文化構想学部シラバス2021
437/620

科目名表象・メディア論系演習(言葉とイメージ1)文学と映画担当者名谷昌親表象2単位春学期火曜日4時限2年以上―――授業概要文学と映画は、異なるジャンルでありながら、たがいに影響を与えあってきました。後発のメディアである映画は、当初こそドキュメンタリー的に現実をほぼありのままに映す場合が多かったものの、やがて物語を映像で語る形式が主流になっていくにつれて、文学を模範と仰ぐようになります。最も早い例のひとつが、ジュール・ヴェルヌの小説を翻案したメリエスの月世界旅行(1902)でしょう。以後、文学作品の映画化が頻繁におこなわれるようになっていきます。一方、文学の側も、それこそ映画が誕生する以前から、映画的とも言える表現を模索してきました。たとえば、19世紀に書かれたフローベールのボヴァリー夫人には、映画を思わせる描写が散見されます。そして19世紀末にリュミエール兄弟が映画を発明してからは、文学はこの新しいメディアから少なからぬ刺激を受け、それまでになかった表現のかたちを見つけ出してきたのです。しかしながら、文学と映画は、たんに影響しあうだけでなく、一種の葛藤の場を形成することもありました。1950年代にフランスの映画雑誌カイエ・デュ・シネマに集い、のちに自身も映画制作を始め、ヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれる映画史上きわめて重要な運動の中心となっていったゴダール、トリュフォー、シャブロル、リヴェット、ロメールといった若き映画批評家たちは、脚本重視で文学的な色合いを求めがちだった当時のフランス映画のあり方に反発し、映画独自の表現を求め、監督を映画の作者とみなす作家主義を標榜しました。このように、文学と映画のあいだの緊張関係が、それぞれのジャンル特有の表現の探求に向かう場合も存在するのです。そうした例は、フランスにかぎらず世界の各地に見られるでしょうし、現代にまで続く問題でもあります。たとえば、最近の日本に例を探してみた場合、吉田修一の小説を李相日の監督で映画化した怒り(2016年)、島尾敏雄と島尾ミホの小説をもとに越川道夫監督が映画作品にした海辺の生と死(2017年)などでも、小説と映画のあいだの緊張関係が、それぞれのメディアの表現について再考させる契機になっていたと言えるでしょう。この授業では、最初に映画における作家主義の成立過程で浮上してきた、文学と映画のあいだの問題点を紹介した上で、おもに文学作品の映画化という観点から、具体的な作品を例にあげつつ、文学と映画におけるそれぞれ固有の表現形式を探っていきたいと思います。演習の授業ですので、学期の後半は学生による発表が中心となりますが、そこで取り上げる作品については、こちらで候補を絞ったうえで、教室で相談して決めていく予定です。ただ、文学と映画の緊張関係を維持した作品を選ぶという意味では、もともと映画的な表現が入りやすいエンターテイメント系の小説ではなく、原則として、いわゆる純文学系の小説を原作にしたケースを取り上げたいと思います。授業の到達目標文学と映画の関係を見ていく授業ですが、たんに影響関係を見るだけでなく、両者の比較をとおして、それぞれのメディアでの独自の表現、そして各々の作家の個性を見極めるようになれればと考えています。さらには、そうした文学と映画の違いをとおして、世界を見つめる視線のあり方、そしてその延長上に生じる表現のあり方についても考えてみたいものです。成績評価方法試験0%レポート50%授業での発表とは別に、新たに自分なりに作品を選び、文学作品の映画化という観点から学期末レポートを書いてもらいます。口頭発表の経験を踏まえたうえで、新たな対象についてどれだけ真摯に取り組み、どれだけ論理的に考え、説得力のあるかたちでまとめているか、といった点がおもに評価の対象となります。また、口頭発表の時点で出てきた問題点をどれだけ解決しているか、ということも重要な要素になります。平常点20%演習の授業ですので、単に出席するだけでなく、議論などにどれだけ積極的に参加したかが問われます。その他30%口頭発表において、自分の選んだ作品についてどれだけ調べ、また自分なりに考え、それをどのように論理的にまとめたかが大事になってきます。また、発表におけるプレゼンテーションの仕方の工夫なども評価の対象となります。備考・関連URL谷のホームページ:http:www.f.waseda.jpmasachika_1622科目名表象・メディア論系演習(ジェンダーとイメージ1)メディア・コンテンツが描くわたしたちのイメージ担当者名関根麻里恵表象2単位春学期木曜日3時限2年以上―――授業概要わたしたちはあらゆるメディアが発信する情報を通して、わたしたちのイメージを獲得しているといえるでしょう。しかし、そのイメージを適切に受け取れているかどうかと言われると疑わしいところがあります。なぜならば、メディアが発信するイメージは、誇張・理想化されたものであったりステレオタイプ化したものが多いにもかかわらず、あたかもそれが正しいもののように見えてしまうからです。わたしたちのイメージは、時代、地域、文化、そして社会的カテゴリによって変化するものであり、不変的なものではありません。多角的なものの見方ができるようになると、わたしたちはわたしたちをよりよく知ることができるでしょう。本演習では、おもにジェンダーとセクシュアリティの視点から、わたしたちのイメージがどのように表現され、どんな影響を与えているかについて考察していきます。扱う題材は、映画、マンガ、アニメーション、ファッション誌などを予定しています。学期の前半では、知っておくべき基礎的な用語を概説しつつ、具体例を用いながらわたしたちのイメージがいかに歴史的、社会的、文化的に作られ、受容されてきたのかについて考えていきます。学期の後半では、受講者が興味・関心のあるテーマについて、学期の前半で得た知識を援用しながら口頭発表をしてもらいます(個人発表かグループ発表かは受講者の人数によって検討します)。また、発表内容とそこでの質疑応答を踏まえた期末レポートを授業最終日に提出してもらいます。授業の到達目標・ジェンダーとセクシュアリティの視点から、わたしたちの周りに溢れているさまざまなイメージを読み解く力を身につける。・当たり前を疑い、諸事象の背後にある構造を自ら見抜く力を養う。・各自の興味・関心を他者に適切に伝える発表スキルと、建設的にコメントする能力を養う。専門演習―445―

元のページ  ../index.html#437

このブックを見る