殿殿
殿殿
明て寝顔ねかほ共見せてたへコレ手を合せおがみますむごいわいのとどふと伏前後不かく泣けるがハアヽうらむまい歎くまいなま中に顔見たらかゝ様かと取付はなしもせまいし離れも成まい今宵いぬれば今宵の嫁入明日迄待れぬわしが命さらばでござるさらはやといふては戸口へ耳をよせもしや我子が声するか顔でも見せてくれるかとうかゞひ聞ど音もせずハアヽ是非ぜひもなや是迄と思ひ切てかけ出す向ふへ目斗出した大男道をふさいで引とらへ是はといふ間も情なやすらりとぬいて嶋田わげ根よりふつつと切取ふところ迄をひつさらへいづく共なく行し無法むいきぞ是非もなきノウにくや腹立や何者かむごたらしう髪切て書た物迄取ていんだ櫛笄くしかうがいの盗人ならいつそ殺して〱と泣さけぶ声に驚義平は思はずかけ出しがハア爰が男の魂の乱口よとくひしばりためらふ内に奥ゟも御亭主ていしゆ〱義平殿と立出る由良助段々御深切しんせつの御馳走ちさうお礼は鎌倉ゟ申越ん猶跡荷物にもつの義早飛脚ひきやくを以お頼申夜の明ぬ内はやおいとまいか様今しばし共申されぬ刻限こくけん道中御堅勝けんしやうで御吉左右さう相待まするちやく致さば早速さつそく書翰しよかんを以ておしらせ申そふ返す〱も此度のお世話詞でお礼は云つくされませぬソレ矢間やさまわし御亭主へ置土産みやげはつと文吾十太郎扇を時の白だいと乗て出たる一つゝみ是は貴公へ是は又御内宝おその殿へ些少させうなからと指出す義平は

地:寝顔成共,上:寝顔成共地/上

ウ:コレ

ウ:むごいわいのと

キン:どふとキン

フシ:前後,中:前後,ノル:前後フシ/中/ノル

ハル:泣けるがハル

地色:ハアヽ,中:ハアヽ地色/中

色:歎くまい

詞:なま中に

地色:今宵,中:今宵地色/中

ハル:今宵のハル

ウ:明日迄

ウ:さらばで

中:さらはやと

ウ:いふては

上:若や

ウ:顔でも

ウ:窺ひ

中:音も

ハル:是非もハル

ウ:思ひ切て

中:向ふへ

ウ:目斗出

ハル:道をハル

中:引とらへ

ウ:是はと

ハル:すらりとハル

ウ:根より

ウ:懐迄を

ウ:いづく共

ハツミフシ:無法ハツミフシ

地:ノウ,上:ノウ地/上

ウ:何者か

ウ:書た

ウ:櫛

ウ:いつそ

中:泣さけぶ

ウ:声に

ハル:かけハル

ウ:乱

ウ:ためらふ

中:奥ゟも

詞:御亭主

地色:義平殿と,ウ:義平殿と地色/ウ

ハル:立出るハル

中:由良助

詞:段々

地:はつと,ハル:はつと地/ハル

ウ:扇を

地:些少なからと,ハル:些少なからと地/ハル

中:指出す,フシ:指出す中/フシ

地:義平は,ハル:義平は地/ハル