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女性アスリートにおける障害・外傷ケアマネジメント

早稲田大学スポーツ科学学術院 助手
理学療法士 松浦由生子

 女性アスリートの障害・外傷ケアマネジメントを行ううえで、各障害・外傷の性差によるリスクファクターを理解することが重要です。 
 性差が関連し、男女で異なるケアマネジメントが求められる代表的な障害・外傷には疲労骨折、膝前十字靭帯(ACL)損傷、脳震盪が挙げられます。各障害・外傷別の女性アスリートのリスクファクターとケアマネジメント方法について紹介します。

・疲労骨折
 疲労骨折は女性アスリートに多く発生し、男女とも既往歴や相対的なエネルギー不足(RED-S)が関与します(他項:相対的エネルギー不足(RED-S)参照)。女性アスリートの疲労骨折のリスクファクターはこれらに加え、高い負荷量が挙げられます。疲労骨折は繰り返しの負荷で発生するため、ランニングフォームやスポーツ動作の分析を行い、疲労によって変化する動作の理解も重要です。早期発見が障害予後に関連するため、負荷量が多くなる時期には選手自身やコーチも身体の変化に気づくことが大切です。予防のためには高校や大学の新入生は入学直後の急激な負荷量増加を避けるために上級生と異なるメニューを行い、負荷量を徐々に調整する配慮も時には求められます。

・膝ACL損傷
 膝ACL損傷においても女性アスリートの発生率が高く、特に高校や大学で多く発生します。女性アスリートは男性よりもACLのサイズや顆間窩幅が小さく、骨盤幅・膝外反角度が大きいためバイオメカニクスの観点にておいも障害発生リスクが高まります。特に着地動作時に過度な膝外反位(膝が内側に入る姿勢)にならないよう股関節周囲筋力の強化だけでなく、片脚やマルチタスク下での着地動作学習を行います。予防の観点においてはドロップジャンプ(15cm〜30cm程度の台から着地動作)を行い膝関節が内側に大きくぶれてしまう選手は膝ACL損傷ハイリスクの可能性があり、予防に効果がある股関節周囲筋の強化や着地動作練習の実施も有効です。

・脳震盪
 脳震盪においても女性アスリートの発生リスクが高いです。男性アスリートは一般的に他のプレーヤーとの接触での損傷が多いですが、女性アスリートは一般的に道具との接触による受傷が多いです。そのため、競技復帰までのリハビリテーションでは道具を使用した実践的な練習を行います。しかし女性アスリートの方が脳震盪受傷後の症状が長引くため、急激な復帰トレーニングを行うのではなく、脳震盪評価ツールであるSCATに基づいた段階的なリハビリテーションを実施する必要があります。

 いずれの障害・外傷も選手・コーチ自身の障害発生リスクファクターへの認識やケアマネジメントの実践が競技力向上に繋がります。また障害や外傷を未然に防ぐ「予防」の観点も念頭に入れておくことが重要です。

参考文献

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