からは此静が君のお供をする様に取なし頼む武蔵殿と思ひ詰たる其風情今詫言頼だ迚当り眼な辺報義理でもあつと申たけれど此弁慶其意を得ぬ御家来さへ跡先に引別れて行忍びの旅落付所は兼て聞置多武の峯是以て女は叶はず夕部にかはる人心なれば十字坊の所存も量がたし是より道を引ちがへ山崎越に津の国尼が崎大物の浦よりお船にめし豊前の尾形を御頼有ふもしれず夫なれば長の船路猶以てお供は成まいふつつりと思ひ切て都にとゞまり君の御左右を待給へといふにわつと泣出し今迄お傍に居た時さへ片時おめにかゝらねば身もよもあられぬ此静いつ又逢れる事じややら行先しれぬ長の旅路に残つて一日も何と待て居られうぞいか成うきめに逢迚もちつ共いとはぬ武蔵殿連ていて下さんせと涙ながら我君にひし〱と抱付離れかたなき風情也静が別れに判官も目をしばたゝきおはせしが只今武蔵が云通行先知ぬ旅なれば都に残り義経が迎ひの船を待べしと亀井に持せし錦の袋夫こなたへと取出し是こそ年来義経が望をかけし初音の鼓此度法皇より下し給はり我手には入ながら一手も打事なりがたきは兄頼朝を討と有院宣の此鼓打ねば違勅の科遁れず打ば正しく鎌倉殿に敵対も同前二つの是非をわけ兼たる此鼓
からは此静が君のお供をする様に取なし頼む武蔵殿と思ひ詰たる其風情今詫言頼ンだ迚当り眼な辺報義理でもあつと申シたけれど此弁慶其意を得ぬ御家来さへ跡先に引別れて行忍びの旅落付ク所は兼て聞キ置ク多武の峯是以ツて女は叶はず夕部にかはる人心なれば十字坊の所存も量がたし是より道を引ちがへ山崎越ヱに津の国尼が崎大物の浦よりお船にめし豊前の尾形を御頼有ふもしれず夫レなれば長カの船路猶以ツてお供は成ルまいふつつりと思ひ切て都にとゞまり君の御左右を待チ給へといふにわつと泣出し今迄お傍に居た時さへ片時おめにかゝらねば身もよもあられぬ此静いつ又逢れる事じややら行キ先しれぬ長の旅路に残つて一チ日も何ンと待ツて居られうぞいか成ルうきめに逢迚もちつ共いとはぬ武蔵殿連レていて下さんせと涙ながら我君にひし〱と抱付キ離れかたなき風情也静が別れに判官も目をしばたゝきおはせしが只今武蔵が云通行キ先知レぬ旅なれば都に残り義経が迎ひの船を待ツべしと亀井に持タせし錦の袋夫レこなたへと取リ出し是こそ年来義経が望をかけし初ツ音の鼓此度法皇より下し給はり我カ手には入ながら一ト手も打ツ事なりがたきは兄頼朝を討テと有院宣の此鼓打タねば違勅の科遁れず打テば正しく鎌倉殿に敵対も同前二つの是非をわけ兼たる此鼓
フシ:思ひ詰たるフシ
詞:今詞
地:ふつつりと,ウ:ふつつりと地/ウ
ハル:都にハル
ウ:待ウ
ウ:いふにウ
ウ:泣出しウ
ウ:今迄ウ
ウ:片時ウ
ウ:行先ウ
上:何と上
ウ:逢迚もウ
ウ:武蔵殿ウ
ウ:連てウ
ウ:我ウ
ウ:ひしウ
中:離れ,フシ:離れ,ノル:離れ中/フシ/ノル
ハル:かたハル
地色:静が,ウ:静が地色/ウ
ハル:しばたゝきハル
中:おはせしが中
詞:只今詞
地:亀井に,ウ:亀井に地/ウ
ハル:こなたへハル
中:取出し中
詞:是こそ詞
地:打ねば,ウ:打ねば地/ウ
ハル:科ハル
ウ:鎌倉殿にウ
ウ:敵対もウ
ウ:二つのウ
ウ:此ウ