
天然のプロトヘム (鉄(II)プロトポルフィリンIX) を用いて酸素輸液を作ることができれば、より生体適合性に優れた製剤が提供できます。実は血流中でヘモグロビンから解離したプロトヘミン (鉄(III)プロトポルフィリンIX) も、アルブミンに捕捉され肝臓へと運ばれます。そこで我々は、アルブミン-プロトヘミン錯体のX線結晶構造解析に挑戦し (Imperial College London共同) 、プロトヘミンがアルブミンのサブドメインIB内にチロシン (Tyr)-161との軸配位結合により固定されていることを見出しました (図1) (BMC Struct. Biol. 2003)。しかし残念ながら、このプロトヘミンの中心鉄を還元して酸素を吹き込んでも、ヘモグロビンのような酸素錯体は得られません。それは軸配位子がヒスチジン (His) ではないためです。
そこでアルブミンのサブドメインIB内へ近位塩基として作用するHisを遺伝子組換え技術 (部位特異的アミノ酸置換) により導入し、さらに中心鉄に結合しているTyr-161を疎水性アミノ酸 (ロイシン (Leu) に変換したところ、得られた組換えアルブミン-プロトヘム (rHSA-heme) 錯体は室温で酸素を吸脱着できることがわかりました(J. Am. Chem. Soc. 2004, 2005)。酸素結合席であるヘムに化学修飾しなくとも、アルブミンのプロトヘム結合サイト周辺を遺伝子組換え技術で少しだけ改変してやれば、天然のプロトヘムでも酸素錯体を形成することが明らかとなったのです。現在このrHSA-heme錯体は、新しい酸素輸液として、構造の最適化が進められています(J. Am. Chem. Soc. 2007)。

HSAはヘム誘導体のみならず、様々な分子を取り込むことにより、ユニークな機能性人工タンパク質へと変身します。例えば、プロトヘムの亜鉛誘導体 (Zn(II) プロトポルフィリンIX) をHSAに結合させたHSA-Zn(II)プロトポルフィリン錯体は、水の光還元反応の増感剤として(J. Am. Chem. Soc. 2006)、またHSA-フラーレン錯体は、一重項酸素生成の光増感剤として機能します(Bioconjugate Chem. 2008)。
先述したように、我国では世界に先駆け遺伝子組換えHSAの量産体制が確立され、臨床利用はもちろんバイオマテリアルの有用な素材として注目が集っています。種々の機能性分子を結合させたり、その結合サイト周辺のアミノ酸配置をコントロールすることにより、所望の機能性アルブミンが大量生産できるのです。