女性アスリートの諸問題

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月経状況の調節

埼玉医科大学病院 産婦人科
難波 聡

    スポーツ指導者やアスリートの中には、月経を「必要悪」のように捉える向きもあります。実際、月経に関しては以下のように面倒な点が存在します。

  • 月経が試合に重ならないか気にしなくてはならない
  • 月経周期による好不調を否応なく意識させられる
  • 月経周期によりトレーニング内容や評価を加減しなくてはならない
  • 月経出血により貧血が進行するのではないかと心配である

さらには、月経がきちんと発来するような「女の体」になってしまっては競技力が低下する、と豪語する指導者まで存在します。しかし、思春期から性成熟期の女性アスリートにとっては、排卵があり月経があることは、「身体が妊娠可能な余力を残している」という指標でもあります。したがって、月経に伴うコンディショニングや貧血の問題、懸念に対して適切に対応しないと、「無月経の方がまし」という誤った観念を助長することに繋がってしまいます。

(1)月経周期とコンディション

月経周期の中でエストラジオールやプロゲステロン値の変動や月経随伴症状などにより女性アスリートの体調にも当然変動があります。主観的なコンディションの良し悪しを問うと、85%のアスリートが月経周期に伴うコンディションの変化を自覚しています(図1)。

図1 月経周期とコンディションの自覚1)

コンディションの良い時期は「月経終了直後から月経後数日」とする者が大部分であり、「黄体期から月経中」がコンディション不良と思われます。黄体期にコンディション不良となる原因は、まず体温上昇作用、水分貯留作用などを有するプロゲステロンの作用と推測されます。いわゆる月経前症候群(PMS)(倦怠感、浮腫、体重増加、乳房緊満感、いらいら、気分変調)と同様です。

月経中の競技については、月経痛を自覚するアスリートや月経血への対処に関して競技への集中力がそがれると感じるアスリートが避けたがる一方、黄体期に比べれば遙かにましである、全く問題ないとするアスリートもいます。

(2)月経移動によるコンディショニング

重要な試合がコンディション不良な時期に重なるのを避けるためには、月経の移動を考慮します。ところが日本のトップアスリートにおいても、実に66%がコンディション調整目的の月経移動について「考えたこともなかった」と回答しており(図2)、まだ広まった方法とは言いがたい現状です。

図2 コンディション調整目的での月経移動に関するアンケート1)

月経時期を移動させる場合、単に月経が試合に当たるのを避けるだけではなく、ベストなタイミングで試合を迎えたいという要求にもこたえたいものです。

月経移動の目的で用いられる薬剤は低用量ピル(OC)ですが、特に初めてOCを内服するアスリートの中に、悪心・体重増加などを自覚するアスリートが少なからず存在することから、内服期間中に試合を迎えるよりも、試合前に内服を終了して消退出血をすませておく方が無難です。すなわち「月経を早める」方法です。例えば、前の月経3日目以内にOC内服を開始し、試合の7〜8日前に内服を終了すれば、ほぼ消退出血の終了とともに試合を迎えることができます。

日頃から月経困難症や月経前症候群に悩まされているアスリートは、月経移動でのOC使用を機に、OCの定期内服へ移行してもよいでしょう。日常的なOC内服アスリートの場合は、試合を消退出血直後にあわせる必要はありません。OCの内服は外国のアスリートにとっては常識的なこととも言われますが、日本のトップアスリートではわずか2%にすぎません。ただし最近は、テニスや自転車競技など海外で活躍するアスリートからOC服用者が増えてきています。

参考文献

1) 
能瀬 さやか, 土肥 美智子, 難波 聡, 秋守 惠子, 目崎 登, 小松 裕, 赤間 高雄, 川原 貴 (2014) 女性トップアスリートの低用量ピル使用率とこれからの課題, 22(1), 122-127, 日本臨床スポーツ医学会誌

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