学部入学案内
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角野 栄子Kadono Eiko児童文学作家1957年 教育学部 英語英文学科 卒業 私が大学に入学したのは終戦から8年ほど経った頃。戦時中は外国の文化に接する機会がなかったので、外国についてもっと知りたいと思い、英語英文学科を選びました。欧米の翻訳本が次々と出版され、海外の音楽や映画といった文化が一気に日本に入ってきた時代でしたから、好奇心旺盛だった私にとってはすべてが刺激に満ちていました。 早稲田大学は当時からとても自由な校風で、先生方も鷹揚な方が多く、私たち学生は気軽に研究室を訪ねたり、ご自宅に招いていただいたりもしました。そうして集まると、文学の話はもちろん、政治や経済などについての語り合いが始まるのです。自分の意見を言ったら相手の意見を聞いて、の繰り返し。学生時代の思い出というと、大いに論議をした記憶ばかり残っています。 大学の外に出ても、喫茶店でジャズを聴いたり、自分たちが見た映画や読んだ本のことなどを何時間も語り合う毎日でした。今思えばあまり褒められた学生ではなかったかもしれませんが、そうした日常が私にはかけがえのないものでしたし、その語らいの中で自分がデザインの分野に興味があることにも気づきました。 卒業後、本のデザインに携わりたいと思い、紀伊国屋書店の出版部に就職しましたが、海外への思いは大学入学当初から変わりませんでした。その思いを叶えるために、移民としてブラジルへ渡り2年間を過ごし、そこで貯めた資金をもとにヨーロッパやアメリカ、カナダを周遊しました。このときに見た景色は今も色褪せることなく脳裏に焼きついています。 帰国から数年後、大学時代にゼミでお世話になった龍口直太郎先生から「ブラジルでの経験を本にしてみないか」と声をかけていただいたことをきっかけに、作家への道を歩み始めることになりました。それまで考えたこともなかった「作家」という仕事でしたが、何度書き直しをしてもそれが全く苦にならないのです。これまでの経験や人との出会いが、天職との出合いにつながったのだと思います。 私の著作の中に、みなさんもよくご存じの『魔女の宅急便』という作品があります。主人公の少女が修行のために知らない街へ旅立つという設定は、私がブラジルに渡った経験から着想したものです。学生時代は、彼女のように知らない場所へ行って、知らない人やモノ、風景との出合いにワクワクする“冒険”をしましょう。失敗や挫折を恐れない好奇心と豊かな想像力を持って、世界へ羽ばたいてください。好奇心と想像力を持って知らない世界にワクワクする“冒険”へ出かけよう人との出会いや経験が作家人生のきっかけ先生方や仲間たちと語り合った学生時代Pro le東京都出身。早稲田大学卒業後、紀伊国屋書店出版部に就職。1960年から2年間ブラジルに滞在し、1970年に作家デビュー。主な著書に『魔女の宅急便』(1985年、野間児童文芸賞、小学館文学賞など多数受賞)、『ちいさなおばけ』シリーズなどがある。2000年紫綬褒章、2014年旭日小綬賞を受章。撮影/金子 悟49
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