ヘモグロビン小胞体

2. 輸血代替としての酸素運搬機能

 Hb小胞体を輸血代替として利用するにあたり重要な点は、先ず、赤血球と同様にHb小胞体粒子分散液は膠質浸透圧を持たないので、大量投与に際しては循環血液量を維持するために、血漿増量剤の添加が必要となります。例えば、Hb小胞体を最近認可された5%リコンビナントアルブミン(rHSA)水溶液に分散させた場合の膠質浸透圧は20 mmHg、粘度と浸透圧はほぼ血液と同等になり、循環動態の恒常性に寄与します(Transfusion 2006)。Hb小胞体の粒径は赤血球の約1/30と小さく、血漿中に均一分散でき、またアロステリック因子の内包で血液と同等の酸素結合解離曲線を呈することも重要な項目です。

 慶應義塾大学医学部(小林紘一教授)のグループとの共同研究では、Hb小胞体で循環血液量の実に90%超過の交換でも血圧が維持され、また血液ガス組成も腎皮質の酸素分圧も正常値を推移することを実証しています。また、臨床現場で想定される最大の交換率40%の交換輸血においてもラットは全例が生存し、ヘマトクリット(赤血球体積分率)が1週間で完全に回復しました。Hb小胞体は最終的に細網内皮系に捕捉され、安全に分解、排泄されます。従って、臨床では術前血液希釈、術中出血分の補給、更に胸部外科手術における人工心肺(ECMO)体外循環回路の補充液としての利用が十分に期待できます(Circulation 2006)。特に小児患者の体外循環では、無輸血充填とした場合(血漿増量剤の充填)、術中の短時間のHb濃度の低下が脳に障害を与え、術後の知能発達に影響を及ぼすとされており、Hb小胞体を充填液として用いることの利点が期待されています (図1)。

図1 ヘモグロビン小胞体(HbV)の写真と微小細管を流動するHbVと赤血球

 出血性ショック時の蘇生液としての利用も検討され、赤血球と同等の酸素運搬機能を主にげっ歯類を使用した実験で実証しています。例えば、麻酔状態のラットの循環血液量の50%を脱血して15分後にHb小胞体を5% rHSAに分散させて投与し6時間観察すると、rHSA単独の投与では8匹中2匹が酸素欠乏で死亡したのに対し、Hb小胞体の投与では循環動態も血液ガス組成も脱血液の投与と同等に推移し全例が生存しました(図2)(CCM 2004; Shock 2008)。現在、ビーグル犬を用いた出血ショック蘇生試験も開始しており、概ね良好な成績が得られています。これらの結果は、Hb小胞体が医療現場にて使用出来るようになれば、特に救急医療や外科的手術において、血液型不一致や感染の心配をせずに、何時でも要求に応じて投与し、同種血輸血の回避、または必要量の低減が可能と成ることを意味します。

図2 出血性ショック状態におけるヘモグロビン小胞体(HbV)の蘇生効果

1. 分子集合体としての構成 3. 酸素治療剤としての活用 4. 安全性の実証 5. 指向性小胞体による薬物送達