文学研究科シラバス2021
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授業の到達目標上代の日本漢詩文をめぐる文学史的問題としてどのような問題点があるのかを理解する。上代の日本漢詩文を専門的に検討するにあたっての知識をひととおり身につけ、それを各自で駆使・応用し、みずから作品の評価ができるようにする。秋学期は、春学期の講義1に続く箇所から検討を始める。成績評価方法試験0%レポート70%学期末に課す。平常点30%出席状況等。その他0%科目名日本文学講義8近世近代の書画の漢詩文精読担当者名博士(文学)早大池澤一郎日本語日本文学コース2単位秋学期金曜日2時限1年以上―――授業概要日本の近世近代(第二次世界大戦以前、あるいは高度経済長期以前)の文献は、おおむね毛筆の草書体あるいはくずし字で書かれ、版行される場合もそのまま模刻されるか、時として版下書きによって楷書に書き直された。仮名と漢字の表記はくずし字、草書が基本であったのである。本講義で扱う漢詩文もまた墨筆淋漓とした草書が多きを占める。ただし、俳諧や和歌、戯作、随筆の漢字表記と漢詩文の漢字表記の間に違いがあるわけではないので、日本文学を学ぶすべての学徒にとって草書の漢詩文を解読力を涵養することは必須であるといえる。従って本講義には近世漢詩文専攻の学徒のみならず、日本文学を専攻するすべての研究者の参加が望まれる。狭ジャンル意識にとらわれずに研究を進展させようとする者の参加を乞う。また中国の文学、哲学、歴史を学ぶ者の中に、鈔本を軽視し、印本を重視する宋代以来の慣習に束縛せられて、草書で書かれた漢詩文を自在に読み解き得る研究者が絶無ではないとしても僅少であると仄聞する。これら中国学の学徒にして、日本人の書き綴った漢詩文に関心を有する者の参加をも期待する。鎖国下にあった近世日本の漢詩文は、長崎や黄檗宗の寺院など特殊な環境を除けば、全く中国語が取り交わされることのない環境で培われた。つまり、白文の漢籍を訓読法を通して精読することを積み重ねて、やがて白文の形で書き綴れるようになった漢詩文なのである。つまり、近世近代の漢詩文の概ねは白文表記であっても訓読を通して授受されていたものなので、グローバル化の波濤の中で、これを北京語のみでしか読まないで研究するというのは偏向せる取り組み方であって、日本漢詩文を中国語で発音するならば、せめて江戸時代の中国語がそうであった南方系の発音で読まれるべきであろう。授業の到達目標参加者が草書の漢詩文に抵抗なく取り組めるようになることを目指す。また白文の漢籍にわざわざ訓点を施さなくても訓読できるようになることを目指す。つまり、近世近代の草書の漢詩文をそれが作られた当時と同じように受容できるようになることを目指してほしい。成績評価方法講義への参加率と参加時の熱意、復習の精度、レポートの質如何によって評価する。科目名日本文学講義9日本近代小説における引用と典拠担当者名多田蔵人日本語日本文学コース2単位秋学期月曜日4時限1年以上―――授業概要日本近代小説のすぐれた作品を取りあつかい、引用がどのように機能してきたのかを歴史的に把握する。近代の日本文学は、江戸以前の文章様式と、西洋からやってきた文章様式(このなかにはnovel=小説も含む)との葛藤のただなかで展開しなければならなかった。作家たちが執筆にあたって参考にした文書(典拠)を調べ、手紙や歌、歴史書、演劇などなどが引用されてゆく過程を追うことで、日本語文学の成立過程を具体的に知る。草稿・原稿のある作品については適宜言及する。授業の到達目標日本文学の典拠探索と歴史的意義づけの方法を習得すること成績評価方法試験0%レポート60%平常点40%その他0%科目名日本文学講義10近代文学における原稿および原稿用紙の研究担当者名宗像和重日本語日本文学コース2単位春学期金曜日2時限1年以上―――授業概要私はいま、近代文学における原稿用紙という媒体に、強い関心をもっている。一般には二〇字×二〇行の四〇〇字詰、ないし二〇字×一〇行の二〇〇字詰のマス目のある用紙がイメージされるが、おおよそ明治末ごろから、日本語ワープロ・パソコンが普及する近年まで、作家といわず小学生の作文といわず、近代日本のあらゆる文章は、そうした原稿用紙によって綴られてきた。そして、そのなかで文や段落の長さ、句読点の用い方などの文章の規範、――つまり、名文の意識が育まれてきた。いま、文筆や出版の現場から原稿用紙は消えつつあるが、しかし四〇〇字詰原稿用紙によって分量を換算し、原稿料の単位とする習慣は根強く残っている。原稿用紙が近代文学に何をもたらしたのか、その歴史もたどりながら考察してみたい。それは一方で、近代文学が新聞や雑誌などの活字メディアを前提とする活字的世界(前田愛)の所産であることを、より明らかにすることにもつながると思う。なお、下記の授業計画は、学習効果を考慮して変更されることがある。日本語日本文学コース―105―

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