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研究科長メッセージDean’s Message2013年4月に早稲田大学大学院国際コミュニケーション研究科修士課程がスタートしました。発足当初は早稲田大学22番目の新しい研究科として多くの期待を背負うと同時に、先々に不安を感じることもありました。しかし、日本のみならず世界各国から集まる多くの優秀な学生たちに囲まれて順調に研究科は成長し、2015年3月には初の修了生を世に送り出しました。そして、同年4月には博士後期課程を発足。より専門性の高い研究と教育を実現させるべく発展を続けています。もちろんこれまでの道のりには、当初想定していなかったことも多くありました。細かいカリキュラムのこと、学生たちの日々の生活のことはもちろんですが、なによりもこれほど多くの国の志高い若者たちが本研究科に興味を持ってくれるとは、開設以前には思いもよりませんでした。伝統文化だけでなくアニメや現代アートといったいわゆるクールジャパンが追い風だったこともあるでしょう。同時に英語を基本言語とし、言語・文化・社会という様々な分野を学際的に研究できる本研究科のカリキュラムが学生たちの関心を引いたことも事実です。実は本研究科開設にあたっては、カリキュラム決定にあたり様々な議論がありました。常識的に言えば、学部に続く大学院教育ではより専門性の高いカリキュラムが期待されるものです。学部教育が専門性を視野に入れつつも基礎・教養の蓄積を重んじるのに対し、大学院では学問領域の細分化と高度化が行われるのが普通でしょう。そうすることでより専門性の高い教育・研究が実現するとされるからです。一方で本研究科のカリキュラムでは、より裾野が広い研究が可能になるようなコース設定が行われています。例えば、異文化間コミュニケーションを研究するにも、異言語の接触に重きを置く研究、文化の衝突や摩擦、あるいは融合に注視する研究、異なる言語・文化的背景を持った人々が構築する社会・共同体の特徴を分析する研究など、様々なアプローチがあるはずです。こうした異なるアプローチでコミュニケーションをキーワードに、網羅的であると同時に縦断的に、包括的であると同時に多角的に研究しようというのが、本研究科の目的になります。結果的に本研究科では、伝統的な学問分野では珍しいトピック優先型の教育・研究を提供することになったのです。こうした新しいタイプの大学院カリキュラムの設計には、私自身のバックグラウンドが影響していたのかもしれません。私はこれまで20世紀後半以降のアメリカ文化・文学を中心に、グローバル化する文化の問題や越境する人々が出会う新しい文化との摩擦等をテーマに研究を重ねてきました。なかでもポストモダニズムと呼ばれる20世紀後半を形づくる文化・芸術の研究に多くの時間を費やしてきました。そのなかで、政治的、経済的など様々な理由から異なる文化が接触し新しい文化が生まれる現象に着目するようになりました。いわゆるトランスカルチャーの生成です。現在はアメリカの西海岸を舞台に展開されるベトナム系アメリカ人たちが展開する文化やコミュニティーの形成に関心を持ち、学際的な研究を続けています。そこから見えてくるのは20世紀後半から現在に至る複雑な政治・経済的環境とそれが原因で起きた人の移動です。こうした新しい文化を研究するにあたっては、単に文化現象そのものに注目するのではなく、そこに至る政治・経済的背景、また言語の問題など実に多角的な視点を必要とするのです。同じようなことは、きっとどのような研究トピックにも当てはまることでしょう。ひとつの現象をより専門性の高い視点から突き詰めていくことに加え、他の視点から見るとどのような結果が得られるのかをつねに意識していくことが、今日の研究者に求められる素養なのです。かつて私がアメリカの大学院で学び始めたとき、ある先生から言われた言葉が思い起こされます。「人は国境を越えるときに何かに気づく」と。きっとそれは国境だけではないでしょう。それが学問体系だろうと他のものであろうと、既存の体系を越えるときに私たちは新しい何かを見つけるのです。その新しい何かに強い関心を持つことが、これからの学問・研究には何よりも大切でしょう。そう、国際コミュニケーション研究科が目指すのは、境界を越える勇気を持った研究者を助け、励まし、成功に導く現代的なコミュニティーなのです。国際コミュニケーション学の先駆者たる異文化社会の横断から新たな世界を切り拓く早稲田大学大学院 国際コミュニケーション研究科研究科長・教授 麻生 享志ASO, TakashiDean / Professor Graduate School of International Culture and Communication Studies Waseda UniversityGSICCS | Taking Communication Beyond the Classroom2

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