大学院入学案内
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11Professionalism経営理論を現場で実際に使いこなし 決断することの重要性と難しさ 私は経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)で、夜間主の2つのプログラムにおいてグローバルという名を冠したゼミを担当しています。グローバルをキーワードに据えていますが、海外で活躍する人材を育成するのが主な目的ではありません。そもそも今日の社会では、国内であっても、あらゆる企業およびビジネスパーソンはグローバル化に伴う諸問題や市場動向と無関係ではいられません。業種や職種、国内外を問わず、ビジネスの現場で能力を発揮したいと考える人に向けたゼミであり、学生には理論に偏らない実践的な経営問題の解決力や戦略策定能力を体得してもらうことを目指しています。そのため、扱う範囲は、市場開拓からマーケティング、サプライチェーンや拠点展開、研究開発体制やイノベーションマネジメント、組織文化論や人材開発、M&Aや事業再編まで、ほとんどすべての経営課題を包含しています。 もともとプラントエンジニアだった私が、スタンフォード大学大学院への留学を経て、コンサルティングの業界に転身したのは1987年でした。日本経済はそこからバブルの頂点へと上り詰め、その崩壊とともに、長きにわたる混迷と停滞の時代に突入していく時代です。まさに時代が激変していく過程を、私はさまざまな企業の内側に入り込んで経営者をサポートしながら、つぶさに目撃し体感してきました。その後、2007年に投資ファンドに移ると、今度は翌年にリーマンショックが起き、投資していた企業の破たん処理にも関わりました。 このような激動の時期に、数多くの経営者と関わる中で見えてきたのは、リーダーにとって最も大事な資質は「決断をする力」にほかならないということです。さらに、決断ができるリーダーたちはみな共通して、「私が今ここで決断を下し、会社を率いていかなければいけない」という、強いセンス・オブ・オーナーシップ(当事者意識)を持っていました。 先の読めない時期に、経営者たちはどのような判断材料に基づき、どう意思決定をしたのか。ゼミでは私自身が実際に見聞きし体験してきたエピソードも交えながら、できるだけリアリティーのあるビビッドな事例を、経営理論とセットで取り上げて議論します。それを通して、経営の現場で理論を実際に使いこなして決断をする重要性と難しさを、学生に伝えたいと考えています。専門性を発揮するために必要不可欠な人間力が組織を動かす原動力に 経営者に限らず、これからのビジネス社会を生き抜く人には大きく3つの能力が要求されると私は考えています。それは階層的に成り立っていて、一番上の層が「専門力」で、これは急激な技術革新への知識や高度な経営技術を活用した意思決定力とも言えます。その次の層にあるのが「課題解決力」で、課題の本質を見抜く力や、先ほど挙げた決断をする力、実行力などもここに含まれます。そして一番下の土台・基盤に位置するのが、「人間力」で、この中には人格や人間的魅力、倫理観なども含まれます。これは人を動かす原動力ともなり、この根底の人間力を欠いては、組織の中で自分の専門性を発揮することはできないのです。 早稲田大学ビジネススクールは、高度な専門性のみならず、課題解決力や人間力も含めた3つの力すべてを磨いていける場と言えます。それを可能にしているのは、圧倒的なスケール(規模)とスコープ(幅)の両方を備えた研究・教育環境です。全日制と夜間主で計8つのプログラムを展開し、専任教員数、学生数は国内のビジネススクールで最大規模を誇ります。私のように実務で長く経験を積んだ教員と、アカデミックな分野で実績ある教員とがバランスよく在籍し、科目の選択肢も非常に豊富です。学生のバックグラウンドも極めて多岐にわたるため、一つのテーマに対して多様な見方や意見が集まり、活発で奥行きのある議論を通して理解を深めることができます。 加えて、これほど大規模かつ多様な人がいる集団の中で、濃密なヒューマン・ネットワークを形成できることも大きなメリットです。ビジネススクールに進学してくる社会人学生はもともと問題意識が高く、これらの仲間と在学中に培ったネットワークは、卒業後に各自が歩んでいくプロフェッショナル・キャリアにおいて、さまざまな場面で力や支えになることでしょう。 オーナーシップによる決断力が企業にとって重要なことは先に触れましたが、それは個人の場合も同じです。これからの人生や生活、キャリアに強いオーナーシップを持ち、「キャリアゴールを設定したい」「それを達成するためのスキルや人脈を身に付けたい」と考える人たちにとっても、ビジネススクールでの学びは有用です。仕事を続けながら、あるいはキャリアをいったん中断して、大学院で学ぶという大きな決断を実際に下した人たちは、自らの人生においても強い成長意欲に満ちており、そうした仲間と切磋琢磨して学ぶ日々は、必ずやあなたの生き方に大きな転機をもたらすはずです。研究最前線1980年東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了後、エンジニアリング会社で石油精製プラントの建設などに携わる。在職中にスタンフォード大学大学院に留学し経済工学修士号を取得。1987年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、経営コンサルタントとして幅広い産業分野でのプロジェクトを担当。1998年から2006年まで同社の日本支社長を務める。2007年にプライベート・エクイティ大手のカーライル・ジャパンに移り、共同代表として複数の日本企業に対するマネージメント・バイアウト投資に参画。2015年より現職。工学博士。著書に『経営の針路―世界の転換期で日本企業はどこを目指すか』(ダイヤモンド社)など。経営管理研究科 教授 平野 正雄 HIRANO MASAO生き方にオーナーシップを持つ仲間と学び合う時間は、人生の大きな転機になります

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