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音声チャットで話す訓練を重ね英語運用能力を伸ばす

須永美奈子 人間科学部 非常勤講師

オープン教育センターが設置しているCCDL(Cross-Cultural Distance Learning)の授業は、「Social and Global Issues」「Media」「International Career Path」の3つのテーマが用意され、中国・台湾・韓国の大学を交流相手校として、春期・秋期各10クラスが設定されている。利用する交流システムは各クラス共通で、テキストも各テーマで同じものを使用するが、授業の具体的な運営方法にはそれぞれの担当教員の工夫がこらされている。

予習したテーマについて音声チャットでディスカッション
須永先生

須永講師が担当しているのは、「Social and Global Issues」をテーマとして扱うクラスで、中国の大連外国語学院の学生と交流授業を行っている。各学期15回の授業のうち、初回にガイダンスを行い、続く2~10回目まで毎週の授業時間内に約30分間音声チャットで交流を行っている。双方に日本語や中国語を話せる学生がいても、チャットではすべて英語を使用するのがルールだ。そのため、この授業を履修するには、Tutorial Englishの中級以上(またはTOEFLの指定スコア)の英語力があることが条件となっている。

交流時は各回に1つずつトピックが用意される。テキストに関連する資料がCourse N@viにアップロードされており、学生はそれを参考に下調べなど予習を済ませて授業に臨む。授業内では日中各2~3名ずつのグループに分かれ、調べてきた内容を踏まえてディスカッションを行う。

交流のメンバーは、日中共に9回を通じて固定したメンバーで行っている。これはメンバーが代わる度に自己紹介で終わってしまうことを避けるためだ。「音声だけの交流ではありますが、画面上では顔も見えます。チャットルームという仮想の空間であっても、互いに授業時間を共有するクラスメートとしての意識が育まれるようです」。

相手が非英語圏の学生であるため、ネイティブの音声で学習を重ねてきた学生たちからは英語の発音が聞き取りづらいと不満の声が出ることもある。しかし、それはそれで大きな意味のあることなのだと須永講師は考えている。「実際に世の中に出て英語を使うのは、アメリカ人などネイティブの人々と話をするよりも、アジアなど英語を母語としない人たちと話すことのほうが多いはずだからです。そのことを学生たちにもよく伝えています」。

交流後は教場で報告し合い、振り返りの文章を投稿する

30分の交流が終了した後の残り時間は、早稲田側の学生同士でその回の交流内容を振り返り、どんなことを話し合ったか、どんな意見が出たかなどについて英語で報告する。「この授業ではとにかく英語で話す機会を多く与えたいので、なるべく全員の学生に発言させるようにしています」。交流がうまくいかなかった場合には、どうすればうまくいくか意見を交換するなど、単なる報告に留まらず、学生同士の横のつながりができるように配慮している。

授業の終了後は、交流の内容を100ワード程度でまとめ、翌週までにBBSに投稿する。「翌週にはもう次のトピックについての交流が始まってしまうので、必ず期限までに指定した分量の文章を書くことを義務づけています。文章の内容によって優劣をつけることはしませんが、期限までに提出しないと減点の対象とすることで、コンスタントに英語で文章を書くよう指導しています」。

交流の内容をまとめて投稿するBBSには日中両方の学生が感想を書き込む
【交流の内容をまとめて投稿するBBSには日中両方の学生が感想を書き込む】

他のCCDL授業では、チャット交流の後、ビデオ会議システムによる交流を行うこともあるが、この授業においては相手校にその設備がないため、リアルタイムな交流は音声チャットによるもののみとなっている。

教場では留学生を交え、英語を話す緊張感を保つ

相手校との交流は9回で終了し、それ以降は早稲田の学生だけでの授業となる。学生からはもっと交流の機会を増やしてほしいという要望も多いが、相手校とのスケジュール調整の事情でこれ以上はむずかしい。

そこで、2012年度からは交流終了後の3週に、早稲田に在籍する留学生にPA(Program Assistant)として参加してもらっている。PAは全CCDL授業共通で導入され、英語のレベルがネイティブに近いなど所定の条件を満たす者が選抜され、担当している。

「いくら英語を流暢に話せたとしても、日本人同士が英語で会話するという不自然な環境ではスイッチが入らないのです。そこにひとりでも母国語が日本語ではない人が加わることで、自然と英語で話せるようになります」。PAが参加するようになって、交流が終了した後の回の授業でも学生たちの意欲が落ちることなく、いい緊張感を持って授業が進んでいるという。

CCDLでの交流終了後の授業では、PAの意見を聞きながらテキストに沿ったディスカッションを続けるのと並行して、学期末に行うプレゼンテーションの準備を進めていく。プレゼンテーションはクラス全体を4~5つのグループに分けて行うが、ここでは、チャットによる交流時とは違うメンバーになるよう、意識してグループを組み替えている。PAが参加する3回の授業でも、毎回違うPAと話ができるように設定するなど、できるだけ多くの人と接する配慮をしている。「学生たちは、放っておくとどうしても同じ学部、学年、同性同士で固まってしまいがちです。この授業はせっかくいろいろな学部や学年の学生が集まっているのだから、できるだけ多くの人と話し合ってもらいたいと考えています」。

教員は黒子に徹し、学生自身が体験して学ぶ

学生に主体性に取り組ませるというこの授業の進め方は、須永講師が実際に交流授業を体験した結果たどり着いた方法だった。「こういうタイプの授業は初めてだったこともあり、最初は私が準備したものを学生に伝えようという気持ちが強くて、黒板を使って説明し、それを学生にノートを取らせるというスタイルでした」。

しかし、この授業では自分が話すのではなく、もっと学生に調べさせ、自ら話をさせることが重要だと気づいた。そこで、教員自身は質問を投げかけるだけにとどめ、学生からの発話を増やす方向にシフトすることにした。「私から何かを教え込むのではなく、学生自身が体験していろいろ学んでほしい。そのためのフォローはするけれども私は黒子に徹するということを、最初のガイダンスではっきりと学生に告げています」。

今では授業時間のほとんどをスピーキングやリスニングに費やしており、読み書きしている時間はほとんどない。最初は物怖じしてなかなか話せなかった学生も、授業の中でディスカッションや発言を大量に経験することでだんだん慣れてきて、最後のプレゼンの頃には大きな成長を見せるのだという。

耳と口をフル活用して、ライブ感を体験してほしい

この授業では、ある程度英語力に自信があり、もっと伸ばしたいというモチベーションの高い学生が履修する傾向がある。さまざまな学部、学年の学生が集まっている中で、ときには1年生の学生がリーダーシップを取ることもあるという。そんな意識の高い仲間と共に学ぶことで、互いに刺激を受けてがんばろうと思う学生も多い。

加えて、相手校の学生たちが海外留学の経験もないのに上手な英語を話すこと、あるいは熱心に勉強していることを目の当たりにして触発されることもある。特に中国とは近年外交関係が微妙になっているが、リアルな中国の学生と触れあってみると自分の偏見や誤解に気づくことも多い。「直接自分が体験するからこそ、本当の意味での友好関係が生まれるのだと思います。それは、英語力以上の収穫かもしれません」。

この授業の一番の特長は、体験型であることだ。大学生にもなれば、本などから学べるもの、ネットで調べられるようなことは授業以前に行うべきだと、須永講師は考えている。「授業の時間内には、ライブ感の感じられる体験を通して、自分が想定していなかった質問や反応が返ってきたときにどう対応するのかを学んでほしい。そのためには慣れが必要なので、この授業では耳と口をフル活用してその体験を積んでいってほしいと思っています」。

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