Waseda e-Teaching Award

ICTを効果的に活用した授業のGoodPracticeを表彰します!

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  • プログラミングの授業でe-Text環境を構築 習熟度の個人差に対応し、学習の蓄積効果も
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Course N@vi活用部門、その他

プログラミングの授業でe-Text環境を構築
習熟度の個人差に対応し、学習の蓄積効果も

武沢 護
教育・総合科学学術院教職研究科 客員准教授
高等学院 教諭

プログラミングのように実作業を伴いながら進める授業は、学習者が習熟する速度に大きな差が生まれやすい。そこで、個々の理解度や習熟度に合わせることを目標に、Course N@vi上にe-Text環境を構築したところ、個別のきめ細かな指導が可能になり、全体のモチベーションアップにもつながっているという。

電子版の教科書を用意し、ワークブックとしても活用

高等学院では、大学と同様にCourse N@viを利用できる環境が整えられている。同校での実際の導入率はまだそれほど高くはないが、早稲田大学でも授業を行っている武沢教諭は、2007年のリリース当初からCourse N@viを日常的に利用してきた。「高等学院の生徒たちはいずれ早稲田大学に進むわけですし、高校生のうちから使えるようにしておいた方がいいはずです。せっかく環境が整っているのだから、何かいい使い道はないかとずっと考えていました」。

そこで2011年度から導入を始めたのが、「情報サイエンス」という25人程度が受講する3年生の選択授業だ。この授業は、Mathematicaというプログラミングソフトを用いて、数理的かつ情報科学的な見方・考え方を育てることを目的としている。理系、文系どちらの生徒も自由に選択が可能となっていることもあり、まったくゼロのところから授業を始めても、その理解度・習熟度にはかなりの個人差があるという。「生徒たちの様子を見ていると、早い子はどんどんキーボードを叩いて進んでいく一方で、何度も失敗を繰り返してなかなか進まない子もいます。前回授業を休んだ生徒もいたりするとさらに分からない箇所が多くなり、あちこちで質問の手が挙がってなかなか授業が進まなくなるという状況でした」。

その悩みを解決するために利用したのが、e-Textだ。この授業では従来、武沢教諭が独自に作成したテキストの製本版を教科書として配布し使用していた。そのテキストをMathematicaのノートブック形式で電子媒体としても用意し、Course N@vi上に用意しておくのがe-Textだ。e-Textには製本版の教科書のうちプログラミングの説明文のみが掲載された状態になっており、生徒はPCの画面上でこれを読んで理解した後、指定されたプログラムを同じ画面上に打ち込んでコーディングを実行していく。

各自のペースで学習させ、レベルに合わせた指導を行う

生徒たちは、授業が始まるとまずCourse N@viにアクセスしてe-Textを作業用のPCにダウンロードし、自分で説明文を読みながらプログラムの実行に取り組む。教員はポイントごとに全員に対して口頭での解説も行うが、基本的には各自が自分のペースで学習を進めていくことになる。その間、教員は生徒たちが作業している様子を見て回り、つまずいている生徒や質問のある生徒がいればアドバイスを行う。

一方で、すでに指定の作業を終えて時間が余っている生徒に対しては、応用問題に取り組むためのヒントを与える。「得意な生徒は、このコマンドをこう変えたらどうなるか?など少し声をかけるだけで、自力でいろいろな実験をすることができます。そうやっていろいろな発見を促してやると、どんどんのめり込んでいくようです」。

1年間通して行われるこの授業では、最終的に3つの課題を課しており、一定の期限までにそこに到達することを義務としている。e-Text導入前は、毎回の授業で教員が全員に対して解説しながら授業を進めていたため、実作業の時間は、最後の生徒ができるまでの間、早く終えた生徒を待たせていた。現在は、早い生徒に対しては、従来なら無駄に過ごしていた待ち時間を活用して、より興味を持たせる工夫が可能となった。その結果、学びを深める効果を上げているということだ。「生徒が自主的に取り組めるようになったことで、全体的なモチベーションも上がったと感じています。理解の遅い生徒を丁寧に見られるようになっただけでなく、早い生徒は発展的なことにも取り組めるので、私の気がつかないようなことも発見して、それはどうやったの?とこちらの方から聞くようなレベルになることもあります」。

デジタルネイティブ世代はe-Text環境を高評価

受講した生徒たちにe-Text環境についてのアンケートを採ってみたところ、全員が「便利」「やや便利」と答えるなど、おおむね高評価を得た。具体的な感想としては、「教科書にまったく目を通さないわけではないが、教科書とモニタを交互に見るより楽だった」「作業した内容をデータとして保存できるため使い勝手がよかった」などというコメントが寄せられた。

生徒たちにとっては、紙媒体のテキストを見ながら真っ白なPCの画面上にコマンドを打ち込むのと比較すると、読むべき説明文の表示とタイピングをする場所が同じ画面上にあるため、目の往復作業がなくなり疲労度も少なくなる。そんな点も、実際に作業する上で効率的と感じられたようだ。

「画面上にある教科書というと、私たち大人の世代は違和感を抱く部分もありますが、今の生徒たちは小さい頃からゲーム機に親しみ、スマートホンやタブレットなどのデバイスにも慣れています。彼らのようなデジタルネイティブは、画面上だけで作業していくことをまったく苦にしていないですね」。

【e-Text受講画面】

最近は、高等学院全体としてもCourse N@viを積極的に活用していこうという動きがある。特に、情報の授業では1年生、2年生も非常勤講師の授業も含めてなるべくCourse N@viを活用するよう促しており、コンテンツとして資料をアップロードしておいたり、アンケートを採ったり、レポートや試験に利用したりという使い方が、だんだん広まりつつある。「e-Text環境を用いたこの授業は現在2年目になりますが、全校的にCourse N@viの使用率が上がってきたおかげで、前年度よりもスムーズに使いこなせているように感じます」。

各回の学習内容がデータとして蓄積される

授業時間が終了すると、そこまでやった作業内容を各自でMathematicaのノートブックとして保存し、Course N@viのレポート機能を利用して各自のフォルダにアップロードしておく。次回の授業時には、またそれをダウンロードして使えば、その続きから始めることができる。「Course N@viを使う以前は、生徒側では作業中のファイルを保存することができなかったので、基本的には毎回Mathematicaの真っ白な画面にコマンドを打ち込むところから始めていました。ファイルを保存しておきたいという希望があればUSB経由で提出させて、私のPCに保存しておくこともありましたが、ファイル管理を煩雑に感じていました。その点、Course N@viなら自己責任で自分のフォルダにアップロードさせておけるので、私がデータを預かる必要がなくなったのも助かっています」。

このように作業途中の状態をその都度保存しておけることは、継続学習を可能にする。しかも、このe-Text環境では保存した内容が上書きされずに、各回の作業内容がそれぞれ別のファイルとして保存されるため、いつでも前の状態に戻って中身を確認して復習することができる。つまり、1年間の学習内容がすべてデータとしてCourse N@vi上に蓄積されることになる。

「こうした蓄積のコントロールをどのように実現できるかとずっと模索していました。とりあえずe-Textをレポート機能で保存することで、疑似ポートフォリオとして使ってみましたが、最近、Course N@viにポートフォリオそのものの機能があると聞いたので、次年度からはぜひそれを使ってみたいと思っています」。

Course N@viのポートフォリオ機能は、現状は通常の環境ではメニューに表示されないようになっているが、遠隔教育センターに依頼して設定を変えてもらうことで利用が可能になる。これを利用すると、自分が作業したファイルを保存しておくと同時に、それぞれに生徒自身や教員のコメントを付けておくこともできる。これを毎回繰り返すことで、1年間の授業内容の蓄積をひとつの画面から一覧することが可能になり、より参照しやすくなる。

【履修者の成果物】

「これからの時代は、教育にもポートフォリオ的な仕掛けが必要になってくると思っているので、これはぜひ積極的に利用していきたいですね。Course N@viの活用法はまだいろいろあると思うので、今後、他の授業でも少しずつ導入していきたいと思っています。生徒たちは聞くだけの授業だと飽きてくるので、インタラクティブな形でやりとりができるような双方向性を活かした形で活用できるといいですね」。

情報サイエンス
http://www.waseda.jp/gakuin/joho/science.htm
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