
酸素輸液の開発研究からいくつかの新しい物質系が生まれています。例えば、機能性アルブミンを用いて“中空シリンダー状のタンパク質ナノチューブ”を作ることができます(図1)。アルブミン (HSA) の等電点 (pI値) は4.8と低く、生理条件下では分子表面が強く負に帯電しています。そこで、アルブミンのpH 3.8水溶液 (分子表面は正) を多孔性酸化アルミナ膜の細孔内へ通過させた後、続いてアルブミンのpH 7.0水溶液 (分子表面は負) を通過させ、順次この操作を繰り返すと、細孔内壁にアルブミンの多重積層膜が得られます。充分に乾燥後、鋳型成分のみを除去すると、アルブミンからなるナノチューブが合成できるのです。アルブミン-ヘム複合体を用いれば、酸素分子を結合解離できるヘムタンパク質ナノチューブが調製できます(Chem. Commun. 2007)。

ナノチューブの内孔表面を合目的な電荷に修飾することは、その一次元内孔空間への分子包接にとってきわめて重要です。鋳型内交互積層法で作るタンパク質ナノチューブの場合、最終層の分子選定だけで電荷調節ができるのは大きな利点でしょう。我々は、高分子電解質を正電荷層に用いると、アルブミンナノチューブの内外層電荷が制御できることも明らかにしました(Chem. Lett. 2008)。
タンパク質ナノチューブは、膜壁に複雑な機能を担持できるばかりでなく、その内孔に所望の分子を包接させることにより、さらなる高次機能を発現できるバイオ超分子へと進化します。鋳型内交互積層法のもう一つの特徴は、ナノレベルから実用レベルまで連続的に発展できる点にあります。医薬品、バイオセンサー、ナノリアクターとしての応用や、ミセルやリポソームとは異なる新しいドラッグキャリアの誕生に期待が寄せられています。