ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所 第二回研究会報告


2010年1月9日に「中世ヨーロッパにおける終末のイメージ」と題して、早稲田大学で第二回研究会が開催されました。
プログラムは以下の通りです。
(それぞれのお名前は報告要旨記事にリンクしています。)

第一部:「西欧とビザンティン世界の交流」

益田朋幸(早稲田大学文学学術院)
「「最後の審判」図像の東西伝播」

甚野尚志(早稲田大学文学学術院)
「十二世紀の知識人の終末観と東西教会合同の理念」


第二部:「『ベアトゥス黙示録注解』の世界」

毛塚実江子(共立女子大学非常勤講師)
「千年紀(ミレニアム)スペイン−黙示録写本にみる終末思想」

久米順子(東京外国語大学講師)
「千年紀(ミレニアム)を超えて−レコンキスタの進展と盛期中世のベァトゥス写本」


第一部では「西欧とビザンティン世界の交流」をテーマに益田朋幸先生、甚野尚志先生よりご報告いただきました。
益田先生のご報告は、「最後の審判」の図像を、ビザンティンの11世紀後半の福音書写本挿絵(パリ74番)から、ミケランジェロに至るまで概観するものでした。中央にキリスト、その右手側に天国、左手側に地獄といった、大構図の「最後の審判」図像が、ルネサンス以降の遠近法の影響を経て変遷する様子を、明快な語り口でご紹介くださいました。

甚野先生は、ハーフェルベルクのアンセルムスの著作『対話』(1149頃)を詳しく紹介くださいました。伝統的な終末思想と、ニコメディア府主教ニケタスとの神学論争を同時に納めた『対話』からは、ラテン教会とギリシア教会との典礼、異端、洗礼の差異について論を戦わせながらも、その多様性を認め、キリスト教の終末へ向かって東西教会の合同を望む、12世紀知識人アンセルムスの終末観を伺うことができました。

第二部ではスペイン中世に制作されたヨハネ黙示録写本、いわゆる「ベアトゥス写本」の写本の忠実なファクシミリ(写真)を交えて、その終末観を探りました。
毛塚氏の報告は、モーガン写本(ニューヨーク、モーガン図書館、644番)を中心にベアトゥス写本の終末論を紹介するものでした。800年をこの世の終末と考えていた8世紀の修道士ベアトゥスの黙示録註解と、10世紀の写本挿絵との終末論的な接点は部分的であり、当時の神学論については課題が残されました。
久米氏の報告は、レコンキスタの時代にベアトゥス写本がどのような変遷を辿ったか、11世紀から13世紀までの流れを追う、包括的な視点によるものでした。11、12世紀の豪華な挿絵が付された作例を残しながらも、ロマネスク、ゴシックと西ヨーロッパの文化がイベリア半島に取り入れられるとともに、13世紀に挿絵入りのベアトゥス写本が姿を消すまでを、様々な歴史的な視点、先行研究から追い、大胆な仮説を呈されました。
今回は美術史がメインでありましたが、歴史、文学、その他の方々からも貴重なご指摘をいただき、非常に有意義かつ刺激的な議論が展開されました。

大変に盛況でありましたことをご報告するとともに、ご多忙のなか足をお運びくださいました方々には、改めて深く御礼申し上げます。 今後も学際的、意欲的な研究会となりますよう、期待して止みません。 次回のお知らせが決まり次第、こちらにご報告いたします。                                                    (文責:毛塚)

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