殿調殿殿殿婿調
に見くるしき垣生あばらやへ御出忝しと頭をさぐれば郷右衛門見れば家内に取込も有そふなイヤもふ瑣細ささい内證ないしやう事おかまひなく共いざ先あれへ然らば左様に致さんとずつと通り座につけば二人が前に両手をつき此度殿の御大事にはづれたるは拙者が重々のあやまり申ひらかん詞もなし何とぞ某がとがゆるしをかうむり亡君の御年諸家中諸共相つとむる様に御両所の御とりなしひとへに頼奉ると身をへりくだりのべけれは郷右衛門取あへず先以て其方たくはへなき浪人の身上して多くの金子御石牌料ひりやう調進てうしんせられし段由良助殿はなはだかんじ入れしが石牌をいとなむは亡君の御菩提ぼだい殿にふ忠ふ義をせし其方の金子を以て御石牌の料にもちられんは御尊霊そんれいの御心にも叶ふまじと有て金子はふうまゝ相戻さると詞の中ゟ弥五郎懐中くはいちうゟ金取出し勘平が前にさしばはつと斗に氣も転動てんどう母は涙と諸共にコリヤ爰な悪人づら今といふ今親のばち思ひしつたか皆様も聞て下され親父殿が年寄後生ごしやうの事は思はず婿の為に娘を売調とゝのへて戻らしやるを待ぶせしてあのやうに殺して取た金じや物天道様がなくばしらずなんで御用に立物ぞ親殺しのいき盗人にばちを当て下されぬは神や佛も聞へぬあのふかう者おまへ方の手にかけてなぶり殺しにして下されわしや腹が立わいのと身をなげふして

ハル:頭をハル

色:郷右衛門

詞:見れば

地:然らば左,ウ:然らば左地/ウ

ハル:座にハル

ウ:二人が

色:両手を

詞:此度

地:偏に頼奉,ハル:偏に頼奉地/ハル

ウ:頼奉

フシ:身をフシ

地:郷右衛門,ハル:郷右衛門地/ハル

色:取あ

詞:先以

地:詞の中,ウ:詞の中地/ウ

ハル:金ハル

ウ:勘平が

ウ:はつと斗に氣も

色:諸共にコリ

詞:コリヤ

地:親,ハル:親地/ハル

ウ:罰を

ウ:神や

詞:あの

地:わしや,ハル:わしや地/ハル

ウ:立わいのと身

スヱ:なげスヱ