姿姿西
ごとくに〽かけり行跡見送つて典侍すけつぼねそばに指寄て今知盛のおつしやつたをよふお聞なされたかおさなけれ共十ぜんの君此さもしき御姿にては軍神への恐れ有装束しやうぞくと立上りまさかの時は諸共に冥途めいどの旅の死装束しやうぞくと心にこめし納戸なんど口涙隠して入にける夜も早次第にふけ渡り雨風はげ敷聞ゆれば今此は知盛の難義なんぎしやらんいとおしやとねびさせ給へば一向ひたすらあんわびたる御氣色けしき程なく局は山ばと色の御衣ぎょゐかんむりうや〱敷だいにのせ其身もとも衣服ゐふくあらため一間を出片時へんしも早く御装束と御そばに立寄しづの上ぬぎかへて下のきぬ上の衣御衣冠にいたる迄めさしかゆればあてやかに始姿引かへて神の御末みすへの御よそほひいとたうとくくも見へ給ふサア是からは知盛の吉左右さうを待りととそよとの音もしらせかと胸とゞろかす太鼓たいこかねすはや軍真最中まつさいちうと君のおそばに引そふてしらせを今やと待折から知盛の郎等相模五郎いきつぎあへずはせば様子はいかに早ふ聞せよ〱と局もせきにせき立たりされば兼てのてだての通より味方の小船を乗出し〱義経が乗たる元船間近くこぎ寄しに折しも烈敷はげしき武庫むこおろしつれてふりくる雨いかづち時こそ来れと水練すいれん得たる味方の勢皆海中に飛込〱西国にてほろび平家の一義経にうらみをなさんと声々に呼はれば敵に用意ようゐやしたりけん挑燈ちやうちん松明たいまつばら

上:かけり

地色:跡,ハル:跡地色/ハル

色:指

詞:今

地色:まさかの,ウ:まさかの地色/ウ

ハル:諸共にハル

ウ:冥途の

中:納戸口

フシ:涙フシ

ハルフシ:夜もハルフシ

中:次第に

ウ:更

ウ:雨

ハル:聞ゆればハル

ウ:今此は

中:いとおしや

ウ:ねびさせ給へば

スエ:案じ,ハル:案じスエ/ハル

中:御氣色

ウ:程

ウ:山鳩色の

ウ:うや〱敷

ハル:臺にハル

ウ:其

中:一間を

ウ:片時も

ハル:立ハル

ウ:上着を

中:脱

詞:下の

ハルフシ:御衣冠にハルフシ

中:至る迄

ウ:あてやかに

ハル:始のハル

ウ:神の

中:御装ひ

フシ:いとフシ

地色:サア,ウ:サア地色/ウ

ハル:待計ハル

ウ:そよとの

色:太鼓

ウ:すはや

ウ:しらせを

中:待

ウ:知盛の

ウ:息

ハル:馳付ばハル

ウ:早ふ

フシ:局もフシ

詞:されば

地色:折しも,ウ:折しも地色/ウ

ウ:連て

ウ:時こそ

ハル:皆ハル

詞:西国にて