第2回 e-teaching Award Good Practice集 2013
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世界では今、大学の教育内容を透明化し講義を公開する動きが注目されている。学外での講演内容のみならず、大学での担当授業もオンデマンドで公開している藤田教授は、まさにそんな潮流に乗った教育を実践している1人だ。授業を学外にも公開することには、どんな意義があるのだろうか。教場に加えてオンデマンド版も公開選択肢を増やし、学外にも発信教育の多様化の一つとして授業をオンデマンド化 藤田教授が初めてオンデマンド授業に取り組んだのは、補講用として利用するためだった。毎年11月~12月にかけて2週間ほど海外に滞在する必要があるため、その間の授業を補完するものとして導入してみたところ、なかなかおもしろい試みだったため、15回分すべてを作ってみることにしたという。 その後サバティカル休暇の期間を利用して、受け持っていた授業の講義内容をすべてオンデマンド用として収録した。とはいえ、その後もフルオンデマンド授業に移行したわけではなく、授業は基本的にすべて従来通り教場で行っている。収録した講義コンテンツは、あくまで予習、復習、あるいは欠席時の補完用として、学生が自由に利用すること想定して用意している。 オンデマンドを収録しながらも同じ授業を教場でも続けているのは、オンデマンド授業を、教育の多様性を実現する一つの手段として藤田教授は捉えているからだ。オンデマンドでの受講は時間や場所を選ばない、繰り返し視聴できるというメリットがある一方で、教場での授業で直接対面することによってしか伝えられないものがある。対面授業を否定するのではなく、一つの授業に対して、教科書があり、教場での講義があり、さらにビデオ映像もあると捉える、すなわちオンデマンドコンテンツも教材の一つという位置付けだ。 「知識はどこまで自分の能力で噛み砕けるかが大事で、そのためには知識のインプットにはいろいろな手段があることが望ましいと考えています。教科書を読んだ理解、授業を聞いた理解、オンデマンドを視聴した理解、それぞれに違う気づきがあるでしょう。解釈や理解の仕方は人それぞれなので、選択肢は多いほど価値は高まるということです」。 また、このオンデマンドコンテンツは、同じ内容のものを英語版と日本語版とで用意している。これにより、日本語で学んだ知識や専門用語を英語ではどのように表現するのか学べる点においても、教材の選択肢を増やす機会を提供しているといえるだろう。 オンデマンドという、いわば授業に出席しなくてもすむような選択肢を用意したからといって、それ以後教場での授業において出席率が下がるという現象は見られないという。学生の方でも、それぞれの選択肢の長所短所を見極めつつ利用しているということなのかもしれない。 学生の理解を促進するために教材の多様化を図ることは、カスタマー・サティスファクションという視点からも重要だと藤田教授は考えている。「学生というカスタマーに対して、我々は何を提供できるのかという点から言えば、できる限りの手段を提示すべきだと思うのです。オンデマンドという有効な手段があるのなら、なぜそれを使わないのかということです」。授業の学外公開は世界的な潮流となっている 注目すべきは、このオンデマンドコンテンツは履修した学生以外にも公開されているという点だ。そもそも配信形態自体、Course N@viの中から再生する形ではなく、一般のウェブブラウザからURLを入力すれば誰でもが視聴可能な形で公開されている。一部は、Apple社のコンテンツ配信サイトiTunes上に無料教育コンテンツを集めたiTunes Uからも利用可能となっている。つまり、早稲田の学生以外でも、世界中から自由に見られる状態になっているということだ。しかも、講義の映像を視聴できるだけでなく、関連資料をダウンロードすることも可能としている。 現状、自分の講義や資料を完全にオープンにすることに抵抗を感じる教員は多い。しかし、藤田教授は「失うものは何もない」と言う。「私は、基本的にギブアンドテイクの姿勢でやっているので、必要ならばすべて見てもらえばいいと考えています」。 こうした授業公開に積極的なのは、その方向性が世界的な潮流となっているという認識によるものでもある。すでに、ハーバード大やスタンフォード大をはじめ、世界の一流大学で、無料のオンライン授業サービスを提供する事例が増えてきている。「グローバルに目を向ければ、早稲田でそれをやらないというのは後れを取っていると言えるでしょう」。 早稲田大学のビジネススクールでは、シンガポールの国立ナンヤン理工大学ビジネススクールと、双方の学位を同時に取得できるダブルMBAプログラム (Waseda-NTU Double MBA) を開始している。今後さらに海外の大学と提携を進めるに当たっても、国際認証の基準としてeラーニングの準備ができていることが要求32藤田精一商学学術院大学院商学研究科教授

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