研究会

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    • 公募研究 「栗原重一旧蔵楽譜を中心とした楽士・楽団研究」主催公開研究会

      エノケンと同時代の楽士たち

      栗原重一とその周辺


      ◆日時:2021年2月15日(月) 14:00~17:00
      ◆開催方法:オンライン(リアルタイム、ZOOM利用)
      ◆参加方法:参加無料、事前予約制 ※締切:2/12(金)23:59

      コチラの申込フォームから必要事項を記入してお送りください。
      ※2月13日(土)頃までに、登録いただいたアドレスに参加用のURLをお送りします。
      ※ZOOM等の技術的な側面へのお問い合わせ、および当日のお問い合わせはご対応できません。
      ※後日のオンデマンド配信は行いません。


      開催趣旨

      栗原重一(1897-1983)は、昭和初期にエノケン劇団の楽士などとして活躍し、日本のオペレッタやジャズ受容に大きな役割を果たした音楽家です。第1部では、演劇博物館が所蔵する栗原旧蔵楽譜資料のうち、2020年度に新たに調査を進めた資料の調査成果を踏まえ、榎本の作品との関連、所蔵印、楽譜の形態などの観点から報告を行います。
      第2部では、音楽評論家の毛利眞人氏による菊池滋彌に関する講演や、研究分担者による発表を通じて、榎本健一および栗原重一の活動を、同時代の舞台や映画などのさまざまなジャンルや周辺の音楽家との関係の広がりを捉えます。


      スケジュール

      14:00~15:05
      第1部 栗原重一旧蔵楽譜資料調査報告:栗原の活動の広がり
      ・14:05 2020年度資料調査報告 小島広之(東京大学)、山上揚平(東京大学) 
      ・14:35 発表 栗原重一と浅草オペラとの接点:旧蔵楽譜のヴォーカル・スコアから 白井史人(名古屋外国語大学)
      ・14:50 栗原重一旧蔵のサイレント映画伴奏譜:所蔵印の分布とサウンド映画での使用 柴田康太郎(早稲田大学演劇博物館)

      15:15~16:30
      第2部 エノケンと同時代の楽士たち
      ・15:15 講演 「戦前ジャズの記録:菊池滋彌と貼り雑ぜ帖」 毛利眞人(音楽評論家)
      ・16:00 発表:中野正昭(明治大学)、紙屋牧子(玉川大学)

      16:30~17:00
      第3部 ディスカッション


      開催報告

      栗原重一(1897-1983)は、昭和初期にエノケン劇団の楽士などとして活躍し、日本のオペレッタやジャズ受容に大きな役割を果たした音楽家である。公開研究会の第1部では、演劇博物館が所蔵する栗原旧蔵楽譜資料のうち、2020年度に新たに調査を進めた成果を踏まえ、榎本の作品との関連、所蔵印、特徴的な楽譜の分析を進めた。第2部では、榎本健一および栗原重一の活動を、同時代のジャズ、舞台、映画などのさまざまなジャンルや周辺の音楽家との関係から、その広がりを捉えることを目指した。

      第1部「栗原重一旧蔵楽譜調査報告」では、まず山上揚平が、本年度の成果を踏まえた旧蔵資料全体の分析を行った。栗原の活動の広がりが、さまざまな形態や内容を持つ所蔵印の分布に示唆されていることを鮮やかに図示した。つづいて、2020年度の目録作成を進めた小島広之が、栗原が音楽を担当した映画『大陸突進 前篇・後篇』(1938)に関連する楽譜資料を分析した。新規デジタル化分を含む楽譜資料のうち「大陸突進」に関連する書き込みがある楽譜を抽出し、現存する映像と詳細に照合することで、印刷譜を活用した栗原のトーキー映画音楽の製作のプロセスをあぶり出した。

      白井史人の発表「栗原重一と浅草オペラとの接点:旧蔵楽譜のヴォーカル・スコアから」では、旧蔵楽譜に含まれる『椿姫』(ヴェルディ作曲)と『カティンカ』(フリムル作曲)のヴォーカル・スコアを手掛かりに、関東大震災前後の栗原の活動の足跡を追い、1930年代以降の榎本との活動との関連を示した。柴田康太郎の発表「栗原重一旧蔵のサイレント映画伴奏譜:所蔵印の分布とサウンド映画での使用」は、旧蔵楽譜に含まれる80点を超す無声映画伴奏譜に着目した。所蔵印の分布からその由来を検討し、栗原が無声映画期の伴奏譜をトーキー化以降の『磯川平助功名噺』(1942)や『エノケンの豪傑一代男』(1950)でも使用していた点を具体的に指摘した。

      第1部の議論を通じて、2020年度の調査成果をこれまでの調査の蓄積へと還元することで、作品への使用プロセスが具体的に明らかになると同時に、榎本と活動する以前の浅草での楽士ネットワークの重要性が浮かびあがってきた。

      第2部では、まず音楽評論家の毛利眞人の講演「戦前ジャズの記録――菊池滋彌と貼り雑ぜ帖」で、栗原と同時代に活躍した音楽家・菊池滋彌の活動を概観した。豊富な音源を通して菊池の活動を辿ることで、赤坂のダンスホール「フロリダ」での活動から戦後の演奏まで通底する菊池の洗練されたスタイルが生き生きと浮かび上がってきた。共同研究の枠内で明らかとなった瀬川昌久氏の旧蔵資料を活用した菊池滋彌のスクラップブックの分析も行い、出自や畑が異なる栗原との接点や音楽面の比較など、同時代のジャズ文化の広がりを捉えるためのさらなる展望がひらけた。

      つづいて、研究代表者の中野正昭が、2019年度に古書店から購入したピエルブリヤントの舞台公演写真を含む写真アルバムの考証を行った。観客によって記録されたと考えられる本写真アルバムに関する情報は乏しい。しかし、舞台の構成、舞台美術、衣装などの細部に着目し、写真アルバムに記録された公演が浅草松竹座もしくは新宿第一劇場などで撮影された可能性が高く、同時代に撮影された演劇の記録としても貴重なものであることを指摘した。日本近代演劇史に関する知見と経験を駆使し、ピエルブリヤントの舞台装置の特徴までも明らかにするその考証過程に、感嘆の声が上がった。

      最後に、紙屋牧子の発表は映画『エノケンの孫悟空』と全体主義との関連を考察した。映画公開時の広告資料などの分析から出発し、レビューシーンに色濃く表れるハリウッド映画からの影響と同時代の軍国主義の複雑な関係を精査した。とりわけ、映画に登場する飛行機やロボットなどの機械描写に象徴される「マシーン・エイジ」、アメリカズム、全体主義的イデオロギーとの親和性を確認しつつ、榎本演じる孫悟空を、その結合から逸脱する個の表出として読み取りうる点を鋭く指摘した。

      ZOOMを活用したオンラインの公開研究会はチームとして初の試みであったが、質疑応答では一般の参加者を交えた舞台写真の考証に関する議論も進められるなど、盛会のもと幕を閉じた(参加者計17名)。2020年度に新たに調査をすすめた成果と、複数の領域を専門とする共同研究者の知見を組み合わせることで、栗原の活動の細部と同時代の動きのつながりが浮かび上がる充実した機会となった。


      主催:早稲田大学演劇博物館 演劇映像学連携研究拠点 令和2年度 公募研究「栗原重一旧蔵楽譜を中心とした楽士・楽団研究:昭和初期の演劇・映画と音楽」(代表:中野正昭)

      問い合わせ先:shiraifu[@]nufs.ac.jp  ※[@]を@に変えて送信してください