アルブミン-ヘム

1. アルブミン-合成ヘム (HSA-FeP)

 ヒト血清アルブミン (Human Serum Albumin: HSA) に合成ヘム誘導体 (FeP、図1) を包接させたアルブミン-ヘム (HSA-FeP) 複合体は、ヘモグロビンを利用しない酸素輸液です。HSAは血漿タンパク質の約60%を占める単純タンパク質で、血液中ではコロイド浸透圧維持のほか、代謝産物や薬物を結合し運搬する役割を担っています。日本では逸早くピキア酵母を用いた遺伝子組換えHSAの産生技術が確立され、2008年から世界に先駆け臨床使用されるようになりました。

 我々はこのHSAの非特異的多分子結合能に着目し、その内部にFePを包接させたHSA-FeP複合体を調製、それが生理条件下で酸素を可逆的に吸脱着できる“人工ヘムタンパク質”として機能することを見出しました (図2) (Bioconjugate Chem. 1999, 2002)。HSA一分子あたり8個のFePが包接され、これはヘモグロビンのヘム数の2倍に相当します。FeP包接後も、HSAの高次構造、表面電荷、溶液物性に変わりはありません。HSA-FePの酸素親和性はヒト赤血球と同等に合わせており、さらにFePの構造調節により、任意の値に調整することも可能です(Bioconjugate Chem. 2006, 2008)。

図1 合成ヘム誘導体(FeP)の一例

図2 アルブミン-ヘムの特徴と構造

 出血ショック状態のラットやビーグル犬にHSA-FeP溶液を投与すると、血圧、血流量が回復し、低下していた末梢組織の酸素分圧はもとの値に戻ります(J. Biomed. Mater. Res. 2003)。これは、生体内でHSA-FePが赤血球と同じように酸素輸送していることを示しています (慶大医共同) 。さらに、HSA-FePの分子表面をポリエチレングリコールで表面修飾すると、FePの血中滞留時間は約15倍に延長されます (Biomacromolecules 2006)。アルブミンの二量体や四量体を用いれば、コロイド浸透圧を変えることなくFeP濃度 (すなわち酸素結合量) を増やすこともできます。また最近、小さな粒子径である特徴を利用して、HSA-FeP溶液を腫瘍細胞の低酸素領域へ投与し、患部の酸素濃度を高めてから放射線照射を行うと、治療効果が顕著に増強されることもわかりました (慶大医共同) (J. Biomed. Mater. Res. 2003, Cancer Sci. 2008)。

2. 組換えアルブミン-プロトヘム 3. 蛋白質ナノチューブ