ヘモグロビン小胞体

 高純度・高濃度のヒトヘモグロビン(Hb)溶液をリン脂質の二分子層膜で被覆した細胞型の粒子がヘモグロビン小胞体(HbV)です(図1)。その製造工程には、高分子科学、分子集合科学、生化学、化学工学の基礎知見に基く、数多くの工夫が生かされています。HbVの特徴は、血液型なし/感染源なし/液状で長期保存が可能/赤血球と同等あるいはそれ以上の酸素運搬が可能/血液適合性が高い/代謝・排泄が容易などです。現在、一刻も早く臨床試験を開始するため、酸素運搬機能と安全性の非臨床試験の最終作業が進められています。また、派生する新技術(指向性小胞体による薬物送達)も誕生しています。国内外の共同研究を通じて、実現に向け着実に進展しています。

図1 ヘモグロビン小胞体の特徴と構造

1. 分子集合体としての構成

HbVの電顕写真 脂質分子と蛋白質(Hb)溶液が分子間相互作用のみで自発的に集合して構成されたのがHb小胞体です。我々は改良を重ね、一つの粒子に、できるだけ少ない脂質の量で、沢山のHbを運搬させる高効率のHb内包技術を確立しました。一般にリン脂質小胞体は構造的に不安定なものと認識されていましたが、様々な脂質成分とその構成比の最適化と粒子表面のポリエチレングリコール(PEG)修飾により、安定で溶血がない優れた分散系が得られます。さらに詳しく 1 >>

2. 輸血代替としての酸素運搬機能

HbVの入ったバッグ 輸血代替(Transfusion alternative)としてのHbVの重要な物性値(酸素親和度、粘度、膠質浸透圧)は、ヒト血液の値と同等に調節することができます。国内外の医学系研究機関との連携で、動物投与試験により、出血性ショックに対する蘇生液、術前血液希釈剤、術中出血に対する投与液、体外循環回路の補充液などとして、赤血球と同等の酸素運搬機能が実証されています。さらに詳しく 2 >>

3. 酸素治療剤としての活用 (テイラーメード人工赤血球)

微小循環動態の観察 また、HbVの物性の特徴(小粒子径、物性値の調節が容易)を活用して、虚血性低酸素状態にある組織(有茎皮弁、脳梗塞モデル)への酸素運搬剤、放射線感受性を修飾するための固形癌組織への酸素供給源、摘出臓器の灌流液などとして、充分な酸素輸送能を定量的に実証しています。さらに詳しく 3 >>

4. 安全性の実証

HbVの代謝解明 輸血代替としてのHbVの投与は、結果的に血液の大半を置換するほどの大量投与になるので、従来の医薬品よりも更に厳密に検討をする必要があります。既に循環動態の恒常性、血液適合性、投与物の体内動態・排泄、脳神経系への影響などを検討し、修飾Hb溶液系の問題点も克服しており、結果に自信を得ています。さらに詳しく 4 >>

5. 指向性小胞体による薬物送達

指向性小胞体による薬物送達 Hb小胞体の研究開発により、小胞体の新しい可能性も見つかっています。例えば、特定の官能基で小胞体表面を修飾することで、投与後に特定の方向への集積が観測される「指向性小胞体」が見つかりました。骨髄(造血器)に集積する指向性小胞体は、造血機能の調節や造血器腫瘍の治療に有効な薬剤を集中的に集積させる新技術としての利用が期待できます。さらに詳しく 5 >>