第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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「特にフンボルト大学とは、共同研究プロジェクトとして実施しているため、互いに授業の進め方や反省点などについての情報交換も行っています。あちらも終了後にエッセイを書かせるなど振り返りの場を設けて授業を進めているようです」。 そんな事情もあり、日本側の学生にとっても比較的理解しやすいドイツ語になっていると思いきや、相手側の学生は想像以上に容赦なく、日常のスピードで話してくる。ドイツ語を教える先生と生徒という関係ではなく、あくまで対等な異文化交流の場というのがこの交流の基本だ。「相手のドイツ語は長かったり速かったりして聞き取るのがむずかしいこともありますが、むしろ通常の授業では得ることのできない、自然な会話が体験できる貴重な機会と考えています」。 日本側にとってはドイツ語圏の学生とリアルなコミュニケーションを体験しながら異文化を学び、その中でドイツ語の運用能力も高めていける。そして、ドイツ側にとっては、自国の文化などを外国人にどのように伝えていくのかを学び、トレーニングする場となっているのだ。なるべく介入せずに学生の主体性を引き出す このCCDLによる交流はすでに8年目に入っているが、その間に技術が進歩したこともあり、交流は格段にスムーズに行えるようになったという。「当初は、テレビの衛星中継のようにタイムラグがありましたが、今ではほとんど感じなくなりました」。また、開始した頃はスライドの資料か発表者の映像のどちらか1つの画面しか共有できなかったが、今は両方の画面を同時に見ることができるようになった。「まるで同じ教室の中でプレゼンを聞いているかのように、ストレスなく利用できるようになりました」。 CCDLはICTの利用が前提となる授業だが、技術的な面は専門スタッフによるサポートを受けられるため、教員は授業の中身を充実させることに専念できるようになっている。「教員としては、交流に向けた準備や終わった後の仕掛けの作り方が大きなカギになると思います」。 星井教授が心がけているのは、学生たちが主体的に動けるような場を作ることだという。学部も学年もバラバラの学生が集まるこの授業では、初対面の者同士でグループワークをさせるのがむずかしい面もある。そこで、学生同士でブレインストーミングを行わせる、あるいはドイツ語圏から来た留学生をTAとしてサポートに付けるなど、学生同士の話し合いには教員はなるべく直接介入しないようにしているという。「学生同士がどんどん意見交換をする中で、互いのことをわかり合えるように心がけています。主体的に動いてくれる学生が一人でもいるとムードはずいぶん変わってくるので、そういう空気が生まれるような場を作るようにしています」。上級ドイツ語能力を身に着け世の中を見る窓を増やす この授業のようなドイツ語を使いこなすための教育の意義について、星井教授はこう語る。「英語や中国語が重要なのはもちろんですが、それ以外の言語を使って世の中を見る『異なる窓』を持っているというのは、学生にとっても、そして日本の社会にとっても大きな財産になります。年間に10人でも20人でも、このレベルのドイツ語ができる人を社会に送り出すということは重要ですし、早稲田レベルの大学であればそれをしていく社会的責任があると思います。この授業を通してドイツでの考え方やドイツ語を使ったコミュニケーションを知ることで、こういう見方もできるのかということを理解した学生を、世の中に送り出したいと思います。それが、日本の多様性を拡大していく一助になればうれしいですね」。35

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