文学部シラバス2021
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義では、毎週各挿話(各章)のあらすじと読みどころを解説しますので、これで読んだフリ(?)もできますし、もしあなたが関心を持たれたならば、翻訳を入手して、原文と共に通読してみてください。まず、この小説を簡単に紹介します。ジョイスが後に妻となる女性、ノーラ・バーナクルと初めてのデートをした、1904年6月16日アイルランドのダブリン――このたった1日の出来事をジョイスは、ホメロスのオデュッセイアに擬えつつ(神話的平行関係)、意識の流れやモンタージュ、パスティーシュやカタログ化といった文学的技法を駆使して、実に事細かに描き尽くします。カトリック教会による宗教的支配と大英帝国による政治的支配、(ポスト)コロニアルな問題系を含みこむユリシーズは、まず2人の男性主人公――1904年当時の作者の分身(alterego)であるカトリック・アイリッシュのスティーヴン・デダラス(22歳)と、ユダヤ系アイルランド人レオポルド・ブルーム(38歳)――の朝8時から始まります。朝食を食べ、家を出た彼らの彷徨(街歩き)は、臨時講師としての授業、ミサへの参加、浜辺での思索、葬儀への参列、新聞社での仕事、幸福な過去を回顧しながらの昼食、図書館でのシェイクスピア談議、食後の散策、ホテルのバーでの音楽鑑賞、ナショナリズムを巡る酒場での政治的議論、浜辺での手淫(!)、産院での酒宴と馬鹿騒ぎ、幻覚の渦巻く夜の街での乱痴気騒ぎ、改めての互いの自己紹介へと続き、ブルームは自宅にスティーヴンを招き入れ、歓待したのち、別れ、やがて妻、モリー(33歳)が眠るベッドへと帰還します。そして深夜、彼女はこの日に起きた愛人との情事を思い出しながら、過去と今と未来と、様々なことに想いを馳せ、眠りに就きます。難解と名高いユリシーズは、しばしば百科事典に擬えられますが、そのこころは、人間に関するありとあらゆることが描かれているということに尽きます。ですから、テクストを読みながら私たちの日常生活(everydaylife)を常に参照することで、ジョイスを読む難しさは愉しみへと変換されることでしょう。そして、ユリシーズを読むことはできない。できるのは再読することだけだというジョゼフ・フランク(JesephFrank)の言葉にあるように、私たち文学部の学生が日常的に行っている読むという行為を再考してみましょう――読むとはどのような営みか、何故に読むことができ、読むことができないのか。私自身、ジョイスの専門家ということに一応(?)なっていますが、言うまでもなく、まだまだたくさん学ぶことが多いと自覚しています("Ihavemuch,muchtolearn")。決して汲みつくすことのできないユリシーズの魅力を、皆さんと一緒に学んでいきたい、と思います。本授業は全回リアルタイム配信型授業(zoom)として実施します。ただし、欠席者、あるいは復習を希望する学生のために、録画した動画を後日Moodleから視聴することも可能です。授業の到達目標1.英語で書かれた文学作品の精読の方法を習得する2.ユリシーズを通じて、イギリス文学の歴史、延いてはヨーロッパ文化の総体を(大まかに)理解する3.単なる感想文ではなく、文学作品を分析したレポートが書けるようになるとにかく難解なユリシーズです。難しさやわからなさを楽しめるようになることが最終到達目標です(だって、人生がそうですものね)。成績評価方法試験0%なしレポート50%リサーチペーパーとして、内容・形式ともに整っているかどうかを評価する(内容・形式・論理・文章・締切の5項目、各10点)。平常点50%出席点その他0%なし備考・関連URLhttps:www.stephens-workshop.com科目名1960年代アメリカアメリカ文化の60年代担当者名堀内正規英文コース2単位秋学期金曜日2時限1年以上―合併科目―授業概要アメリカ合衆国の1960年代は大きな変化の時代でした。政治的にはキューバ危機、黒人公民権運動、ケネディ暗殺、ヴェトナム戦争、人種暴動、学生運動といった大きな指標がありますが、文化的に見ても実に重要なことが起こっていたのがこの時代です。現代の文化を考えるときにも、この領域の影響は絶大でした。この講義では、アメリカの60年代のさまざまな文化的事象を、わたしなりに紹介してみます。文化的事象とはいっても、そのほとんどが当時の政治的・社会的な状況となんらかの形でつながっているので、その点も考慮しながら進めます。予備知識は必要ありません。あらかじめお断りしておかねばならないのは、この講義でこの時代のアメリカ文化が万遍なく、全方位的にカヴァーされているわけではないということです。自分なりにある程度確信をもって話ができそうなことがらに絞った内容になりますが、入り口を作るという意味で受けとめていただければと思います。できるだけ、みなさんには〈本物〉に直に触れてもらいたいと思っています。トピックとしては、文学・音楽・映画それに政治の分野から、人種を扱った小説、ビート、ロックンロール、フォーク、ロック、サイケデリック、フラワームーヴメント、ソウル、カウンターカルチャー、アメリカン・ニューシネマ、黒人公民権運動、キングとマルコムX、ヴェトナム戦争など。実際の音楽を聴き、映像を観てもらって、遠い昔の知識としてではなく、現在のわたしたちにびりびりと響いている力を伝えたいと思います。授業の到達目標アメリカの1960年代文化についての理解を深める。成績評価方法試験0%試験はしません。講義―196―

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