姿便
見給へば早くもむすぶ夢のていに内侍はふしぎの思ひ今のはどふやら我つまたと思へど形容なりかたちつむりもあをき下男よもやと思ひ給ふ中戸を押ひらいて惟盛卿若葉の内侍か六代かとのたまふ声にヒヤア扨は我夫とゝ様かノウなつかしやと取すがり詞はなくて三人は泣より外の事ぞなき先々内へとひそかともなひ今宵は取わけ都の事思ひくらして居たりしが親子共に息災そくさいでふしぎの対面たいめんながら某此家に居る事を誰しらせしぞ殊に又はる〲の旅の空供連ぬも心得ずぞ尋給へは若葉の君都でお別れ申てより須磨すまや八嶋の軍をあんじ一門残らず討死と聞悲しさも嵯峨さがの奥泣てばつかりくらせしに高野かうやとやらんにおはするといふ者の有故に小金吾召連お行衛を心ざす道追手に出合可愛かはいや金吾は深手ふかでの別れ頼みも力ない中にめぐり逢たは嬉しいが三位中将惟盛様が此お姿は何事ぞ袖のない此羽織はおりに此おつむりはと取てむせびたへ入給ふにぞ面目めんぼくなさに惟盛もひたいに手をあて袖を当伏沈ふししづみてぞおはします涙の内にも若葉の君伏たる娘に目を付給ひ若い女中の寝入ねいりばなことに枕も二つ有ておとぎの人ならんかくゆるかしきお暮しなら都の事も思召風の便たよりも有べきに打捨給ふはどうよくとうらみ給へばホヲヽそれも心にかゝ

中:見給へば

フシ:早くもフシ

地:表に,ウ:表に地/ウ

ハル:思ひハル

詞:今のは

地:似たと,ハル:似たと地/ハル

ウ:つむりも

中:思ひ給ふ

ウ:戸を

詞:若葉の内侍

地色:宣ふ,ハル:宣ふ地色/ハル

ウ:とゝ様か

上:なつかしや

ウ:取すがり

ウ:詞は

フシ:三人はフシ

地:先々,ウ:先々地/ウ

ハル:密にハル

色:伴ひ

詞:今宵は

地色:はる〲の,ウ:はる〲の地色/ウ

ハル:心得ずハル

ウ:尋給へは

中:若葉の君

ウ:都で

ハル:軍をハル

ウ:一門

ウ:聞

上:泣てばつかり

中:暮せしに

ウ:高野と

ハル:有ハル

ウ:小金吾

ウ:心ざす

色:出合

上:可愛や

中:深手の

ウ:頼みも

ウ:力も

ハル:ないハル

ウ:めぐり

ウ:三位中将

上:惟盛様が

ウ:此

ウ:袖の

ウ:此

フシ:取付,クル:取付フシ/クル

中:むせび,ノル:むせび中/ノル

ハル:たへ入給ふにぞハル

地:面目,ウ:面目地/ウ

ウ:額に

フシ:伏沈,ノル:伏沈フシ/ノル

ハル:みてぞハル

地:涙の,ウ:涙の地/ウ

ハル:伏たるハル

色:付給ひ

詞:若い

地:斯,中:斯地/中

ウ:都の

ハル:思召ハル

ウ:風の

上:打捨給ふは

詞:ホヲヽ