情報化推進レター

早稲田大学の学生・教職員の皆様に情報化推進計画のお知らせを配信させていただきます 。

Course N@vi事例紹介

コンテンツ制作・共有システム「Commons」で、プレゼン技術の向上に大きな成果

楠元範明
教育・総合科学学術院 教授

川原健太郎
教育学部 非常勤講師

「Waseda-net Commons」は、動画コンテンツの収録から公開までの作業をオンライン上で行えるシステムだ。今回紹介するのは、プレゼンテーションスキルを身に着ける授業において、このシステムをCourse N@viと連携する形で活用している事例である。時間や手間が効率化されるだけでなく、教育内容の充実に役立っているという点に注目したい。

プレゼンテーションを録画し、簡単操作でアップロード
【楠元範明 教育・総合科学学術院 教授】
【川原健太郎 教育学部 非常勤講師】

楠元教授と川原講師が担当している「博物館情報・メディア論」および「ツールとしての情報通信ネットワークI, II」はともにプレゼンテーションを中心とした伝えるための技術や手法を身に付けることができる授業である。前者は主に学芸員の資格取得を目指し、後者はアカデミックリテラシーのスキル習得により時間をかける授業内容となっている。

この授業では学生たちにメディアを活用したプレゼンテーションを実践させることが必須となるが、それを録画して保存・共有するためにCommonsが使われている。Commonsでは、カメラに向かって話す様子を録画すると共に、作成済みのパワーポイント資料などと組み合わせて、プレゼンテーションの模様を映像コンテンツとして保存できる。作成後は一連の操作で簡単に専用サーバへアップロードできる点が大きな特長だ。

コンテンツの作成・アップロードが完了すると、視聴用URLが生成される。各学生が授業用に用意されたCourse N@viのBBS機能でこのURLを共有することで、教員や他の学生もこのプレゼンテーション映像を視聴できる。

教育学部視聴覚教室にはコンテンツ作成用として、PCのほかカメラやヘッドセット、さらにクロマキー合成用の背景スタンドなど必要な機材がすべて整った実習室が用意されている。この授業を履修している学生は、予約すれば9時から5時までの間は基本的にいつでも利用できる。サポートのスタッフも待機しているため、分からない点があればすぐに対応してもらえる。

Commonsの利用自体は、カメラやヘッドセットなど動画を撮影できる機材とインターネット環境さえあれば、どのPCからでも利用が可能だ。「何度かここで体験してやり方さえ覚えれば簡単なので、必要に応じて自宅などから個人のPCで利用している学生もいます」。

いつでも何度でも見られるから、公平な評価、授業の効率化に繋がる

以前は、教場でプレゼンテーションを行わせ、記録用にその模様をビデオ撮影していた。記録媒体は先生への採点用貸し出しのほか、参考資料用、授業を休んだ学生の後日視聴などでも頻繁に使われ、貸し出しがバッティングするなど管理が煩雑であった。

その点、Commonsを利用すると、発表内容は映像コンテンツとしてサーバに保存されるため、これらの問題が解消する。さらに、インターネットにつながるPCさえあればどこでも視聴できるので、空いた時間にいつでも見られる点でも利便性が向上する。頭出しなども手軽なため、何度でも確認してより的確なアドバイスを与えることができるようにもなった。

グループ発表ではメンバーによって貢献度に違いが出がちだが、グループ内で評価に差をつけることは難しい。川原講師はCommons導入後は、発表の前後に共同で作成したレポート文書を添付させ、発表自体はメンバー全員が1人ずつ3分以内の動画として作成することとした。これにより、発表の部分に関しては学生一人ひとりに責任を持たせ、それを個別に採点できるため、より公平な評価ができるようになったという。

Commonsを導入したメリットとして、楠元教授がさらに挙げるのは授業時間の効率化だ。履修学生が約40人もいる授業では、全員の発表をすべて教場で行うとそれだけでかなりの時間が取られてしまう。しかし、Commonsにアップロードすることにより、学生たちに授業時間外に視聴させ、その感想をBBSで議論させることもできる。その後、教員の講評だけを授業時間内に行うことで、空いた時間を他の解説や講義などに使うことができる。「実際に人前で話す練習も必要なので、1年生向けの授業では秋学期を利用して教場でプレゼンテーションを行わせていますが、春学期はこの手法を用いることで、授業内容をより充実できるようになりました」。

他の学生の発表を見たかどうかはCourse N@vi上の履歴で把握できるのに加え、BBSに感想を投稿することを義務化し、採点対象としている。教場で意見を発表させることもあるが、BBSを使うと投稿マナーを学ぶ練習にもなる。「文字だけのやりとりでは、相手がどう感じるのかを考えずに書いてしまう学生もいます。悪いところを見つけて批判するのではなく、本人も気づかないような優れた点を見つける、改善点を提案するなど、より建設的な議論になるよう指導しています。このように指導のある教育の場においてBBSを頻繁に活用することは将来的に本人のプラスになると感じています」。

自分や他人の発表を見比べて、プレゼンの質が向上していく

Commons利用のメリットは学生の側にもある。教場での発表では、慌ててしまったり、機材の取り扱いでミスをしたりしがちだが、Commonsを使えば何度でもやり直しができるため、落ち着いて発表ができる。

また、参考文献をきちんと取り入れているか、論理に飛躍がないかなど、採点基準は学生たちにも公開されている。自分の発表を提出前に見ることができれば、この基準をクリアしているか否かをチェックして修正もできる。

自分の発表を客観的に見られることは、自分のクセや短所を知ることにもなる。「よいプレゼンテーションの例をたくさん見る、自分の発表を録音してみるということを、学生たちには今までも繰り返し勧めてきましたが、Commonsの導入で、それが簡単にできるようになりました。いつでも簡単に自分の発表を他人の発表と見比べることができるのはプレゼンスキルの向上に大きな効果があります」。「発表型授業にありがちな発表しっぱなしはよくありません。PDCAサイクルにおけるCheckとActの部分にあたる自分のプレゼンテーションの映像記録を後から見て、検証する振り返りは重要です。秋学期に行われる登壇してのプレゼンテーションのビデオ記録も、別途システムを構築し、Commons同様CourseN@vi経由でストリーミング視聴できるようにしたぐらいです」。

他人の発表を見ることができるという点では、同時に履修している学生に限らず、過去の履修学生の発表を見ることも可能になる。URLを教員から履修生に知らせれば、学生たちは各自のPCでそれを見られるからだ。「よい例を参考にすることで、スパイラル的にいい発表が生み出されていきます。いくつもの発表コンテンツが蓄積されることで、プレゼンテーションの知がより積み重なり、質は確実に上がっていきます。現在では視聴覚教室内PCに限りますが、過去にテープ録画で蓄積されてきた13年分の発表もストリーミング視聴できるようになっています」。

完全に閉じた環境ではないことが情報倫理を学ぶ機会になる

発表内容をいつでもどこでも見られるようになることは、便利である反面セキュリティの心配もある。アクセス用のURLは学籍番号などとは連動しないランダムな文字列となっており、検索サイトで表示されることもない。URLを学外に漏らしてはいけないことも学生には伝えている。しかし、学外で見ることができる以上100%安全とは言えない。

そこで、外部に出ると困る情報はコンテンツに含めないことをあらかじめ学生にも周知し、そうした内容が含まれていないか教員もチェックしている。授業の中では、個人情報保護や情報倫理などについても項目を立てて取り扱っており、公開していないつもりでもウイルスに感染して漏出した実例なども伝えている。つまり、外部には非公開を基本とするが、見られてしまう危険性も考慮してコンテンツを作成するということだ。

一方で、あえて一般公開を想定したコンテンツを作ることの意義を、川原講師は指摘する。「これは授業の一環としての制作ですが、将来的には職場で自分の企画を発表する機会も訪れるでしょう。そこでも通用するようなレベルのものを意識して作るようにと学生たちには言っています。そのためには、当然個人情報や著作権など倫理の問題をクリアする必要があるのです」。

通常、教室内での著作物の利用は著作権法の制限事項として扱われるが、Commonsを活用しインターネット上に公開する動画ではこの特例が適用されない。学生たちにはそのことも伝え、著作権法上利用できない著作物は使わないもしくは許可を取得するようにしている。「教室内ではOKで外ではダメという区別は難しいので、むしろここで覚えたルールがそのまま社会でも使えるというのは、学生にとっても役立つでしょう」。

前述のように、この授業の履修生向けには機材を揃えた環境が用意されているが、Commons自体は早稲田の全学生が利用可能だ。こうしたツールを使って発表のスキルを磨くことは、この授業に限らず幅広い場面で活用できるだろう。「各自が自分のアピール動画を作って就職活動などに利用するのもいいでしょう。そのためにも、いろいろな授業で導入されて、多くの学生が早いうちからこのツールが使えるようになるといいですね」。

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