大学院入学案内
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流体と構造の相互関係を解明し動きをシミュレーションする 私たちの身の回りに存在する気体や液体などの「流体」は、目で見ることはできません。そのような流体の動きをコンピュータを用いた「数値計算」によってシミュレーションすることで、工学的に役立てようとしているのが私たちの研究です。 例えば、上空から降下するときのパラシュートは、広がってそのままの速度で落ちるのではなく、大きくなったり小さくなったり変形しています。大きいときはゆっくり、小さくなると速くというように、空気の流れによって変形し、速度も変化する。このパラシュートのように、流体の力によって形状が変化し、変形する構造物が流れに影響を及ぼすものを「流体構造連成問題」と呼び、特に注力している研究のひとつです。 パラシュートの流体構造連成問題は、安全性を考える上でとても重要です。上空ではさまざまな要因からパラシュートが振動、変形し、安全なサイズよりも小さくなって急加速する可能性があるからです。そのような安全性を検証する方法のひとつが実験であり、総合機械工学科の中には実験を行うことで流体を計測する研究室が多数存在しています。対して、私たちが行う「数値計算」では、実験では計測することが難しい物体近傍の流れなどをシミュレーションすることが可能です。 同じように、構造物の変化を伴う問題に血管があります。皮膚の上から血管を触るとドクドクという拍動が伝わってくるのは、血管が収縮により細くなったり太くなったりしているからです。収縮により変形する血管という構造物と血液という流体の相互作用を解き明かす血流解析は、まさに流体構造連成問題で、私たちの研究テーマのひとつです。血管内部にドーム状のものができる動脈瘤のリスク診断に役立てられればと考えたのが研究のきっかけでした。その他にも、心臓弁が閉じたり開いたりすることで生じる空間構造の変化と流体を解析するなど、医療・ライフサイエンス分野について積極的に取り組んでいます。異分野と積極的に関わることで次々と研究テーマが生まれてくる 私が数値計算の存在を知ったのは、中学生の頃です。伯父が勤めていた航空宇宙技術研究所(現JAXA)に見学に行ったところ、回転するヘリコプターの羽根周辺の空気の流れを計算したポスターが数値計算だと教えられ、一気に魅了されました。高校生になっても数値計算への興味は依然として高く、「流体」という未知の分野への憧れもあったので、研究者として生きるならば流体工学をやりたいと思うようになりました。 大学に入学する頃には、数値計算と流体という2つの柱が自分の中でできていたのだと思います。学部2年のときに後に博士指導を受けることとなる矢部孝教授からミルククラウン(牛乳を1滴落とすときにできる王冠のような形状)のシミュレーションを見せてもらったことがこの道に進むきっかけでした。ミルククラウンは今取り組んでいる研究とは違いますが、形が見えることが良かったのでしょう。 研究者になった当初は「新しいことを知りたい」という思いが原動力でしたが、他分野の研究者や企業とも多数の共同研究をするようになり、工学の問題に貢献することの価値を強く感じるようになりました。この研究室では、他分野の研究者や企業との共同研究も数多く行っています。中でも企業との応用研究については、世の中のニーズを把握する上で重要なものだと位置づけています。今必要とされているものに、できるだけ貢献していきたいと思うからです。 総合機械工学科に属していることもこの研究にとっては大きなメリットです。機械工学という分野自体が幅広いのに加えて、ここには自動車や宇宙構造物、バイオエンジニアリングの研究者たちがいて、教員間の共同研究も多い。しかも、西早稲田キャンパスには理系のほぼすべての学科が揃っているという物理的な距離の近さも強みで、最近親しくさせてもらっている数学科の先生などは、この環境でなければ深く議論することができなかったはずです。 私の研究室には40人以上の学生が所属しています。総合機械工学科は、どの研究室も学生数が多い。それだけ仲間が多いと大変な仕事も分担することができ、その先の研究に時間を割いて注力できます。この恵まれた環境を活かして、自分が最高だと思うものを徹底的に追究できることこそ研究の醍醐味。まったく新しいもの、世界トップのものを目指してください。流体や構造物の力学的問題をモデリングし、コンピュータによる解析で工学に役立てる創造理工学研究科 総合機械工学専攻 教授滝沢 研二Prole2001年東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業、2005年同大学院理工学研究科創造エネルギー専攻修了、博士(理学)。独立行政法人海上技術安全研究所(NMRI)研究員、米国ライス大学リサーチアソシエイト、リサーチサイエンティストを経て、2011年より早稲田大学理工学術院准教授に就任。2018年より現職。計算力学を中心に、流体力学、構造力学、生体力学などを研究対象とする。2015年文部科学大臣表彰「若手科学者賞」、「第15回日本学術振興会賞」など数々の賞を受賞。研究最前線05

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