
欧米で開発が進められている修飾Hb(分子内架橋、重合型、PEG結合型)では、投与に際し血圧の異常亢進や食道の蠕動運動の障害など副作用が明らかになり、米国FDAのワークショップ(April, 2008)では、臨床試験において死亡率や心筋梗塞の発生率が生理食塩水の投与よりも高くなることが議論されました。これは血管内皮由来弛緩因子である一酸化窒素(NO)との高い親和度に起因すると考えられています。ハムスター皮下微小循環系の抵抗血管径と血圧の変動を追跡した実験では、修飾Hb (特に分子内架橋Hb, 粒径7 nm) で最も抵抗血管径が収縮し、同時に顕著な血圧亢進を示しました。血管収縮は末梢循環を阻害し、組織へ十分量の酸素が供給されなくなる危険性があります。この時、酸素運搬体の粒子径が重要な意味を持ちます (図1)。

粒子径が大きくなるにつれ、血圧亢進や血管収縮の変動の程度は弱くなり、直径250 nmのHb小胞体では、血管収縮も血圧亢進も起こらないことが確認されています(AJP Heart 2000)。現在のところ、分子状の修飾Hb は、血管内皮細胞層を透過して血管内平滑筋近傍に到達し、内皮細胞が産生するNOを捕捉し血管弛緩機能を低下させますが、直径250 nmのHb小胞体では赤血球と同様に平滑筋までは到達できず、血管内腔に留まるため、血管収縮も血圧亢進も起こらないと考えています(カリフォルニア大学サンディエゴ校との共同研究)。肝臓中では肝実質細胞にあるhemeoxygenaseがヘムを分解します。この際に産生する一酸化炭素(CO)が、血管弛緩因子として血管内壁のIto細胞に作用します(JCI 1998)。摘出肝灌流中の微小循環動態の検討では、類洞血管の孔 (fenestration, 孔径約100 nm)よりも小さい修飾Hb (7 nm)は、これを容易に通過して Disse腔に侵入しCOを捕捉して類洞血管の不連続的狭窄を生じますが、他方、Hb小胞体では粒径が250 nmと大きいため、類洞血管の孔を透過出来ず肝実質細胞に到達しないので、この現象は生起しません。
Hb小胞体の投与は血液の大半を置換するくらいの大量投与が前提となるので、成分の体内動態と代謝過程を詳細に検討する必要があります。生体内には血液中の老廃物や細菌などの異物を処理して、生体を防御する細網内皮系(RES)があります。体内に投与されたHb小胞体は酸素運搬の役目を終えると、肝臓、脾臓、骨髄などRESのマクロファージに捕捉され徐々に代謝・排泄されることが、ラジオアイソトープ法による体内動態観察(テキサス大学サンアントニオ校との共同)(JPET 2005)や蛍光標識したHb小胞体の投与実験から明らかになりました(図2)。

貪食能に一過性の変動は見られるものの、組織病理学的検討(電子顕微鏡観察、ヒトHb免疫抗体染色(慶大医・病理))から、Hb小胞体は7日以内に、代謝産物である鉄や脂質類は14日以内に消失することが実証され、老化赤血球の代謝経路と同様と考えています(図3)(Am J Pathol 2001, Transfusion 2006) 。また、40%の血液を急速交換した後の生存試験(ラット)では、約1週間後には赤血球量は正常値にまで回復しているので、Hb小胞体の成分が造血に有効利用されていることも考えられ、現在詳細を検討しています。

新薬の非臨床試験において安全度確認のための項目の一つに、GMP基準で製造された試料について齧歯類およびその他の動物を対象とした反復投与試験があります。ラットに対してHb小胞体の反復投与試験(投与量10 ml/kg/日を14日間投与)を実施し、循環血液量の実に2.5倍もの分散液を投与しましたが、体重は増加し続け、血液生化学的、組織病理学的検討でも顕著な副作用が無く、Hb小胞体の成分が速やかに代謝される過程が結果として得られ、安全度が極めて高い製剤であることが証明されています(JPET 2004)。
1. 分子集合体としての構成 2. 輸血代替としての酸素運搬機能 3. 酸素治療剤としての活用 5. 指向性小胞体による薬物送達