この〈都市〉は、人々が密集して暮らす場所という意味だけを持っているわけではない。それはしばしば、集団がもたらす集合意識や、地縁・血縁から切り離された匿名的な人間の、同様に匿名的な存在である他者への不安の象徴としても描き出される。たとえば、昼の間は煩わしい雑踏にもまれる平凡な都会が、真夜中の暗闇と無人の静寂に満たされた瞬間、半日前とはまったく別の姿を見せることは多々ある。見慣れているはずの街が、非日常的な世界へと変質するのを目の当たりにしたときの、不気味さや恐怖、あるいは興奮。このような感情を絶えず呑み込み、吐き出しているのが〈都市〉という場でもある。〈都市〉は、単なる居住空間ではなく、そこにひしめく人間たちの精神性の鏡像なのだといえよう。そのとき、〈都市〉は現実の街を離れ、ひとつの幻影(幻想)として新たに立ち現れるのである。本演習においては、そのような〈都市〉が言語によってどのように組み上げられているのか、いわば〈都市〉を可能にする条件自体を分析し、考察するような発表を行っていただけることを期待する。とはいえ、分析の方法自体は、狭義の都市論的なアプローチに限られるものではない。むしろ、多角的な視点によって〈都市〉を検討することによって、〈都市〉の姿をより立体的に把握するよう努めて欲しい。自らの問題意識に即して作品を読み、調査を行う過程で、日本近現代文学の研究を行うのに必要な基礎的な知識や方法論等を広く学んで欲しい。同時に、他者の問題意識に接することで、自他の視点の差異と重なりを踏まえ、自らの考察を更に深めていくような議論を行って欲しい。【本演習で扱う予定の作品】・泉鏡花夜行巡査・樋口一葉十三夜・田山花袋少女病・国木田独歩窮死・谷崎潤一郎秘密・志賀直哉小僧の神様・芥川龍之介舞踏会・梶井基次郎檸檬・横光利一街の底・中野重治交番前・堀辰雄水族館・江戸川乱歩目羅博士・織田作之助木の都・三島由紀夫橋づくし・大江健三郎人間の羊授業の到達目標作品を読み、考察・調査することを通じて、日本近現代文学研究を行う上で必要となる基礎的知識・方法論等を理解する。自らの問題意識を明確にし、それに基づいた考察を発表することで、発表資料の作成方法や、プレゼンテーションの作法を理解する。質疑応答を適切に行うことで、学術的な議論のルールを理解する。成績評価方法試験0%なし。レポート50%演習での発表内容を元に、質疑応答の内容や教員・他履修者のコメントなどを参考にしつつ、自らの問題意識に即して作品を解釈しようとしているかという点を重視する。平常点50%演習に主体的に参加しているかという点を重視する。つまり、自分の発表の回だけではなく、他履修者の発表の回にもきちんと参加し、その内容を理解した上で、質疑応答での発言等によってアドバイスをすることができているかを評価する。その他0%なし。備考・関連URLガイダンス初日に発表担当作品を決定する予定であるので、初回はなるべく欠席しないのが望ましい。科目名文芸・ジャーナリズム論系演習(同時代文学論1)島崎藤村を読む̶̶家(上)担当者名堀江敏幸文ジャ2単位春学期土曜日4時限2年以上―――授業概要同時代文学とは何か。はたして現在刊行されつつある文学だけを意味するのか。100年以上前の散文を読みながら同時代を考える。藤村が1911年に刊行した家を精読し、2021年の日本語との往還を試みる。グループ発表形式で行い、議論を重ねる。なお、全15回のうち前半をリアルタイム配信によるオンライン授業で行う予定である。ただし、進行状況に応じて変更が生じた場合は、事前に周知する。授業の到達目標全体を読むことと細部を読むことを両立させる。また、文献に当たり、辞書を引く習慣を徹底する。成績評価方法出席、発言等、平常点全般と学期末レポートを総合的に評価する専門演習―473―
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