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吉田 賢史
  • 複数のICT機器を適所に活用し、生徒の思考スタイルを生かした授業

Course N@vi活用部門、その他

複数のICT機器を適所に活用し、生徒の思考スタイルを生かした授業

吉田 賢史
早稲田大学高等学院 数学科 教諭

高等学院の中学部で数学を担当している吉田教諭は、生徒一人ひとりの思考スタイルを生かした教育を実践している。そのために活用しているのが、デジタルペンやアニメーション作成ソフトなどのICTだ。これらの導入が、生徒の数学への興味、理解を深める効果を発揮しているという。

自分の席からデジタルペンで書くと、解答がスクリーンに投影される
dr.mio

吉田教諭は、早くから数学教育の情報化と情報教育に取り組んできた実績を持つ。さまざまなICTを授業に取り入れてきたが、現在中学部の授業で活用しているもののひとつが、大日本印刷のOpenSTAGEというデジタルペンだ。

ドットが印刷された専用紙にこのデジタルペンを使って書くと、ペンに内蔵されたカメラがドットパターンを読み取り、そのデータがワイヤレスでPCに転送されるという仕組みになっている。これをスクリーンに投影することで、手元で書いている内容をリアルタイムにスクリーンにも映すことができる。

授業中に生徒が何かを書きながら発表するようなシーンで、板書の代わりにこのデジタルペンを渡して書かせている。生徒はわざわざ黒板の前に出てくる必要がないので、自分の席から緊張することなく発表できる。デジタルペンで書く作業は文房具のペンで書くのと何も変わらないので、誰でも簡単に利用できるだけでなく、自分の書いたものがスクリーンに映されるという仕組みをおもしろがって、積極的に使いたがる生徒が多いという。


  【デジタルペン(OpenSTAGE)で
   自分の意見を書き込む生徒】

「特に当校のように受験戦争を勝ち抜いてきた子どもは、みんなの前で恥をかくことを必要以上に恐れる傾向があります。この方法ならみんなの前に出なくてよいので、心理的な敷居が低くなるようです。内気な子にもストレスなく発表する機会を与えられるのは、まさにデジタルペンのおかげです」。

ひとりの生徒が書いた解答はスクリーン上に映し出されて瞬時に全員に共有される。これに対し教員が、「この解答をどう思う?」「不足しているところはないか?」などと問いかける。それを受けて、他の生徒が書き足したり、添削したりしながら、みんなで解答を作っていくというのが吉田教諭の授業スタイルだ。

思考スタイルを生かしたアプローチで理解を深める

こうした手法を取り入れているのは、生徒一人ひとりの思考スタイルに合わせたアプローチが不可欠だと考えているからだ。「人間が物事を理解するとき、言語系、イメージ系、抽象思考、具体思考など、その思考のスタイルにはいくつかのパターンがあります。それを意識した上で、異なる思考スタイルの生徒を何名か選んで書かせると、バラエティに富んだ解答が出てきます。どの生徒にも、その中から自分はこれなら分かりやすいという解答が出てくるので、より多くの生徒が楽しいと感じる授業に結びついていると思います」。

いくつかの思考スタイルに対応するという意味で、吉田教諭自身が授業で解説するときは、板書の代わりにスライドを利用するのが基本となっている。文字中心の説明、図中心の説明など、異なるタイプのスライドを複数用意することで、どの思考スタイルの生徒にも理解しやすくするためだ。生徒のノートの取り方も、キーワードでメモを取る、図でメモを取るなど、思考特性によって異なる。その違いを意識した何パターンかのスライドを見せることによって、そのどちらにも働きかけることができるというわけだ。これを板書で書こうとすると時間がかかってしまうが、スライドならあらかじめ用意しておける。デジタルペンを使うことで、その場でアンダーラインを引いて補足の説明をしたり、生徒に自分のアイディアを書き込ませたりという展開も可能になる。

「数学では、知識を定着させるためのトレーニングも必要ですが、それとは別に発想力やひらめき力を養うのも大事なことです。それには、生徒が他生徒の発想を見ること、教員の問いかけや生徒の意見に対して疑問を持つこと、そして、何より疑問の持ち方を学ぶことが必要になります。教員がそうした学びをサポートする指導に時間をかけるためには、板書している時間や、生徒がそれを写す時間はもったいないと感じます。そういう点でも、もはやICT抜きの授業は考えられないというのが実感です」。

放課後に教え合うイメージで生徒自身が番組を制作
【T2Vで生徒が作成した番組例】

思考スタイルの差異に着目したもうひとつの例が、生徒自身に教育番組を制作させるという試みだ。これは、T2Vプレーヤーというフリーソフトを利用して、生徒自身が数学を解説するアニメーションを作成するというものである。このソフトを使うと、セリフをテキストで入力するだけで、CGや音声合成技術によりキャラクタがセリフを話す映像が簡単に作成できる。生徒は自宅のPCにT2Vプレーヤーをインストールし、原則的に授業外の時間に自由に取り組むこととしている。番組はだいたい3~5分程度のもので、作った番組はそのままサーバーにアップロードできるようにしてある。生徒たちはそこにアクセスして他の生徒の番組を自由に見て、コメントを付けたり星の数で評価を付けたりしてもよい。

「これは生徒同士の教え合いをイメージしたものです。授業で分からなかったことを、後から他の生徒に教えてもらうと理解できるということがよくあります。どんなに思考スタイルを意識した授業をしても、どうしても教員自身の思考スタイルが表に出た説明になってしまうことがあります。それを補っているのが生徒同士の教え合いなのでしょう。そういう意味で、教員とは違う視点で解説された他の生徒の番組を見ることからは、学べるものがたくさんあると期待しています」。

「テーマは授業で習ったこと以外でも、数学に関することなら何でもOKとしています。全部セリフだけで構成する生徒もいれば、画像を取り入れる生徒など、ここでも思考スタイルによりいろいろな番組ができてくるのが興味深いところです」。面倒な数式の入力などには、パワーポイントで入力したものを貼り付けたり、手書きしたものを写真で撮影して取り込んだりと、各自工夫を凝らしているという。

番組制作のメリットは、見る側の生徒だけではなく、作る側の生徒にも大きい。人に教えるためのコンテンツを作るには、さまざまなことを調べなくてはならない。自分の理解を深めると同時に、他人を説得するには調べることが必要なのだと体感できる。さらに、完成した番組を自分も視聴者として見ることによって、自分の説明の仕方を客観的に推敲できる。「番組を作るという作業を通じて、相手に伝える方法を学ぶと同時に、調べるという行為が学力や知識を補強する効果があると考えています」。

Course N@viのポートフォリオをノート提出に活用したい

高等学院では、早稲田大学同様にCourse N@viの利用が可能だ。吉田教諭自身も、各種のお知らせを中心にCourse N@viを積極的に利用している。「課題をやらせるためにURLを伝えたいときなど、印刷物で渡すより好都合です。こういうシステムが最初から使えるようになっているのはありがたいことです」。

今後は、ノートを提出させる代わりに、写真で撮ったノートの画像をCourse N@viのポートフォリオにアップロードさせることを検討中だ。ノートそのものを集めるのと違い、急いで返却する必要もない。「Course N@vi上にノートの中身がデータとして蓄積することで、生徒自身が自分のノートの改良履歴を確認できることもメリットです。他の生徒とのノート共有をさせることで、他人のノートを参考にできるのも勉強になると思います」。

生徒がより楽しく理解できるような授業を行うため、日々新しいICTの導入を検討しているという吉田教諭。「根底にあるのは、数学を楽しんで欲しいという思いです。数学が嫌い、苦手という生徒も、本質的な質問をしたり、おもしろい発想をしたりということもあります。そういう生徒をどうひっぱり上げられるか。特に中学生にとって数学的な考え方というのは、文系・理系を問わず将来的にも必要になってくる力なので、今後もいろいろな方法を試行錯誤してICTを取り入れていきたいと思います」。

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