィルムセンターにおける研究集会を通じ、淡島千景が当り役「寺田屋お登勢」(幕末、坂本龍馬ら反体制派の志士を庇護した京都伏見の船宿の女将)を最初に演じた映画『螢火』(1958年)の上映に続き、最晩年の淡島が同役を演じた劇団若獅子公演に相手役坂本龍馬を演じた俳優・演出家笠原章(1948年‐)を招聘し、聞き手の羽鳥隆英を交えつつの講演を実施した。笠原が修行した劇団新国劇座長の一人島田正吾(1905年‐2004年)から淡島に宛てられた書簡(淡島が笠原に譲渡)が笠原から朗読されるなど、貴重な新資料も紹介されたのに加え、笠原が演劇活動を開始した1970年代から21世紀に至る商業演劇における淡島千景の位置付けなどを巡る新知見を導出した。

中川慶子(本名)16 歳 宝塚音楽歌劇学校受験證
Takarazuka School of Music and Revue entrance examination admission slip for Keiko Nakagawa (Awashima’s real name) at the age of 1

1942 年 10 月 21 日付 撫順・蜂谷慰安社大入袋
Full-house bonus envelop from Hachiya Iansha in Fushun dated October 21, 194


公募研究課題
4. 視覚文化史における幻燈の位置:明治・大正期における幻燈スライドと諸視覚文化のインターメディアルな影響関係にかんする研究


研究代表者(所属)

大久保遼(愛知大学文学部人文社会学科特任助教)

研究分担者(所属)

草原真知子(早稲田大学文学学術院教授)
向後恵理子(明星大学人文学部准教授)
遠藤みゆき(東京都写真美術館学芸員)

課題概要

演劇博物館には、世界的に見てもきわめて貴重な映画前史の映像文化に関する資料が数多く収蔵されている。本共同研究チームは、2015年度までに館蔵の幻燈スライドのコレクションの体系的な整理を行い、その成果を展示や図録、データベースなどによって公開してきた。2016年度はこうした成果を踏まえ、館蔵の幻燈資料を館外のスライドや関連資料と突き合わせることで、明治・大正期の幻燈文化の広がりと、同時代の視覚文化とのインターメディアルな影響関係を明らかにする。

研究成果の概要

(1)表象文化論学会における報告
立命館大学で開催された表象文化論学会大会において、共同研究メンバーでパネル報告「明治大正期のインターメディアリティ――写真・幻燈・映画の文化的複合性をめぐって」を行った。パネルでは共同研究における議論を踏まえ、草原氏の司会のもと、「明治期における写真術の日用品への応用」(遠藤)、「明治初年のスクリーン・プラクティス:映画前史における上映の諸問題」(大久保)、「連鎖劇の興行形態と日本映画のスタイルとの関係性」(上田)と題した報告を行った。コメンテーターの長谷正人氏(早稲田大学)や会場とのディスカッションを含め、幻燈と同時代の視覚文化との多面的な影響関係を明らかにすることができた。
(2)Association for Cultural Studies年次大会での報告
シドニー大学で開催されたAssociation for Cultural Studiesの年次大会において、パネル報告「Doing Screen Studies in Japan」に参加し、共同研究の成果や表象文化論学会での議論を踏まえ「Japanese Screen Culture in the Nineteenth Century: Focusing on the Various Styles of Mixture between Stage and Screen」と題した報告を行った(大久保)。これは演劇博物館所蔵の幻燈や写し絵のスライド、関連資料を含む19世紀日本の幻燈文化を、映像史と演劇史双方の文脈から捉えることを提案するもので、文化研究のみならず映画史やメディア考古学的な視点を持った研究者の参加もあり、議論を通じて共同研究の成果をより国際的な研究動向の中で捉え直すことができた。
(3)幻燈の販売目録のデータ化
昨年度の共同研究において写真撮影とデジタル化を行った幻燈の販売目録33冊について、内容の確認とスライドの題目を中心に文字情報の打ち込み作業を行った。現在作業の進行中であるが、販売目録のデータと演劇博物館所蔵のスライドを突き合わせて分析することで、例えば今まで不明であったスライドの制作年代や販売時の題目、価格、制作業者などの詳細を知ることができることが見込まれる。年度末までに可能な限り、販売目録データ化を進める予定である。

池田都楽「幻燈器械映画定価表」より
From the catalogue of Magic Lanterns and slides by Toraku Ikeda company

鶴淵初蔵「人知啓発 幻燈図解初号」表紙
Front cover of the catalogue of Lantern slides by Hatsuzo Tsurubuchi compan