〱と味方の船に乗移爰をせんどゝ戦へば味方の駈武者大半討れ事危見へ候某は取てかへし主君知盛の御先途を見とゞけんと申もあへずかけり行サア〱大事が發つてきたさるにても知盛の御身の上氣遣はし沖の様子はいかならんと一間の戸障子押明れば挑燈松明星のごとく天をこがせばまん〱たる海も一目に見へ渡り数多の小船やり違〱舟矢倉を小だてに取敵も味方も入乱れ舟を飛越はねこへて追つまくつつゑい〱声にて切結ぶ人かげ迄もあり〱と戦ふ声々風につれ手に取様に聞ゆるにぞあれ〱御らんぜあの中に知盛のおはすらんやよいづくにとのび上り見給ふ中に挑燈松明次第〱に消失て沖もひつそとしづまれば是こそは知盛の討死の相図かとあまり𩊆て泣れもせず途方にくれて立たる所に入江丹蔵朱に成て立帰り義経主従手いたく働き味方残らず討死まつた主君知盛も大勢に取まかれすでに危見へけるがかいくれに御行方知す必定海に飛込で御最期と存ずれば冥途の御供仕らんと云もあへず諸肌くつろげ持たる刀腹に突立汐のふかみへ飛込ばヤア扨は知盛もあへなく討れ給ひしかはつと計にどうど伏前後もしらず泣ければ君も見る事聞事の悲しさこはさ取交て俱に涙にくれ給ふ局は歎の中よりも君を膝に抱上御顔つく〲と打守り二とせ
〱と味方の船に乗リ移爰をせんどゝ戦へば味方の駈武者大半ン討れ事危見へ候某は取ツてかへし主君知盛の御先途を見とゞけんと申スもあへずかけり行サア〱大事が發つてきたさるにても知盛の御身の上氣遣はし沖の様子はいかならんと一ト間の戸障子押シ明クれば挑燈松明星のごとく天をこがせばまん〱たる海も一ト目に見へ渡り数多の小船やり違〱舟矢倉を小だてに取リ敵も味方も入乱れ舟を飛越はねこへて追つまくつつゑい〱声にて切結ぶ人かげ迄もあり〱と戦ふ声々風につれ手に取ル様に聞ゆるにぞあれ〱御らんぜあの中に知盛のおはすらんやよいづくにとのび上り見給ふ中チに挑燈松明次第〱に消失て沖もひつそとしづまれば是こそは知盛の討死の相図かとあまり𩊆て泣れもせず途方にくれて立たる所に入江ノ丹蔵朱に成ツて立帰り義経主従手いたく働き味方残らず討死まつた主君ン知盛も大勢に取まかれすでに危見へけるがかいくれに御行方知レす必定海に飛込ンで御最期と存ずれば冥途の御供仕らんと云もあへず諸肌くつろげ持たる刀腹に突立テ汐のふかみへ飛込メばヤア扨は知盛もあへなく討れ給ひしかはつと計にどうど伏前後もしらず泣ければ君も見る事聞事の悲しさこはさ取交て俱に涙にくれ給ふ局は歎キの中よりも君を膝に抱上御顔つく〲と打守り二タとせ
地色:某は,ウ:某は地色/ウ
ウ:主君ウ
ハル:御先途をハル
フシ:申もフシ
詞:サア詞
地色:沖の,ハル:沖の地色/ハル
ウ:一間のウ
中:押明れば中
ウ:挑燈ウ
コハリ:天をコハリ
ウ:こがせばウ
ウ:数多のウ
中:〱中
ハル:舟矢倉をハル
中:敵も,キン:敵も中/キン
ノル:舟を,ハル:舟をノル/ハル
中:追つ,キン:追つ,ウ:追つ中/キン/ウ
ハル:切結ぶハル
ウ:人かげ迄もウ
ウ:戦ふウ
中:風に中
ハツミ:手にハツミ
フシ:聞ゆるにぞフシ
詞:あれ詞
地:やよいづくにと,ハル:やよいづくにと地/ハル
ウ:見給ふウ
ウ:次第ウ
フシ:沖もフシ
地色:是こそは,ハル:是こそは地色/ハル
ウ:あまりウ
スヱ:途方にスヱ
中:立たる中
ウ:入江ウ
色:立帰り色
詞:義経詞
地色:冥途の,ウ:冥途の地色/ウ
ウ:云もウ
ハル:持たるハル
色:飛込ば色
ウ:扨はウ
上:はつと計に上
ウ:前後もウ
中:泣ければ中
ハル:君もハル
ウフシ:悲しさウフシ
中:俱に,ノル:俱に中/ノル
ハル:涙にハル
地色:局は,中:局は地色/中
ハル:君をハル
ウ:御顔ウ
中:打守り中
ウ:二とせウ